シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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別れ話

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 アステルが出掛けている昼間はシリウスが家の仕事をしていた。冒険者になる前から料理以外の家事の大体はできていたがそれでもアステルには劣る。今日も彼女が戻ってくるまで家の仕事をしようと洗濯物を洗おうとしていた。

(またやってしまった……)

 アステルの若葉色のワンピースを手に取ってシリウスは罪悪感を感じていた。昨日もアステルが寝静まった頃、こっそりと匂いを嗅ぎながら己を慰めてしまった。あの時の興奮が忘れられず、再びアステルの服に顔を押し付けて彼女の匂いを嗅いでいる。

(アステル……)

 いつもは平静を装っているがアステルが近くにいるだけで胸が高鳴り、落ち着かない気持ちになる。

 シリウスがこの家で暮らしだしてから半年ほど経った頃だった。森で素材採取を終え、夜中に帰って来た彼は体を綺麗にしようと風呂場に向かったが、その時、偶然にも脱衣所でアステルと鉢合わせしてしまったのだ。

 湯浴みを終えたばかりの彼女は全裸であり、その美しい裸体にシリウスは見惚れてしまった。

 白い肌に形の良い大きな乳房、肉付きの良い尻、水分を含んで張り付いた長く美しい金髪、全てが魅力的であった。そんなアステルは突然現れたシリウスに怒ることなく、恥ずかしそうに頬を赤らめて誤魔化すかのように笑っていた。

 それからというものシリウスの性欲は日に日に増していくばかりだ。それをあまり溜め込んでしまわないよう、定期的にアステルが家を開けている間に処理している。

 そしてついに魔が差してしまった。

 ふた月ほど前にアステルが出掛けている最中、洗濯をしようと彼女の服を手にした瞬間、無意識に嗅いでしまった。

 彼女の甘い匂いがシリウスの理性を壊し、気がつくと欲望のままに動いてしまい、その場で自慰を始めてしまったのだ。アステルの服に顔を埋めながらするのはまるで彼女にしてもらっているような感覚で今までで一番興奮した。

(俺は一体何を……)

 シリウスは我に帰ると己の行動に呆れ果てた。だが、もう止められない。それ以降、シリウスは自分の欲望を抑えられずアステルの衣服を使った自慰が止められなくなってしまった。

 彼女を犯せばどんな風に声を上げるだろう、あのたわわな果実はどのぐらい柔らかいのだろう、彼女の中で射精すればどれだけ気持ち良いのだろう、とアステルを想う度に身体の奥底から熱が込み上げてくる。

 しかしそれは彼女に対する裏切りでもある。彼女はエルフの身でありながら、ダークエルフの自分に優しくしてくれて、一緒に暮らしている家族だと思ってくれているのだ。
 それなのにこんな事をするのは良くない。シリウスはアステルの服を洗濯籠に戻すと家の仕事に取り掛かった。

 ◆

 アステルが家に戻るとシリウスは食事の準備をしていた。今日のメニューは、昨日の夜シリウスが狩ってきたイノシシのステーキと肉が苦手なアステルの為の魚のムニエルとパンとサラダである。焼いたパンはほんの少し焦げているが味には問題はない。

「ただいま、シリウス」
「おかえり」

 彼はいつものように素っ気なく出迎えてくれるが表情は柔らかい。アステルも釣られて笑みを浮かべると二人はテーブルに着いて夕食を食べ始めた。

 シリウスは分厚いイノシシのステーキを切り分けて口に運ぶ。すると口の中に旨みが広がる。味付けもしっかりしており、彼の料理の腕は確実に上がっていた。

 一方、アステルは魚のムニエルを口に入れるとサクッとした食感と共にバターと魚介特有の香りが広がり、思わず頬が緩む。シリウスは彼女の為に魚の骨を丁寧に取り除いている。アステルはそんな彼の優しさが嬉しかった。

 食後はアステルがお茶を入れてくれた。シリウスが好きだと言ってくれた茶葉を使っており、飲むと心が落ち着くそうだ。そしてシリウスはカップを置くと意を決して話し始めた。

「アステル、話がある」
「どうしたの?」

 アステルが首を傾げるとシリウスは深呼吸をして告げる。その赤い瞳は真っ直ぐにアステルを捉えていた。

「……そろそろここを出ようと思う」
「え……」

 アステルはシリウスの言葉に動揺すると手に持っていたティーポットを落としてしまう。ガチャンと音を立てて割れる陶器の音と中身が床に広がる光景がアステルの目に映った。
 シリウスは彼女が落としたことに気がついてすぐに席を立ったが、アステルは「大丈夫」だと言って彼を止めた。そして、破片を拾おうとするが指先に鋭い痛みが走り、血が流れる。

 シリウスはその手を掴むと傷口に唇を当てて血を舐めとりたい衝動に駆られた。しかしそれを我慢して戸棚から救急箱を取り出し、アステルの指を消毒して包帯を巻く。その間、お互いに何も喋らなかった。

「ありがとう」
「ああ」

 ようやく沈黙を破った二人だったがどちらも次の言葉が出てこない。再び静寂が訪れるが、それを破るようにアステルが口を開いた。

「どうして、急に……?」

 アステルの声は震えており、目元が潤んでいる。そんな彼女を見てシリウスは胸が締め付けられる。彼はアステルに好意を抱いているからだ。
 しかし、自分が抱いている感情は彼女にとっては迷惑にしかならないと自覚はしていた。

「怪我はもう完治した。それに俺がいるとアステルに迷惑がかかる……大丈夫だ。オーガゴートは必ず倒していく」

 傷が癒えたのも、アステルへの迷惑も事実だ。だが本当は彼女の劣情を抑えられなくなってしまったからだ。
 次は服だけでは済まないのかもしれない。だからシリウスは心地の良い居場所を去ろうと思った。

「今すぐではない。準備をしてから出て行くつもりだ。世話になった分の金は必ず作る」
「お金なんて要らない。シリウスのお陰でとても助かっていたのよ」

 オーガゴートのせいで森で素材を取るのが困難になったのはアステルだけではなく他の薬師も同じであり、高騰する材料費に頭を悩ませている。
 シリウスが森で素材や食べ物、魔物の素材を持って帰って来てくれたお陰で薬を作る時間も増えて、お金に困らなくなり、シリウスがここで住むようになってからの方が生活はずいぶんと余裕と豊かさを増した。

 そして何よりも彼が一緒に居るだけで毎日が楽しかった。ヴァンとシリウスとこの先もずっと一緒に暮らしていけるとアステルは思っていた。しかしシリウスが自分から離れることを止める権利がない。アステルは言葉が見つからなかった。

 ◆

 アステルは薬を作りながら考え事をしていた。

(シリウスが居なくなる)

 薬草を調合用の鍋に放り込みながら考える。シリウスと一緒に暮らす日々は本当に幸せだった。彼はとても優しく、献身的だ。
 アステルが病気になった時は寝るまで看病をしてくれた。積極的に家の掃除をしてくれたし、苦手な料理も一生懸命に覚えて美味しい料理を作ってくれるようになった。

 そして共に過ごした穏やかな時間はかけがえのないものだと思っている。だが、シリウスが去ってしまえば自分とヴァンだけの生活にまた戻ってしまうだろう。彼が去った後の事を考えるのは辛い。しかし、シリウスの気持ちを考えれば止めてはいけない。

(私の我儘で彼を縛り付けちゃいけない)

 完成した回復薬を瓶に詰めるとアステルはそれを木箱に仕舞い、新しい鍋に別の素材を突入れていく。次はロディに頼まれた避妊薬。

 白い粉を木製の計量スプーンで量って入れ、今度は赤い実入れてかき混ぜ、青い草を刻んで入れてかき混ぜると紫色の液体へ変化していった。

(避妊薬……シリウスはそういうことしたいのかしら?)

 アステルにはそういった経験はないが知識はあった。男と女が性行為をすれば子供ができるというのは知っている。
 昨日、彼はアステルの服を握り、彼女の名前を呼んで自慰をしていたのだ。もし彼に誘われたら……とシリウスに抱かれる自分を想像して頬が熱くなる。

(子供ができてしまうのは困るけど避妊薬があるから……大丈夫)

 彼とその行為をするのは嫌ではなかった。むしろ望むならしても構わない。下腹部に手を当てると心臓の鼓動が速くなり、顔が更に熱くなる。アステルは悶々としながら次の作業に取り掛かった。
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