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それからお母さんとエリオットさんを見るたびに腹が立ったりするから暴言を吐かないようにする為に自分の部屋に籠ってベッドの上に倒れ込む日々が続いたが……ようやく元の世界に帰れることになった。
ここに残りたいか、残らないかの選択権を与えられたけど私は当然帰ることを選んだ。
「お母さんはどうするの?」
久しぶりにお母さんと二人だけで向かい合って私は帰ることを伝えて、お母さんの返事を待つ。
「……お母さんは残ろうと思うの」
そうなんだ。子供が出来るくらいエリオットさんのことが好きだもんね?そう思ったら胸がズキズキ痛んで仕方なかった。
だって私よりもエリオットさんを選んだってことになるんでしょ? 二人で……いや、三人で幸せな家庭を築くつもりなんだよね。
「一緒に残らない?」
「は?嫌だよ」
恐る恐る聞いてくるお母さんの言葉に私は呆れてしまい咄嗟にそう答える。
この世界には大好きな友達もお父さんのお墓もアニメも漫画もゲームもネットも無い。美味しいご飯も便利な家電も存在しない。すごく不便な世界だ。
それに私はエリオットさんをお父さんだとは思えないし、お腹の中にいる赤ちゃんを兄弟だとは思えない。
それにずっと幸せそうな三人を見て行くだなんてことは私には耐えられない。
「私ね。お母さんにはお母さんでいてほしかったの」
きっと最後になるからずっと思っていたことをお母さんに伝えることにした。お母さんは悲しそうな顔をしているけど私は構わずに喋る。
「お母さんには再婚とかしてほしくなくて、ずっとお父さんを好きでいて、私だけのお母さんでいてほしかった」
お父さんのことを忘れずにずっと想ってほしかったし、この世界では私の代わりになれる人はいるかもしれないけど、元の世界ではお私にはお母さんしかいないんだから……だから私だけのお母さんでいてほしかった。
「私がどんな思いで聖女をやって来たと思っているの?頑張って浄化して二人で帰る予定だったのに!」
「ごめんなさい……」
そして私は謝るだけのお母さんを置いて一人で元の世界に帰ることになった。
あっちの世界に戻ったらエリオットさんや赤ちゃんのことも考えないようにしよう。もう私には関係ない。
元の世界に帰れる日がやって来た。
見送りには国王様や宰相様、王妃様に王太子様……そしてエリオットさんにお母さんも来ている。
エリオットさんの隣でお腹を撫でながら微笑むお母さんは幸せそうだ。エリオットさんも嬉しそうで……気持ち悪くて見ていられない。
「聖女様、本当にありがとうございます」
「お元気で」
「はい、聖女様も……」
王様にそう声をかけられて私は笑顔を作った。ここに来てから一気に社交性が上がった気がする。
「それでは失礼します」
「待って!」
背中を向けて魔法陣の中に入ろうとすると、お母さんが後ろから抱きついてきた。そしてお腹に回された手に力がこもる。
「なに?」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
悲しそうに謝るお母さんを見てイラッとした。だからその手を振り解いた。振り払われた手を呆然と眺めるお母さんを私は睨みつけて言い放った。
「邪魔しないで」
「……ごめん……なさい……」
そんな私の顔はきっと今すごく醜悪な顔をしていると思う。エリオットさんや国王様達も驚いた顔をしているし、本当は社交性なんて付いてないな。大人になったような気でいた私はまだまだ子供だ。
「元気でね……」
お母さんがもう一度そう言ってくると私は無視をして魔法陣に足を踏み入れた。
元の世界に帰るにはたくさんの魔術師と聖女の強い魔力が必要になる。魔術師だけだと命を落とす可能性があるので召喚の儀式は本当に困った時だけにしか使えないのだ。
魔術師の人達が魔法陣を取り囲むように立って呪文のようなものを唱え始めると魔法陣が光り始めた。そして私を中心に風が巻き上がり、足元の魔法陣には文字が浮き出てきた。周りの音や声がよく聞こえない状態になっていたけれど……その瞬間にお母さんの声を聞いた気がした。
ここに残りたいか、残らないかの選択権を与えられたけど私は当然帰ることを選んだ。
「お母さんはどうするの?」
久しぶりにお母さんと二人だけで向かい合って私は帰ることを伝えて、お母さんの返事を待つ。
「……お母さんは残ろうと思うの」
そうなんだ。子供が出来るくらいエリオットさんのことが好きだもんね?そう思ったら胸がズキズキ痛んで仕方なかった。
だって私よりもエリオットさんを選んだってことになるんでしょ? 二人で……いや、三人で幸せな家庭を築くつもりなんだよね。
「一緒に残らない?」
「は?嫌だよ」
恐る恐る聞いてくるお母さんの言葉に私は呆れてしまい咄嗟にそう答える。
この世界には大好きな友達もお父さんのお墓もアニメも漫画もゲームもネットも無い。美味しいご飯も便利な家電も存在しない。すごく不便な世界だ。
それに私はエリオットさんをお父さんだとは思えないし、お腹の中にいる赤ちゃんを兄弟だとは思えない。
それにずっと幸せそうな三人を見て行くだなんてことは私には耐えられない。
「私ね。お母さんにはお母さんでいてほしかったの」
きっと最後になるからずっと思っていたことをお母さんに伝えることにした。お母さんは悲しそうな顔をしているけど私は構わずに喋る。
「お母さんには再婚とかしてほしくなくて、ずっとお父さんを好きでいて、私だけのお母さんでいてほしかった」
お父さんのことを忘れずにずっと想ってほしかったし、この世界では私の代わりになれる人はいるかもしれないけど、元の世界ではお私にはお母さんしかいないんだから……だから私だけのお母さんでいてほしかった。
「私がどんな思いで聖女をやって来たと思っているの?頑張って浄化して二人で帰る予定だったのに!」
「ごめんなさい……」
そして私は謝るだけのお母さんを置いて一人で元の世界に帰ることになった。
あっちの世界に戻ったらエリオットさんや赤ちゃんのことも考えないようにしよう。もう私には関係ない。
元の世界に帰れる日がやって来た。
見送りには国王様や宰相様、王妃様に王太子様……そしてエリオットさんにお母さんも来ている。
エリオットさんの隣でお腹を撫でながら微笑むお母さんは幸せそうだ。エリオットさんも嬉しそうで……気持ち悪くて見ていられない。
「聖女様、本当にありがとうございます」
「お元気で」
「はい、聖女様も……」
王様にそう声をかけられて私は笑顔を作った。ここに来てから一気に社交性が上がった気がする。
「それでは失礼します」
「待って!」
背中を向けて魔法陣の中に入ろうとすると、お母さんが後ろから抱きついてきた。そしてお腹に回された手に力がこもる。
「なに?」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
悲しそうに謝るお母さんを見てイラッとした。だからその手を振り解いた。振り払われた手を呆然と眺めるお母さんを私は睨みつけて言い放った。
「邪魔しないで」
「……ごめん……なさい……」
そんな私の顔はきっと今すごく醜悪な顔をしていると思う。エリオットさんや国王様達も驚いた顔をしているし、本当は社交性なんて付いてないな。大人になったような気でいた私はまだまだ子供だ。
「元気でね……」
お母さんがもう一度そう言ってくると私は無視をして魔法陣に足を踏み入れた。
元の世界に帰るにはたくさんの魔術師と聖女の強い魔力が必要になる。魔術師だけだと命を落とす可能性があるので召喚の儀式は本当に困った時だけにしか使えないのだ。
魔術師の人達が魔法陣を取り囲むように立って呪文のようなものを唱え始めると魔法陣が光り始めた。そして私を中心に風が巻き上がり、足元の魔法陣には文字が浮き出てきた。周りの音や声がよく聞こえない状態になっていたけれど……その瞬間にお母さんの声を聞いた気がした。
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