NEVER☆AGAIN~それは運命の出会いから始まった~

ハルカ

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第17章『潜入』

8話

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「爆破って……なんでそんなことっ」
 博士の突拍子もない発言にタクヤは思わず立ち上がって博士に詰め寄る。
「待ってタクヤっ」
 しかしすぐにルカも立ち上がりタクヤを止めに入った。
「ねぇ博士。爆破なんてやめてっ! この中じゃ遠隔操作もできないのに、無理だよっ!」
 博士とタクヤの間に入ったルカは、博士のことを必死に止めようと声を上げる。
「そうだよ……だから、爆弾はその場で爆破させる物を使っている。私が直接ボタンを押さなければならないんだ」
「そんなっ! なんでそこまでっ!」
 俯き加減に悲しい表情で答える博士の言葉に再びルカが声を上げる。辛そうな顔で大きな目に涙が浮かんでいる。
 周りにいたタクヤたちも驚きを隠せなかった。
 なぜそこまでする必要が?
「元々計画していたことなんだよ、ルカ。ただ、君のことがあって実行に移せなかっただけなんだ。……ここはもう、なくさなければいけないんだ」
「でもっ――」
「あの、俺が口出すことじゃないかもしれないけど、そこまでしなきゃいけない理由ってなんですか? 今の話だと、えっと、博士? あなたも巻き込まれてしまうんじゃないのか?」
 興奮しているルカの肩を両手で掴み、今度はタクヤが止めて口を挟んだ。
 驚く話ばかりではあるが、冷静にならなきゃいけないと真面目な顔で話す。
「タクヤ……」
 肩を掴まれたルカは涙目でタクヤを見上げている。
「……覚悟の上での計画だ。もうこれ以上、奴らに好き勝手をさせてはならない。不幸な子供を増やしてはダメなんだよ」
 大きく溜め息を付くと、博士はゆっくりとタクヤとルカの言葉に返す。
 しかし、それだけでは納得はできなかった。
「気持ちは分かるけど、何も爆破までしなくても」
「いや、ダメなんだ。全てを消し去らないと意味がない。この研究所も私も、そしてあの子も」
「っ!」
 最後の言葉にイズミとカイが目を大きく見開いた。
「博士っ!」
 カイが慌てて立ち上がり、今まで見たことがないような焦った顔で博士に詰め寄った。
「決めたんだよ。私とあの子がいる限り、終わることはないだろう。終わらせることができるのは私だけなんだ。……あの子をもう解放してあげよう?」
「っ!」
 その言葉を聞いてカイは返す言葉がないのか、目を見開いたまま固まっている。
 そしてイズミは座ったまま苦しそうな表情をしている。

「確かに、あんたの言う通りかもしれんが、あいつらは結局また繰り返すぞ? きっと、300年の間に俺たちの知らないような技術を開発しているはずだ。あんたとアスカがいなくなったところで何も変わらないだろう」

 少し離れたところで眺めていたカオルが冷静な口調で話した。
「そうだろうな。だが、少なくとも最悪な事態は避けられるだろう。奴らは今、あの子を使って『魔界への扉』を開こうとしているんだ」
「えっ?」
「なっ!」
「魔界への扉っ?」
「っ!」
 カオル以外の全員が博士の言葉にぎょっとする。
 一体どういう意味なのか。
 何かは分からないがその言葉だけで恐ろしく感じた。
「やはり、そうか……」
「カオルっ? 何か知ってんのか?」
 顎に手を当てながらぼそりと呟いたカオルに気が付き、ハッとして声を上げる。
 カオルたちはどこまで知っているのか。
「うむ。まだ調査段階ではあったんだが……いや、その話はまた後からにしよう。まずはここから出た方がいいだろうな」
 答えようとして何か考え、カオルは首を振って話を変えた。
「だけどっ」
「話は後でだ。もうあまり時間がないんだろう?」
 カオルは珍しく厳しい口調で反論しようとしたタクヤを制した。
 そして真剣な顔で博士をじっと見つめる。
「そうだな。ここには私とルカとアスカ以外はいないから、警備はそこまで厳重じゃない。だが、あんた達が来たことを気付かれるのも時間の問題だろう。早くしないと全員捕まってしまうぞ」
「分かった……イズミ、いいな?」
 こくりと頷くとカオルはなぜかイズミの方を見て確認をしたのだった。
「…………」
 ずっと黙ったままのイズミはゆっくりと立ち上がり、しかし何も答えることなく苦しそうな表情のままカオルを見つめ返している。
「受け入れろ。あいつは、もういないんだ」
「待ってくれっ! あの子は……アスカは、なんとかして助けることはできないのか? 博士も……」
 先程からいつもの冷静さを失くしているかのようなカイが青い顔でカオルに訴える。
「無理だろう。私たちのことは気にしなくていい」
 カオルの代わりに博士がそう答えた。
「しかしっ――」
「私たちはもう、解放されたいんだ。分かって欲しい。……本当は、話すつもりはなかったことなんだが、これは私とあの子で決めたことなんだ。……以前、まだあの子の意思があった時に、ふたりでここを破壊しようと計画していたんだよ。まさか君が私たちが実行する前に戻ってくるとは思っていなかった。あの子は、君を逃がす為に『イズミを助けてほしい』と外に出したんだよ。できるだけ遠くに、そしてイズミの近くにいれば安全だと考えたんだ」
「…………」
 真剣な顔で、そしてどこか悲しい表情で博士がカイに説明した。
 その話はなんとも悲しく切なく、そしてアスカの愛情を感じるものだった。
 博士の話にカイは俯き、悔しそうにぎゅっと唇を噛み締めている。
「分かった。アスカがそうするって言ったんだな」
 ずっと黙ったままだったイズミが突然声を出した。
「イズミ……」
 せっかくアスカに会えたというのに、なんとも言えない気持ちでタクヤはじっとイズミを見つめる。
 しかし、博士の話を聞いていてふたりの気持ちが固いことは理解できた。
 他に何か方法はないのかと自分も思うのだが、きっと博士とアスカがふたりで沢山考えた末の結論だったのだろうとも考える。
「イズミ、行こう」
 じっと立ったままのイズミの所へ移動すると、タクヤはぎゅっと右手を握り締めた。
「……タクヤ」
 初めてそこでイズミは泣きそうな顔で見上げてきた。
「っ!」
 その顔に思わず焦ってしまったが、更にぎゅっとイズミの右手を強く握り締めて話す。
「行こう」
「……あぁ」
 必死に涙を堪えるようにイズミが頷く。
「カイ、ルカも」
 まだ納得していないようなふたりに向かって声を掛ける。
「やだよっ、博士も一緒にっ――」
「いいんだよ、ルカ。この数十年、ずっと辛い毎日だったが、君とアスカに会えて、私はとても幸せだったよ。……早く、ここから遠く離れるんだ。ここにいたらダメだ」
 泣きながら訴えるルカに向かって博士は優しい笑顔を向けていた。
「博士っ!」
「行こう、ルカ」
 冷たいと思われるかもしれないが、心を鬼にしてタクヤはぎゅっとルカの腕を掴んで歩き出した。
 ルカの気持ちも分かるが、博士とアスカのふたりの意思を尊重したいと思ったのだ。
「よし、急ぐぞっ。廊下に出たら全員走れっ」
 いつの間にかドアの前に立っていたカオルが叫ぶ。
「博士、この腕、ありがとうございました……ずっと大切にします」
 ぎゅっと唇を噛み締めていたカイは、辛そうな顔で振り返り、左腕を上げながら博士に向かって声を掛ける。
「あぁ。ルカのことを頼んだよ」
 にこりとどこかすっきりしたような表情で博士が答える。
「博士っ!」
 タクヤに腕を掴まれたまま、ルカは泣きじゃくっている。
「ルカ……幸せにな」
 しかし、ルカの顔を見て博士はなんとも切なそうな顔に変わる。
 ふたりは一体どういう関係なのだろうと考えながらも、タクヤはルカに声を掛けた。
「ルカ、行こう」
「うぅっ……」
 泣きながらも頷くと、ルカはぎゅっとタクヤの腕を掴む。
 そして5人は急いで部屋を出た。

 5人が部屋を出たことを確認すると、博士は右足を引き摺りながらドアの方へと歩いて行く。
 先程までとは違い、覚悟を決めたような表情をしていた。
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