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30.私の婚約者は狭量な男ではない

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そんなことを考えながらも、どうしても気になってちらっと祖父の脇から様子を伺うと堂々と祖父の前にたち、笑顔で話すアルバの姿が目に入った。その笑顔は私に「グレン様って本当に優しくって素敵な方よね」と言っていた時の笑顔と一緒な気がする。

そっか、あれは私にグレン様は私のものよと暗に伝えていたのか。

そして今日は私になり変わって全てを奪おうとしているのだから愉しくて仕方ないんだろう。

そう思ってふとアルバの隣を見るとグレン様とバチッと目があった。まずい…そう思ったけれど目があってしまったものはもう仕方がない。グレン様はしばらく私の顔を見つめたまま固まっていた。そしてはっと何かに気づいたかのように目を見開くとガタガタと体を震わせ始めた。

きっと私に気づいたのだろう。そして今の現状を把握したのだろう。

だが今更気がついたところで遅い。しかも今の立ち位置、この狂言に加担しているとしかいえない位置。

グレン様は私を裏切り、犯罪に加担してしまった。ただそれだけ。

婚約者であるはずのグレン様に対して何の感情もわかないなんて…私も自分のことしか考えていない。でも結局人間は自分が手の届く範囲しか守ることはできない。

グレン様が私にとって守りたい存在ではなかったと言うだけの話。

体を小刻みに震わせるグレン様の隣で嬉しそうな笑顔を収めることなく、次はロドル兄様に話しかける。

「あの…。貴方も伯爵家の方なのですか?ぜひ仲良くなりたいわ。お名前を伺っても?」

アルバの言葉に周りからは「まぁ!」や「ふっ」と言う声が漏れ聞こえる。

「ははっ、それは光栄ですな。しかし私などに貴方のような方はもったいない。なによりお相手の方にあらぬ誤解などされてしまってはいけませんからね。そちらにいらっしゃるのは婚約者ではありませんか?」

ロドル兄様の言葉にビクッと反応したのは未だ震えの止まらぬグレン様。

小さくイヤイヤするように首を左右に振るも…

「そうなんです。でも私の婚約者は私の交友関係にまで口を出すような狭量な男ではないので大丈夫ですよ」

まるで誇るかのようにニコニコとしながらそう言い放つアルバ。先ほどまではクスクスと馬鹿にしたような笑い声が多少なり聞こえていたのに今はそれすら聞こえない。周りを見ると唖然とした顔、不快感をを露わにするような顔をした方が多い。

きっとあまりに常識を超えた行動、言動に驚き呆れているのだろう。
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