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第6章『ペンダント』
6話
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森の奥へと進むにつれ、段々険しくなっていった。陽の光はあまり届いていないが目が慣れてきたのか、さっきよりも周りが見えるようになってきていた。しかし、相変わらず見たこともないような木や草花が覆い茂っており、その間を何かの動物のようなものがすり抜けていくのも感じた。
「すっげぇな。これ全部魔物かよ……。こんな魔物見たことねぇ。一気にぶった切ってやりてぇな」
タクヤは魔剣を右手に持ったまま、周りを見回しながら鬱陶しそうに話す。
「阿呆。そんなことしたら『大事な物』とやらは見つからなくなるぞ」
イズミは呆れた顔でタクヤを見る。
「そっか……。じゃあさ、取り戻したらこの森、ぶっ潰しちまおうぜ」
タクヤはイズミに呆れられながらも楽しそうに話す。
「……好きにしろ。そういえばお前、まさかとは思うが、その魔物の特徴とか、あのガキから聞いてきたんだろうな」
イズミは呆れた顔のままタクヤを見た。
「あ……」
「『あ』じゃねぇよっ! またかお前っ。このすっとこどっこい。間抜けっ、アホ、猿っ」
「だって……」
イズミに怒鳴られ、タクヤは泣きそうな顔をしながら何とか許しを請おうとじっと上目遣いで見つめる。
「だってじゃねぇっ。お前なんかもういい。死ね」
「なっ!? そんなに言うことないだろっ!」
イズミに冷たく言われ、今度は怒り出す。
「うるせぇ役立たず」
「何だよっ。……どうせ役立たずだよ、どうもすみませんでしたー」
タクヤは開き直ってイズミを見ることもなく、ムッとしながら話した。
「まったくだ。お前が言い出したんだぞ。俺は知らないからな」
「分かってるよ。探せばいいんだろっ」
タクヤはムキになって大股で歩き始めた。
イズミはそんなタクヤを呆れながら横目で見ると、大きく溜め息をつき、仕方なくタクヤの後に続いた。
☆☆☆
2人が歩いていると、急にふと草木が途切れた場所へと着いた。
そこは広場のようになっていて、その中心には一本の大きな、そして何とも言い様のない不気味な太い木があった。
「すっげー。でっけぇ木だなぁ……」
タクヤは見上げるほどのその大きな木を前に、思わず感嘆の声を上げた。
「待て。こいつはたぶん、この森の中心だ。……何かある」
タクヤがその木に近付こうとした瞬間、イズミが呼び止めた。
「何かって? ……そういえば、この辺は木もないけど、変な動物もいないし、魔物の気配もないな……。何でだろ」
イズミに呼び止められ、タクヤは辺りを見回す。
「…………」
イズミもタクヤの言葉で同じように周りをじっと見つめる。確かにこの辺りからは魔物の気が感じられない。そして、中心にある巨大な木からは今までに感じたことのない気を感じた。
「……こいつは一体何なんだ……」
イズミは不審に思い、更に気を集中させる。
「近付いてみれば何か分かるんじゃない?」
タクヤは何やら考えると、先程イズミに止められたにもかかわらず、一人、中心の木に向かって歩き出した。
「おい、あんまり近付くな」
再びイズミが釘をさす。
「分かってるって。大丈夫大丈夫」
そう言ってタクヤは魔剣をしまい、ゆっくり木へと近付いた。
木の下まで来たが、何も起こらない……。
そしてタクヤはその巨大な木を見上げた。
「……この木の上の方はどうなってるんだろうな」
木の下から上を見上げるが、太く大きな幹がずっと続いていることしか分からない。他の木のように枝は見えず、当然葉も見えない。恐らくもっと上の方にはそれらがあるのだろうが、その更に上は暗くてどうなっているのか全く見えなかった。周りは辛うじて陽の光がうっすら漏れているのにもかかわらず、この木の上だけが全く陽が差してこない。
「こんなでかい木、見たことねぇや……」
タクヤはもう一度その太い幹に視線を戻し、ぼそりと独り言を呟く。
そしてそっと木に触れてみた――。
バシィッ!
タクヤが木に触れた瞬間、何かが当たったような音と共に、タクヤの手元が突然光り出した。
「うわぁっ! な、何だこれっ!」
タクヤは何が起こったのか分からず、光っている自分の右手を見て声を上げた。
そしてイズミも光を見た瞬間、何かを感じ取り、急いでタクヤのもとへと駆け寄る。
タクヤがどうしたらいいか分からずに、ただ自分の右手をじっと見ていると、すぐそばまで来ていたイズミが左手でタクヤの腕を強く掴んだ。
「っ!?」
突然腕を掴まれ、ハッとして横を見る。
すると、そこにはいつになく真剣な表情をしたイズミがいた。
「イズミ」
「……お前の剣が反応している……」
タクヤが声を掛けたが、イズミは独り言のようにぼそりと一言だけ話した。
「え? 『魔剣』が?」
タクヤはイズミをじっと見つめながら、訝しげな顔をした。
「そうだ。……やはりこの木は何かある。お前の剣は何か感じたんだろう。だから光って知らせたんだ……」
イズミはそう言うとスッと手を離した。
「…………」
タクヤはイズミが手を離すと、そのまま自分の右手をじっと見つめた。
「……おい、そいつから離れろ」
「ちょっと待ったっ!」
言われた瞬間、イズミのやろうとしていることを感じて、急いで止める。
「邪魔をするな」
しかし、イズミは真っ直ぐ木を見つめたまま、冷たく言い返す。
「ちょっと待てってっ! さっきイズミが言ったんだぞっ。そんなことしたら『大事な物』が見つからなくなるってっ!」
「…………」
タクヤの言葉でイズミは何か考えるような表情をして、木に向けて翳していた自分の左手をゆっくり下ろした。
イズミが手を下ろしたのを確認すると、タクヤはほっとした表情を見せ、もう一度自分の右手をじっと見つめる。
「コイツが何かを感じたんだったら、何か分かるのかもしれない」
そう言ってタクヤは念を込め、魔剣を出した。
「…………」
イズミは少し離れると、黙ってタクヤを見つめる。
タクヤは両手で魔剣をしっかりと握り締め、巨大な木に向け構えた。すると突然、魔剣を伝ってビリビリと手が痺れ始めた。
「うわっ!」
「どうしたっ?」
タクヤが声を上げたのに反応してイズミが駆け寄る。
「分かんない……。魔剣が反応してるみたいだ……。ビリビリする。こんなこと初めてだ」
じっと魔剣を見つめながらすぐ隣まで来たイズミに答える。
イズミは巨大な木と魔剣とを交互に見た。そして顎に手を当て何やら考え込みだした。
「どうしよう……」
タクヤはどうしていいか分からず、魔剣を握り締めたままイズミに答えを求めるようにじっと見つめる。
「……お前な、自分がやるって言ったんだから、少しは自分で考えろよ」
考え込んでいたイズミだったが、タクヤの言葉に脱力し、呆れた顔でタクヤを見た。
「だって分かんないもん。こういうことはイズミのが得意じゃんか」
タクヤは少し顔を赤らめながらも、開き直って口を尖らせる。
「あぁ、そうだったな。お前は頭ん中まで筋肉でできてるから、自分で考えろなんて酷だったな。俺が悪かった」
「何だとぉーっ!」
イズミが無表情に淡々と話すのを、タクヤは魔剣を握り締めたまま顔を真っ赤にして怒鳴る。
「猿のが賢いしな」
「ちくしょおぉーっ!」
イズミが鼻で笑いながら冷ややかに言うが、反論する言葉が見つからず、タクヤはただ悔しそうに叫ぶだけだった。
「ったく……。そのままじっとしてろ」
イズミは大きく溜め息をつくと、タクヤの右腕を自分の左手で掴んだ。
「どうすんの?」
タクヤはきょとんとした表情でイズミを見下ろす。
「うるさい。ちょっと黙ってろ」
「ちぇー、何なんだよ……」
イズミがタクヤを見ることもなく鬱陶しそうに答えるのを、それ以上何も言えずタクヤは口を尖らせた。
「すっげぇな。これ全部魔物かよ……。こんな魔物見たことねぇ。一気にぶった切ってやりてぇな」
タクヤは魔剣を右手に持ったまま、周りを見回しながら鬱陶しそうに話す。
「阿呆。そんなことしたら『大事な物』とやらは見つからなくなるぞ」
イズミは呆れた顔でタクヤを見る。
「そっか……。じゃあさ、取り戻したらこの森、ぶっ潰しちまおうぜ」
タクヤはイズミに呆れられながらも楽しそうに話す。
「……好きにしろ。そういえばお前、まさかとは思うが、その魔物の特徴とか、あのガキから聞いてきたんだろうな」
イズミは呆れた顔のままタクヤを見た。
「あ……」
「『あ』じゃねぇよっ! またかお前っ。このすっとこどっこい。間抜けっ、アホ、猿っ」
「だって……」
イズミに怒鳴られ、タクヤは泣きそうな顔をしながら何とか許しを請おうとじっと上目遣いで見つめる。
「だってじゃねぇっ。お前なんかもういい。死ね」
「なっ!? そんなに言うことないだろっ!」
イズミに冷たく言われ、今度は怒り出す。
「うるせぇ役立たず」
「何だよっ。……どうせ役立たずだよ、どうもすみませんでしたー」
タクヤは開き直ってイズミを見ることもなく、ムッとしながら話した。
「まったくだ。お前が言い出したんだぞ。俺は知らないからな」
「分かってるよ。探せばいいんだろっ」
タクヤはムキになって大股で歩き始めた。
イズミはそんなタクヤを呆れながら横目で見ると、大きく溜め息をつき、仕方なくタクヤの後に続いた。
☆☆☆
2人が歩いていると、急にふと草木が途切れた場所へと着いた。
そこは広場のようになっていて、その中心には一本の大きな、そして何とも言い様のない不気味な太い木があった。
「すっげー。でっけぇ木だなぁ……」
タクヤは見上げるほどのその大きな木を前に、思わず感嘆の声を上げた。
「待て。こいつはたぶん、この森の中心だ。……何かある」
タクヤがその木に近付こうとした瞬間、イズミが呼び止めた。
「何かって? ……そういえば、この辺は木もないけど、変な動物もいないし、魔物の気配もないな……。何でだろ」
イズミに呼び止められ、タクヤは辺りを見回す。
「…………」
イズミもタクヤの言葉で同じように周りをじっと見つめる。確かにこの辺りからは魔物の気が感じられない。そして、中心にある巨大な木からは今までに感じたことのない気を感じた。
「……こいつは一体何なんだ……」
イズミは不審に思い、更に気を集中させる。
「近付いてみれば何か分かるんじゃない?」
タクヤは何やら考えると、先程イズミに止められたにもかかわらず、一人、中心の木に向かって歩き出した。
「おい、あんまり近付くな」
再びイズミが釘をさす。
「分かってるって。大丈夫大丈夫」
そう言ってタクヤは魔剣をしまい、ゆっくり木へと近付いた。
木の下まで来たが、何も起こらない……。
そしてタクヤはその巨大な木を見上げた。
「……この木の上の方はどうなってるんだろうな」
木の下から上を見上げるが、太く大きな幹がずっと続いていることしか分からない。他の木のように枝は見えず、当然葉も見えない。恐らくもっと上の方にはそれらがあるのだろうが、その更に上は暗くてどうなっているのか全く見えなかった。周りは辛うじて陽の光がうっすら漏れているのにもかかわらず、この木の上だけが全く陽が差してこない。
「こんなでかい木、見たことねぇや……」
タクヤはもう一度その太い幹に視線を戻し、ぼそりと独り言を呟く。
そしてそっと木に触れてみた――。
バシィッ!
タクヤが木に触れた瞬間、何かが当たったような音と共に、タクヤの手元が突然光り出した。
「うわぁっ! な、何だこれっ!」
タクヤは何が起こったのか分からず、光っている自分の右手を見て声を上げた。
そしてイズミも光を見た瞬間、何かを感じ取り、急いでタクヤのもとへと駆け寄る。
タクヤがどうしたらいいか分からずに、ただ自分の右手をじっと見ていると、すぐそばまで来ていたイズミが左手でタクヤの腕を強く掴んだ。
「っ!?」
突然腕を掴まれ、ハッとして横を見る。
すると、そこにはいつになく真剣な表情をしたイズミがいた。
「イズミ」
「……お前の剣が反応している……」
タクヤが声を掛けたが、イズミは独り言のようにぼそりと一言だけ話した。
「え? 『魔剣』が?」
タクヤはイズミをじっと見つめながら、訝しげな顔をした。
「そうだ。……やはりこの木は何かある。お前の剣は何か感じたんだろう。だから光って知らせたんだ……」
イズミはそう言うとスッと手を離した。
「…………」
タクヤはイズミが手を離すと、そのまま自分の右手をじっと見つめた。
「……おい、そいつから離れろ」
「ちょっと待ったっ!」
言われた瞬間、イズミのやろうとしていることを感じて、急いで止める。
「邪魔をするな」
しかし、イズミは真っ直ぐ木を見つめたまま、冷たく言い返す。
「ちょっと待てってっ! さっきイズミが言ったんだぞっ。そんなことしたら『大事な物』が見つからなくなるってっ!」
「…………」
タクヤの言葉でイズミは何か考えるような表情をして、木に向けて翳していた自分の左手をゆっくり下ろした。
イズミが手を下ろしたのを確認すると、タクヤはほっとした表情を見せ、もう一度自分の右手をじっと見つめる。
「コイツが何かを感じたんだったら、何か分かるのかもしれない」
そう言ってタクヤは念を込め、魔剣を出した。
「…………」
イズミは少し離れると、黙ってタクヤを見つめる。
タクヤは両手で魔剣をしっかりと握り締め、巨大な木に向け構えた。すると突然、魔剣を伝ってビリビリと手が痺れ始めた。
「うわっ!」
「どうしたっ?」
タクヤが声を上げたのに反応してイズミが駆け寄る。
「分かんない……。魔剣が反応してるみたいだ……。ビリビリする。こんなこと初めてだ」
じっと魔剣を見つめながらすぐ隣まで来たイズミに答える。
イズミは巨大な木と魔剣とを交互に見た。そして顎に手を当て何やら考え込みだした。
「どうしよう……」
タクヤはどうしていいか分からず、魔剣を握り締めたままイズミに答えを求めるようにじっと見つめる。
「……お前な、自分がやるって言ったんだから、少しは自分で考えろよ」
考え込んでいたイズミだったが、タクヤの言葉に脱力し、呆れた顔でタクヤを見た。
「だって分かんないもん。こういうことはイズミのが得意じゃんか」
タクヤは少し顔を赤らめながらも、開き直って口を尖らせる。
「あぁ、そうだったな。お前は頭ん中まで筋肉でできてるから、自分で考えろなんて酷だったな。俺が悪かった」
「何だとぉーっ!」
イズミが無表情に淡々と話すのを、タクヤは魔剣を握り締めたまま顔を真っ赤にして怒鳴る。
「猿のが賢いしな」
「ちくしょおぉーっ!」
イズミが鼻で笑いながら冷ややかに言うが、反論する言葉が見つからず、タクヤはただ悔しそうに叫ぶだけだった。
「ったく……。そのままじっとしてろ」
イズミは大きく溜め息をつくと、タクヤの右腕を自分の左手で掴んだ。
「どうすんの?」
タクヤはきょとんとした表情でイズミを見下ろす。
「うるさい。ちょっと黙ってろ」
「ちぇー、何なんだよ……」
イズミがタクヤを見ることもなく鬱陶しそうに答えるのを、それ以上何も言えずタクヤは口を尖らせた。
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