一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。【ざまぁ追加】

白滝春菊

文字の大きさ
上 下
1 / 8

しおりを挟む
お母さんが大好きだ。
 私が高校に入学少し前の三年前。お父さんが病気で死んでからは二人で暮してきた。
 お母さんとお父さんは仲の良い夫婦で私の自慢。
 いつかは私もこんなふうに穏やかに結婚するんだって、子供の頃からそう思っていた。

 ある日の夕方。大学生受験に合格をして、そのお祝いに外食に行く途中で私とお母さんは異世界に召喚された。

 不安だったし混乱していたけど隣にはお母さんがいたお陰で少しは安心ができた。

 召喚された場所はお城の謁見の間。
 王様とか騎士とか兵士とかメイド服を着た人たちとか、部屋の内装はどこか豪奢で日本のものじゃない。まるでゲームの世界みたい。

 そして、聖女である私は世界を浄化してほしいと頼まれたのだ。
 そうしないと返してもらえないからたくさん悩んだ末にいっぱい特訓をして頑張った。
 お母さんが応援をしてくれたから頑張れた。お母さんと一緒に元の世界に帰りたいから辛くても頑張った。

 ここで一番親身になってくれたのは私の守護騎士のエリオットさん。
 聖騎士でもある彼は最初、色々ときつくて怖い人なのかなって思ったけれど、そんなことは全然ない。
 意外と気さくで私が困っているといつも助けてくれて私はすごく感謝をしている。
 私よりも10歳年上の28歳で騎士として鍛えているからか背も高くて筋肉もほどよくあってゲームキャラみたいなイケメンだ。

 長めに整えられた金髪に切れ長の深い青の瞳、その瞳はいつも冷静で知的。赤地に金色の糸で刺繍された騎士服を着て、輝く銀色の剣を腰に差しているエリオットさんはとても格好良くて女性にとても人気だ。
 でも女性が苦手だと言っていて婚約者もいないみたい。

 守護騎士なので四六時中一緒にいる。強くて優しく私をとても大切にしてくれるから……たぶんはじめての恋をした。
 そのせいで元の世界に帰りたいけれど帰りたくない気持ちがもう半分ある。

 でも帰らないといけない。友達とかお父さんのお墓とか残していた物が多すぎるからやっぱり帰りたいのだ。
 この想いはそっと胸にしまっておいて、もし帰れなかったらエリオットさんに好きになってもらいたいな。なんてね。



 聖女の修行も順調で浄化も少しずつ出来てきた一年程経ったある日、私は浄化の旅へと赴くことになった。
 この世界には瘴気という悪い魔力みたいなものがあるらしい。それを浄化するのが私の聖女の役目だ。

「本当に気をつけてね」

 お母さんが私の頭を撫でながら心配そうな顔をした。もう子供じゃないのに過保護になって子供扱いをするのは恥ずかしいからやめてほしいと思いつつも少し嬉しかったりする。

「大丈夫だよ。私には仲間が沢山いるし」
「そうね、頑張って……応援しているから」

 そう言ってお母さんは私を抱きしめてくれた。もう帰れないかもしれないと思うと胸がキュッと切なくなるけど笑顔で行かないと。

「エリオットさん、お母さんをよろしくお願いします!」

 エリオットさんは旅に連れて行かないことにした。お母さんを守ってもらうなら誰よりも強くて信頼のできる人がいいと思ったから。

「はい、お任せください。聖女様の母君は必ずお守りいたします」

 エリオットさんは引き受けてくれた。お母さんとも楽しそうに話しているのをたまに見るから。きっと大丈夫。

「ごめんなさいね……よろしくお願いします」

 お母さんはエリオットさんに頭を下げた後、また私を抱きしめた。

「もしも危なくなったら無理をしないで逃げるのよ」
「うん、わかった。でももしそうなったら他の人たちを見捨てることになるから……私はやっぱり逃げるなんてしたくないな」
「あなたって子は……」

 お母さんはそれから寂しそうに笑った。そしてハンカチをくれた。

「コレしか無いけど持っていてちょうだい」
「……ありがとう。大切にするね」

 私は最後にお母さんを抱きしめた。なんだか泣きそうになったから気づかれたくなかったのだ。お母さんも私のことを抱きしめ返してくれたけれど、その体は震えていたと思う。やっぱりお母さんも不安なんだ。

 だから早く聖女の役目を終えて一緒に帰ろう。

 そう約束したのに……どうしてこうなったんだろう? 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

逃げた先の廃墟の教会で、せめてもの恩返しにお掃除やお祈りをしました。ある日、御祭神であるミニ龍様がご降臨し加護をいただいてしまいました。

下菊みこと
恋愛
主人公がある事情から逃げた先の廃墟の教会で、ある日、降臨した神から加護を貰うお話。 そして、その加護を使い助けた相手に求婚されるお話…? 基本はほのぼのしたハッピーエンドです。ざまぁは描写していません。ただ、主人公の境遇もヒーローの境遇もドアマット系です。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話

はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。 父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。 成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。 しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。 それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。 (……なぜ、分かったの) 格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。

貴族令嬢ですがいじめっ子たちが王子様からの溺愛を受けたことが無いのは驚きでした!

朱之ユク
恋愛
 貴族令嬢スカーレットはクラスメイトのイジメっ子たちから目をつけられていた。  理由はその美しい容姿だった。道行く人すべてがスカーレットに振り返るほどの美貌を持ち、多くの人間が彼女に一目ぼれする容姿を持っていた。  だから、彼女はイジメにあっていたのだ。  しかし、スカーレットは知ってしまう。  クラスメイトのイジメっ子はこの国の王子様に溺愛を受けたことが無いのだ。  スカーレットからすれば当たり前の光景。婚約者に愛されるなど当然のことだった。  だから、スカーレットは可哀そうな彼女たちを許すことにしました。だって、あまりにみじめなんだから。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

処理中です...