シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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共同生活、二年目の変化※

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 こうして二年の月日が流れ、シリウスの存在を他のエルフに知られること無く過ごすことができていた。

 そんなある日のことだった。夜中に目が覚めたアステルが水を飲もうとキッチンへ向かうとシリウスの部屋の扉が少し開いており、中から彼の呻き声が聞こえてきた。
 その声を聞いた瞬間、アステルはシリウスが苦しんでいるのではないかと思った。部屋に入ろうかと扉に手を掛けた瞬間、彼女の目に映ったのは信じられないものだった。

 シリウスがアステルが昨日着ていた若葉色の服を口元に当てて匂いを嗅いでいたのだ。

(シリウスが私の服を!?)

 アステルは更に衝撃的な光景を目の前にして固まってしまっていた。シリウスはベッドの端に腰掛けるとズボンの中に手を入れて己の欲望を慰め始めた。

「うっ……ふ……アス、テル……」

 アステルの服の匂いを嗅ぎながら名前を呟く姿にアステルは呆然とする。初めて見る男根は色黒く太く大きく反り返っており、血管が浮き出ているほどだ。
 そして先端からは透明な液体が出ており、右手を動かすたびに粘着質な音がここまで僅かに響いている。

 本能的にこれ以上見てはいけないとアステルは思って静かに、音を立てずにその場を離れた。

 アステルは自分の部屋に戻ると毛布を被って震える身体を抱き締めて眠ろうとするがなかなか寝付けない。先程のシリウスの痴態が頭から離れないからだ。

(シリウスも男の人、なのね)

 今までシリウスのことを弟のように思っていたがそれは間違いだと気づいた。シリウスは一人の男性なのだ。
 今まで意識していなかったせいか急にシリウスを異性として認識してしまい、彼にどう接したらいいのか分からなくなってしまった。

 ◆
 
「大丈夫なのか?」
「……えっ?何が?」

 翌日、一緒に朝食を食べている時にシリウスが心配そうに声をかけてくる。昨夜のことを思い出してしまい動揺してしまうがそれを誤魔化すように笑顔を向ける。

「体調が悪いなら今日は休んだ方がいい」
「だ、大丈夫よ」
「……無理するな」

 アステルは慌てて答えるとシリウスは彼女の顔色を見て本当に具合が悪そうだと思ったが、必死に否定をする様子を見てそれ以上は何も言わなかった。

 この二年でシリウスの身長は一気に伸び、アステルと変わらないくらいの背丈から頭一つ分の差が着いてしまった。
 細かった体も筋肉が付き、体格が出会った時以上に良くなっている。顔つきも大人びた雰囲気になって今では立派な大人の男となっていた。

「どうした?」

 彼の顔を眺めていたアステルはシリウスと目が合うとすぐに目を逸らして誤魔化す。

「そ、それより、今日の夕飯は何が良い?」
「今日は俺が作る」

 涼しい顔でそう言うとシリウスはパンを齧ってスープを飲む。昨日苦しそうな顔で自慰をしていた時とはまるで別人のような態度である。
 あれは夢だったのではないかと思う程だ。アステルはシリウスの豹変ぶりに戸惑いながらも彼と同じように食事を続けた。

 ◆

「アステル、また避妊薬を頼む」
「……あ、はい。わかりました」

 道具屋に薬を届け、検品をしている最中に店主のロディに注文を追加されたがシリウスのことを考えていて上の空だったが何とか返事ができた。

「……なあ、アステル……子供欲しいか?」

 唐突な質問にアステルは戸惑う。今日のロディは珍しくしおらしくしている。何かあったのだろうか?

「いきなりなんですか?」
「お前もそろそろ結婚を考える年齢だろうと思ってな」
「結婚……」

 アステルは考えたことも無かった。好きな人や恋人がいない自分の人生に結婚なんていう文字は今まで無かったし、そんな相手もいないと思っていた。
 そもそも自分が誰かと結婚することなど想像できない。もし結婚をするならと真っ先に思い浮かぶのは銀髪で褐色の肌を持つ男の姿だったがすぐに打ち消す。

「まだ結婚は考えてないし、子供も別に……」
「そうか……」

 それから商談が終わるとアステルはロディに別れの挨拶をして店を出た。その足取りは重く、自然と俯きがちになってしまった。
 エルフは長命だから急ぐ必要は無いが年々純血のエルフは減る一方だ。早く結婚をするよう言われることを予想はしていたが実際に言われると考えてしまうのだ。
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