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「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」

高らかに宣言された婚約破棄の言葉。

その声はドルマン侯爵の庭に響き渡った。

ーーーー

今日はドルマン侯爵主催のガーデンパーティーが行われている。
わたくしサリー・ナシェルカ伯爵令嬢はドルマン侯爵令息 ロディ様の婚約者であるためご招待いただいている。

ロディ様が12歳、私が10歳の時に結ばれた政略結婚のお相手。私のナシェルカ伯爵一家は伯爵ではあるものの、商売が成功したためお金は持っている。そのため金銭的に逼迫していたドルマン侯爵令息との婚約をお願いされた。父は仕事に関しては冷静かつ客観的に物事を見る人である。でもこれが私事となると全くだめ。お願いされると無碍にすることができない。そのため執事ができるだけ空気を読んでそういう人たちを近づけないようにしてきた。でもドルマン侯爵の時は執事のフィルターから抜けてしまったのだ。父の学友であり、久々に話がしたいと言われ、さほど警戒することなく近づけてしまったとのこと。後で執事から頭を地面に擦り付ける勢いで謝られてしまった。

それでも侯爵家との繋がりがあるのはきっと悪くないと思う。それに何より格上の侯爵家への断りはそれなりの理由がないとやはり世間体も良くない。

婚約を受け入れ、初めて顔合わせをしたロディ様はずっと俯き、ボソボソと喋る方だった。顔は悪くもなく、ただ良すぎることもない。多分身長は私と同じくらい。正直ずっと俯いているからよくわからないの。

縁があって結んだ婚約関係。これから信頼関係を結んでいきたい。そう思い、私から話しかけるもたまにこちらをチラチラと見ながら俯き、ぼそぼそと話すのみ。盛り上がることもなければ会話が広がることもなし。何度目かのお茶会を重ね、私は思った……

めんどくさい……

どうして毎回毎回私が会話を考え、振って、一言二言で終わる会話をしなければならないのか。

そう思ってからは月に一度のお茶会も二人ともほぼ無言なまま……

月に一回だったお茶会は2ヶ月に一度になり、2ヶ月に一度のお茶会は3ヶ月に一度になり、今では社交会のエスコートのみでお会いすることになっている。その社交会であるガーデンパーティーも今回は馬車をよこすこともなく、もちろん本人が来ることもない。言い方は良くないが、ドルマン侯爵家の状況をわかっているのかしら。

もし婚約解消になるのならば今までの支援金の返還をせねば侯爵宅も差し押さえられてしまう。
まぁ、もし婚約破棄になり、こちらに有責となった場合は支援金はその場で返済義務なしとなるが、あちらの有責となった場合は返済に慰謝料請求も加わるので間違いなく家は取り潰しとなってしまうのではないか。

そんなことを思いながら侯爵邸に着き、お父様にエスコートしていただき、母と一緒に門のアーチを潜るといつものように俯きながらも少しニヤニヤとするロディ様を見つけてしまった。その左腕には主役のように真っ赤なドレスを着飾った令嬢をくっつけて。
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