上 下
78 / 166
第1章

この親にしてこの娘あり

しおりを挟む


「な、娘が大変な無礼を申し訳ございません。


……ですが、娘はずっとフレッド様の事をお慕いしていました。きっとそのお姿を拝見して興奮のあまり口から出たものだと思っております。どうか、その女心汲み取ってやっては頂けませんか」


………素晴らしい家族愛!!!
まさにこの親にしてこの娘ありですね。


「はははっ、そうですか。この教育は公爵の教育の賜物でしたか。
公爵の教えはしっかりと子に伝わっているんですね!」


またフレッド様が声をあげて笑った。
さすがにわかる。


これは怒ってる………

だって空気がピリピリしてる……

「おおっ、さすが殿下!親心まで読み取って頂けるとは。
そうなのです。大切に大切に娘を育てて参りました。殿下をお慕いする娘をいつでも嫁に出せるようにと淑女教育を行ってきたのです」


先ほどまでとは打って変わって自信満々にそう言い切る公爵。
この公爵はどうやって今まで貴族社会を生き抜いてきたのだろう。貴族なんて言葉の裏に嫌味を混ぜて話すもの。それなのにこうも直接的な嫌味すらまったく気づきもしないだなんて。
いや、だからこそ図太くいられるのかもしれない。


周囲を見ると扇子で口元を隠し不快そうにしている方や唖然として公爵を見つめる方。
この視線にすら、いやこの空気すら気付かないなんてすごい。


「はははっ!!!それは大変光栄ですね。では、断言しておきましょう。
私は他人を貶めるような令嬢とは人としても女性としてもお付き合いはいたしませんので、早く他の方との縁談を進めてください。
そうでなければご令嬢は俗にいう行き遅れになってしまうでしょうからね。私自身は何歳の結婚でも問題ないと思いますが、世の反応などそういうものですから」


先ほどより幾分低い声のフレッド様の声が響く。
先ほどまでのにこやかな笑顔すら消えてしまっている。
そして先ほどのキャロル嬢の言葉をわざと使っているあたり、怒りは相当な物なのだろう。
でもこれ以上はと思った私と、同じように思ったのだろう。


「フレッド様、当家主催のパーティーでご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。当家との付き合いもあるサリー嬢にも申し訳ない。
お詫びに当家からフレッド様とサリー嬢を後日演劇に招待させていただきたい。


だができれば今夜のパーティーでは、私の顔を立てると思って、お怒りを静めて頂けないだろうか。


そして、ジョルダン公爵とその令嬢にはこのままお帰り頂こう。当家の大事な招待客を不快な思いにさせたのだ。当面の間、我が家はそちらとの付き合いを控えさせてもらう。さぁ、出口はあちら。お連れして」


デイヴの父、ベルジャン公爵が少し大きめの声でそのように発言する。
さすが陛下の弟。ジョルダン公爵家に対しての発言の際には威圧感があり、場がびりびりとした空気に包まれる。


「なっ!待って下さい!!どうして私たちが!!」


公爵とキャロル様がそのように言っているのが聞こえるが、ベルジャン公爵の声で動き出した衛兵たちによって、すぐに公爵たちの姿は見えなくなってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...