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第1章
婚約破棄おめでとう
しおりを挟む「「ごきげんよう、デイヴィッド様」」
「デイヴィッド様、ごきげんよう!!」
私とアイシャが挨拶を返しているのに、それを遮るようにキャロル様がデイヴィッド様の前に立ち、挨拶をする。
なんだか必死な感じでいやーねぇ。
デイヴィッド様もキャロル様も同じ公爵家ではあるが、現陛下の弟君を当主に持つベルジャン公爵は筆頭公爵であり格が違う。
それに加えデイヴィッド様は見た目も王子様。茶色のふわふわの髪の毛は太陽の光にあたると赤く輝き、丸みがかった目からは緑の瞳が見える。女性陣には優しく微笑みかけ、男性の中ではまるで子どものような笑顔で過ごしている。
女性陣の憧れの人であるデイヴィッド様に、その子どものような可愛らしい笑顔を自分だけ特別に向けてほしいと願う女性は少なくない。その先陣に立っているのがキャロル様なのだ。
「ああ、キャロル嬢、ごきげんよう。こんなところでサリー嬢たちとどのようなお話を?」
「実は……サリー様がご婚約を破棄されたと聞きまして、心配していたとお声をかけておりましたの。
先日のパーティーにて、参加者の面前でお相手の侯爵令息からご婚約の破棄を突きつけられてしまったと聞きまして、不憫に思っていたところですわ。そんな不名誉なことがあったら、私あまりのショックにきっと次の日に学校になんて来られませんもの………」
なんとまぁ、人の不名誉なことならば、他の人にまで大きな声で広めないで頂きたい。
デイヴィッド様の問いかけに、まるであまりのショックに泣き出しそうだと言わんばかりに扇子で口元を隠しながら、デイヴィッド様に一歩二歩としなだれかかろうと近寄っていっている。
それに合わせるように一歩二歩と後ろに足を下げ、距離を取るデイヴィッド様。
なんだか、喜劇のワンシーンのようだと思ってみていると、隣から「ふっ」と小さな笑い声が聞こえた。
アイシャ……耐えて……
そして結局距離は変わらぬまま……いえ、少し広がった距離を保ちながらデイヴィッド様が口を開く。
「あぁ、そのことか!そのことなら私も聞いたよ。
サリー嬢、婚約破棄おめでとう。」
「………は?」
泣きそうにしていたはずなのに、パチパチと瞬きしながらデイヴィッド様を見つめるキャロル様のつぶやきなんて無視だ、無視!
「デイヴィッド様、お祝いのお言葉をありがとうございます。しかし世間一般では私は傷物であります。おめでとうだなんてお言葉を素直に頂いていいものか…」
そう、こんな言葉を返せるほどに私とデイヴィッド様は仲がいいのです。
そして、隣でニマニマと笑っているアイシャも。
放課後私とアイシャが図書室で勉強をしていた時に、同じく図書室にいらっしゃったデイヴィッド様にナシェルカ伯爵領の特産品のことで質問されてから話すようになった。
我がナシェルカ伯爵領の近年の主要の特産物は織物。領地の特産物ということで、同世代の人よりはそれに関しての知識は多い。ただそれだけなのに、質問されたことにスラスラと答えたことでデイヴィッド様からさらに質問され、なぜかまた翌日も質問される羽目になった。
そして、アイシャと気兼ねなく話し、呼び名もアイシャだったことから自分もそのようにするようにと言われてしまって。
さんざん固辞したが、デイヴィッド様のほうが頑なで、今では人前でないときに限りデイヴと呼ぶことにしている。
そのデイヴにも婚約者の話しは伝わっていた。
だからこその「おめでとう」なのだ。
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