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そんな気持ちを抱えながらも見送っているとき、ふと気づいたのはジョシュア殿下が退席される気配がないということだった。

そんなことが表情に出てしまっていたのか、ちらっと殿下を盗み見ようとしたとき、バチっと目があってしまった。

「ごめんね。
本来なら私も母と一緒に退席すべき事はわかっているんだけど、どうしてももう少しだけ話しがしたくて。
よければ公爵家までお送りさせていただけますか?」


アクアンティ家では表情がないと言われているナティシアだが今日はいろいろな表情を見せてしまっている気がする。
ジョシュア殿下の言葉におもわずフルフルと顔を横に振るが、殿下はそれに困ったような笑みを浮かべた。

「ナティシアならそういう反応をするかと思った。
でもごめん。送らせて欲しい。

さぁ、あまり遅くなってしまってはよくない。
馬車を用意しよう」

今日ずっと感じていた違和感。
前回はずっと砕けた口調で話していた王太子殿下。
今日はまるであの日の人とは別人かと思うほど丁寧な口調だった。
ナティシアはあの日話したからもしかしたら招待状をいただけたのかと思っていた。しかし、それは勘違いだったのかも…ならどうして自分は呼ばれたのだろう。
そんなことまで考えていた。

だけど、陛下が退席された途端その雰囲気は変わった。
あの日のようになんだか年相応の雰囲気に急に変わったのだ。


どうして?

そんなことを心では感じながらも、なんだかホッとしていた。
あの時の人と目の前にいる人が同じ人なのか、そんな疑念がずっと心にあったのだから。


そうしてジョシュア殿下は多少強引にナティシアと一緒に門へ向かい、本当に馬車に乗ってしまった。
困惑はしながらも殿下との会話はやはり穏やかで心地が良いものだった。その為公爵家まではあっという間についてしまった。

「あぁ、母が言う通り楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
ナティシア、私はまたあなたとこうやって話がしたい。
私のこんなわがままの為に少しだけ騒々しいことに巻き込んでしまうことを許してほしい」

馬車が止まる気配を見せた瞬間、殿下が急にぼそっと呟くように言葉を吐き出したと思えば、次にはなぜか謝罪の言葉が紡がれた。
どういう意味なのか、殿下の次の言葉を待っていたら、止められた馬車の扉にノックの音が響き、ゆっくりと扉が開かれた。


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