(仮)母を亡くした令嬢が幸せになるまで

暖夢 由

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「はぁ………

とりあえず仕事を片づけるよ。
溜まっていてはいざというときに動けないからな」

なにか案が浮かんだらすぐにでも行動に移したいと考えていたジョシュアは素直に足を執務室に進め、仕事にとりかかった。
そうして仕事が終わったのは夜遅くになってからだった。

ふぅと息を吐いてゆっくりと歩くジョシュア。
いつもよりも多めの仕事を片づけて疲労は溜まっているはずなのに、ナティシアの事ばかりを考えてしまう。
どうしたら……そう考えていた時にふと昼間見た池の魚が気にかかり池にまでやってきたのだ。

すでにあたりは暗くなっており、外灯がなければ足元さえおぼつかないだろう。
こんなに暗くなってから池を見に来たのは初めての経験だが、きっと魚も寝てしまっていて姿すら見ることができないだろう。
そう思ってはいるが、足が向かうのを止めることができなかったのだ。

ジョシュアの足がじゃりと音を立てた瞬間、待っていたといわんばかりに魚が姿を現し、昼間と同じように水面をバチャバチャと音を立てて泳ぎ始めたのだ。

やはりこれは偶然なんかではない。
この魚は私を認識してこのような行動を起こしているのだ。

そう考えたジョシュアはとりあえず素直に尋ねてみることにした。

「私になにか伝えたいことがあるのか?」

魚に向かってそんなことを聞いてみても、魚が答えるはずもない。
だが、先ほどまでバチャバチャとうるさいほどの音を立てて泳いでいたのに、ジョシュアが問いかけた途端、すいすいと気持ちよさそうに泳ぎ始めた。

「ナティシアの、、、ことか?」

そう問いかけた瞬間、またバチャバチャと音を立てはじめた。
確実に意思の疎通を図ることができている二人。いや、一人と一匹?

そう確信したジョシュアだが、これ以上はどうやって魚の意思を汲み取ればいいのかがわからなかった。
ジョシュアがアネモネの考えに目星がついていれば、それに誘導するような質問を問うこともできる。

しかし、今回はどのような内容かすらわからない。
その為投げかけるべき質問すらわからないのだ。

そんな事をジョシュアが考えていると、先ほどまで聞こえていた水しぶきの音がぱたりと止まった。
また泳ぎ始めたのだろうかと思って水面を見てみると、そこにはヒレも動かさずに水面に浮いている魚の姿が。

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