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第20章『決戦』
4話
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黒い鞘に収まった1本の細い剣。
光と共に現れた剣をハヤトがすっと掴んだ。
突然目の前に現れた剣に、リョウは大きな目をぱちぱちっと何度も瞬きさせる。
「え? 剣?」
じっとその剣を見つめながらハヤトに問い掛ける。
「ははっ。驚いたか? これは『青龍』と言って魔剣ほどではないのだけど、神に仕えるある生き物が憑いているんだ」
剣を横にすると、先の方を左手で支えながらにこりと笑ってハヤトが説明した。
「生き物? アキラが見せてくれたみたいな?」
先程見たあの小さな赤い鳥を思い出す。
「そう。神聖な生き物なんだけど、こいつは簡単には姿を現さないからすぐには見られないかもな」
相変わらず笑顔のまま、ハヤトはそう答えた。
一体どんな生き物なのだろうかと気になり、じっとハヤトが持っている剣をまじまじと見つめる。
「先程、『青龍』と言っていましたが、さっきのあの鳥も、もしかして?」
すると横で黙って話を聞いていたカイが、ハヤトをじっと窺うようにして問い掛けた。
「さすがだね。ご明察の通りだよ。アキラが持っているのが『朱雀』で、こいつが青龍。つまり、『四神獣』と言われる生き物だ。こいつはきっとリョウを助けてくれる。だから、リョウにあげようと思ってね」
にっと白い歯を出して笑うと、ハヤトは淡々と答えた。
どんなものかはよく分からないが、『四神獣』という言葉から物凄いものだと推察できる。
「えっ? 待ってハヤトさん。それってもしかして凄いやつなんじゃないの? そんな凄いのなんて貰えないよっ」
大袈裟に手を振りながら慌てて断った。
強くなりたいし、そんな凄い剣であれば、もしかしたら自分も強くなれるのかもしれない。
そう考えもしたが、今ではない気がしたのだ。
今の自分にはそんな資格は、きっとない。
「いや、これはリョウにこそ持っていてもらいたい。それに、リョウなら遣えると思うんだ」
柔らかく笑った後、ハヤトは真剣な顔でじっと見つめてきた。
「えっ? 俺がっ?」
ぎょっとして声を上げる。
自分が遣えるとはとても思えない。
「そう。この剣が遣えるかどうか、こいつが認めてくれるかどうかは鞘から抜くことができるかどうかだよ。リョウ、剣を抜いてみて」
ふっと笑みを浮かべると、ハヤトはそう言ってリョウに剣を差し出した。
「…………」
じっと剣を見つめながらゆっくりと受け取る。
(抜けるわけがない……)
カイやタクヤならともかく、自分のような力のない人間を、そんな凄い生き物が認めてくれるはずがない、と自分で思いながら落ち込んでしまう。
「リョウ。無理だと思わないこと。自分を信じるんだ。それからこいつのことも信じてやって。大丈夫だ、絶対抜けるって信じるんだ」
深く溜め息を付いたリョウに気が付き、ハヤトが強い口調で言い切った。
「ハヤトさん……」
そんなはず、と思いながらも、少しだけ勇気と希望を貰った気がした。
(抜ける……抜ける……絶対に大丈夫。お願い……俺を、認めてっ)
そう心に祈りながら右手で柄の部分を持ち、左手で鞘をぐっと掴んだ。
そしてゆっくりと鞘を抜いていく。
「あっ…………」
思ったよりも簡単に、鞘をするすると動かすことができた。
見えてきた剣はなんとも美しく、水色に輝いている。
「綺麗……」
全て出し切り左手に鞘を持つと、剣を右手に持ってそっと掲げる。
太陽の光に照らされて、水晶のようにきらきらと更に輝きが増した。
「ほら、ね? やっぱりリョウが持つべきなんだよ」
ふふっと嬉しそうに笑いながらハヤトが声を掛けてきたが、すっかり剣に見入ってしまっていたリョウの耳に、その声は届いていなかった。
ぎゅっと強く剣の柄を右手で握り締める。
細くて軽いその剣はとても手によく馴染む。
「凄いっ……」
剣の輝きに負けないくらい目をキラキラとさせながら、リョウはじっと剣を見つめる。
まるで宝物を見つけた子供のようだった。
「うん。リョウにとてもよく似合ってるよ。リョウのそのオレンジの目にぴったりだね」
横からカイもにこりと笑いながら声を掛けてきた。
漸くその言葉でリョウはハッとして気が付く。
「えっ? 俺に? 似合うっ?」
きょとんと首を傾げながらも満更ではない気分だった。
「色も形もリョウにぴったりだよ」
目を細め、カイは満面の笑みで答える。
「ほんとっ?」
先程までの険悪な様子はなく、カイも嬉しそうにしているのを見て、リョウも思わず笑顔を浮かべた。
ふたりで笑顔のまま見つめ合う。
穏やかな空気が流れていたその時だった――。
「随分楽しそうだね」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
ハッとして3人が振り返る。
そこにいたのは、あの爆発で死んだと思われていたアオイだった。
「まさかっ……」
目を見開き、カイが驚きの声を上げる。
その声にアオイは馬鹿にするように鼻でふんっと笑った。
「なぜ、お前がっ」
今度は怒りに満ちた目でカイがアオイに向かって怒鳴り付ける。
リョウはその場にはいなかったが、研究所での話は少しだけ聞いていた。
クローンを作ったという博士とタクヤの知り合いだという姉弟が、研究所を爆破させてその場にいたアオイも巻き込まれたはずだ、と。
それなのに、なぜ?
しかし、よく見るとアオイの右腕が少し変だった。
恐怖を感じながらもリョウは不思議そうに首を傾げる。
「もしかして、死んだと思ってた? 僕が、あんな奴らにやられるわけないでしょ。……ただ、あの女。どうにも腕を離すことができなかったから、仕方なく右腕は捨てたけどね」
ふっと余裕そうな笑みを浮かべながらアオイが答える。
そして先程変だと思った右腕は、アオイが言う通り着ている上着の腕の部分がひらひらと動いていることから、恐らく腕の途中からなくなっているのだろう。
そんな状態だというのに平然としているアオイのことを見て背筋がぞくりとした。
「まさか、キミとお揃いになるとはね。あ、キミのは左腕だっけ?」
くすりと笑いながらアオイが続けた。
光と共に現れた剣をハヤトがすっと掴んだ。
突然目の前に現れた剣に、リョウは大きな目をぱちぱちっと何度も瞬きさせる。
「え? 剣?」
じっとその剣を見つめながらハヤトに問い掛ける。
「ははっ。驚いたか? これは『青龍』と言って魔剣ほどではないのだけど、神に仕えるある生き物が憑いているんだ」
剣を横にすると、先の方を左手で支えながらにこりと笑ってハヤトが説明した。
「生き物? アキラが見せてくれたみたいな?」
先程見たあの小さな赤い鳥を思い出す。
「そう。神聖な生き物なんだけど、こいつは簡単には姿を現さないからすぐには見られないかもな」
相変わらず笑顔のまま、ハヤトはそう答えた。
一体どんな生き物なのだろうかと気になり、じっとハヤトが持っている剣をまじまじと見つめる。
「先程、『青龍』と言っていましたが、さっきのあの鳥も、もしかして?」
すると横で黙って話を聞いていたカイが、ハヤトをじっと窺うようにして問い掛けた。
「さすがだね。ご明察の通りだよ。アキラが持っているのが『朱雀』で、こいつが青龍。つまり、『四神獣』と言われる生き物だ。こいつはきっとリョウを助けてくれる。だから、リョウにあげようと思ってね」
にっと白い歯を出して笑うと、ハヤトは淡々と答えた。
どんなものかはよく分からないが、『四神獣』という言葉から物凄いものだと推察できる。
「えっ? 待ってハヤトさん。それってもしかして凄いやつなんじゃないの? そんな凄いのなんて貰えないよっ」
大袈裟に手を振りながら慌てて断った。
強くなりたいし、そんな凄い剣であれば、もしかしたら自分も強くなれるのかもしれない。
そう考えもしたが、今ではない気がしたのだ。
今の自分にはそんな資格は、きっとない。
「いや、これはリョウにこそ持っていてもらいたい。それに、リョウなら遣えると思うんだ」
柔らかく笑った後、ハヤトは真剣な顔でじっと見つめてきた。
「えっ? 俺がっ?」
ぎょっとして声を上げる。
自分が遣えるとはとても思えない。
「そう。この剣が遣えるかどうか、こいつが認めてくれるかどうかは鞘から抜くことができるかどうかだよ。リョウ、剣を抜いてみて」
ふっと笑みを浮かべると、ハヤトはそう言ってリョウに剣を差し出した。
「…………」
じっと剣を見つめながらゆっくりと受け取る。
(抜けるわけがない……)
カイやタクヤならともかく、自分のような力のない人間を、そんな凄い生き物が認めてくれるはずがない、と自分で思いながら落ち込んでしまう。
「リョウ。無理だと思わないこと。自分を信じるんだ。それからこいつのことも信じてやって。大丈夫だ、絶対抜けるって信じるんだ」
深く溜め息を付いたリョウに気が付き、ハヤトが強い口調で言い切った。
「ハヤトさん……」
そんなはず、と思いながらも、少しだけ勇気と希望を貰った気がした。
(抜ける……抜ける……絶対に大丈夫。お願い……俺を、認めてっ)
そう心に祈りながら右手で柄の部分を持ち、左手で鞘をぐっと掴んだ。
そしてゆっくりと鞘を抜いていく。
「あっ…………」
思ったよりも簡単に、鞘をするすると動かすことができた。
見えてきた剣はなんとも美しく、水色に輝いている。
「綺麗……」
全て出し切り左手に鞘を持つと、剣を右手に持ってそっと掲げる。
太陽の光に照らされて、水晶のようにきらきらと更に輝きが増した。
「ほら、ね? やっぱりリョウが持つべきなんだよ」
ふふっと嬉しそうに笑いながらハヤトが声を掛けてきたが、すっかり剣に見入ってしまっていたリョウの耳に、その声は届いていなかった。
ぎゅっと強く剣の柄を右手で握り締める。
細くて軽いその剣はとても手によく馴染む。
「凄いっ……」
剣の輝きに負けないくらい目をキラキラとさせながら、リョウはじっと剣を見つめる。
まるで宝物を見つけた子供のようだった。
「うん。リョウにとてもよく似合ってるよ。リョウのそのオレンジの目にぴったりだね」
横からカイもにこりと笑いながら声を掛けてきた。
漸くその言葉でリョウはハッとして気が付く。
「えっ? 俺に? 似合うっ?」
きょとんと首を傾げながらも満更ではない気分だった。
「色も形もリョウにぴったりだよ」
目を細め、カイは満面の笑みで答える。
「ほんとっ?」
先程までの険悪な様子はなく、カイも嬉しそうにしているのを見て、リョウも思わず笑顔を浮かべた。
ふたりで笑顔のまま見つめ合う。
穏やかな空気が流れていたその時だった――。
「随分楽しそうだね」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
ハッとして3人が振り返る。
そこにいたのは、あの爆発で死んだと思われていたアオイだった。
「まさかっ……」
目を見開き、カイが驚きの声を上げる。
その声にアオイは馬鹿にするように鼻でふんっと笑った。
「なぜ、お前がっ」
今度は怒りに満ちた目でカイがアオイに向かって怒鳴り付ける。
リョウはその場にはいなかったが、研究所での話は少しだけ聞いていた。
クローンを作ったという博士とタクヤの知り合いだという姉弟が、研究所を爆破させてその場にいたアオイも巻き込まれたはずだ、と。
それなのに、なぜ?
しかし、よく見るとアオイの右腕が少し変だった。
恐怖を感じながらもリョウは不思議そうに首を傾げる。
「もしかして、死んだと思ってた? 僕が、あんな奴らにやられるわけないでしょ。……ただ、あの女。どうにも腕を離すことができなかったから、仕方なく右腕は捨てたけどね」
ふっと余裕そうな笑みを浮かべながらアオイが答える。
そして先程変だと思った右腕は、アオイが言う通り着ている上着の腕の部分がひらひらと動いていることから、恐らく腕の途中からなくなっているのだろう。
そんな状態だというのに平然としているアオイのことを見て背筋がぞくりとした。
「まさか、キミとお揃いになるとはね。あ、キミのは左腕だっけ?」
くすりと笑いながらアオイが続けた。
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