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第11章『新たな仲間』
4話
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騒ぎがあったとはいえ、気にすることなく店で食事を済ませたふたりは、店を出て町の中を散策していた。
宿を取るにもまだ時間も早い。
腹もいっぱいになり、満足したタクヤは初めて見るような店の数々に目を輝かせていた。
どれも珍しい物ばかりである。
「すっげぇっ! いろんな店があるんだなっ。なぁ、見ろよ、イズミっ」
「うるせぇ。ったく、ガキか……」
嬉しそうに声を上げているタクヤの後ろを歩きながら、イズミは鬱陶しそうに溜め息を付いていた。
「あっ、イズミっ、あそこに何かいるっ!」
建ち並ぶ店の中に動物を扱っている店を見つけ、タクヤは嬉しそうに走り出した。
「おいっ、危ないっ!」
通りから誰かが走ってきたことに気が付いたイズミが大声で叫ぶ。
しかし、「え?」と振り返ったタクヤと走ってきた人物はそのまま勢いよくぶつかり、お互いに倒れてしまった。
「いててっ……びっくりしたぁ。……大丈夫か?」
腰を摩りながら顔を顰めるが、すぐにぶつかった相手を見ると、タクヤは心配そうに声を掛けた。
うずくまっているが、見た目から相手は少年だということが分かった。
少年は顔を上げるとタクヤを鋭く睨み付け、立ち上がると何も言わずに再び走って行ってしまった。
一瞬ではあったが、15、6歳くらいの可愛らしい少年であった。
柔らかそうな茶色い髪と猫のような丸くて少し上がり目の茶色い瞳が印象的であった。
「なんだぁ?」
タクヤは頭を掻きながら、『そんなに怒ることないのに』と走り去る少年の背中を眺める。
「ったく、何してんだよ。周りをちゃんと見てないからだぞ」
タクヤの元に歩いてきたイズミが呆れた顔で見下ろしている。
「だってさ」
「だってじゃねぇ。……ったく」
頬を膨らませるタクヤを見ながらイズミは腰に手を当て大きく溜め息を付いた。
――その時、後ろの方から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声である。何気なくそちらを見た。
「……あの男」
「何? 知ってる人?」
ぼそりと呟いたイズミをタクヤは座り込んだまま首を傾げながら見上げる。
ふぅっと溜め息を付くと、イズミはタクヤに親指で男の声がした方をくいっと促すように指し示した。
「ん?……あっ!」
イズミが指した方を見てみると、つい先程の店で見かけた大男がいた。
顔を赤くしながら怒鳴っている。
そして相手は今しがたタクヤとぶつかった少年だ。
「よいしょっと。……あいつ、誰にでも絡んでんのかなぁ……。ほんと安っぽいチンピラみたいだな」
立ち上がると両手で尻の辺りをぱんぱんと叩く。
そしてタクヤは呆れた顔でその様子を眺めていた。
「行くぞ」
タクヤが立ち上がったことを確認すると、イズミは興味を示すことなくそのまま踵を返し歩き出した。
「え? ほっとくのかよ?」
目を丸くしながらイズミを見るが、返事もなくそのまま歩いて行ってしまう。
「んんー…………あー、もうっ!」
困った顔でタクヤはイズミと少年とを交互に見る。
そして頬を膨らませながらムスッとすると、少年の方へと走って行ったのだった。
☆☆☆
「てめぇっ。ぶつかっておいて、その態度はなんだっ!」
大男が真っ赤な顔で少年に向かって怒鳴る。
「わざとじゃないんだから、いちいち絡むなよ。俺、急いでるんだから」
少年は大男を睨み付けると、そのまま歩き出そうとした。
「なんだとっ! このクソ生意気なガキがっ!」
大男は大声を上げると少年の胸倉を掴み、ぐっと持ち上げる。
小柄な少年はあっという間に地面から体が浮き、苦しそうに顔を歪めた。
逃れようと必死に両手で大男の手を掴み、足をばたつかせている。
「やめろっ!」
すぐに駆け付けたタクヤが声を上げ、大男の腕を掴む。
「なっ!? なんだてめぇはっ!」
突然腕を掴まれ一瞬狼狽えた大男であったが、すぐに自分の方が体も大きく、そしてタクヤの容貌を見て勝てると認識したのか、強気に言い返していた。
「その子を離せ」
しかしタクヤは全く動じることなく大男を睨み付ける。
「な、なんだとっ!」
鋭い目付きで睨み付けているタクヤに気圧された大男は再び狼狽えていた。
「離せと言ってるだろ? 腕、折られたいのか?」
そう言ってタクヤは大男の腕を掴む手にぐっと力を入れる。
太い大男の腕にぐにゃりとタクヤの指が食い込んだ。
「ひぃあぁっ!……わ、分かったよっ! 離すからっ!」
腕に強い痛みを感じた大男は涙目になりながら大声を上げる。
そして顔を真っ青にさせると、慌てて少年を下ろした。
それを確認すると、タクヤも大男の腕を離す。
「ちっ……ちくしょーっ。覚えてろっ!」
今度は顔を真っ赤にさせると、大男は大声で叫ぶとそのまま走り去っていった。
「やだね。おい、大丈夫か?」
走り去る大男の背中を見ながら、タクヤは呆れた顔でぼそりと呟いた。
そして少年に向き直ると心配そうに声を掛ける。
「別に……頼んでない」
しかし少年は俯いたままぼそりと呟くだけであった。
「なんだよ、素直じゃねぇなぁ。……まぁいっか。お前さ、何かあったのか?」
苦笑いしながら溜め息を付くと、タクヤは少年を覗き込むようにして見る。
「は? なんでアンタにそんなこと言わなきゃなんないんだよっ」
少年は驚いたように目を丸くしたが、すぐに嫌そうな顔でタクヤを睨み付けた。
先程はしっかり見ていなかったが、大きな瞳は茶色かと思ったが、少しオレンジ色が入ったような綺麗な色をしている。
「お、やっとこっち見たな」
にやりとタクヤは嬉しそうに笑う。
「……変なヤツ……。アンタさぁ……強いの?」
少年は呆れた顔でタクヤを眺めた。
しかし、すぐに何かを思い出したようにハッとすると、真剣な顔でタクヤをじっと見上げる。
「俺? うん、強いよ」
自分を指差しながらきょとんとするが、すぐにタクヤはニヤリと笑って答えた。
「はぁ? 自分で言う?」
少年は再び呆れた顔になる。
「だって俺、勇者だもん」
タクヤは腰に手を当て、ふふんと自信ありげに答えたのだった。
宿を取るにもまだ時間も早い。
腹もいっぱいになり、満足したタクヤは初めて見るような店の数々に目を輝かせていた。
どれも珍しい物ばかりである。
「すっげぇっ! いろんな店があるんだなっ。なぁ、見ろよ、イズミっ」
「うるせぇ。ったく、ガキか……」
嬉しそうに声を上げているタクヤの後ろを歩きながら、イズミは鬱陶しそうに溜め息を付いていた。
「あっ、イズミっ、あそこに何かいるっ!」
建ち並ぶ店の中に動物を扱っている店を見つけ、タクヤは嬉しそうに走り出した。
「おいっ、危ないっ!」
通りから誰かが走ってきたことに気が付いたイズミが大声で叫ぶ。
しかし、「え?」と振り返ったタクヤと走ってきた人物はそのまま勢いよくぶつかり、お互いに倒れてしまった。
「いててっ……びっくりしたぁ。……大丈夫か?」
腰を摩りながら顔を顰めるが、すぐにぶつかった相手を見ると、タクヤは心配そうに声を掛けた。
うずくまっているが、見た目から相手は少年だということが分かった。
少年は顔を上げるとタクヤを鋭く睨み付け、立ち上がると何も言わずに再び走って行ってしまった。
一瞬ではあったが、15、6歳くらいの可愛らしい少年であった。
柔らかそうな茶色い髪と猫のような丸くて少し上がり目の茶色い瞳が印象的であった。
「なんだぁ?」
タクヤは頭を掻きながら、『そんなに怒ることないのに』と走り去る少年の背中を眺める。
「ったく、何してんだよ。周りをちゃんと見てないからだぞ」
タクヤの元に歩いてきたイズミが呆れた顔で見下ろしている。
「だってさ」
「だってじゃねぇ。……ったく」
頬を膨らませるタクヤを見ながらイズミは腰に手を当て大きく溜め息を付いた。
――その時、後ろの方から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声である。何気なくそちらを見た。
「……あの男」
「何? 知ってる人?」
ぼそりと呟いたイズミをタクヤは座り込んだまま首を傾げながら見上げる。
ふぅっと溜め息を付くと、イズミはタクヤに親指で男の声がした方をくいっと促すように指し示した。
「ん?……あっ!」
イズミが指した方を見てみると、つい先程の店で見かけた大男がいた。
顔を赤くしながら怒鳴っている。
そして相手は今しがたタクヤとぶつかった少年だ。
「よいしょっと。……あいつ、誰にでも絡んでんのかなぁ……。ほんと安っぽいチンピラみたいだな」
立ち上がると両手で尻の辺りをぱんぱんと叩く。
そしてタクヤは呆れた顔でその様子を眺めていた。
「行くぞ」
タクヤが立ち上がったことを確認すると、イズミは興味を示すことなくそのまま踵を返し歩き出した。
「え? ほっとくのかよ?」
目を丸くしながらイズミを見るが、返事もなくそのまま歩いて行ってしまう。
「んんー…………あー、もうっ!」
困った顔でタクヤはイズミと少年とを交互に見る。
そして頬を膨らませながらムスッとすると、少年の方へと走って行ったのだった。
☆☆☆
「てめぇっ。ぶつかっておいて、その態度はなんだっ!」
大男が真っ赤な顔で少年に向かって怒鳴る。
「わざとじゃないんだから、いちいち絡むなよ。俺、急いでるんだから」
少年は大男を睨み付けると、そのまま歩き出そうとした。
「なんだとっ! このクソ生意気なガキがっ!」
大男は大声を上げると少年の胸倉を掴み、ぐっと持ち上げる。
小柄な少年はあっという間に地面から体が浮き、苦しそうに顔を歪めた。
逃れようと必死に両手で大男の手を掴み、足をばたつかせている。
「やめろっ!」
すぐに駆け付けたタクヤが声を上げ、大男の腕を掴む。
「なっ!? なんだてめぇはっ!」
突然腕を掴まれ一瞬狼狽えた大男であったが、すぐに自分の方が体も大きく、そしてタクヤの容貌を見て勝てると認識したのか、強気に言い返していた。
「その子を離せ」
しかしタクヤは全く動じることなく大男を睨み付ける。
「な、なんだとっ!」
鋭い目付きで睨み付けているタクヤに気圧された大男は再び狼狽えていた。
「離せと言ってるだろ? 腕、折られたいのか?」
そう言ってタクヤは大男の腕を掴む手にぐっと力を入れる。
太い大男の腕にぐにゃりとタクヤの指が食い込んだ。
「ひぃあぁっ!……わ、分かったよっ! 離すからっ!」
腕に強い痛みを感じた大男は涙目になりながら大声を上げる。
そして顔を真っ青にさせると、慌てて少年を下ろした。
それを確認すると、タクヤも大男の腕を離す。
「ちっ……ちくしょーっ。覚えてろっ!」
今度は顔を真っ赤にさせると、大男は大声で叫ぶとそのまま走り去っていった。
「やだね。おい、大丈夫か?」
走り去る大男の背中を見ながら、タクヤは呆れた顔でぼそりと呟いた。
そして少年に向き直ると心配そうに声を掛ける。
「別に……頼んでない」
しかし少年は俯いたままぼそりと呟くだけであった。
「なんだよ、素直じゃねぇなぁ。……まぁいっか。お前さ、何かあったのか?」
苦笑いしながら溜め息を付くと、タクヤは少年を覗き込むようにして見る。
「は? なんでアンタにそんなこと言わなきゃなんないんだよっ」
少年は驚いたように目を丸くしたが、すぐに嫌そうな顔でタクヤを睨み付けた。
先程はしっかり見ていなかったが、大きな瞳は茶色かと思ったが、少しオレンジ色が入ったような綺麗な色をしている。
「お、やっとこっち見たな」
にやりとタクヤは嬉しそうに笑う。
「……変なヤツ……。アンタさぁ……強いの?」
少年は呆れた顔でタクヤを眺めた。
しかし、すぐに何かを思い出したようにハッとすると、真剣な顔でタクヤをじっと見上げる。
「俺? うん、強いよ」
自分を指差しながらきょとんとするが、すぐにタクヤはニヤリと笑って答えた。
「はぁ? 自分で言う?」
少年は再び呆れた顔になる。
「だって俺、勇者だもん」
タクヤは腰に手を当て、ふふんと自信ありげに答えたのだった。
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