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第18章『真実と別れ』
3話
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部屋に残されていた博士はゆっくりとドアを開けると、そのまま右足を引き摺りながら廊下を歩いていく。
向かう場所は自分が研究をしていた実験室だった。
2階の奥の部屋まで行くと、ドアに設置された機械に顔を向ける。
ピッという音と共にドアがゆっくりと奥へと開く。
「ここで最期を迎えるかもしれんとは思ったが……」
苦笑いをしながらゆっくりと部屋の中へと入っていく。
部屋の中央にあるベッドの横に設置された机の1番上の引き出しを開ける。
その中には赤いボタンが付いた小さな黒く四角い機械が入っている。
それを掴むと、博士は再びゆっくりと歩き出す。
唯一、この研究所にある小さな窓がその部屋にはあった。
しかしどういうわけか、外からその窓を確認することはできない。
博士は窓まで歩くと、じっと窓から外を見下ろした。
ちょうどここから研究所の出入口が見えるようになっている。
彼らが出てくるのを待っていた。
暫くするとドアが開き、中から3人出てくるのが見えた。
その中にルカの姿も確認できた。
「ルカ……」
窓に触れながら悲しい顔でじっとルカを見つめる。
すぐに残りの2人もドアから出てきた。
そして3人の姿が消え、その後残った2人の姿も消えたことを確認すると、博士はもう一度部屋の中をぐるりと見回した。
「頼んだよ、この世界を……」
ぼそりと呟くと目を瞑り、持っていた黒く四角い機械を赤いボタンごとぎゅっと握り締める。
次の瞬間、大きな爆発音と共に、その部屋にあったものが次々と吹き飛んでいく――。
☆☆☆
上の方からドーンと何か大きな爆発音が聞こえてきた。
ユキノはその音が何を示すのか分かっていた。
博士がボタンを押したのだ。
研究所を爆破させることはユキノとタクミも知っていることだった。
そのため、タクヤたちが来る前に警備の人間は先に避難をさせておいた。
残るは自分たちとアスカ、そしてこの目の前にいる人物だけだ。
本当はクローンのあの2人も一緒にいれば良かったのだが、1人だけでも、いや、この『アオイ』だけでも消すことができるのならば本望だ。
「あなたも終わりよ」
アオイの腕を握り締めたまま、ユキノはじっと睨み付けるようにしてアオイを見つめた。
「はっ、この僕が? そんなわけないだろ。お前らと一緒にするな」
鼻で笑いながら少しも焦る様子を見せないアオイは、更にぐっと両腕に力を入れ始めた。
「無理よ。この腕は私たちが死ぬまで離れないように博士に設計してもらったの。力が強いだけじゃないのよ」
「ふんっ、だったらお前らの腕を壊せばいいだけのこと」
睨み付けるユキノを鼻で笑うと、アオイは更に腕に力を込める。
「残念だけど、あなたはここで私たちと一緒に死ぬの」
「何をくだらないことを――」
「爆弾は博士が仕掛けた物だけだと思ってるのか?」
余裕の笑みを浮かべるアオイに向かって、今度はタクミがにやりと口の端を上げながら問い掛けた。
「何?」
じろりとアオイがタクミを睨み付ける。
「私たちだって、力はなくても考えることはできるのよ」
「はっ、ほんとバカだよね。変な感情まで持ってさ。バカな人間共と同じだよ。作り物のくせに、人間を好きになって。バカじゃないの? 叶うわけないのに」
じっと睨み付けるユキノに向かってアオイはにやりと笑いながら言い返してきた。
その言葉に一瞬動揺してしまったユキノだが、そんなことは初めから分かっていたことだ。
自分の気持ちが叶うなど思ってはいない。
彼に優しくされ、楽しい1日を過ごしただけで幸せだった。
馬鹿だとは分かっている。それでもタクヤのことが好きだった。
「そんなこと分かってる。それでもいいの。私もタクミも楽しかった。嬉しかった。だから、私たちは彼らの役に立ちたいの。これが、私たちの覚悟よ」
じっとアオイを睨み付けた後、ユキノとタクミは見つめ合うと互いに頷いた。
(……タクヤさん、さよなら……ありがとう)
心の中で強く、そして最大限のお礼を込めて願う。
「っ!? お前らっ、クソがっ!」
ハッとした顔でアオイが叫ぶ。
次の瞬間、ピッという機械音と共に研究所の出入口周辺が爆発する。
誘発されるように1階と2階の部屋のあちこちから爆発音が響き、研究所は大きく爆発した。
☆☆☆
「あーあ、研究所、壊れちゃったね」
研究所が見える砂に囲まれたある場所で、ひとりの少年がじっと見つめながらぼそりと呟く。
黒くさらりとした短い髪に、猫のような大きく青い瞳。
研究所にいたはずのアスカだった。
「えぇ。博士のことは残念ですけど、他はただのガラクタですし、問題はないでしょう」
隣に並ぶ若い女性が少年の手を取りながら答える。
肩よりも少し短い黒いさらさらとした髪がさらりと風に揺れる。
「そうだね。行こう、カエデ」
にこりと笑ってカエデを見上げると、アスカはぎゅっと手を握り返した。
「はい、承知しました。マスター」
カエデは表情を変えることなく頷く。
そしてふたりはそのまま煙のように、その場から消えてしまった。
向かう場所は自分が研究をしていた実験室だった。
2階の奥の部屋まで行くと、ドアに設置された機械に顔を向ける。
ピッという音と共にドアがゆっくりと奥へと開く。
「ここで最期を迎えるかもしれんとは思ったが……」
苦笑いをしながらゆっくりと部屋の中へと入っていく。
部屋の中央にあるベッドの横に設置された机の1番上の引き出しを開ける。
その中には赤いボタンが付いた小さな黒く四角い機械が入っている。
それを掴むと、博士は再びゆっくりと歩き出す。
唯一、この研究所にある小さな窓がその部屋にはあった。
しかしどういうわけか、外からその窓を確認することはできない。
博士は窓まで歩くと、じっと窓から外を見下ろした。
ちょうどここから研究所の出入口が見えるようになっている。
彼らが出てくるのを待っていた。
暫くするとドアが開き、中から3人出てくるのが見えた。
その中にルカの姿も確認できた。
「ルカ……」
窓に触れながら悲しい顔でじっとルカを見つめる。
すぐに残りの2人もドアから出てきた。
そして3人の姿が消え、その後残った2人の姿も消えたことを確認すると、博士はもう一度部屋の中をぐるりと見回した。
「頼んだよ、この世界を……」
ぼそりと呟くと目を瞑り、持っていた黒く四角い機械を赤いボタンごとぎゅっと握り締める。
次の瞬間、大きな爆発音と共に、その部屋にあったものが次々と吹き飛んでいく――。
☆☆☆
上の方からドーンと何か大きな爆発音が聞こえてきた。
ユキノはその音が何を示すのか分かっていた。
博士がボタンを押したのだ。
研究所を爆破させることはユキノとタクミも知っていることだった。
そのため、タクヤたちが来る前に警備の人間は先に避難をさせておいた。
残るは自分たちとアスカ、そしてこの目の前にいる人物だけだ。
本当はクローンのあの2人も一緒にいれば良かったのだが、1人だけでも、いや、この『アオイ』だけでも消すことができるのならば本望だ。
「あなたも終わりよ」
アオイの腕を握り締めたまま、ユキノはじっと睨み付けるようにしてアオイを見つめた。
「はっ、この僕が? そんなわけないだろ。お前らと一緒にするな」
鼻で笑いながら少しも焦る様子を見せないアオイは、更にぐっと両腕に力を入れ始めた。
「無理よ。この腕は私たちが死ぬまで離れないように博士に設計してもらったの。力が強いだけじゃないのよ」
「ふんっ、だったらお前らの腕を壊せばいいだけのこと」
睨み付けるユキノを鼻で笑うと、アオイは更に腕に力を込める。
「残念だけど、あなたはここで私たちと一緒に死ぬの」
「何をくだらないことを――」
「爆弾は博士が仕掛けた物だけだと思ってるのか?」
余裕の笑みを浮かべるアオイに向かって、今度はタクミがにやりと口の端を上げながら問い掛けた。
「何?」
じろりとアオイがタクミを睨み付ける。
「私たちだって、力はなくても考えることはできるのよ」
「はっ、ほんとバカだよね。変な感情まで持ってさ。バカな人間共と同じだよ。作り物のくせに、人間を好きになって。バカじゃないの? 叶うわけないのに」
じっと睨み付けるユキノに向かってアオイはにやりと笑いながら言い返してきた。
その言葉に一瞬動揺してしまったユキノだが、そんなことは初めから分かっていたことだ。
自分の気持ちが叶うなど思ってはいない。
彼に優しくされ、楽しい1日を過ごしただけで幸せだった。
馬鹿だとは分かっている。それでもタクヤのことが好きだった。
「そんなこと分かってる。それでもいいの。私もタクミも楽しかった。嬉しかった。だから、私たちは彼らの役に立ちたいの。これが、私たちの覚悟よ」
じっとアオイを睨み付けた後、ユキノとタクミは見つめ合うと互いに頷いた。
(……タクヤさん、さよなら……ありがとう)
心の中で強く、そして最大限のお礼を込めて願う。
「っ!? お前らっ、クソがっ!」
ハッとした顔でアオイが叫ぶ。
次の瞬間、ピッという機械音と共に研究所の出入口周辺が爆発する。
誘発されるように1階と2階の部屋のあちこちから爆発音が響き、研究所は大きく爆発した。
☆☆☆
「あーあ、研究所、壊れちゃったね」
研究所が見える砂に囲まれたある場所で、ひとりの少年がじっと見つめながらぼそりと呟く。
黒くさらりとした短い髪に、猫のような大きく青い瞳。
研究所にいたはずのアスカだった。
「えぇ。博士のことは残念ですけど、他はただのガラクタですし、問題はないでしょう」
隣に並ぶ若い女性が少年の手を取りながら答える。
肩よりも少し短い黒いさらさらとした髪がさらりと風に揺れる。
「そうだね。行こう、カエデ」
にこりと笑ってカエデを見上げると、アスカはぎゅっと手を握り返した。
「はい、承知しました。マスター」
カエデは表情を変えることなく頷く。
そしてふたりはそのまま煙のように、その場から消えてしまった。
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