NEVER☆AGAIN~それは運命の出会いから始まった~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
164 / 198
第17章『潜入』

3話

しおりを挟む
 窓のない殺風景な白い壁に囲まれ、等間隔に設置された白いドアが続く長い廊下をゆっくりと進んでいく。
 その間、誰ともすれ違うことなくイズミとカイは歩いていた。
(誰もいないのか?)
 そんなはずは、と考えるが人の気配は全く感じられない。
 研究所という割には、先程の警備の男以外に誰にも出くわさないのはおかしい。
 ここの話をした時カイは、実験された人間が相当数いたと言っていた。
 その話が本当であれば、実験する側もされる側の人間もいるはずである。
 もしかして実験自体もう行っていないのだろうか?
 それとも、人の気配を感じさせないような装置や魔法が施されているのか。
 まさか、全部嘘なのか?
 猜疑心に苛まれそうになり、イズミは前を歩くカイに向かって問い掛けた。
「人の気配がない。なぜ誰もいないんだ?」
 するとカイはその場でぴたりと立ち止まり振り返った。
「俺のこと、疑ってる?」
 にこりと笑って逆に問い掛けられた。
「……いや」
 すっと顔を逸らし、首を横に振る。
 信用していないわけではないが、疑問に思ったことは確かだ。
「ふふっ。顔に出てるよ、イズミ。大丈夫だよ、アスカはここにいるから。実はもうひとつ研究所があってね。実験はそっちの研究所で行われているんだよ。ここはクローン開発の為の場所なんだ。だから人も少ない」
 相変わらず笑顔のままカイが答える。
「…………」
 顔に出てると言われて少し腹が立ったが、無言でカイを見つめる。
「嘘はついてないよ、心配しないで」
 そう言ってくるりと向きを変えると、カイは再び歩き出した。
 ふぅっと溜め息を付くとイズミもその後をついていく。
 そして先程掴まれた腕のことを思い出し、じっと右手を見る。
 手に現れた赤い斑点はもうなくなっている。一体あれはなんだったのか。
 感染症を装うことは途中から気が付いていたが、まさかあんな芸当ができるとは思いもしなかった。
 おかげですんなり中に入ることができた。
 なんとなく手を握ったり広げたりしてみたが、特に変化はない。
 本当に何かのウイルスに感染したのではなくて良かったと、イズミは少しだけ安心していた。



 ☆☆☆



 長い廊下の角を曲がると再び長い廊下が続いている。
 しかし、先程までと違うのは、その廊下の奥の方に黒い扉が見えたのだ。
 どこもかしこも真っ白だった建物の中に、ひとつだけある黒い扉。
 色が黒いこともあるが、そこだけ影のようにも見える。
 何か異様な空気を感じる。

 ゆっくりとカイは廊下を進んでいく。
 そして黒い扉の前でぴたりと止まった。
(まさか、ここにアスカが?)
 先程から感じている嫌な空気がその扉から流れている。
 緊張しながらじっと見つめていると、視線に気が付いたのか、カイは振り返るといつものように微笑んだ。
「ここだよ」
 それだけ言うと、再び扉の方を向き、先程行った虹彩認証をしている。
 他の部屋も通る時に見てきたが、こういった機械は見当たらなかった。
 厳重な部屋にだけ付けられているのだろうか。
 すぐにガチャッと鍵が開く音が聞こえた。
 ドアノブを掴み、カイがゆっくりと黒い扉を手前に引く。
 すーっと中から何か得体のしれない空気が流れ、ぞくっと背中に悪寒を感じた。
 中にいるのは本当にアスカなのか?
 更に緊張を感じて一歩が踏み出せない。
「入るよ」
 振り返ったカイがイズミに声を掛けた。
 この不安がなんなのかは分からないが、ここまで来たのだ。もう引き返せない。
 こくりと頷くと、カイの後に続いてイズミも部屋の中へと入った。

 中は思ったよりも広い。
 聞いていた通り、部屋には生活に必要な物の全てが揃っているようだ。
 あの扉からは想像できないくらいに、中は明るく環境も快適そうだった。
 被っていた黒い布を外そうと手を掛けたその時、部屋の奥から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

「イズミ」

 どくんと心臓が大きく跳ね上がる。
 嘘だ。まさか、そんな……。
 会いたいと思ってここまで来たはずなのに、本当に生きているなんて信じられなかった。
 振り返った先にいたのは、あの日のままのアスカの姿だった。
 真っ白な上下の服を着たアスカがにこりと笑ってイズミの元へと駆け寄ってきた。
 固まっていたイズミから黒い布がぱさりと落ちる。
 次の瞬間、ぎゅっと背中に手を回されアスカに抱きつかれた。
 昔とは違い、お互いの身長に差がある為か、抱き締められてもアスカの頭がイズミの肩の辺りにある。
 顔を埋めながらアスカが再び声を発した。
「会いたかったよ、イズミ」
 嬉しいはずの再会が、なぜだか全身に寒気がする。
 抱き締め返すことができずにいた。
 会いたかったアスカが目の前にいる。あの日と同じ顔と同じ声。
 しかしなぜだか違和感を感じる。
「アスカ?」
 まるで確認するように名前を呼んだ。
「ふふっ、本当に凄く会いたかったんだ、イズミ」
 抱きついたままそう言ってアスカは笑う。
 いや、本当にアスカなのだろうか。

 扉を開けたまま、入り口の前に立っていたカイも嫌な感じがしていた。
 それが何かは分からないが、アスカがいつもと違うように感じる。
 イズミに会えた嬉しさによるものだと思っていた。
 しかし、先程聞こえたアスカの声にカイもまた違和感と恐怖を感じたのだ。
 なぜアスカにそのようなことを感じたのか。
 目の前にいるのは自分の主人のはずだ。
「マスター?」
 じっとアスカを見つめながらカイが呼び掛ける。
「あぁ、134番。イズミを連れてきてくれてありがとね。もう出て行っていいよ」
 なぜ自分のことを名前ではなく番号で呼ぶ?
 ぞくっと背筋に寒気を感じる。
 そんなはずはない、と頭の中で必死に言い聞かす。
 しかし――。
「お前は……誰だ?」
 目を見開きそう尋ねた瞬間、風を切るような音と共に、カイは部屋の入り口を越えて廊下の壁まで吹き飛んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...