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第12章『誘う森』
7話
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あれから10分程歩いたが、出口らしいものは全く見えてこない。どこまでも暗い闇が続いている。
この森は一体どれくらいの大きさがあるのか。
ただ、少しずつではあるが暗闇にも目が慣れ、周りが薄っすらと見えるようになってきていた。
先程イズミが言ったように、この森には木しか生えていないようだ。
足元を見ても光が届かない為か、草花は一切見当たらない。
高く聳え立つ木々があるだけだった。
外側から見た限りだが、木の高さは恐らく20メートルは超えると思われ、光を遮る程の沢山の木の葉は、上の方にだけ枝を伸ばし生えているようだった。
見上げてみても木の葉や枝を確認することはできない。
木の幹は太く、一本一本は離れて立っている。
まるで神殿か城の中を歩いているような錯覚を起こす。
もしも、魔物の世界に城があったらこんな感じなのかもしれないと考える。
そんなことを考えていると、突然タクヤの脳裏にある情景が浮かび上がった。
黒く暗い大きな城の中に太くて高い柱が立ち並ぶ。
そしてその奥には玉座が見える。
玉座に座っていたのは、魔物ではなく――。
「何もないな」
後ろからイズミの声が聞こえ、タクヤは立ち止まることなく後ろをちらりと振り返った。
(今のはなんだったんだ?)
突然頭に思い浮かんだ城と玉座。
そこに座っていたのは、魔物を従えているひとりの人間の姿であった。
なぜあんなものを思い浮かべてしまったのかと頭を振る。
「別に何もなくてもいいじゃん。歩いてる間に雨止んでるかもしんないし、森を出たら町があるかもよ?」
考えたことを打ち消すように笑みを浮かべると、イズミの隣に並びながら明るく話す。
きっと暗い所にいるせいで、余計なことを考えるんだと自分に言い聞かせた。
「ほんと広いよなぁ……」
ゆっくりと上を見上げる。
しかし、空を確認することはできない。
上を見上げているうちに、何か大きな闇が襲ってくるような感覚に陥り慌てて首を振って再び前を見た。
「どうした?」
隣を歩くイズミが怪訝な顔でタクヤを見ている。
「え? あ、いや……ちょっと首痛めた」
「何やってんだよ」
へへっと笑いながら頭を掻いて答えると、イズミは呆れ返った顔で見た後、すぐに前を向いてしまった。
「雨、まだ降ってるのかな……」
後ろからリョウの声が聞こえてきた。
視界も回復してきていたが、どうやら聴覚も先程よりも戻っているようだった。
はっきりと喋らなくても声が聞こえ、他の人の足音も聞こえるようになっている。
呟いた後、リョウは何気なく後ろを振り返った。
森のどの辺りを歩いているかは全く分からないが、急に『ここから出られるのかどうか』といった疑問が頭に浮かび、ぞくりと体を震わせた。
「どうだろう……でも、真っすぐ歩いて来てるはずだから、そのうち出られるよ」
まるでリョウの不安を察したかのように、カイはにこりと笑いながら答える。
そして優しくリョウの頭をぽんぽんと触る。
「もうっ! 頭触るなってばっ」
真っ赤な顔でリョウはカイを睨み付けた。
しかし、いつものように嫌がる素振りはしていない。
怒りながらもカイの優しさを感じ取っているのだろう。
☆☆☆
「はぁ……腹減った」
「そのまま死ね」
ぐぅっとお腹を鳴らし、情けない声を出すタクヤにイズミは容赦なく冷たく告げる。
「もうっ、すぐ怒る……。イズミも腹減ってんだろ。だから怒りっぽ――っ!?」
言いかけた途端、ギューッと頬を思い切り抓られ、声にならない声を上げる。
「うるせぇっ。俺は減ってねぇよっ。ったく、そんなこと言ってねぇでさっさと歩け」
手を離すとイズミはむっとした表情をし、今度はタクヤの腰の辺りを後ろから蹴る。
「いてっ! もうっ……やっぱ腹減ってんじゃねぇのっ? ったく……もうすぐだよ」
涙目になりながら腰を擦り、頬を膨らませる。
そしてタクヤは急に真面目な顔で前の方を見つめ、立ち止まった。
「もうすぐって? 出口?」
きょとんとしながらリョウが首を傾げ、タクヤの隣に並ぶ。
「……お前を呼んでいた何かってヤツか?」
少し前で立ち止まると、ちらりとタクヤを見ながらイズミは意味深に口を挟んだ。
「俺が呼ばれてるわけじゃないよ。……ただ、ペンダントが何かに反応してるんだ」
ペンダントをぎゅっと握り締め、手の中の熱を感じながら俯く。
「生物の気配はない……。だとしたら、ペンダントが反応してる物って……」
イズミもタクヤの横に並ぶと、じっとタクヤが握るペンダントを見つめた。
「えぇー……変なモノだったらやだなぁ、俺」
イズミの言葉を聞いてリョウが情けない声を出す。
「大丈夫。襲ってくることはないよ。セイブツじゃないんだから」
ふふっと笑いながらカイはリョウの隣に並び、優しく答える。
しかし、何か意味ありげに最後は口調を強めてニヤリと口元に笑みを作った。
「……ん? セイブツじゃない?」
急にタクヤはその言葉に引っ掛かり、首を傾げた。
「あぁ……お前、生きてるモノしかダメなんだったな」
なるほどと気が付いたイズミもなんだか楽しそうに笑みを浮かべる。
「ええっ! ちょっと待ってっ! まさかっ、アレじゃないよなっ!?」
漸くタクヤは皆がなんのことを言っているのか察し、ぱっと顔を上げると、慌てて3人の同意を得ようと必死になる。
「さぁ?」
今まで怖がっていたというのに、リョウまで面白そうに口笛を吹き始めた。
「お前が森の中に行くって言い出したんだからな。ほら、行くぞ」
「ええっ!」
どんっとイズミに背中を押され、急に自信がなくなるタクヤ。
「……お前、変なモノに呼ばれてないだろうなぁ……」
ぐすんと鼻をすすりながら、タクヤは胸の前にあるペンダントをじっと見つめながら、渋々歩き出した。
この森は一体どれくらいの大きさがあるのか。
ただ、少しずつではあるが暗闇にも目が慣れ、周りが薄っすらと見えるようになってきていた。
先程イズミが言ったように、この森には木しか生えていないようだ。
足元を見ても光が届かない為か、草花は一切見当たらない。
高く聳え立つ木々があるだけだった。
外側から見た限りだが、木の高さは恐らく20メートルは超えると思われ、光を遮る程の沢山の木の葉は、上の方にだけ枝を伸ばし生えているようだった。
見上げてみても木の葉や枝を確認することはできない。
木の幹は太く、一本一本は離れて立っている。
まるで神殿か城の中を歩いているような錯覚を起こす。
もしも、魔物の世界に城があったらこんな感じなのかもしれないと考える。
そんなことを考えていると、突然タクヤの脳裏にある情景が浮かび上がった。
黒く暗い大きな城の中に太くて高い柱が立ち並ぶ。
そしてその奥には玉座が見える。
玉座に座っていたのは、魔物ではなく――。
「何もないな」
後ろからイズミの声が聞こえ、タクヤは立ち止まることなく後ろをちらりと振り返った。
(今のはなんだったんだ?)
突然頭に思い浮かんだ城と玉座。
そこに座っていたのは、魔物を従えているひとりの人間の姿であった。
なぜあんなものを思い浮かべてしまったのかと頭を振る。
「別に何もなくてもいいじゃん。歩いてる間に雨止んでるかもしんないし、森を出たら町があるかもよ?」
考えたことを打ち消すように笑みを浮かべると、イズミの隣に並びながら明るく話す。
きっと暗い所にいるせいで、余計なことを考えるんだと自分に言い聞かせた。
「ほんと広いよなぁ……」
ゆっくりと上を見上げる。
しかし、空を確認することはできない。
上を見上げているうちに、何か大きな闇が襲ってくるような感覚に陥り慌てて首を振って再び前を見た。
「どうした?」
隣を歩くイズミが怪訝な顔でタクヤを見ている。
「え? あ、いや……ちょっと首痛めた」
「何やってんだよ」
へへっと笑いながら頭を掻いて答えると、イズミは呆れ返った顔で見た後、すぐに前を向いてしまった。
「雨、まだ降ってるのかな……」
後ろからリョウの声が聞こえてきた。
視界も回復してきていたが、どうやら聴覚も先程よりも戻っているようだった。
はっきりと喋らなくても声が聞こえ、他の人の足音も聞こえるようになっている。
呟いた後、リョウは何気なく後ろを振り返った。
森のどの辺りを歩いているかは全く分からないが、急に『ここから出られるのかどうか』といった疑問が頭に浮かび、ぞくりと体を震わせた。
「どうだろう……でも、真っすぐ歩いて来てるはずだから、そのうち出られるよ」
まるでリョウの不安を察したかのように、カイはにこりと笑いながら答える。
そして優しくリョウの頭をぽんぽんと触る。
「もうっ! 頭触るなってばっ」
真っ赤な顔でリョウはカイを睨み付けた。
しかし、いつものように嫌がる素振りはしていない。
怒りながらもカイの優しさを感じ取っているのだろう。
☆☆☆
「はぁ……腹減った」
「そのまま死ね」
ぐぅっとお腹を鳴らし、情けない声を出すタクヤにイズミは容赦なく冷たく告げる。
「もうっ、すぐ怒る……。イズミも腹減ってんだろ。だから怒りっぽ――っ!?」
言いかけた途端、ギューッと頬を思い切り抓られ、声にならない声を上げる。
「うるせぇっ。俺は減ってねぇよっ。ったく、そんなこと言ってねぇでさっさと歩け」
手を離すとイズミはむっとした表情をし、今度はタクヤの腰の辺りを後ろから蹴る。
「いてっ! もうっ……やっぱ腹減ってんじゃねぇのっ? ったく……もうすぐだよ」
涙目になりながら腰を擦り、頬を膨らませる。
そしてタクヤは急に真面目な顔で前の方を見つめ、立ち止まった。
「もうすぐって? 出口?」
きょとんとしながらリョウが首を傾げ、タクヤの隣に並ぶ。
「……お前を呼んでいた何かってヤツか?」
少し前で立ち止まると、ちらりとタクヤを見ながらイズミは意味深に口を挟んだ。
「俺が呼ばれてるわけじゃないよ。……ただ、ペンダントが何かに反応してるんだ」
ペンダントをぎゅっと握り締め、手の中の熱を感じながら俯く。
「生物の気配はない……。だとしたら、ペンダントが反応してる物って……」
イズミもタクヤの横に並ぶと、じっとタクヤが握るペンダントを見つめた。
「えぇー……変なモノだったらやだなぁ、俺」
イズミの言葉を聞いてリョウが情けない声を出す。
「大丈夫。襲ってくることはないよ。セイブツじゃないんだから」
ふふっと笑いながらカイはリョウの隣に並び、優しく答える。
しかし、何か意味ありげに最後は口調を強めてニヤリと口元に笑みを作った。
「……ん? セイブツじゃない?」
急にタクヤはその言葉に引っ掛かり、首を傾げた。
「あぁ……お前、生きてるモノしかダメなんだったな」
なるほどと気が付いたイズミもなんだか楽しそうに笑みを浮かべる。
「ええっ! ちょっと待ってっ! まさかっ、アレじゃないよなっ!?」
漸くタクヤは皆がなんのことを言っているのか察し、ぱっと顔を上げると、慌てて3人の同意を得ようと必死になる。
「さぁ?」
今まで怖がっていたというのに、リョウまで面白そうに口笛を吹き始めた。
「お前が森の中に行くって言い出したんだからな。ほら、行くぞ」
「ええっ!」
どんっとイズミに背中を押され、急に自信がなくなるタクヤ。
「……お前、変なモノに呼ばれてないだろうなぁ……」
ぐすんと鼻をすすりながら、タクヤは胸の前にあるペンダントをじっと見つめながら、渋々歩き出した。
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