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第6章『ペンダント』
4話
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しばらく歩くと黒い大きな塊のような森が見えてきた。まるで森自体が魔物のようにも見えてくる。高い木が覆い茂り、生き物を寄せ付けない雰囲気さえある。まだ明るい時間だというのに中は太陽の光が届かないのか、暗く何も見えない何とも不気味な森であった。
タクヤは森を眺めながらサトルの『大事な物』を見つけられるか、という不安にかられそうになっていた。
「すっげぇ気味悪ぃ……」
森の前まで辿り着くと、タクヤはその大きな森を見上げながらぼそりと呟いた。不安と恐怖に襲われそうになる。
魔物は平気だったが、生き物ではない『なにか』が苦手なタクヤであった。この魔物の森はそんな雰囲気を感じさせていた。
「よしっ」
しかし、タクヤはパンッと一発自分の頬を両手で打つと気合いを入れ、そのまま森の中へと入って行った。
森に入った瞬間、まるで別次元にでも来てしまったかのようで、タクヤは緊張しながらも先に進んでいく。そしてどこからか動物か鳥のような鳴き声が聞こえてきてびくりと体を震わせた。
「うぇー、何の鳴き声だよ……」
眉間に皺を寄せながらも、ゆっくり前へと進む。いつ、どこから魔物が現れるか分からない。慎重に気を張り詰めて歩く。そして、ゆっくりと念を込め『魔剣』を出す。
風のせいなのか、葉がカサカサと鳴っている。しかし、タクヤ自身、風を感じることはできない。そして、未だ何かの鳴き声も聞こえてくる。
だんだん五感が狂わされていくのを感じた。森の中は光があまり届かず暗く、近くを見るのが精一杯の状況だ。葉の音や鳴き声のようなもののせいで聴覚もおかしくなっている気がしていた。なんとも言い様のない臭いもあり嗅覚でさえおかしい。そして、肌に感じる生暖かい空気……。
なんとか耐えようと気を張り詰めるが、だんだん頭もボーっとしてきていた。
そして、ふっと気が緩みかけた瞬間――。
「うわぁっ!」
何かが腕に絡み付いてきて、思わず『魔剣』を落としてしまう。
「くっ……」
それは木の枝のような物だったが、まるで生きているかのようにぐにゃりと曲がり、今度はタクヤの首に巻き付き締め上げる。空いている方の手で必死に引き剥がそうとするが、いくら剥がそうとしても全く動かない。その木の枝のようなものは容赦なくタクヤの腕と首を絞めていく……。
段々意識が遠くなっていくのを感じた。もうダメかもしれないと思った時、あの少年の悲しげな顔が浮かんだ。そしてもう一人。
「イズミ……」
意識が途切れそうになった瞬間、ぼそりと声に出す。そして――。
「ギャッ!」
何かが叫ぶような声でふっと意識が戻る。そして、タクヤの首と腕を締め付けていたものも次の瞬間には消えていた。ゴホゴホとタクヤは咳き込みながら首を摩る。
「ったく、単細胞無鉄砲バカ」
ぼんやりと声の方向を見る。
「……イズミっ」
やっとその相手を確認すると、なんともいえない安堵感を感じた。
「まったく、何も調べないで行くヤツがいるかっ。だからこんな目に遭うんだぞ。お前、よく今まで死ななかったよな」
呆れた表情でイズミはタクヤを見上げる。
「……イズミ、どうして――」
タクヤはイズミの言葉を聞いていないのか、怒ることもなく、呆然と合点がいかない表情をしている。
「――この森は、森全体が魔物化しているんだ。ここにある植物や動物全部、魔物だと思え」
イズミはタクヤの質問には答えず、淡々と話した。
「……まぁいいや。ところでその話、誰に聞いてきたんだ?」
タクヤはぼそりと独り言をこぼすと、すぐにいつもと変わらぬ様子でイズミに話しかけた。
「あぁ、あの宿の管理人に」
イズミはタクヤから目を逸らし、無表情に答えた。
「ふぅーん。……管理人って、サトルのお母さん?」
「?」
タクヤの言っていることが理解できず、イズミは不思議そうにタクヤを見つめ返すだけであった。
「ああっ、えっと、サトルは分かるよな? あの宿屋で受付してた女の人いたじゃん? その人がサトルのお母さん」
イズミが不思議そうな顔をしていることに気付き、イズミは自分とサトルの会話を聞いていなかったことを思い出すと、タクヤはなんとか説明をした。
「ああ、そうだ」
イズミもやっと納得した表情をすると、一言だけ答えるとそのまま森の奥に向かって歩き始めた。
「え……ちょっと待てよっ」
イズミに置いていかれそうになり、慌てて追いかける。
「なぁ、なんで来てくれたの? あんなに嫌がってたのに」
イズミに追い付くと再び同じ質問をする。しかし、今度はなんだかとても嬉しそうに話す。
「別に。嫌がってたわけじゃねぇよ。まぁ、お前の場合、死んでも俺についてきそうだからな。そうなったら、生きてる時より厄介になるから、お前に死なれると困るんだよ」
イズミは表情も変えずに淡々と答える。
「もうっ何だよそれっ! ……もう、普通に心配とかできないかなぁ。意地っ張りなんだもんな」
タクヤは頬を膨らませながら独り言をこぼした。
「あぁ? 何か言ったか?」
「なんでもないっ」
イズミに鋭く睨まれ、知らん顔で誤魔化す。
「ふんっ」
イズミはタクヤを睨みながらも、落ち着いた表情になっていた。
「へへっ」
タクヤはイズミのそんな表情に気付いてはいなかったのだが、再び嬉しそうにニヤついていた。
そんなタクヤを横目で見て、イズミは嫌そうな表情になる。そしてタクヤから一歩距離を置く。
「ああっ! また離れてるっ」
イズミが自分から離れたことに気付き、怒りながらイズミに近付く。
「気持ち悪いから寄るなっ。虫っ」
「また虫って言ったぁっ! 失礼なっ。誰が虫だっ!」
タクヤはムッとしながらも今度はそれ以上は近付こうとしなかった。
「…………」
以前タクヤにされたことを思い出して、イズミは警戒の眼差しでタクヤを見ている。
「もうっ、いつか仕返ししてやる」
タクヤはぼそりと1人ごちるとイズミを軽く睨み、そのまま歩き出した。
そして、再び森の奥へと歩き始めた時、イズミの足元を何かがスッと通った。
ハッとして、足元を見回すとリスに似た小動物であった。
「ちっ」
イズミは舌打ちしながらも少し安心する。そして、今まで張り詰めていたものが一瞬だけ途切れた。その瞬間――。何かがイズミの腕に巻き付いた。
「っ!?」
ハッとして気付いた時にはそれはイズミの両腕に巻き付き、そのままイズミは引き摺り上げられるようにして宙へと浮いた。
「イズミっ!」
タクヤが叫ぶが、その声も深い森に響くことなく吸い込まれてしまった。
タクヤは森を眺めながらサトルの『大事な物』を見つけられるか、という不安にかられそうになっていた。
「すっげぇ気味悪ぃ……」
森の前まで辿り着くと、タクヤはその大きな森を見上げながらぼそりと呟いた。不安と恐怖に襲われそうになる。
魔物は平気だったが、生き物ではない『なにか』が苦手なタクヤであった。この魔物の森はそんな雰囲気を感じさせていた。
「よしっ」
しかし、タクヤはパンッと一発自分の頬を両手で打つと気合いを入れ、そのまま森の中へと入って行った。
森に入った瞬間、まるで別次元にでも来てしまったかのようで、タクヤは緊張しながらも先に進んでいく。そしてどこからか動物か鳥のような鳴き声が聞こえてきてびくりと体を震わせた。
「うぇー、何の鳴き声だよ……」
眉間に皺を寄せながらも、ゆっくり前へと進む。いつ、どこから魔物が現れるか分からない。慎重に気を張り詰めて歩く。そして、ゆっくりと念を込め『魔剣』を出す。
風のせいなのか、葉がカサカサと鳴っている。しかし、タクヤ自身、風を感じることはできない。そして、未だ何かの鳴き声も聞こえてくる。
だんだん五感が狂わされていくのを感じた。森の中は光があまり届かず暗く、近くを見るのが精一杯の状況だ。葉の音や鳴き声のようなもののせいで聴覚もおかしくなっている気がしていた。なんとも言い様のない臭いもあり嗅覚でさえおかしい。そして、肌に感じる生暖かい空気……。
なんとか耐えようと気を張り詰めるが、だんだん頭もボーっとしてきていた。
そして、ふっと気が緩みかけた瞬間――。
「うわぁっ!」
何かが腕に絡み付いてきて、思わず『魔剣』を落としてしまう。
「くっ……」
それは木の枝のような物だったが、まるで生きているかのようにぐにゃりと曲がり、今度はタクヤの首に巻き付き締め上げる。空いている方の手で必死に引き剥がそうとするが、いくら剥がそうとしても全く動かない。その木の枝のようなものは容赦なくタクヤの腕と首を絞めていく……。
段々意識が遠くなっていくのを感じた。もうダメかもしれないと思った時、あの少年の悲しげな顔が浮かんだ。そしてもう一人。
「イズミ……」
意識が途切れそうになった瞬間、ぼそりと声に出す。そして――。
「ギャッ!」
何かが叫ぶような声でふっと意識が戻る。そして、タクヤの首と腕を締め付けていたものも次の瞬間には消えていた。ゴホゴホとタクヤは咳き込みながら首を摩る。
「ったく、単細胞無鉄砲バカ」
ぼんやりと声の方向を見る。
「……イズミっ」
やっとその相手を確認すると、なんともいえない安堵感を感じた。
「まったく、何も調べないで行くヤツがいるかっ。だからこんな目に遭うんだぞ。お前、よく今まで死ななかったよな」
呆れた表情でイズミはタクヤを見上げる。
「……イズミ、どうして――」
タクヤはイズミの言葉を聞いていないのか、怒ることもなく、呆然と合点がいかない表情をしている。
「――この森は、森全体が魔物化しているんだ。ここにある植物や動物全部、魔物だと思え」
イズミはタクヤの質問には答えず、淡々と話した。
「……まぁいいや。ところでその話、誰に聞いてきたんだ?」
タクヤはぼそりと独り言をこぼすと、すぐにいつもと変わらぬ様子でイズミに話しかけた。
「あぁ、あの宿の管理人に」
イズミはタクヤから目を逸らし、無表情に答えた。
「ふぅーん。……管理人って、サトルのお母さん?」
「?」
タクヤの言っていることが理解できず、イズミは不思議そうにタクヤを見つめ返すだけであった。
「ああっ、えっと、サトルは分かるよな? あの宿屋で受付してた女の人いたじゃん? その人がサトルのお母さん」
イズミが不思議そうな顔をしていることに気付き、イズミは自分とサトルの会話を聞いていなかったことを思い出すと、タクヤはなんとか説明をした。
「ああ、そうだ」
イズミもやっと納得した表情をすると、一言だけ答えるとそのまま森の奥に向かって歩き始めた。
「え……ちょっと待てよっ」
イズミに置いていかれそうになり、慌てて追いかける。
「なぁ、なんで来てくれたの? あんなに嫌がってたのに」
イズミに追い付くと再び同じ質問をする。しかし、今度はなんだかとても嬉しそうに話す。
「別に。嫌がってたわけじゃねぇよ。まぁ、お前の場合、死んでも俺についてきそうだからな。そうなったら、生きてる時より厄介になるから、お前に死なれると困るんだよ」
イズミは表情も変えずに淡々と答える。
「もうっ何だよそれっ! ……もう、普通に心配とかできないかなぁ。意地っ張りなんだもんな」
タクヤは頬を膨らませながら独り言をこぼした。
「あぁ? 何か言ったか?」
「なんでもないっ」
イズミに鋭く睨まれ、知らん顔で誤魔化す。
「ふんっ」
イズミはタクヤを睨みながらも、落ち着いた表情になっていた。
「へへっ」
タクヤはイズミのそんな表情に気付いてはいなかったのだが、再び嬉しそうにニヤついていた。
そんなタクヤを横目で見て、イズミは嫌そうな表情になる。そしてタクヤから一歩距離を置く。
「ああっ! また離れてるっ」
イズミが自分から離れたことに気付き、怒りながらイズミに近付く。
「気持ち悪いから寄るなっ。虫っ」
「また虫って言ったぁっ! 失礼なっ。誰が虫だっ!」
タクヤはムッとしながらも今度はそれ以上は近付こうとしなかった。
「…………」
以前タクヤにされたことを思い出して、イズミは警戒の眼差しでタクヤを見ている。
「もうっ、いつか仕返ししてやる」
タクヤはぼそりと1人ごちるとイズミを軽く睨み、そのまま歩き出した。
そして、再び森の奥へと歩き始めた時、イズミの足元を何かがスッと通った。
ハッとして、足元を見回すとリスに似た小動物であった。
「ちっ」
イズミは舌打ちしながらも少し安心する。そして、今まで張り詰めていたものが一瞬だけ途切れた。その瞬間――。何かがイズミの腕に巻き付いた。
「っ!?」
ハッとして気付いた時にはそれはイズミの両腕に巻き付き、そのままイズミは引き摺り上げられるようにして宙へと浮いた。
「イズミっ!」
タクヤが叫ぶが、その声も深い森に響くことなく吸い込まれてしまった。
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