上 下
32 / 198
第5章『要求する魔物』

12話

しおりを挟む
 朝食を済ますと、すぐに用意をしてアンナ達にお礼を言い、2人は再び旅に出た。
「いい人達だったね。ご飯も美味しかったし」
 タクヤは背伸びをしながら嬉しそうに話す。
 しかし、イズミは旅立つ前にアンナの祖母に言われた言葉が気になっていた。

『あの子、気をつけておやり。嫌な卦が出ておる。どうなるかは分からないが、何か、不吉なものが近づいておる。そばにいておやり。お前さんが一緒なら大丈夫だろう。昨日も言ったが、お前さんはあの子にとってプラスの存在になっておる。しっかりするんだよ』

(……あれは、どういう意味なんだ……一体……)
 イズミは嫌な予感がしていた。

「どうかしたのか?」
 イズミの様子に気が付き、タクヤが心配そうに覗き込む。
「……いや、何でもない」
 無表情にすっと顔を背ける。
「そう? ならいいけど……。体調でも悪いのか?」
「あのなぁ、お前こそすぐ何でも『体調悪いのか』とか言うのやめろよ」
 イズミはムッとしながらタクヤを軽く睨んだ。
「だってイズミ、体弱そうなんだもん」
 言い終わるか終わらないかという時に、ヒュッと肩辺りに足が飛んできた。
 タクヤは反射的に避け、そして驚きながらもイズミを睨む。
「あっぶねぇなっ。そんなに怒ることないだろっ」
「うるせぇ猿。誰が体が弱いって?」
 イズミは足を戻すと横目でタクヤを睨んだ。
「もうっ、睨むなよ……。逞しそうって言われるよりいいだろっ?」
 タクヤはイズミに睨まれ少し怯えながらも、すぐに強気に言い返す。
「…………」
 イズミは言われた言葉で少し複雑な気持ちになり、眉間に皺を寄せる。
「大丈夫っ。イズミが強いことは知ってるから。弱いって言ってんじゃないんだからっ」
「お前は激弱……」
「誰がだよっ!」
 タクヤは嬉しそうに話したが、イズミに馬鹿にされ顔を赤くしながら怒る。
 イズミはそんなタクヤを面白そうに眺める。しかしまた不安な気持ちが頭をよぎり、真剣な表情でじっとタクヤを見上げた。
「何? 見惚れちゃう程いい男?」
 その様子を見て、タクヤがニヤッとしてイズミを見下ろした。
「……死ね」
 眉間に皺を寄せ、ぼそりと答える。
「なんだとぉーっ!」
 再び顔を赤くしながら悔しそうに叫ぶ。
「お前の場合、『呆れちゃう程バカな男』の間違いだろ?」
 イズミは軽く溜め息をつくと、再び馬鹿にしたような表情でタクヤを見上げる。
「だーっ、ムカつくっ!」
 タクヤは顔を真っ赤にしながら悔しそうに地団駄を踏む。
 イズミは鼻で笑うと、タクヤを無視して歩き始めた。
「ちょっ、ちょっと待てよ。置いてくなよっ」
 タクヤも急いでイズミの後を追う。
「イズミイズミっ、ずっと一緒にいようなっ」
 追いつくなり嬉しそうにイズミを見つめながら話す。
「お前なぁ、すぐそうやって俺の名前呼ぶのやめろよ」
 イズミは溜め息をつきながらタクヤを見る。
「何で? いいじゃん。呼びたいから呼ぶのっ。イズミ、名前呼ばれるの嫌なの? 俺はイズミに名前呼ばれるのすっげぇ好きっ。でも、あんまり呼んでくんないのな、イズミ」
「別に……嫌な訳じゃない。ただ、人前では呼ぶなよ」
「なんだよっ。まだそんなこと言ってんのっ?」
 少し怒ったようにイズミを見る。
「そうじゃない。そういうことじゃなくてだな……」
「だったら何でだよっ。何でダメなんだよ」
 更に睨むようにしてイズミを見つめる。
「もういい。分からないならいい」
 イズミは溜め息をつき、ふいっと横を向く。
「なんだよっ。バカにしてんの? ……もうっ、分かんないから言うこときかないっ」
 タクヤも頬を膨らませると、ぷいっと横を向いてしまった。
 そんなタクヤを呆れながら見ると、イズミはもう一度深く溜め息をつく。
「まぁいいや。行こうイズミ」
 不機嫌になっていたというのにタクヤはそう言って振り返ると、イズミの手を取り歩き始めた。
「おいっ、また……」
 イズミは嫌そうな顔をして手を離そうとする。
「いいのっ」
 しかし、タクヤはぎゅっと強く握り締め、手を離そうとはしなかった。
 イズミは前を歩くタクヤを見上げ、仕方なさそうに溜め息をつく。
「なぁ、イズミ。あの服貰ってこれば良かったのに」
「はぁ?」
 嫌そうな顔をしたイズミをちらりと振り返ると、タクヤはふと思い出したように話し掛ける。
 そしてイズミは更に顔を顰めると眉間に皺を寄せる。
「だってめっちゃ似合ってたし。可愛かったし。頼めば貰えたんじゃない?」
 再び前を見ると、タクヤは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ぜってぇーやだ」
「ええーっ、なんでだよぉー」
 本当に嫌そうに顔を顰めるイズミとムスッと頬を膨らませるタクヤ。
 そして、お互い違った思いを胸に、再び旅に出たのであった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...