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第12章『誘う森』

4話

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 深く息を吐くと、少し先を歩いているタクヤをじっと見つめながらイズミが話し始めた。
「強い思いがあるんだったら、なんとかなるんじゃないか? あのアホでもそれなりに強くなれたんだ。まぁ、俺からしたらまだまだだけどな」
「そうかな? 俺もタクヤみたいに強くなれる?」
 淡々と無表情に話すイズミの横顔をじっと見つめながら、リョウはどこか必死になって問い返していた。
「さぁな。俺には分からない。ただ、強くなれるかどうかは本人の気持ちと努力次第だろう。才能もいるかもしれないが、それだけでは強くなることはできない。何かを守りたいという気持ちがあるなら、なんとかなるんじゃないかと言ったんだ」
「ふーん。なんか、タクヤと同じようなこと言うんだね」
 リョウはタクヤに言われた言葉を思い出しながらじっとイズミを見た。
「は?」
 物凄く嫌そうな顔をしてイズミもリョウを見る。
「えっ? 何?」
 なぜそんな顔をするのかとリョウはきょとんとした顔で首を傾げる。
「いや……」
 なんとなく、タクヤと同じレベルだと言われたようで癪に障ったのだが、気にし過ぎかと首を横に振った。
「ねぇイズミってさ、ほんとに強いの? 前にタクヤが言ってたけど。見た感じは全然そんな感じしないよね。お姫様って感じ。でも、何かな、こうイズミの周りの空気っていうか、存在感とかはすごいよね。オーラっていうか」
 ふとタクヤが話していたことを思い出し、リョウはイズミに問い掛けた。
「なんだそりゃ……俺が強いかどうかは、自分の目で確かめてみればいいんじゃないか? 俺が言うことじゃないだろ」
 呆れた顔で溜め息を付くと、再び前を向き、無表情に淡々と答える。
「そうかなぁ? じゃあさ、イズミって、見た目は女の子みたいだけど、男なの?」
 じっと見つめながら再びリョウが疑問を投げかけた。
 このなんともストレートな物言いが少しレナに似ているような気がして、イズミは再び嫌そうな顔でリョウを見る。
「……俺には性別はない。俺のことはあいつから聞いたんだろう?」
 嫌そうな顔をしながらも、答えなければしつこく聞かれそうな気がして話せるところだけ答えた。
 しかし、一緒に行動するとはいえ、詳しく話す気はなかった。
「へぇ、そうなんだ。うん、あの『イズミ』だって話は聞いたけどさ。なんかイメージと違ったっていうか。さっきも言ったけど、見た目はお姫様みたいじゃん」
「お姫様はやめろ……」
 特に性別のことを気にすることなくきょとんとした顔で話すリョウを、イズミは呆れた顔で見る。
「えー姫って感じだけどなぁ。……でも、なんかイズミってさ、カイ兄と似てるとこあるよね」
「はぁ?」
 突然言われた内容に、何を言っているのかとイズミは嫌悪感を露わにした。
 あの男に似ているなど不愉快極まりない。
「頭良さそうなとことか、何考えてるのか分かんないとことか……あと、人間っぽくないとことか」
 両手を頭の後ろで組み、相変わらずタクヤに構っているカイを眺めながらリョウが答えた。
「なんだと?」
 するとリョウの言葉にイズミはじろりと睨み付ける。
「あっ、ごめん。なんていうか、感情がないっていうか、読めないっていうか、そういう所がなんか似てるなって」
 イズミを怒らせたと感じたリョウは、パッと手を下ろすと申し訳なさそうな顔になる。
「…………」
 ふと、リョウに言われた言葉を考え、イズミは複雑な表情で黙り込んでしまった。
(そういえば、今までずっとそういう風に言われていたのにな)
 口元に手を当て考える。
(……やはり、アイツに会ってから変わったんだろうか)
 ふと顔を上げ、前を歩くタクヤの背中を見つめる。
「イズミ? 大丈夫?」
 黙り込んでしまったイズミを心配そうにリョウが見つめている。
「俺って、そんなに感情ないように見えるか?」
「えっ?……うーん、タクヤと一緒じゃない時は、何考えてんのか分かんないかな」
 真剣に見つめられ、リョウは少し動揺しながら答える。
「…………」
「俺、イズミが楽しそうにしてるとこ見たことない。まだ会ったばかりだからかもしんないけど。喜んだり、嬉しいってこともあるんだよね?」
 再び考え込むイズミを窺いながらリョウはそう続けた。
「楽しい……か。よく分からないな」
 今までのことを振り返りながら答える。
「えっ? ほんとにないの?……イズミってさ、笑うことあんまりないでしょ?」
「…………」
 リョウが訝しげな顔で尋ねると、イズミはむっとして眉間に皺を寄せる。
「わっ、ごめん。だって、イズミずっと無表情じゃん。でもさっきタクヤのこと笑ってたとこ見たけどさ、絶対笑った方がいいよ」
 イズミの表情を見てリョウは慌てて謝る。そして必死になって話している。
「笑ってなんの得があるんだ?」
 眉間に皺を寄せたまま、イズミは不機嫌な顔で答える。
 そして言われた言葉で再びレナの顔が浮かんだ。
「得って……。でも、イズミってどこかこう、人を寄せ付けないオーラみたいなのがあるから、笑ったりすれば、そういうのがなくなると思うんだよね。イズミって、損してると思うんだ。ほんとはいい人なのに、そう思われないっていうか。勿体ないよ」
「…………」
 苦笑いしながらも前を向き、リョウは遠くを見るようにして話した。
 イズミもまた黙って前を向く。
 その視線の先には相変わらずカイに何やら苛められている様子のタクヤがいた。
 一体なんの話をしているのか。

「どうかしたのか?」

 ふいにタクヤがこちらを振り返り、近付いてきた。
「別に……。何もねぇよ」
 まるで、自分が見ていたことに気が付いたかのようなタクヤに、イズミは少し体裁の悪そうな顔をしながら目を逸らす。
「ふぅ~ん?」
 いまいち納得がいかないような顔付きをしながらタクヤは首を傾げる。
「タクヤの悪口だよ」
 するとリョウがにんまりと意地悪そうに笑いながら会話に入ってきた。
「なにっ!」
 冗談を言うリョウにタクヤが本気で怒る。

「楽しそうなところ悪いけど、あの森、本当に何かありそうだよ」

 ひとり前を歩いていたカイが、例の森を指差しながら話し掛ける。
 カイの言葉に3人は同時に森を見る。
 遠くに見えていた森が、いつの間にかすぐ目の前まで迫っていた。
 見上げる程の大きな森である。中は暗く、よくは見えないが何か不思議な気配を感じる。
 どう考えても普通の森ではない。『何か』ある。
 4人はその場で立ち止まり、じっと森を見つめた。

 森に吸い込まれそうになりタクヤは体を強張らせた。
 なぜだか心臓の音が速くなっている。緊張しているのだろうか?
 すると次の瞬間、胸元で光るペンダントが熱くなったのを感じた。
(なんだ?)
 どくんと大きく心臓が鳴り、ぎゅっとペンダントを握り締める。
「どうした?」
 タクヤの様子に気が付き横に並ぶと、じっとイズミが見上げる。
「うん、あのさ――」
 タクヤが何かを話そうとした。
 その時――突然、頭に冷たいものを感じた。
 雨であった。
「うわっ! やべぇっ」
 ふと、見上げた瞬間大粒の雨が一気に降ってきた。
 4人は急いで目の前にある真っ暗な森の中へと駆け込んだ……。
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