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第7章『人形』
8話
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あれから何度もイズミに『一緒に来てほしい』と頼み込んだものの、頑なに断られ続け、しまいには銃まで出された為、タクヤは仕方なくひとりで森に来ていたのだった。
「ほんっとイズミって短気だよな」
自分のことは棚に上げ、イズミへの文句をぶつぶつと言いながら歩く。
とはいえ、ちゃんと待つようにとしっかりと約束はしてきていた。ただし、イズミがちゃんと守ってくれれば、の話なのだが。
少し歩くと森の奥に池があるのが見えてきた。
「イズミが言った通りだ……」
ぼそりと呟く。しかし、なぜイズミは森があること、そして池があることを知っていたのだろうか。ふと考え込むのだが、聞いたところでいつも通り何も教えてもらえないのだろう、と諦めるのだった。
タクヤはゆっくりと池のほとりへと近付く。あまり大きな池ではないようだ。向こう岸までさほど距離はない。恐らく100メートルといったところだろう。森自体もイズミの言った通りそれほど大きくはないように思えた。
池の端ぎりぎりの所に立つと、じっと池の中を覗いてみた。透き通る程ではないが汚れている感じもしない。そして魚はいないようだが水草が生えているのが見えている。池の端の方だけかもしれないが深さもあまりないようであった。特に何の変哲もない普通の池のようだ。
「本当に来てくれんのかなぁ……」
タクヤはイズミから貰ったペンダントをぎゅっと握り締めながら、イズミの言葉を思い出していた。
『池まで行ったら俺が教えた通りに呪文を唱えろ。うまくいけば奴が現れる。どんな形で現れるかは分からないが……。お前にやったペンダントがあったろう? あれを持って行け。役に立つはずだ。』
イズミを疑う訳ではないが、特に約束をした訳でもない。本当にイズミが言う『奴』は現れるのかと、タクヤは不安な気持ちになっていた。
(それに……これって確か、力を増幅させるってやつだよな……)
ふと以前イズミから聞いた言葉を思い出す。このペンダントが役に立つと言われたが、現れる相手と戦うことになる訳ではないよな、と額にうっすら汗が滲む。
そしてその場にしゃがみ込むとタクヤは再び考える。池まで来たものの本当に大丈夫なのだろうかと迷っていたのだった。しかし、
「ここまで来たんだ……」
タクヤは膝をパンッと叩くと、気合いを入れ立ち上がる。
そして覚悟を決めると、イズミの言われた通りに呪文を唱え始めた。
☆☆☆
「…………」
呪文を唱え終えて数分。何かが現れる様子はなかった。相変わらず池の周りも森もしんと静まり返っている。そういえば、森に入ってから生き物の鳴き声等は聞こえていなかった気がする。ずっと考え事をしていた為、気が付いていなかった。
ふとタクヤは急に不安になったのだが、もしかしたら呪文を間違えたのかもしれないと首を傾げる。
「もう一回言ってみるか……」
再びイズミに教えてもらった呪文を唱えようとした時、池の中心辺りがぽぅっと光っているのが見えた。
「なんだ?」
タクヤは見えた光の方をじっと訝しげに見つめる。すると、その光は少し大きくなり、突然そのまますーっと池を伝ってタクヤがいる岸の方へと移動してきたのだった。
「っ!?」
タクヤはぎょっとして思わず構える。魔剣を出すべきかどうか。しかし、魔物の気配ではない。
イズミは『実体がない』と言っていた。もしかしたらあの光がそうなのかもしれないと、タクヤは期待と不安を胸にじっと光を見つめる。緊張のあまり自分の鼓動の音がすぐ近くで聞こえるようであった。
「よしっ」
そしてぼそりと呟くと気合を入れ、ぐっと歯を食いしばる。
光はすぐ間近まで来ると突然ふわっと宙に浮かび上がった。
「なっ!?」
気合を入れたものの、驚きで思わず後退りするタクヤ。目を見開いたままじっと光を見つめる。すると――、
「誰だ」
突然どこからか低い男性のような声が聞こえてきた。
一体どこから? とタクヤは恐る恐る周りを見回す。
「どこを見ている」
再び男性の声が聞こえる。池の方からだった。タクヤは『まさか』と再び光の方を見た。
「お前が俺を呼びだしたのか?」
その声は光の方から聞こえていたのだった。タクヤはハッとして声を上げる。
「あ、あんたに聞きたいことがあるんだっ。俺はタクヤ。勇者だ」
実体はないとはいえ、まさか光だとは思っていなかった。何か得体の知れないものと会話しているようで緊張してしまう。
「勇者? ふぅ~ん……興味ないな。大したことなさそうだしな、お前。言っとくが、俺はただでは教えてやらないぞ」
しかし、光からはなんともやる気のないような男の声が返ってきた。
タクヤは急に今までの緊張が抜けていく。そして、
「……あのさ、何でもいいから、何か物体になったりとかできねぇの? 光と話すのって何か変な感じで嫌だな」
と、思わず文句を呟いてしまったのだった。もっと恐ろしいものを想像していたタクヤは、その見た目と相手の様子に拍子抜けしたのだった。
「お前、誰に口を聞いている? 俺に命令するなど、この身の程知らずがっ!」
そんなタクヤの言葉に怒ったのか、光は突然ぶわっと大きく膨らみ大声で怒鳴り付けたのだった。
「わ、悪かったって。じゃあ、お願いならいい?」
一瞬びくりと体を震わせたタクヤであったが、恐れることはなく、ただ消えられては困ると慌てて謝るのだった。そして手を合わせじっと上目遣いで光の方を見る。
そんなタクヤに反応して、大きくなっていた光は再び元の大きさになり呆れたような声で話す。
「何を甘えた声を出している。そんなに言うなら何か差し出せ。それくらい当たり前だろう?」
「えーっ。じゃあいいよ、そのままで」
「何っ!?」
まさか金品を要求されるとは思っていなかった為、タクヤはあっさりと諦めたのだった。そして光はぎょっとしたような声を出す。見た目は光だが会話をしているうちに段々とタクヤは落ち着いてきていた。
「だって、姿変わってもらうだけで何か渡さなきゃなんないなら、嫌だけど我慢する」
「何が我慢するだ。甘えた奴だな。お前にはプライドってものはないのか?」
「プライドならあるよ。でも今、それが重要なんじゃなくて、今は俺が知りたいことが重要なんだから、こんなことでわがまま言ってらんないだろ?」
最初に姿を変わってほしいと頼んだのはタクヤ自身にもかかわらず、当然のことのように胸を張って言い返したのだった。
「……お前、面白い奴だな……。仕方ない。特別に姿を変えてやろう」
タクヤの言うことに納得したのか、それとも気まぐれなのか、光は突然そんなことを言い出した。
「えっ、マジで?」
まさかの回答にタクヤは思わず嬉しそうに声を上げる。
そして光は何も言わずそのまま岸まで移動する。しかし、岸へと着いた途端、突然ふっと消えてしまったのだった。
「ええっ!! ちょっとっ!」
まさかの出来事にタクヤは目を見開き愕然とする。今、姿を変えると言ったばかりなのに消えてしまった。油断させる為の嘘だったのだろうか。
タクヤは『騙されたのか?』とショックのあまり、その場に膝をついて座り込んでしまった。
「おい」
すると再びどこからか、男の声が聞こえた気がした。
呆然としていたタクヤは慌てて立ち上がり、周りを見回した。声は先程光から聞こえていた声とよく似ていた。もしかしたら消えたと思っていたのは勘違いだったのだろうか?
「どこを見てる」
先程の声が足元の方から聞こえた気がした。
「え?」
タクヤは不思議に思い、自分の足元を見下ろした。すると、そこには真っ黒な猫が1匹ちょこんと座っていたのだった。
「は? 猫~?」
一体どこから現れたのか、いつからいたのか、全く気が付かなかった。猫とはいえども気配を感じなかったのだ。
「猫で悪いか? お前が姿を変えろと言ったから変えてやったんだぞ」
なんと、その座っている猫がタクヤを見上げながらムスッとした声で話したのだ。
「ええっ!? ま、まさか、さっきの?」
猫が喋ったことと、先程の光が変化したのかと、タクヤは驚いて声を上げる。そしてその黒い猫の腰を両手で掴むと、ひょいと持ち上げじっと見つめたのだった。
「おい、持ち上げるな」
猫は不機嫌そうな顔でタクヤをじっと睨み付けるように見ている。
喋る猫とその顔に思わず可愛く見えてきてしまった。
「俺はてっきり人間になるのかと……。何こんなに可愛くなっちゃって」
笑顔になるとタクヤは楽しそうに猫に向かって話し掛ける。猫の話は全く聞いていないらしい。
「悪いか?……どうでもいいが、早く降ろしてくれないか?」
再び猫が不機嫌そうな顔で答える。余程抱き上げられているのが気に入らないのだろう。
「え、ちょっと待って……。えっと、どこか……」
やっと猫の話を理解したタクヤは猫を抱きかかえるようにして持ち変えると、辺りをきょろきょろと見回した。
「おっ、いいもの発見」
そう言って猫を抱いたまま歩き出したのだった。
「おい、どこへ行く?」
猫はタクヤの行動の意図が分からず、不機嫌な顔のままタクヤを見上げながら声を掛ける。
「ちょっと待って。すぐだから」
タクヤは池の周りを伝うようにぐるっと歩く。そして、
「はい」
池のほとりにあった大きな岩のような石の上に猫を置いた。
タクヤは猫と目の高さを合わす為、猫を置ける場所を探していたのだった。そしてこの石を見つけ、移動したのだ。
「お前、ほんとに変な奴だな」
「そう?」
表情ではよく分からなかったが、口調で猫が呆れているのはタクヤにも分かり、不思議そうに首を傾げる。
「まぁいい。……それで、お前の聞きたいことというのは何だ?」
「そうっ! あのさ、俺の師匠の居場所を教えて欲しいんだっ!」
猫の言葉でハッと思い出し声を上げると、タクヤは猫の目線に合わせるように少し屈み、再び手を合わせて猫に向かって頼み込んだ。
「お前の師匠? ふーん……そんなこと聞いてどうするんだ? 会いに行くのか?」
猫は目を細めながら面倒臭そうに問い返す。
「えっ……そりゃ、会いたい。もしそれが分からないなら、せめて生きてるかどうかだけでも知りたい」
タクヤは俯き、きゅっと唇を噛んだ。ここまできてもう諦めたくはなかった。
「そうか……。教えてやってもいいが、すぐには無理だな。明日の朝、もう一度ここへ来い。日が出てすぐだ。そしたら教えてやる」
猫は大きく目を開くと、じっとタクヤを見つめながら静かに話した。
「分かった。じゃあ明日また来る。約束だからなっ! 絶対だぞっ!」
タクヤはそう言って猫を石から降ろすと、猫に手を振り、そして池を後にした。
☆☆☆
猫と別れた後、タクヤは行きとは違い、軽い足取りで森の中を歩いていた。
漸く師匠のことが分かるかもしれない。そんな期待がタクヤの中で膨らんでいたのだった。
(師匠……)
思わず笑みが零れる。こんなにも明日が待ち遠しく感じたことはなかった。少しも不安や疑いがないわけではないが、今はただ、信じたい気持ちでいっぱいであった。
そしてこのことを早くイズミに伝えたくて、タクヤは足早に歩き始めた。
歩き始めて数分が経った頃、どこからか誰かの声のような、何か聞こえた気がして、タクヤは「ん?」と呟き足を止める。そしてじっと耳を澄ましてみる。相変わらず生き物の気配も鳴き声もしないが、微かにどこからか誰かの声が聞こえる気がする。タクヤは更に意識を集中させる。
「助けてっ!」
すると、少し離れた場所から今度ははっきりと女の子の声が聞こえたのだった。
(え……?)
確かに女の子の声が聞こえる。しかし、タクヤは別の『何か』を感じていた。
なんだろう? 前にもあったようなこの感じ……。
「誰かっ!!」
首を傾げ頭を悩ませていると、ふと向かって左側から女の子の声が聞こえた。今度はすぐ近くだ。タクヤはハッとしてそちらを見る。すると高い草が生い茂った中からガサガサっといった音と共に、少女が飛び出してきたのだった。
「助けてっ!」
少女はタクヤの顔を見た瞬間、ハッとすると涙目になりながら必死に助けを求めてきた。
「えっ!?」
タクヤは先程感じた『何か』が少女を見た瞬間に脳裏に浮かんだのだった。それはデジャブ。そう、今朝見た夢の内容にそっくりなのだ。しかも今目の前にいる少女は夢で会ったあの少女であった。黒く長い髪に青く透き通った大きな瞳。そして、少しだけイズミに似ているその顔……。あれは予知夢だったのか?
まさか、と思いながらタクヤは少女に声を掛ける。
「君は……」
そう切り出した途端、目の前にいる少女はキッと顔を上げるとタクヤの腕を掴み、走り出したのだった。呆然としていたタクヤはそのまま連れられるように一緒に走り出す。
「魔物がっ……すぐ近くまでっ……」
少女は息を切らしながらも走りながらタクヤに答える。
「魔物? 数は? どれくらいいる?」
少女の話に『魔物?』と首を傾げるが、本当に今朝見た夢は予知夢だったのかもしれないと、少女に腕を掴まれ走りながらもタクヤは冷静に問い掛ける。そして、少女は息切れしながらもちらりとタクヤを見て、
「はぁ……はぁ、たくさん……です」
と答えたのだった。タクヤに会う前から走り続けていたと見られ、随分と疲労が感じられる。言葉が途切れ途切れになっている。
「そっか……分かった」
そう言うと、自分の腕を掴む少女の手を離し、タクヤはその場でぴたりと立ち止まった。そして来た道を振り返る。
「っ!? 何してるんですかっ! 早く逃げないとっ!」
一緒に立ち止まった少女は慌てふためきながら声を上げる。
「大丈夫。君は先に行ってて。魔物は俺が倒すから」
タクヤは少女を見ることなくにやりと口元に笑みを浮かべる。
「倒すって……そんなの無理よっ!」
真っ青な顔になりながら少女が叫ぶ。しかし、タクヤは少女に向かって落ち着いた声で話す。
「大丈夫。任せて、俺は勇者だから」
少女に背中を向けたまま手を上げてピースをしてみせた。
「勇者? あなた勇者なんですか?」
驚いて目を丸くしながら少女がまじまじとタクヤを見つめる。
「見えないかな?」
余裕なのか、タクヤは少女を振り返りきょとんとする。
「はぁ……ちょっと……」
申し訳なさそうな顔で少女はぼそりと答えた。
「そうかなぁ? なんか前にも言われたけど、俺ってそんなに勇者っぽくないのかな……」
呑気に首を傾げながらタクヤはそんなことを呟いている。
「あの――」
「あ、君は危ないから、早く森を出た方がいいよ」
少女が何か言い掛けた時、タクヤはハッと思い出したように少女に早く逃げるように促した。
「あの、でも……キャーッ!!」
再び少女が何かを言いかけた瞬間、タクヤのすぐ後ろから大量の魔物が現れ、少女は悲鳴を上げた。
「げっ!」
すっかり注意力散漫になってしまっていたタクヤは、魔物の気配に気が付いておらず、少しだけ焦ってぎょっとする。しかし、すぐに念を込め魔剣を出した。そして今朝見た夢を再び思い出し、魔剣を出すことができたことにほっとしてもいた。
「キャーッ!!」
しかし、少女の後ろ方向からも沢山の魔物が現れ、少女は悲鳴を上げながらタクヤに駆け寄った。あっという間に囲まれてしまっていた。
「ちっ、しょうがねぇな。……俺から離れないようにね」
舌打ちをして魔物の方を眺めると、タクヤは魔剣を構え、少女を庇うようにして立つ。そしてじっと魔物の動きを窺う。
「はいっ」
少女は言われた通り、タクヤの背後に回るとぎゅっと手を握り締める。しっかりと返事をしたものの、顔は恐怖で青ざめていた。これだけの数の魔物を見たのは初めてなのだろう。怖くないはずはなかった。
そして魔物が一斉に2人に襲い掛かってきた。
「ほんっとイズミって短気だよな」
自分のことは棚に上げ、イズミへの文句をぶつぶつと言いながら歩く。
とはいえ、ちゃんと待つようにとしっかりと約束はしてきていた。ただし、イズミがちゃんと守ってくれれば、の話なのだが。
少し歩くと森の奥に池があるのが見えてきた。
「イズミが言った通りだ……」
ぼそりと呟く。しかし、なぜイズミは森があること、そして池があることを知っていたのだろうか。ふと考え込むのだが、聞いたところでいつも通り何も教えてもらえないのだろう、と諦めるのだった。
タクヤはゆっくりと池のほとりへと近付く。あまり大きな池ではないようだ。向こう岸までさほど距離はない。恐らく100メートルといったところだろう。森自体もイズミの言った通りそれほど大きくはないように思えた。
池の端ぎりぎりの所に立つと、じっと池の中を覗いてみた。透き通る程ではないが汚れている感じもしない。そして魚はいないようだが水草が生えているのが見えている。池の端の方だけかもしれないが深さもあまりないようであった。特に何の変哲もない普通の池のようだ。
「本当に来てくれんのかなぁ……」
タクヤはイズミから貰ったペンダントをぎゅっと握り締めながら、イズミの言葉を思い出していた。
『池まで行ったら俺が教えた通りに呪文を唱えろ。うまくいけば奴が現れる。どんな形で現れるかは分からないが……。お前にやったペンダントがあったろう? あれを持って行け。役に立つはずだ。』
イズミを疑う訳ではないが、特に約束をした訳でもない。本当にイズミが言う『奴』は現れるのかと、タクヤは不安な気持ちになっていた。
(それに……これって確か、力を増幅させるってやつだよな……)
ふと以前イズミから聞いた言葉を思い出す。このペンダントが役に立つと言われたが、現れる相手と戦うことになる訳ではないよな、と額にうっすら汗が滲む。
そしてその場にしゃがみ込むとタクヤは再び考える。池まで来たものの本当に大丈夫なのだろうかと迷っていたのだった。しかし、
「ここまで来たんだ……」
タクヤは膝をパンッと叩くと、気合いを入れ立ち上がる。
そして覚悟を決めると、イズミの言われた通りに呪文を唱え始めた。
☆☆☆
「…………」
呪文を唱え終えて数分。何かが現れる様子はなかった。相変わらず池の周りも森もしんと静まり返っている。そういえば、森に入ってから生き物の鳴き声等は聞こえていなかった気がする。ずっと考え事をしていた為、気が付いていなかった。
ふとタクヤは急に不安になったのだが、もしかしたら呪文を間違えたのかもしれないと首を傾げる。
「もう一回言ってみるか……」
再びイズミに教えてもらった呪文を唱えようとした時、池の中心辺りがぽぅっと光っているのが見えた。
「なんだ?」
タクヤは見えた光の方をじっと訝しげに見つめる。すると、その光は少し大きくなり、突然そのまますーっと池を伝ってタクヤがいる岸の方へと移動してきたのだった。
「っ!?」
タクヤはぎょっとして思わず構える。魔剣を出すべきかどうか。しかし、魔物の気配ではない。
イズミは『実体がない』と言っていた。もしかしたらあの光がそうなのかもしれないと、タクヤは期待と不安を胸にじっと光を見つめる。緊張のあまり自分の鼓動の音がすぐ近くで聞こえるようであった。
「よしっ」
そしてぼそりと呟くと気合を入れ、ぐっと歯を食いしばる。
光はすぐ間近まで来ると突然ふわっと宙に浮かび上がった。
「なっ!?」
気合を入れたものの、驚きで思わず後退りするタクヤ。目を見開いたままじっと光を見つめる。すると――、
「誰だ」
突然どこからか低い男性のような声が聞こえてきた。
一体どこから? とタクヤは恐る恐る周りを見回す。
「どこを見ている」
再び男性の声が聞こえる。池の方からだった。タクヤは『まさか』と再び光の方を見た。
「お前が俺を呼びだしたのか?」
その声は光の方から聞こえていたのだった。タクヤはハッとして声を上げる。
「あ、あんたに聞きたいことがあるんだっ。俺はタクヤ。勇者だ」
実体はないとはいえ、まさか光だとは思っていなかった。何か得体の知れないものと会話しているようで緊張してしまう。
「勇者? ふぅ~ん……興味ないな。大したことなさそうだしな、お前。言っとくが、俺はただでは教えてやらないぞ」
しかし、光からはなんともやる気のないような男の声が返ってきた。
タクヤは急に今までの緊張が抜けていく。そして、
「……あのさ、何でもいいから、何か物体になったりとかできねぇの? 光と話すのって何か変な感じで嫌だな」
と、思わず文句を呟いてしまったのだった。もっと恐ろしいものを想像していたタクヤは、その見た目と相手の様子に拍子抜けしたのだった。
「お前、誰に口を聞いている? 俺に命令するなど、この身の程知らずがっ!」
そんなタクヤの言葉に怒ったのか、光は突然ぶわっと大きく膨らみ大声で怒鳴り付けたのだった。
「わ、悪かったって。じゃあ、お願いならいい?」
一瞬びくりと体を震わせたタクヤであったが、恐れることはなく、ただ消えられては困ると慌てて謝るのだった。そして手を合わせじっと上目遣いで光の方を見る。
そんなタクヤに反応して、大きくなっていた光は再び元の大きさになり呆れたような声で話す。
「何を甘えた声を出している。そんなに言うなら何か差し出せ。それくらい当たり前だろう?」
「えーっ。じゃあいいよ、そのままで」
「何っ!?」
まさか金品を要求されるとは思っていなかった為、タクヤはあっさりと諦めたのだった。そして光はぎょっとしたような声を出す。見た目は光だが会話をしているうちに段々とタクヤは落ち着いてきていた。
「だって、姿変わってもらうだけで何か渡さなきゃなんないなら、嫌だけど我慢する」
「何が我慢するだ。甘えた奴だな。お前にはプライドってものはないのか?」
「プライドならあるよ。でも今、それが重要なんじゃなくて、今は俺が知りたいことが重要なんだから、こんなことでわがまま言ってらんないだろ?」
最初に姿を変わってほしいと頼んだのはタクヤ自身にもかかわらず、当然のことのように胸を張って言い返したのだった。
「……お前、面白い奴だな……。仕方ない。特別に姿を変えてやろう」
タクヤの言うことに納得したのか、それとも気まぐれなのか、光は突然そんなことを言い出した。
「えっ、マジで?」
まさかの回答にタクヤは思わず嬉しそうに声を上げる。
そして光は何も言わずそのまま岸まで移動する。しかし、岸へと着いた途端、突然ふっと消えてしまったのだった。
「ええっ!! ちょっとっ!」
まさかの出来事にタクヤは目を見開き愕然とする。今、姿を変えると言ったばかりなのに消えてしまった。油断させる為の嘘だったのだろうか。
タクヤは『騙されたのか?』とショックのあまり、その場に膝をついて座り込んでしまった。
「おい」
すると再びどこからか、男の声が聞こえた気がした。
呆然としていたタクヤは慌てて立ち上がり、周りを見回した。声は先程光から聞こえていた声とよく似ていた。もしかしたら消えたと思っていたのは勘違いだったのだろうか?
「どこを見てる」
先程の声が足元の方から聞こえた気がした。
「え?」
タクヤは不思議に思い、自分の足元を見下ろした。すると、そこには真っ黒な猫が1匹ちょこんと座っていたのだった。
「は? 猫~?」
一体どこから現れたのか、いつからいたのか、全く気が付かなかった。猫とはいえども気配を感じなかったのだ。
「猫で悪いか? お前が姿を変えろと言ったから変えてやったんだぞ」
なんと、その座っている猫がタクヤを見上げながらムスッとした声で話したのだ。
「ええっ!? ま、まさか、さっきの?」
猫が喋ったことと、先程の光が変化したのかと、タクヤは驚いて声を上げる。そしてその黒い猫の腰を両手で掴むと、ひょいと持ち上げじっと見つめたのだった。
「おい、持ち上げるな」
猫は不機嫌そうな顔でタクヤをじっと睨み付けるように見ている。
喋る猫とその顔に思わず可愛く見えてきてしまった。
「俺はてっきり人間になるのかと……。何こんなに可愛くなっちゃって」
笑顔になるとタクヤは楽しそうに猫に向かって話し掛ける。猫の話は全く聞いていないらしい。
「悪いか?……どうでもいいが、早く降ろしてくれないか?」
再び猫が不機嫌そうな顔で答える。余程抱き上げられているのが気に入らないのだろう。
「え、ちょっと待って……。えっと、どこか……」
やっと猫の話を理解したタクヤは猫を抱きかかえるようにして持ち変えると、辺りをきょろきょろと見回した。
「おっ、いいもの発見」
そう言って猫を抱いたまま歩き出したのだった。
「おい、どこへ行く?」
猫はタクヤの行動の意図が分からず、不機嫌な顔のままタクヤを見上げながら声を掛ける。
「ちょっと待って。すぐだから」
タクヤは池の周りを伝うようにぐるっと歩く。そして、
「はい」
池のほとりにあった大きな岩のような石の上に猫を置いた。
タクヤは猫と目の高さを合わす為、猫を置ける場所を探していたのだった。そしてこの石を見つけ、移動したのだ。
「お前、ほんとに変な奴だな」
「そう?」
表情ではよく分からなかったが、口調で猫が呆れているのはタクヤにも分かり、不思議そうに首を傾げる。
「まぁいい。……それで、お前の聞きたいことというのは何だ?」
「そうっ! あのさ、俺の師匠の居場所を教えて欲しいんだっ!」
猫の言葉でハッと思い出し声を上げると、タクヤは猫の目線に合わせるように少し屈み、再び手を合わせて猫に向かって頼み込んだ。
「お前の師匠? ふーん……そんなこと聞いてどうするんだ? 会いに行くのか?」
猫は目を細めながら面倒臭そうに問い返す。
「えっ……そりゃ、会いたい。もしそれが分からないなら、せめて生きてるかどうかだけでも知りたい」
タクヤは俯き、きゅっと唇を噛んだ。ここまできてもう諦めたくはなかった。
「そうか……。教えてやってもいいが、すぐには無理だな。明日の朝、もう一度ここへ来い。日が出てすぐだ。そしたら教えてやる」
猫は大きく目を開くと、じっとタクヤを見つめながら静かに話した。
「分かった。じゃあ明日また来る。約束だからなっ! 絶対だぞっ!」
タクヤはそう言って猫を石から降ろすと、猫に手を振り、そして池を後にした。
☆☆☆
猫と別れた後、タクヤは行きとは違い、軽い足取りで森の中を歩いていた。
漸く師匠のことが分かるかもしれない。そんな期待がタクヤの中で膨らんでいたのだった。
(師匠……)
思わず笑みが零れる。こんなにも明日が待ち遠しく感じたことはなかった。少しも不安や疑いがないわけではないが、今はただ、信じたい気持ちでいっぱいであった。
そしてこのことを早くイズミに伝えたくて、タクヤは足早に歩き始めた。
歩き始めて数分が経った頃、どこからか誰かの声のような、何か聞こえた気がして、タクヤは「ん?」と呟き足を止める。そしてじっと耳を澄ましてみる。相変わらず生き物の気配も鳴き声もしないが、微かにどこからか誰かの声が聞こえる気がする。タクヤは更に意識を集中させる。
「助けてっ!」
すると、少し離れた場所から今度ははっきりと女の子の声が聞こえたのだった。
(え……?)
確かに女の子の声が聞こえる。しかし、タクヤは別の『何か』を感じていた。
なんだろう? 前にもあったようなこの感じ……。
「誰かっ!!」
首を傾げ頭を悩ませていると、ふと向かって左側から女の子の声が聞こえた。今度はすぐ近くだ。タクヤはハッとしてそちらを見る。すると高い草が生い茂った中からガサガサっといった音と共に、少女が飛び出してきたのだった。
「助けてっ!」
少女はタクヤの顔を見た瞬間、ハッとすると涙目になりながら必死に助けを求めてきた。
「えっ!?」
タクヤは先程感じた『何か』が少女を見た瞬間に脳裏に浮かんだのだった。それはデジャブ。そう、今朝見た夢の内容にそっくりなのだ。しかも今目の前にいる少女は夢で会ったあの少女であった。黒く長い髪に青く透き通った大きな瞳。そして、少しだけイズミに似ているその顔……。あれは予知夢だったのか?
まさか、と思いながらタクヤは少女に声を掛ける。
「君は……」
そう切り出した途端、目の前にいる少女はキッと顔を上げるとタクヤの腕を掴み、走り出したのだった。呆然としていたタクヤはそのまま連れられるように一緒に走り出す。
「魔物がっ……すぐ近くまでっ……」
少女は息を切らしながらも走りながらタクヤに答える。
「魔物? 数は? どれくらいいる?」
少女の話に『魔物?』と首を傾げるが、本当に今朝見た夢は予知夢だったのかもしれないと、少女に腕を掴まれ走りながらもタクヤは冷静に問い掛ける。そして、少女は息切れしながらもちらりとタクヤを見て、
「はぁ……はぁ、たくさん……です」
と答えたのだった。タクヤに会う前から走り続けていたと見られ、随分と疲労が感じられる。言葉が途切れ途切れになっている。
「そっか……分かった」
そう言うと、自分の腕を掴む少女の手を離し、タクヤはその場でぴたりと立ち止まった。そして来た道を振り返る。
「っ!? 何してるんですかっ! 早く逃げないとっ!」
一緒に立ち止まった少女は慌てふためきながら声を上げる。
「大丈夫。君は先に行ってて。魔物は俺が倒すから」
タクヤは少女を見ることなくにやりと口元に笑みを浮かべる。
「倒すって……そんなの無理よっ!」
真っ青な顔になりながら少女が叫ぶ。しかし、タクヤは少女に向かって落ち着いた声で話す。
「大丈夫。任せて、俺は勇者だから」
少女に背中を向けたまま手を上げてピースをしてみせた。
「勇者? あなた勇者なんですか?」
驚いて目を丸くしながら少女がまじまじとタクヤを見つめる。
「見えないかな?」
余裕なのか、タクヤは少女を振り返りきょとんとする。
「はぁ……ちょっと……」
申し訳なさそうな顔で少女はぼそりと答えた。
「そうかなぁ? なんか前にも言われたけど、俺ってそんなに勇者っぽくないのかな……」
呑気に首を傾げながらタクヤはそんなことを呟いている。
「あの――」
「あ、君は危ないから、早く森を出た方がいいよ」
少女が何か言い掛けた時、タクヤはハッと思い出したように少女に早く逃げるように促した。
「あの、でも……キャーッ!!」
再び少女が何かを言いかけた瞬間、タクヤのすぐ後ろから大量の魔物が現れ、少女は悲鳴を上げた。
「げっ!」
すっかり注意力散漫になってしまっていたタクヤは、魔物の気配に気が付いておらず、少しだけ焦ってぎょっとする。しかし、すぐに念を込め魔剣を出した。そして今朝見た夢を再び思い出し、魔剣を出すことができたことにほっとしてもいた。
「キャーッ!!」
しかし、少女の後ろ方向からも沢山の魔物が現れ、少女は悲鳴を上げながらタクヤに駆け寄った。あっという間に囲まれてしまっていた。
「ちっ、しょうがねぇな。……俺から離れないようにね」
舌打ちをして魔物の方を眺めると、タクヤは魔剣を構え、少女を庇うようにして立つ。そしてじっと魔物の動きを窺う。
「はいっ」
少女は言われた通り、タクヤの背後に回るとぎゅっと手を握り締める。しっかりと返事をしたものの、顔は恐怖で青ざめていた。これだけの数の魔物を見たのは初めてなのだろう。怖くないはずはなかった。
そして魔物が一斉に2人に襲い掛かってきた。
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