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第11章『新たな仲間』
3話
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大通りをきょろきょろとしながら歩く。
先日訪れた町で見た時と同じように沢山の店が建ち並んでいる。この町にも力のある術者でもいるのだろうか。
通常であれば食事をするには宿屋の中の食堂くらいである。あとは昼間だけ営業している小さな飲食店が精々だ。
しかし、この町では飲食店はもちろん、色々な種類の店が並んでいる。
先日の町で見たようなケーキ等のお菓子を売っている店、服を売っている店、食材のみを扱っているような店も見える。
思わず全部の店を見て回りたくなってしまう程であった。
そして一軒の大きめの飲食店を見つけ立ち止まると、タクヤは嬉しそうに声を上げた。
「イズミっ、ここにしようぜ?」
ここならメニューも多そうである。得意げにイズミをじっと見つめる。
「別に、俺はどこでもいい」
しかしイズミはなぜだか不機嫌そうな顔で答えたのだった。
「なんだよ。さっきは中華は嫌だとか言ってたじゃん」
喜んでもらえると思いきや全く違った反応が返ってきたことに、タクヤは不満げに口を尖らせた。
「…………」
タクヤの声が聞こえていないかのようにイズミは黙って店を見上げている。
「何? どうかしたのか?」
イズミの行動が理解できず、タクヤは不思議そうに首を傾げる。
「別に。行くんだろ?」
するとイズミはぼそりと話すとそのまま店の中へと入って行ってしまった。
「へ? あ、ちょっとっ」
思わずぽかんとしてしまったタクヤであったが、慌てて自分も店内へと入った。
店内は大勢の人達で賑わっていた。
あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。
そして、食事の匂いに混じって酒の匂いがぷんとした。
この賑やかな酒場のような感じも覚えがあった。
「凄いな……。席どっか空いてるかな?」
思わずぽかんと眺めてしまったが、空腹を思い出したタクヤは店員がいないかと辺りを探した。
「お前な……みっともないからきょろきょろすんな」
「え? 何?」
溜め息を付き、呆れた顔で見ているイズミを不思議そうにタクヤが見下ろす。
「いらっしゃいませー。お二人様ですかぁ?」
するとそこへ元気な女の子の声が聞こえた。
ふたりは思わずハッとして振り返る。
「はぁ……良かったぁ……」
思わず胸を撫で下ろしてしまった。もちろん誰を思い浮かべたのかは、言うまでもない。
タクヤの横でイズミもほっとしたような顔をしていた。
「どうかしたんですかぁ?」
きょとんとした顔で首を傾げているウェートレスは、肩まで伸びた黒いストレートヘアの10代後半くらいの少女であった。
大きな黒い瞳でふたりをじっと見つめている。
「なんでもないですっ。えっと……席空いてます?」
慌てて顔の前で両手を振ると、タクヤは苦笑いしながらウェートレスに問い掛けた。
「えぇっと……あ、奥の席がありますので、ご案内しますねっ」
目をぱちぱちと瞬きした後、ウェートレスはきょろきょろと店内を見回す。そして空いたテーブルを見つけると、にこりと笑ってふたりを席へと案内した。
窓際の席に案内されると、タクヤは早速メニューを眺めていた。
「うーん、何にしよう。からあげ……あぁ、ラーメンもいいっ。お? カレーもあるっ。天ぷらうどんなんてのも渋くていいなぁ」
「うるせぇガキ。あと1分で決めねぇと殺すぞ」
目を輝かせながらひとりでぶつぶつ喋っているタクヤをイズミが鋭く睨み付けている。
上着の中に手を入れたかと思うと、ちらりと拳銃らしきものが見えていた。
「えっ! ちょっと待ってっ!……えっと、うーんと……」
ぎょっとした顔をして慌ててメニューを見るが、やはりなかなか決まらず頭を悩ます。
「なんだとぉーっ!!」
すると突然、後ろの方から男の大声が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、大きな男が席に座っているひとりの男に向かって怒鳴っているのが見えた。
大男は30代前半くらいの見た目で背も体格も大きく、人相も良いとは言えない。
あまり関わらない方が良さそうである。
「ひとのせいにするなよ。アンタが勝手にぶつかって、勝手に濡れただけだろ?」
席に座っている男は、顔は見えないが冷静沈着に答えている。声からして20代くらいだろうか。
しかし、その態度が大男を更に怒らせていたのだった。
「なんだとっ! お前がこんな所にコップを置いておくのが悪いんだろうがっ! お前のせいだっ。弁償しろっ、弁償っ!」
どうやら置いてあったコップに当たって服が濡れてしまったらしい。
大男は周りの客など気にすることなく怒鳴り散らしている。
「どっかの低俗な輩でもあるまいし。みっともないな」
座っている方の男は鼻で笑いながらさらりと返す。
「うわっ……あんなこと言ったら……」
さすがにまずいと、タクヤは焦って席を立とうとした。
大男が何か大声を発し、手を振り上げる。
そして次の瞬間、大きな音と共に男が隣の机ごと倒れるのが見えた。
「え?」
思わずぽかんと目を丸くしてしまった。
タクヤは立ちかけた姿勢から腰を下ろすと、唖然としながらそちらを眺める。
倒れたのは大男の方だったのだ。
周りの客や店員もざわざわと騒いでいる。
先程のウェートレスが慌てて大男に駆け寄っているのが見えた。
「すっげぇ……なぁ、今のどうなったんだ?」
タクヤは嬉しそうにイズミに話し掛ける。
「さぁ?」
全く興味のないようにイズミは無表情にメニューを眺めている。
「なんかイズミ、冷めてんね」
嬉しそうな表情から一転、イズミの態度に呆れた顔でタクヤが呟いた。
「くそっ! 覚えてやがれっ!」
大男は立ち上がり、そう叫ぶと悔しそうな顔で、逃げるように店を出て行ってしまった。
「うわぁ……弱いチンピラみたいだな」
その様子をタクヤは呆れた顔のまま眺めていた。
「で? お前は何を頼むんだ? さっさと決めろよ」
「ってイズミ、ほんっと興味ねぇのな」
相変わらず冷めた表情で話すイズミを見て、タクヤは苦笑いする。
騒ぎのあったテーブルの周りの客は、今も騒いでいる。
しかし、当の本人は何事もなかったかのように静かにお茶を飲んでいる。
大男がいなくなり、漸くその横顔だけ見ることができた。
さらりとした黒く長めの前髪に濃い緑色の瞳。すっと筋の通った高い鼻。
恐らく誰から見ても美形の部類であろう。
(なんだろう……嫌な予感がする)
無表情にお茶を飲むその男を見ながら、タクヤは複雑な気分になっていた。
先日訪れた町で見た時と同じように沢山の店が建ち並んでいる。この町にも力のある術者でもいるのだろうか。
通常であれば食事をするには宿屋の中の食堂くらいである。あとは昼間だけ営業している小さな飲食店が精々だ。
しかし、この町では飲食店はもちろん、色々な種類の店が並んでいる。
先日の町で見たようなケーキ等のお菓子を売っている店、服を売っている店、食材のみを扱っているような店も見える。
思わず全部の店を見て回りたくなってしまう程であった。
そして一軒の大きめの飲食店を見つけ立ち止まると、タクヤは嬉しそうに声を上げた。
「イズミっ、ここにしようぜ?」
ここならメニューも多そうである。得意げにイズミをじっと見つめる。
「別に、俺はどこでもいい」
しかしイズミはなぜだか不機嫌そうな顔で答えたのだった。
「なんだよ。さっきは中華は嫌だとか言ってたじゃん」
喜んでもらえると思いきや全く違った反応が返ってきたことに、タクヤは不満げに口を尖らせた。
「…………」
タクヤの声が聞こえていないかのようにイズミは黙って店を見上げている。
「何? どうかしたのか?」
イズミの行動が理解できず、タクヤは不思議そうに首を傾げる。
「別に。行くんだろ?」
するとイズミはぼそりと話すとそのまま店の中へと入って行ってしまった。
「へ? あ、ちょっとっ」
思わずぽかんとしてしまったタクヤであったが、慌てて自分も店内へと入った。
店内は大勢の人達で賑わっていた。
あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。
そして、食事の匂いに混じって酒の匂いがぷんとした。
この賑やかな酒場のような感じも覚えがあった。
「凄いな……。席どっか空いてるかな?」
思わずぽかんと眺めてしまったが、空腹を思い出したタクヤは店員がいないかと辺りを探した。
「お前な……みっともないからきょろきょろすんな」
「え? 何?」
溜め息を付き、呆れた顔で見ているイズミを不思議そうにタクヤが見下ろす。
「いらっしゃいませー。お二人様ですかぁ?」
するとそこへ元気な女の子の声が聞こえた。
ふたりは思わずハッとして振り返る。
「はぁ……良かったぁ……」
思わず胸を撫で下ろしてしまった。もちろん誰を思い浮かべたのかは、言うまでもない。
タクヤの横でイズミもほっとしたような顔をしていた。
「どうかしたんですかぁ?」
きょとんとした顔で首を傾げているウェートレスは、肩まで伸びた黒いストレートヘアの10代後半くらいの少女であった。
大きな黒い瞳でふたりをじっと見つめている。
「なんでもないですっ。えっと……席空いてます?」
慌てて顔の前で両手を振ると、タクヤは苦笑いしながらウェートレスに問い掛けた。
「えぇっと……あ、奥の席がありますので、ご案内しますねっ」
目をぱちぱちと瞬きした後、ウェートレスはきょろきょろと店内を見回す。そして空いたテーブルを見つけると、にこりと笑ってふたりを席へと案内した。
窓際の席に案内されると、タクヤは早速メニューを眺めていた。
「うーん、何にしよう。からあげ……あぁ、ラーメンもいいっ。お? カレーもあるっ。天ぷらうどんなんてのも渋くていいなぁ」
「うるせぇガキ。あと1分で決めねぇと殺すぞ」
目を輝かせながらひとりでぶつぶつ喋っているタクヤをイズミが鋭く睨み付けている。
上着の中に手を入れたかと思うと、ちらりと拳銃らしきものが見えていた。
「えっ! ちょっと待ってっ!……えっと、うーんと……」
ぎょっとした顔をして慌ててメニューを見るが、やはりなかなか決まらず頭を悩ます。
「なんだとぉーっ!!」
すると突然、後ろの方から男の大声が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、大きな男が席に座っているひとりの男に向かって怒鳴っているのが見えた。
大男は30代前半くらいの見た目で背も体格も大きく、人相も良いとは言えない。
あまり関わらない方が良さそうである。
「ひとのせいにするなよ。アンタが勝手にぶつかって、勝手に濡れただけだろ?」
席に座っている男は、顔は見えないが冷静沈着に答えている。声からして20代くらいだろうか。
しかし、その態度が大男を更に怒らせていたのだった。
「なんだとっ! お前がこんな所にコップを置いておくのが悪いんだろうがっ! お前のせいだっ。弁償しろっ、弁償っ!」
どうやら置いてあったコップに当たって服が濡れてしまったらしい。
大男は周りの客など気にすることなく怒鳴り散らしている。
「どっかの低俗な輩でもあるまいし。みっともないな」
座っている方の男は鼻で笑いながらさらりと返す。
「うわっ……あんなこと言ったら……」
さすがにまずいと、タクヤは焦って席を立とうとした。
大男が何か大声を発し、手を振り上げる。
そして次の瞬間、大きな音と共に男が隣の机ごと倒れるのが見えた。
「え?」
思わずぽかんと目を丸くしてしまった。
タクヤは立ちかけた姿勢から腰を下ろすと、唖然としながらそちらを眺める。
倒れたのは大男の方だったのだ。
周りの客や店員もざわざわと騒いでいる。
先程のウェートレスが慌てて大男に駆け寄っているのが見えた。
「すっげぇ……なぁ、今のどうなったんだ?」
タクヤは嬉しそうにイズミに話し掛ける。
「さぁ?」
全く興味のないようにイズミは無表情にメニューを眺めている。
「なんかイズミ、冷めてんね」
嬉しそうな表情から一転、イズミの態度に呆れた顔でタクヤが呟いた。
「くそっ! 覚えてやがれっ!」
大男は立ち上がり、そう叫ぶと悔しそうな顔で、逃げるように店を出て行ってしまった。
「うわぁ……弱いチンピラみたいだな」
その様子をタクヤは呆れた顔のまま眺めていた。
「で? お前は何を頼むんだ? さっさと決めろよ」
「ってイズミ、ほんっと興味ねぇのな」
相変わらず冷めた表情で話すイズミを見て、タクヤは苦笑いする。
騒ぎのあったテーブルの周りの客は、今も騒いでいる。
しかし、当の本人は何事もなかったかのように静かにお茶を飲んでいる。
大男がいなくなり、漸くその横顔だけ見ることができた。
さらりとした黒く長めの前髪に濃い緑色の瞳。すっと筋の通った高い鼻。
恐らく誰から見ても美形の部類であろう。
(なんだろう……嫌な予感がする)
無表情にお茶を飲むその男を見ながら、タクヤは複雑な気分になっていた。
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