7 / 8
母親視点
3
しおりを挟む
娘だけが元の世界に帰ってしまった。
心にぽっかりと穴が開いたような、寂しさと不安に包まれながら私は新たな生活を始めた。
エリオットと結婚し、彼の家に嫁ぐことになったが現実はそう甘くはなかった。
エリオットの両親。特に母親からは何度も冷たく、疑念の目で見られた。
最初は彼の家族も私を歓迎してくれたのかと思っていたが聖女の母という立場を失ってからその態度が一変したことに気づいた。
「本当にエリオットの子供なの?」
「聖女の母、なんて名ばかり。あなたにはそれに見合った品位も教養も足りていないわ」
「あなたがそれにふさわしい立場だとは思えません」
その言葉が繰り返されるたびに私は自分がただの「聖女の母」でしかないことを痛感させられる。
娘がこの世界にいた頃は私も一応その役割を果たしていたから、周囲からは一定の敬意や優しさを受けていた。
しかし、今やその役目は娘が消えたことで私はただの「ただの異世界人の女性」に過ぎなくなった。
「聖女様の母」という看板を失った瞬間、私がどれほど平凡で普通の女性に過ぎないかを彼らは思い知らされていたのだろう。エリオットの両親にとって私はただの「過去の遺物」でしかなかった。
娘の存在が彼らにとっていかに大きな意味を持っていたかを私自身が感じ取ることになる。
特に辛いのはみんなが娘のことを思い出させるような言葉を口にするたびだ。みんながいかに聖女である娘を誇りに思っていたかそれを私は目の当たりにし、改めて痛感した。
ある日、屋敷にいるのが苦しくてエリオットと一緒に町を歩いていた時、ふと立ち寄った本屋で目にした本が私の目を引いた。
それは『聖女の旅』と題された本で表紙には娘とその仲間たちが写った写真のようなイラストが描かれていた。その瞬間、心の中で何かがざわつき私は本を買ってしまった。
中身は娘が浄化の旅していた間の記録。著者名を見るとどうやらその旅の仲間たちがまとめた本であることがわかる。私が見たことのない娘が過ごした厳しい現実がその中に描かれていた。
「聖女の旅路は決して楽なものではなかった」
「聖女の力を持つ彼女は多くの人々に求められ、頼られる存在だったがそれが裏目に出て時にはその存在が恐れられることもあった」
「食事の時も、宿屋に泊まる時も、居心地の悪さを嘆いて元の世界に帰る決意を固めていた」
「すべては愛する母の為に」
娘が私のために旅をしていたことは知っていたけれど実際にどれほど大変だったのかどれほど辛かったのかを想像することはできていなかった。
本を読み進めるうちに私は涙が止まらなくなった。娘がいかに自分のことを犠牲にしてこの異世界を旅していたのか。そのすべてが今までの私は理解していなかったことに気づかされた。
◆
「家の名誉を守るためには、家柄のある娘を迎えるべきだわ」
エリオットよりも身分の高い貴族の家から若い娘との縁談を持ちかけた。その娘は私の娘とほぼ同じ年齢で家柄や教養も申し分なかった。
その言葉に私は胸が痛んだ。エリオットと私は愛し合っているが彼の家族にとっては私の存在がもはや重荷になりつつあった。
エリオットは母親の言葉に困惑しながらも私を守る決意を示そうとしたが母親の冷徹な態度に圧倒されていた。
結局、エリオットは家族の圧力に屈し、新たな縁談を受け入れることになった。私はその決断を受け入れ、彼の家で愛人として暮らすことに決まった。
新しい妻は若く、可愛らしく、家族にとって理想的な女性だ。私とは全く違う存在で家族の期待を背負うにはふさわしい相手。
私はエリオットと同じ屋根の下で暮らしながらも、彼の心が新しい妻に向かっていくのを感じていた。最初はエリオットも私に気を使って、できるだけ一緒に過ごそうとしてくれた。
次第にその距離は広がっていく。彼は新しい妻と過ごす時間を増やし、私との時間がどんどん少なくなっていった。
考えてみれば私は10歳年上で、しかも一度結婚し、大きな子供を持っている女性。
対して新しい妻は若くて、可愛らしく、何もかもが新鮮で魅力的に映るだろう。エリオットが次第にその若い妻に心を奪われていくのはある意味当然のことだ。
彼の心が若く魅力的な新しい妻に向かっていくのを止めることはできなかった。私とエリオットの関係は次第にただの形式的なものへと変わっていく。
新しい妻は私のことを気にかけることもなく、エリオットと楽しそうに過ごしていた。私は彼女が笑顔でいるのを見るたび、何故か別れた娘の姿を思い出しているの。
心にぽっかりと穴が開いたような、寂しさと不安に包まれながら私は新たな生活を始めた。
エリオットと結婚し、彼の家に嫁ぐことになったが現実はそう甘くはなかった。
エリオットの両親。特に母親からは何度も冷たく、疑念の目で見られた。
最初は彼の家族も私を歓迎してくれたのかと思っていたが聖女の母という立場を失ってからその態度が一変したことに気づいた。
「本当にエリオットの子供なの?」
「聖女の母、なんて名ばかり。あなたにはそれに見合った品位も教養も足りていないわ」
「あなたがそれにふさわしい立場だとは思えません」
その言葉が繰り返されるたびに私は自分がただの「聖女の母」でしかないことを痛感させられる。
娘がこの世界にいた頃は私も一応その役割を果たしていたから、周囲からは一定の敬意や優しさを受けていた。
しかし、今やその役目は娘が消えたことで私はただの「ただの異世界人の女性」に過ぎなくなった。
「聖女様の母」という看板を失った瞬間、私がどれほど平凡で普通の女性に過ぎないかを彼らは思い知らされていたのだろう。エリオットの両親にとって私はただの「過去の遺物」でしかなかった。
娘の存在が彼らにとっていかに大きな意味を持っていたかを私自身が感じ取ることになる。
特に辛いのはみんなが娘のことを思い出させるような言葉を口にするたびだ。みんながいかに聖女である娘を誇りに思っていたかそれを私は目の当たりにし、改めて痛感した。
ある日、屋敷にいるのが苦しくてエリオットと一緒に町を歩いていた時、ふと立ち寄った本屋で目にした本が私の目を引いた。
それは『聖女の旅』と題された本で表紙には娘とその仲間たちが写った写真のようなイラストが描かれていた。その瞬間、心の中で何かがざわつき私は本を買ってしまった。
中身は娘が浄化の旅していた間の記録。著者名を見るとどうやらその旅の仲間たちがまとめた本であることがわかる。私が見たことのない娘が過ごした厳しい現実がその中に描かれていた。
「聖女の旅路は決して楽なものではなかった」
「聖女の力を持つ彼女は多くの人々に求められ、頼られる存在だったがそれが裏目に出て時にはその存在が恐れられることもあった」
「食事の時も、宿屋に泊まる時も、居心地の悪さを嘆いて元の世界に帰る決意を固めていた」
「すべては愛する母の為に」
娘が私のために旅をしていたことは知っていたけれど実際にどれほど大変だったのかどれほど辛かったのかを想像することはできていなかった。
本を読み進めるうちに私は涙が止まらなくなった。娘がいかに自分のことを犠牲にしてこの異世界を旅していたのか。そのすべてが今までの私は理解していなかったことに気づかされた。
◆
「家の名誉を守るためには、家柄のある娘を迎えるべきだわ」
エリオットよりも身分の高い貴族の家から若い娘との縁談を持ちかけた。その娘は私の娘とほぼ同じ年齢で家柄や教養も申し分なかった。
その言葉に私は胸が痛んだ。エリオットと私は愛し合っているが彼の家族にとっては私の存在がもはや重荷になりつつあった。
エリオットは母親の言葉に困惑しながらも私を守る決意を示そうとしたが母親の冷徹な態度に圧倒されていた。
結局、エリオットは家族の圧力に屈し、新たな縁談を受け入れることになった。私はその決断を受け入れ、彼の家で愛人として暮らすことに決まった。
新しい妻は若く、可愛らしく、家族にとって理想的な女性だ。私とは全く違う存在で家族の期待を背負うにはふさわしい相手。
私はエリオットと同じ屋根の下で暮らしながらも、彼の心が新しい妻に向かっていくのを感じていた。最初はエリオットも私に気を使って、できるだけ一緒に過ごそうとしてくれた。
次第にその距離は広がっていく。彼は新しい妻と過ごす時間を増やし、私との時間がどんどん少なくなっていった。
考えてみれば私は10歳年上で、しかも一度結婚し、大きな子供を持っている女性。
対して新しい妻は若くて、可愛らしく、何もかもが新鮮で魅力的に映るだろう。エリオットが次第にその若い妻に心を奪われていくのはある意味当然のことだ。
彼の心が若く魅力的な新しい妻に向かっていくのを止めることはできなかった。私とエリオットの関係は次第にただの形式的なものへと変わっていく。
新しい妻は私のことを気にかけることもなく、エリオットと楽しそうに過ごしていた。私は彼女が笑顔でいるのを見るたび、何故か別れた娘の姿を思い出しているの。
125
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話
はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。
父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。
成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。
しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。
それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。
(……なぜ、分かったの)
格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴族令嬢ですがいじめっ子たちが王子様からの溺愛を受けたことが無いのは驚きでした!
朱之ユク
恋愛
貴族令嬢スカーレットはクラスメイトのイジメっ子たちから目をつけられていた。
理由はその美しい容姿だった。道行く人すべてがスカーレットに振り返るほどの美貌を持ち、多くの人間が彼女に一目ぼれする容姿を持っていた。
だから、彼女はイジメにあっていたのだ。
しかし、スカーレットは知ってしまう。
クラスメイトのイジメっ子はこの国の王子様に溺愛を受けたことが無いのだ。
スカーレットからすれば当たり前の光景。婚約者に愛されるなど当然のことだった。
だから、スカーレットは可哀そうな彼女たちを許すことにしました。だって、あまりにみじめなんだから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
逃げた先の廃墟の教会で、せめてもの恩返しにお掃除やお祈りをしました。ある日、御祭神であるミニ龍様がご降臨し加護をいただいてしまいました。
下菊みこと
恋愛
主人公がある事情から逃げた先の廃墟の教会で、ある日、降臨した神から加護を貰うお話。
そして、その加護を使い助けた相手に求婚されるお話…?
基本はほのぼのしたハッピーエンドです。ざまぁは描写していません。ただ、主人公の境遇もヒーローの境遇もドアマット系です。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる