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第17章『潜入』
7話
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「何が、あったんだ?」
聞いてもいいのか分からなかったが、恐る恐るふたりに向かって問い掛ける。
カイがなぜこんなことになったのか。
一体誰に……。まさか?
「……あの子に、アスカに殺されかけたんだ」
苦しそうな表情でカイがタクヤの問いに答える。
「えっ!」
カイの言葉に驚愕する。
一瞬頭に浮かんだものの、信じられなかった。
アスカに殺されかけた?
そんなまさか……。
前に聞いた話ではアスカはカイの主人で、腕を失ったカイを助けてくれたと言っていた。
それがなぜ……。
驚く話に考え込んでいたが、先程話していたイズミの言葉をふと思い出した。
「そういえば、別人って?」
タクヤが問い掛けた言葉にカイはハッとした顔で目を見開くと、がばっと体を起こした。
「おいっ、急に動くなっ」
驚いたイズミがカイの体を支えるようにして肩を掴んだ。
「あの子が、別人……一体どうなってるんだ……」
目を大きく見開いたまま、カイは床を見つめながらぼそぼそと話している。
「ふむ……やはりそうか。まだ、消えてはいないと思うが、あの子はあの子であって、あの子じゃないんだよ」
突然どこからか、知らない男性の声が聞こえてタクヤは声がした方を振り返る。
すると、そこには白衣を着た年老いた男性が立っていた。
「……それは、どういう意味だ?」
その男性の言葉にイズミはじっと見上げながら問い掛ける。
「うむ。恐らく、ここにいる全員が知っていることだと思うが、300年前、ある事件が起こった。その事件の中であの子は死んだはずだった……。しかし、どうやったのかは分からないが、消える寸前のあの子の魂を奴らが保管していたんだ」
とんでもないことを話し始めた男性の言葉に、タクヤは頭が追いついていなかった。
(魂を保管? そんなことできるのか? そもそも魂って形あるものじゃないだろ)
頭の中で必死に考えるがやはり理解できない。
自分だけが置いていかれているのかと思ったが、ふと周りを見回すと、その場にいた博士とカオル以外の全員がタクヤと同じような表情をしていた。
「……ふむ。まぁ信じられないようだな。しかし、それをしたのがこの研究所を作った奴らなんだよ」
自嘲するかのように男性は溜め息交じりに説明する。
「……まさか、あの子の体もあなたが作ったんですか?」
目を見開いたまま固まっていたカイが、じっと男性を見上げながら問い掛ける。
その言葉でカイから聞いた話を思い出した。
カイの腕、クローンを作ったという『博士』のことを。
白衣を着ているこの男性はもしかして……。
「あぁ、そうだ。あの子は私が作った最初のクローンだよ」
男性の言葉を聞いた瞬間、隣に座っていたイズミがぐらりとタクヤの方へと倒れてきた。
「イズミ?」
自分の肩に寄り掛かるイズミを見ると、真っ青な顔で震えていた。
「っ!」
驚いてぎゅっとイズミを抱き締めた。
きっとこの男性、恐らく博士と思われる男性の言葉に耐えられなくなったんだろう。
先程から信じられないようなことばかり聞いている。
「……でも、魂が残っていたのなら、たとえ体は失っていても、アスカには変わらないんじゃないですか?」
じっと必死な表情でカイが博士に問い掛ける。
「そうだな。確かにあの子の魂はあの体の中にある。……だが、『彼ら』が望んだのはアスカの力だけなんだ。……魂だけになってもあの子は強い力を持っていた。優しく弱い心は必要ないと思われていたんだろう。君がいない時にも、ずっとあの子は実験をされ続けていたんだ」
博士の話にその場にいた全員が真剣な表情で見つめていた。
「実験?」
カイは眉間に皺を寄せながらじっと博士を見上げる。
「何か、大きな魔力をあの子の中に入れたようなんだ。もしかすると、魔物から作り出したものかもしれない。私は直接実験には関わっていないが、数日前に会ったあの子は、まるで別人だった。記憶は残っているようだから、あの子の魂が消えたわけではないが、もう前のあの子ではない……」
なんとも辛そうな顔で博士は説明した。
「…………」
話を聞いたカイは悔しそうにぎゅっと唇を噛み締め俯いている。
きっとアスカから離れたことを後悔しているのだろう。まるで自分の責任かのように。
「……カイのせいじゃないだろ? 魂は消えてないっていうんだし、アスカはアスカだよ」
実際にアスカに会ったわけではなかったが、何か声を掛けずにはいられなかった。
「分かってる。俺がそばにいたからといって、あの子の実験を止められることはできなかっただろう。……ただ、自分が無力で悔しい……あの子は、とても優しい子なんだ」
今まで見たことのないような、今にも泣きそうな顔でカイが答えた。
「皆さんにお願いがある。ルカを連れてすぐにここから逃げてほしい」
突然、博士がそんなことを言い出した。
「博士っ!」
その言葉にいち早く反応したのはルカだった。ぎょっとした顔で声を上げた。
「それは構わないが、あなたはどうするんだ?」
気持ちが落ち着いたのか、イズミはタクヤから離れるとじっと真剣な顔で問い掛ける。
「……私には、まだやることがあるんだ。……ここを、この研究所を爆破させる」
「えっ!?」
博士の言葉にその場にいた全員が一斉に驚愕の声を上げた。
聞いてもいいのか分からなかったが、恐る恐るふたりに向かって問い掛ける。
カイがなぜこんなことになったのか。
一体誰に……。まさか?
「……あの子に、アスカに殺されかけたんだ」
苦しそうな表情でカイがタクヤの問いに答える。
「えっ!」
カイの言葉に驚愕する。
一瞬頭に浮かんだものの、信じられなかった。
アスカに殺されかけた?
そんなまさか……。
前に聞いた話ではアスカはカイの主人で、腕を失ったカイを助けてくれたと言っていた。
それがなぜ……。
驚く話に考え込んでいたが、先程話していたイズミの言葉をふと思い出した。
「そういえば、別人って?」
タクヤが問い掛けた言葉にカイはハッとした顔で目を見開くと、がばっと体を起こした。
「おいっ、急に動くなっ」
驚いたイズミがカイの体を支えるようにして肩を掴んだ。
「あの子が、別人……一体どうなってるんだ……」
目を大きく見開いたまま、カイは床を見つめながらぼそぼそと話している。
「ふむ……やはりそうか。まだ、消えてはいないと思うが、あの子はあの子であって、あの子じゃないんだよ」
突然どこからか、知らない男性の声が聞こえてタクヤは声がした方を振り返る。
すると、そこには白衣を着た年老いた男性が立っていた。
「……それは、どういう意味だ?」
その男性の言葉にイズミはじっと見上げながら問い掛ける。
「うむ。恐らく、ここにいる全員が知っていることだと思うが、300年前、ある事件が起こった。その事件の中であの子は死んだはずだった……。しかし、どうやったのかは分からないが、消える寸前のあの子の魂を奴らが保管していたんだ」
とんでもないことを話し始めた男性の言葉に、タクヤは頭が追いついていなかった。
(魂を保管? そんなことできるのか? そもそも魂って形あるものじゃないだろ)
頭の中で必死に考えるがやはり理解できない。
自分だけが置いていかれているのかと思ったが、ふと周りを見回すと、その場にいた博士とカオル以外の全員がタクヤと同じような表情をしていた。
「……ふむ。まぁ信じられないようだな。しかし、それをしたのがこの研究所を作った奴らなんだよ」
自嘲するかのように男性は溜め息交じりに説明する。
「……まさか、あの子の体もあなたが作ったんですか?」
目を見開いたまま固まっていたカイが、じっと男性を見上げながら問い掛ける。
その言葉でカイから聞いた話を思い出した。
カイの腕、クローンを作ったという『博士』のことを。
白衣を着ているこの男性はもしかして……。
「あぁ、そうだ。あの子は私が作った最初のクローンだよ」
男性の言葉を聞いた瞬間、隣に座っていたイズミがぐらりとタクヤの方へと倒れてきた。
「イズミ?」
自分の肩に寄り掛かるイズミを見ると、真っ青な顔で震えていた。
「っ!」
驚いてぎゅっとイズミを抱き締めた。
きっとこの男性、恐らく博士と思われる男性の言葉に耐えられなくなったんだろう。
先程から信じられないようなことばかり聞いている。
「……でも、魂が残っていたのなら、たとえ体は失っていても、アスカには変わらないんじゃないですか?」
じっと必死な表情でカイが博士に問い掛ける。
「そうだな。確かにあの子の魂はあの体の中にある。……だが、『彼ら』が望んだのはアスカの力だけなんだ。……魂だけになってもあの子は強い力を持っていた。優しく弱い心は必要ないと思われていたんだろう。君がいない時にも、ずっとあの子は実験をされ続けていたんだ」
博士の話にその場にいた全員が真剣な表情で見つめていた。
「実験?」
カイは眉間に皺を寄せながらじっと博士を見上げる。
「何か、大きな魔力をあの子の中に入れたようなんだ。もしかすると、魔物から作り出したものかもしれない。私は直接実験には関わっていないが、数日前に会ったあの子は、まるで別人だった。記憶は残っているようだから、あの子の魂が消えたわけではないが、もう前のあの子ではない……」
なんとも辛そうな顔で博士は説明した。
「…………」
話を聞いたカイは悔しそうにぎゅっと唇を噛み締め俯いている。
きっとアスカから離れたことを後悔しているのだろう。まるで自分の責任かのように。
「……カイのせいじゃないだろ? 魂は消えてないっていうんだし、アスカはアスカだよ」
実際にアスカに会ったわけではなかったが、何か声を掛けずにはいられなかった。
「分かってる。俺がそばにいたからといって、あの子の実験を止められることはできなかっただろう。……ただ、自分が無力で悔しい……あの子は、とても優しい子なんだ」
今まで見たことのないような、今にも泣きそうな顔でカイが答えた。
「皆さんにお願いがある。ルカを連れてすぐにここから逃げてほしい」
突然、博士がそんなことを言い出した。
「博士っ!」
その言葉にいち早く反応したのはルカだった。ぎょっとした顔で声を上げた。
「それは構わないが、あなたはどうするんだ?」
気持ちが落ち着いたのか、イズミはタクヤから離れるとじっと真剣な顔で問い掛ける。
「……私には、まだやることがあるんだ。……ここを、この研究所を爆破させる」
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