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第1章
キャロル様のお誘い
しおりを挟むでもこんな恵まれた時間は長くは続かず、ダンスの曲はいつの間にか終わってしまった。
私はフレッド様にお礼の挨拶をし、ホールから出る。
「少し飲み物でも取りに行こうか」
こうして当たり前に私をエスコートしたまま歩き出し、いつでも気遣ってくれる、このことを当たり前だなんて思ってはいけない……
「フレッド様!」
私が浮かれすぎないようにと自分自身を戒めていると、それをわかってきたのか、女性の声が目の前から聞こえる。
この少し甘えたような声。
あの時の声と一緒………
「お久しゅうございます。ようやくお会いできましたわ。キャロル・ジョルダンでございます。
ずっとずっとフレッド様とお会いしたかったのですが、なぜか取り次いでもらえず、私とっても寂しい思いをしておりましたの。
でもこうして出会えたのもきっと神の思し召しですね。きっと神様も私とフレッド様のことを祝福しているんだわ。ぜひダンスのエスコートをお願いいたします」
突然現れたキャロル様がフレッド様に話しかけている。
しかもダンスのエスコートをお願いいたしますといいながら手を差し出している。
でもキャロル様はどちらで公爵令嬢の皮を御脱ぎになったのだろう。
公の場で位の高い方、特に王家の方にいきなり話しかけ、ようやく会えただなんてまるで引き裂かれた恋人のようなセリフ。ましてダンスを申し込むだなんて……しかも手をとるのが当たり前と言わんばかりに手を差し出すだなんて……
きっと公爵令嬢の皮をどこかに忘れてきてしまったのだろう。
私が唖然としていると隣からにこやかな声が聞こえてくる。
「やあ、ジョルダン公爵令嬢。ごきげんよう。
ずっと文を頂いていたようで申し訳ないね。だが私もなにかと忙しい身の為、特に用事もなければ不必要には出歩かないようにしているんだ。
余計なことをするより領地などを見て回りたいからね」
………フレッド様……お声も顔もとてもにこやかですが…どこからか毒が出ていませんか?
今、必要がないから会いたくないとおっしゃいましたよね?
しかも余計な事って……
私は少し背中が冷やっとするのに、目の前にいるキャロル様はフレッド様と言葉を交わしたのがよほど嬉しいのか、言葉の意味を汲み取った様子はない。
「さすがフレッド様!勉強熱心でいらっしゃるのね。それにもうすでに領地を回っているだなんて素晴らしいですわ。でもあまり無理をしすぎてもお身体に毒ですわ。
たまには王都のカフェ巡りもいいものですよ。カフェだけでなく王都にも様々な商品があって勉強になりますわ」
キャロル様ってこれは素かしら。それともわざとすっとぼけてらっしゃるのかしら。
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