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第5章『要求する魔物』
11話
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「ねぇ、そういえば昨日聞くの忘れてたんだけど、魔物が人質を要求してきた理由って何だったの?」
朝食を取りながら、アンナがタクヤとイズミに話しかけてきた。
「……あ」
タクヤはしまったというような表情をして、すぐにイズミを見る。
「なぁに? まさか聞いてないの?」
「イズミがすぐ殺しちゃうからっ」
アンナに睨まれ、慌ててイズミのせいにする。
「知るか。そんなことどうでもいいだろ」
イズミは鬱陶しそうにタクヤを見ることもなく答える。
「気になるじゃない」
アンナはムッと面白くなさそうに話す。
「だいたいその魔物は喋れたのかよ? そんな魔物、聞いたことねぇぞ?」
イズミはやっと顔を上げると、アンナを睨むように見た。
「さぁ? 知らないわ。だって、その要求を受けた本人がもうこの世にはいないもの」
「えっ? どういうこと?」
アンナの話を聞いて、タクヤは訝しげに尋ねる。
「その人、2、3日行方不明になってたんだけど、帰ってきた時はボロボロになってて。最後の力を振り絞って魔物の要求を伝えたんだけど、そのまま亡くなったって。聞いた話だから、私もよく知らないんだけど」
「そうなのか……。なんだ、分かんなかったんじゃん」
タクヤは嬉しそうにイズミを見る。
「……バカが」
「だからっ、すぐ『バカ』って言うのやめろよっ」
イズミが呆れて言うのを、悔しそうに睨む。
「ちょっと待って。じゃあ何? もしかして、あなたが女装して行ったのは全くの無駄だったってこと?」
アンナの言葉に2人はハッとしてアンナを見た。
「…………」
そしてイズミは顔を引き攣らせていた。
どうせすぐ殺してしまえばいいのだから、わざわざあんな格好をしなくても良かったのだ。今までなぜ気付かなかったのかと、自分自身が腹立たしくなっていた。
そんなイズミをタクヤはおろおろと見つめる。
「でも、そうなると、本当にその魔物を殺したのかも分からないってこと?」
アンナはじっと2人を見つめてきた。
「それは、大丈夫だと思うよ……たぶん」
タクヤはそう答えながらそっとアンナから目を逸らす。
「何よ、その『たぶん』って」
アンナは更にじろりとタクヤを睨む。
「分かんないけど、あの辺りにいた魔物は全部殺してきたし、例の杉の所にも時間通り行ったけど、魔物は現れなかったし……。とりあえず、あの森の魔物という魔物は全部殺しておいたから」
再びアンナの方を見ると苦笑いしながらタクヤは答えた。
「だから遅かったんですね。でも、これでもう安心ですよね」
ミサキはタクヤの話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろしている。安心したのか漸く笑顔を見せた。
「うん……たぶん」
ミサキの笑顔にタクヤはまた苦笑いで答える。
「だから何なのよっ! その『たぶん』っていうのはっ」
アンナはバンッと机を叩く。
「うるせぇな、ヒス女。この世に魔物がいる限り、安心なんてことはねぇんだよ」
イズミは黙って聞いていたのだが、アンナをちらっとだけ見ると、淡々と話した。
「あなたみたいな冷血人間に言われたくないわよっ!」
アンナはナイフをイズミに向けながら怒鳴る。
「アンナさん、危ないっ」
ミサキが慌ててアンナを止めた。しかしアンナはまだ怒りでぷるぷると手を震わせている。
「それに、その魔物から要求を受けたっていう人間はなぜその場で殺されなかったんだ? 何の為にわざわざ生かしてそんな要求を伝えさせたんだ?」
怒鳴るアンナを相変わらず冷めた表情で見ると、今度は訝しげな顔でイズミは手を顎に当て考え込んだ。
「だから、それを聞き出すのがあなた達の役目でしょっ」
ナイフはテーブルに置いたが、人差し指を立て、イズミとタクヤを交互に睨み付ける。
「ええっ! 俺達の役目は魔物を倒すことだろっ」
イズミとアンナのやり取りをおろおろと見ていたタクヤは今度は矛先が自分にも戻ってきて慌てて反論する。
「その魔物から要求受けたって人間はどういうヤツなんだ?」
アンナの言葉とタクヤを全く無視し、イズミは疑問に思ったことをアンナに投げ掛ける。
「どういうって? 知らないわよ。元々うちの町の住人じゃないし」
怒っていたアンナであったが、イズミの質問に少しだけ落ち着くと、頬を膨らませふいっと横を向く。
「町の住人じゃない?」
「えっ? どういうこと?」
イズミとタクヤは同時に眉間に皺を寄せながらアンナに詰め寄る。
「何よっ。私は知り合いじゃないから詳しくは知らないわよ。今は私がここの町長をやっているけど、別に誰が町に来ようが、誰かが出て行こうが自由にしてるもの。それに私達の敵は魔物でしょ? そんないちいち町の住人のことなんて調べないもの」
2人に詰め寄られ、アンナは少しだけ動揺する。
しかしまた強い口調で2人をじっと見つめ言い切った。
「…………」
「…………」
アンナの言葉で何やらイズミは考え込んでいた。
しかしタクヤはイズミとは別のことを考えていた。
「いつこの町に来たのかとかも分からないのか?」
ふと考えが纏まったのか、イズミは再びアンナに尋ねる。
「正確なことまでは分からないけど……うーん、3ヶ月くらい前だったかしら?」
アンナは口元に手を当て少し上を見て考えるが、覚えていないのか忘れてしまったのか曖昧に答えた。
「3ヶ月……そうか……」
アンナの答えに訝しげな表情をしたイズミであったが、そのまま俯き黙り込んでしまった。
「なぁ、この家って、アンナとばーちゃんしか住んでないのか?」
じっと2人の会話を聞いていたタクヤであったが、イズミの話が終わったと思い、先程のアンナの話を聞いて考えていたことを尋ねた。
タクヤの言葉でイズミはハッとして顔を上げ、アンナを見る。イズミもずっとそのことが気になっていたのだ。この大きな家には他に人の気配がしなかったからだ。
「ええ。あとメイドとね。住み込みで働いてもらっているから」
アンナもそれ以上イズミが何も言わないことを確認するとタクヤに向かってそう答えた。
「そうなんだ。アンナの両親や兄弟は? 一緒に住んでないのか? そういえば、今はアンナがここの町長をやってるって……」
タクヤは再び食事を取りながら話し始めたのだが、先程のアンナの言葉で頭をよぎることがあった。
「母は私が3歳の時に病気で亡くなったし、父は2年前に。兄弟はいないわ。私は1人っ子なの。だから、父が亡くなった後、私が町長を受け継いだのよ」
「……そうだったんだ。……ごめん」
アンナは淡々と話すが、タクヤはやはりそうか……と申し訳なさそうに手を止め、俯いた。
「別に気にすることないわよ。私にはおばあちゃまもメイドもミサキ達だっているもの」
「そっか。……そうだよね」
アンナの言葉に少しだけ元気を取り戻す。そしてイズミを見つめた。
そう、自分にも今はイズミがいるから寂しいことなんかないと……。
朝食を取りながら、アンナがタクヤとイズミに話しかけてきた。
「……あ」
タクヤはしまったというような表情をして、すぐにイズミを見る。
「なぁに? まさか聞いてないの?」
「イズミがすぐ殺しちゃうからっ」
アンナに睨まれ、慌ててイズミのせいにする。
「知るか。そんなことどうでもいいだろ」
イズミは鬱陶しそうにタクヤを見ることもなく答える。
「気になるじゃない」
アンナはムッと面白くなさそうに話す。
「だいたいその魔物は喋れたのかよ? そんな魔物、聞いたことねぇぞ?」
イズミはやっと顔を上げると、アンナを睨むように見た。
「さぁ? 知らないわ。だって、その要求を受けた本人がもうこの世にはいないもの」
「えっ? どういうこと?」
アンナの話を聞いて、タクヤは訝しげに尋ねる。
「その人、2、3日行方不明になってたんだけど、帰ってきた時はボロボロになってて。最後の力を振り絞って魔物の要求を伝えたんだけど、そのまま亡くなったって。聞いた話だから、私もよく知らないんだけど」
「そうなのか……。なんだ、分かんなかったんじゃん」
タクヤは嬉しそうにイズミを見る。
「……バカが」
「だからっ、すぐ『バカ』って言うのやめろよっ」
イズミが呆れて言うのを、悔しそうに睨む。
「ちょっと待って。じゃあ何? もしかして、あなたが女装して行ったのは全くの無駄だったってこと?」
アンナの言葉に2人はハッとしてアンナを見た。
「…………」
そしてイズミは顔を引き攣らせていた。
どうせすぐ殺してしまえばいいのだから、わざわざあんな格好をしなくても良かったのだ。今までなぜ気付かなかったのかと、自分自身が腹立たしくなっていた。
そんなイズミをタクヤはおろおろと見つめる。
「でも、そうなると、本当にその魔物を殺したのかも分からないってこと?」
アンナはじっと2人を見つめてきた。
「それは、大丈夫だと思うよ……たぶん」
タクヤはそう答えながらそっとアンナから目を逸らす。
「何よ、その『たぶん』って」
アンナは更にじろりとタクヤを睨む。
「分かんないけど、あの辺りにいた魔物は全部殺してきたし、例の杉の所にも時間通り行ったけど、魔物は現れなかったし……。とりあえず、あの森の魔物という魔物は全部殺しておいたから」
再びアンナの方を見ると苦笑いしながらタクヤは答えた。
「だから遅かったんですね。でも、これでもう安心ですよね」
ミサキはタクヤの話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろしている。安心したのか漸く笑顔を見せた。
「うん……たぶん」
ミサキの笑顔にタクヤはまた苦笑いで答える。
「だから何なのよっ! その『たぶん』っていうのはっ」
アンナはバンッと机を叩く。
「うるせぇな、ヒス女。この世に魔物がいる限り、安心なんてことはねぇんだよ」
イズミは黙って聞いていたのだが、アンナをちらっとだけ見ると、淡々と話した。
「あなたみたいな冷血人間に言われたくないわよっ!」
アンナはナイフをイズミに向けながら怒鳴る。
「アンナさん、危ないっ」
ミサキが慌ててアンナを止めた。しかしアンナはまだ怒りでぷるぷると手を震わせている。
「それに、その魔物から要求を受けたっていう人間はなぜその場で殺されなかったんだ? 何の為にわざわざ生かしてそんな要求を伝えさせたんだ?」
怒鳴るアンナを相変わらず冷めた表情で見ると、今度は訝しげな顔でイズミは手を顎に当て考え込んだ。
「だから、それを聞き出すのがあなた達の役目でしょっ」
ナイフはテーブルに置いたが、人差し指を立て、イズミとタクヤを交互に睨み付ける。
「ええっ! 俺達の役目は魔物を倒すことだろっ」
イズミとアンナのやり取りをおろおろと見ていたタクヤは今度は矛先が自分にも戻ってきて慌てて反論する。
「その魔物から要求受けたって人間はどういうヤツなんだ?」
アンナの言葉とタクヤを全く無視し、イズミは疑問に思ったことをアンナに投げ掛ける。
「どういうって? 知らないわよ。元々うちの町の住人じゃないし」
怒っていたアンナであったが、イズミの質問に少しだけ落ち着くと、頬を膨らませふいっと横を向く。
「町の住人じゃない?」
「えっ? どういうこと?」
イズミとタクヤは同時に眉間に皺を寄せながらアンナに詰め寄る。
「何よっ。私は知り合いじゃないから詳しくは知らないわよ。今は私がここの町長をやっているけど、別に誰が町に来ようが、誰かが出て行こうが自由にしてるもの。それに私達の敵は魔物でしょ? そんないちいち町の住人のことなんて調べないもの」
2人に詰め寄られ、アンナは少しだけ動揺する。
しかしまた強い口調で2人をじっと見つめ言い切った。
「…………」
「…………」
アンナの言葉で何やらイズミは考え込んでいた。
しかしタクヤはイズミとは別のことを考えていた。
「いつこの町に来たのかとかも分からないのか?」
ふと考えが纏まったのか、イズミは再びアンナに尋ねる。
「正確なことまでは分からないけど……うーん、3ヶ月くらい前だったかしら?」
アンナは口元に手を当て少し上を見て考えるが、覚えていないのか忘れてしまったのか曖昧に答えた。
「3ヶ月……そうか……」
アンナの答えに訝しげな表情をしたイズミであったが、そのまま俯き黙り込んでしまった。
「なぁ、この家って、アンナとばーちゃんしか住んでないのか?」
じっと2人の会話を聞いていたタクヤであったが、イズミの話が終わったと思い、先程のアンナの話を聞いて考えていたことを尋ねた。
タクヤの言葉でイズミはハッとして顔を上げ、アンナを見る。イズミもずっとそのことが気になっていたのだ。この大きな家には他に人の気配がしなかったからだ。
「ええ。あとメイドとね。住み込みで働いてもらっているから」
アンナもそれ以上イズミが何も言わないことを確認するとタクヤに向かってそう答えた。
「そうなんだ。アンナの両親や兄弟は? 一緒に住んでないのか? そういえば、今はアンナがここの町長をやってるって……」
タクヤは再び食事を取りながら話し始めたのだが、先程のアンナの言葉で頭をよぎることがあった。
「母は私が3歳の時に病気で亡くなったし、父は2年前に。兄弟はいないわ。私は1人っ子なの。だから、父が亡くなった後、私が町長を受け継いだのよ」
「……そうだったんだ。……ごめん」
アンナは淡々と話すが、タクヤはやはりそうか……と申し訳なさそうに手を止め、俯いた。
「別に気にすることないわよ。私にはおばあちゃまもメイドもミサキ達だっているもの」
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