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「母上、いいですか?私、まだ挨拶もさせてもらっておりません。

アクアンティ嬢、本日は招待を受けていただきありがとうございます。私はジョシュア・グラゴリと申します。
よければジョシュアと呼んでください。
私もナティシアと呼ばせていただいても?」

陛下が言葉を続けようとしたのを王太子殿下が制した。
確かにナティシアがきてから陛下が話を進め、殿下とは挨拶すら済んでいなかった。
そういえばあの日は挨拶もろくに交わしていなかった。書くものも持っていなかったためただ殿下の話に相槌を打っていただけだった。

今日はあの時とは全く違い、丁寧に挨拶をしていただき、そのうえ名前で呼ぶ名誉まで頂けるという。
しかし、ナティシアにはそのような名誉は受け取れず、頭を横に振るとノートにペンを走らせた。

『ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。
アクアンティ家が長女ナティシアでございます。
本日はお招きいただきありがとうございます。

私のことはナティシアとお呼び頂ければ光栄でございます。
しかし、私などがお名前で呼ばせていただくなどあまりにおこがましく、よければ王太子殿下と呼ばせていただきたく存じます』

「おこがましいだなんて、ただ私が呼んでもらいたかったんですが。
では私はナティシアと呼ばせていただきますね」

「ジョシュ、そういきなり距離を詰めたらナティシアが困ってしまうわよ。
さあさ、挨拶はこれくらいにして、あなたのことを知りたいの。あなたのことを聞かせてもらえる?」

ナティシアとは今までほとんど面識がないはずの2人は、なぜか始めからとても好意的に接し、ナティシアのことを知りたいと何色が好きか、どんな料理が好きかと聞いてくれる。
ナティシアは一つ一つの質問に、紙にかいて答えていった。
決してスムーズとはいかなかったが、2人ともイラだつこともなく、ゆっくりとした会話を楽しむことができた。
気づけば2時間ほど時間は経っており、ナティシアにとって普段の生活からは考えられないほど穏やかでにこやかな時間を過ごすことができた。
こんなにも他人に興味を持ってもらえたのは、母を失ってから初めてのことだった。

「まぁ、もうこんな時間なのね。楽しい時間はすぎるのが早くて嫌になってしまうわ。
でもあまり長いこと引き留めてしまってはいけないわね。
ナティシア、また一緒にお茶をしましょうね」

陛下は呼ばれてしまい、席を立つ際にそんな一言をかけてくださった。
身分不相応と思いながらも、陛下が去ってしまうことがナティシアにはとても淋しく感じられた。

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