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第5章『要求する魔物』
10話
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タクヤの叫ぶ声は食堂まで聞こえてきていた。
「…………」
イズミは再び大きく溜め息をついていた。
「そのうち怒鳴り込んでくるわよ」
先程怒っていたことを忘れたかのように、アンナはまた面白そうに話した。
「イズミーっ!!」
暫くしてタクヤが戻ってきた。
「ほぉ~ら」
アンナはなんだか嬉しそうにイズミを見る。
「うるせぇな」
イズミは誰に対して言ったのか、鬱陶しそうに全く違う方向を見て、ぼそりと呟くように言った。
「もうっ、何するんだよっ!」
タクヤはイズミの横へ座ると強く睨み付ける。
「あぁっ? てめぇが悪いんだろうが。勝手に人のベッドで寝やがってっ」
イズミはタクヤをちらっとだけ見ると、すぐにまた横を向き、ソファの背凭れに肘をつきながら答える。
「うっ……、だってっ」
言葉に詰まりながらも、口を尖らせ上目遣いにイズミを見る。
「だって何なんだ? 俺は寝る時には部屋に戻れって言ったんだぞ? それを話の途中でそのままソファで寝ちまうわ、運ぶことも出来ないからほっといたら勝手に人のベッドで寝るわっ。……まったく、いい加減にしろよ」
肘をついたままタクヤを睨む。
「だって、……だって寒かったんだもん」
タクヤは叱られた子供のように体を小さくしながら、許しを得るかのように泣きそうな顔でイズミを見た。
「なぁ~にが『寒かったんだもん』っだっ。だったら自分の部屋に戻って、自分のベッドで寝ればいいだろうが」
イズミは容赦なくタクヤを叱りつける。
「だって……」
タクヤは今にも泣き出しそうな顔でイズミを見る。その姿はまるで親に叱られている子供、飼い主に叱られる犬、はたまた妻に文句を言われる夫のようにも見える。
「だってじゃない。今度したら許さないからな」
「何で? 一緒に寝るくらい、いいじゃんっ」
イズミに冷たく言われ、今度は赤くなりながら頬を膨らませる。
「よくない」
「何でだよーっ。けちっ」
「何がけちだっ。アホかお前」
ソファに座ったまま言い合う2人を、周りの人達は呆然と眺めていた。
「もうっ、ちょっと、痴話喧嘩はそれくらいにしといてよ」
アンナが呆れたように2人に向かって話す。
「誰が痴話喧嘩だっ!」
2人同時に怒鳴り、アンナを睨む。そして、お互いハッとして目を合わす。
「まったく、仲のいいことっ」
アンナは睨まれても全く気にしていない様子で、両手を腰に当て溜め息をつく。
「なんだい、随分楽しそうだね」
突然、老女の声がして一斉にそちらを見る。
「おばぁちゃまっ!」
アンナはメイドに連れられて入ってきた老女を見るなりそう叫んだ。
「おばぁちゃま~?」
タクヤはアンナの言葉に不思議そうにその老女を見る。
「ええ。私の祖母よ」
アンナは老女の後ろに回り、肩に手を置きながらにっこりと答える。
「えっ? 一緒に住んでんの? 昨日、1回も見掛けてないけど……」
タクヤはまだ不思議そうな表情でアンナとその老女を見る。
「祖母は足が悪いから、朝食の時しか顔を出さないのよ。あとはメイドが面倒を見てくれているから」
「そうなのか? ……そっかぁ、ばーちゃん大変だなぁ」
アンナの言葉にタクヤは心配そうに老女を見つめる。すると、
「年寄り扱いするでないっ!」
アンナの祖母は思いもよらないような大きな声でタクヤに向かって怒鳴りつけた。
突然怒鳴られ、タクヤは目を丸くしている。
「ふぉっふぉっふぉっ。冗談だよ。びっくりしたかい? わたしゃ、この通りまだまだ元気だよ。まったくこの子が大袈裟だから。お前さんは優しい子だねぇ。心配してくれたんだろ?」
アンナの祖母は笑いながらも優しい声でタクヤに話した。
「びっくりした……。そっか、ばーちゃん大丈夫なんだなっ。良かった。俺、もっと元気じゃないのかと思ったよ。全然元気じゃんっ!」
タクヤも安心したように笑いながら話した。
「ふぉっふぉっ。お前さんも元気そうだね。じゃあ心配してくれたお礼に占ってあげるよ。何か聞きたいことはあるかい?」
「えっ? 占い? ばーちゃん、そんなこと出来んの?」
タクヤはきょとんとして見つめる。
「祖母の占いは凄く当たるのよ。どんなことでも占えるから、何でも言ってみなさいよ」
アンナは自分のことのように自慢げに話す。
「へぇー、そうなんだ。……うーん、急に言われてもなぁ……」
タクヤは腕を組み、考え込む。
「ねぇ、未来とかも分かんの? この世界は平和になるのかっとか」
「うーん、そうだねぇ。分かるには分かるだろうが、そういうことはあまり聞かない方がいい」
アンナの祖母は困った顔で答える。
「えっ? 何で? まずいの?」
タクヤは心配そうな顔付きでアンナの祖母を見た。
「未来なんか知らない方がいいってことだよ」
アンナの祖母が答える前に、横からイズミが口を挟んだ。
「そうなんだ? ……ふーん、まぁいいや。じゃあどうしよっかな……。あっ、そうだっ。じゃあさ、イズミとの相性占ってよっ」
タクヤはこれだっと目を輝かせながらアンナの祖母を見つめる。
「イズミというのはその子のことかい? ……ふーん、こりゃまた随分綺麗な子だねぇ。お前さんも隅に置けないねぇ」
アンナの祖母はイズミをじろじろと見ると、今度はタクヤのことを見て嬉しそうに話した。
「何が?」
タクヤは何のことを言われているのかさっぱり分からない様子であった。
その横でイズミは大きく溜め息をついていた。
「じゃあ、始めようかい」
メイドが2人が座るソファーの前に椅子を持ってきた。
アンナの祖母はその椅子に座ると2人をじっと見つめた。
「2人共、手を出して。……ああ違うな、その前に2人で手を繋ぎなさい。そうしたら、もう片方の手を出して」
2人は言われた通りに内側の手を繋ぎ、外側の手をアンナの祖母に差し出すように出した。
タクヤは嬉しそうにしていたが、イズミは面倒臭そうに溜め息をついている。
アンナの祖母は2人の手を取ると、目を閉じ、そのまま黙ってしまった。
タクヤは不思議そうにその様子を眺める。しかし、すぐにイズミと繋いでる方の手に目をやり、その手に力を入れ、ぎゅっと握り締めた。
タクヤに強く握られ、イズミは驚いた表情でタクヤを見る。
「……イズミ」
イズミの視線に気付き、タクヤもじっとイズミを見つめる。と、その時、
「――うん、分かったよ」
アンナの祖母が目を開けそう話す。ハッとして2人は同時にアンナの祖母を見た。
「ねぇ、どう? いい? いいよねっ?」
タクヤはイズミの手を強く握ったまま体を乗り出すようにしてアンナの祖母に尋ねる。
「ふぅ……残念だけど、2人の相性は最悪だよ」
手を離すと、アンナの祖母は申し訳ないようにそう答えた。
「ええっ! そんなっ! 嘘だろっ? もう1回やってよっ!」
タクヤは必死に詰め寄る。
「よく当たるんだろ? ……まぁ、そういうことだ。諦めろ」
そう言ってイズミはタクヤから手を無理矢理離した。
「やだっ!」
タクヤは睨むようにしてイズミを見ると、もう一度イズミの手を握る。
「なにガキみたいなこと言ってんだよ」
イズミもムッとしてもう一度タクヤから手を離す。
「やだやだっ。ぜってぇ諦めないっ!」
タクヤは泣きそうになりながらぎゅっと目を閉じ、今度は両手でイズミの手を強く握り締めた。
「ふぉっふぉっふぉっ。若いねぇ。嘘だよ。心配しないでいい。2人の相性は最高にいいから。お互いに悪い所を補い合える、最高のパートナーだよ。一緒にいれば、必ずいい方向に向かえるよ」
アンナの祖母は楽しそうに2人を眺めた。
「だってっ! イズミ」
2人共唖然としていたのだが、タクヤは我に返ると嬉しそうにイズミを見つめる。
「……ちっ」
イズミは面白くなさそうに舌打ちをした。
しかし、手はまだタクヤに握られたままであった。
「…………」
イズミは再び大きく溜め息をついていた。
「そのうち怒鳴り込んでくるわよ」
先程怒っていたことを忘れたかのように、アンナはまた面白そうに話した。
「イズミーっ!!」
暫くしてタクヤが戻ってきた。
「ほぉ~ら」
アンナはなんだか嬉しそうにイズミを見る。
「うるせぇな」
イズミは誰に対して言ったのか、鬱陶しそうに全く違う方向を見て、ぼそりと呟くように言った。
「もうっ、何するんだよっ!」
タクヤはイズミの横へ座ると強く睨み付ける。
「あぁっ? てめぇが悪いんだろうが。勝手に人のベッドで寝やがってっ」
イズミはタクヤをちらっとだけ見ると、すぐにまた横を向き、ソファの背凭れに肘をつきながら答える。
「うっ……、だってっ」
言葉に詰まりながらも、口を尖らせ上目遣いにイズミを見る。
「だって何なんだ? 俺は寝る時には部屋に戻れって言ったんだぞ? それを話の途中でそのままソファで寝ちまうわ、運ぶことも出来ないからほっといたら勝手に人のベッドで寝るわっ。……まったく、いい加減にしろよ」
肘をついたままタクヤを睨む。
「だって、……だって寒かったんだもん」
タクヤは叱られた子供のように体を小さくしながら、許しを得るかのように泣きそうな顔でイズミを見た。
「なぁ~にが『寒かったんだもん』っだっ。だったら自分の部屋に戻って、自分のベッドで寝ればいいだろうが」
イズミは容赦なくタクヤを叱りつける。
「だって……」
タクヤは今にも泣き出しそうな顔でイズミを見る。その姿はまるで親に叱られている子供、飼い主に叱られる犬、はたまた妻に文句を言われる夫のようにも見える。
「だってじゃない。今度したら許さないからな」
「何で? 一緒に寝るくらい、いいじゃんっ」
イズミに冷たく言われ、今度は赤くなりながら頬を膨らませる。
「よくない」
「何でだよーっ。けちっ」
「何がけちだっ。アホかお前」
ソファに座ったまま言い合う2人を、周りの人達は呆然と眺めていた。
「もうっ、ちょっと、痴話喧嘩はそれくらいにしといてよ」
アンナが呆れたように2人に向かって話す。
「誰が痴話喧嘩だっ!」
2人同時に怒鳴り、アンナを睨む。そして、お互いハッとして目を合わす。
「まったく、仲のいいことっ」
アンナは睨まれても全く気にしていない様子で、両手を腰に当て溜め息をつく。
「なんだい、随分楽しそうだね」
突然、老女の声がして一斉にそちらを見る。
「おばぁちゃまっ!」
アンナはメイドに連れられて入ってきた老女を見るなりそう叫んだ。
「おばぁちゃま~?」
タクヤはアンナの言葉に不思議そうにその老女を見る。
「ええ。私の祖母よ」
アンナは老女の後ろに回り、肩に手を置きながらにっこりと答える。
「えっ? 一緒に住んでんの? 昨日、1回も見掛けてないけど……」
タクヤはまだ不思議そうな表情でアンナとその老女を見る。
「祖母は足が悪いから、朝食の時しか顔を出さないのよ。あとはメイドが面倒を見てくれているから」
「そうなのか? ……そっかぁ、ばーちゃん大変だなぁ」
アンナの言葉にタクヤは心配そうに老女を見つめる。すると、
「年寄り扱いするでないっ!」
アンナの祖母は思いもよらないような大きな声でタクヤに向かって怒鳴りつけた。
突然怒鳴られ、タクヤは目を丸くしている。
「ふぉっふぉっふぉっ。冗談だよ。びっくりしたかい? わたしゃ、この通りまだまだ元気だよ。まったくこの子が大袈裟だから。お前さんは優しい子だねぇ。心配してくれたんだろ?」
アンナの祖母は笑いながらも優しい声でタクヤに話した。
「びっくりした……。そっか、ばーちゃん大丈夫なんだなっ。良かった。俺、もっと元気じゃないのかと思ったよ。全然元気じゃんっ!」
タクヤも安心したように笑いながら話した。
「ふぉっふぉっ。お前さんも元気そうだね。じゃあ心配してくれたお礼に占ってあげるよ。何か聞きたいことはあるかい?」
「えっ? 占い? ばーちゃん、そんなこと出来んの?」
タクヤはきょとんとして見つめる。
「祖母の占いは凄く当たるのよ。どんなことでも占えるから、何でも言ってみなさいよ」
アンナは自分のことのように自慢げに話す。
「へぇー、そうなんだ。……うーん、急に言われてもなぁ……」
タクヤは腕を組み、考え込む。
「ねぇ、未来とかも分かんの? この世界は平和になるのかっとか」
「うーん、そうだねぇ。分かるには分かるだろうが、そういうことはあまり聞かない方がいい」
アンナの祖母は困った顔で答える。
「えっ? 何で? まずいの?」
タクヤは心配そうな顔付きでアンナの祖母を見た。
「未来なんか知らない方がいいってことだよ」
アンナの祖母が答える前に、横からイズミが口を挟んだ。
「そうなんだ? ……ふーん、まぁいいや。じゃあどうしよっかな……。あっ、そうだっ。じゃあさ、イズミとの相性占ってよっ」
タクヤはこれだっと目を輝かせながらアンナの祖母を見つめる。
「イズミというのはその子のことかい? ……ふーん、こりゃまた随分綺麗な子だねぇ。お前さんも隅に置けないねぇ」
アンナの祖母はイズミをじろじろと見ると、今度はタクヤのことを見て嬉しそうに話した。
「何が?」
タクヤは何のことを言われているのかさっぱり分からない様子であった。
その横でイズミは大きく溜め息をついていた。
「じゃあ、始めようかい」
メイドが2人が座るソファーの前に椅子を持ってきた。
アンナの祖母はその椅子に座ると2人をじっと見つめた。
「2人共、手を出して。……ああ違うな、その前に2人で手を繋ぎなさい。そうしたら、もう片方の手を出して」
2人は言われた通りに内側の手を繋ぎ、外側の手をアンナの祖母に差し出すように出した。
タクヤは嬉しそうにしていたが、イズミは面倒臭そうに溜め息をついている。
アンナの祖母は2人の手を取ると、目を閉じ、そのまま黙ってしまった。
タクヤは不思議そうにその様子を眺める。しかし、すぐにイズミと繋いでる方の手に目をやり、その手に力を入れ、ぎゅっと握り締めた。
タクヤに強く握られ、イズミは驚いた表情でタクヤを見る。
「……イズミ」
イズミの視線に気付き、タクヤもじっとイズミを見つめる。と、その時、
「――うん、分かったよ」
アンナの祖母が目を開けそう話す。ハッとして2人は同時にアンナの祖母を見た。
「ねぇ、どう? いい? いいよねっ?」
タクヤはイズミの手を強く握ったまま体を乗り出すようにしてアンナの祖母に尋ねる。
「ふぅ……残念だけど、2人の相性は最悪だよ」
手を離すと、アンナの祖母は申し訳ないようにそう答えた。
「ええっ! そんなっ! 嘘だろっ? もう1回やってよっ!」
タクヤは必死に詰め寄る。
「よく当たるんだろ? ……まぁ、そういうことだ。諦めろ」
そう言ってイズミはタクヤから手を無理矢理離した。
「やだっ!」
タクヤは睨むようにしてイズミを見ると、もう一度イズミの手を握る。
「なにガキみたいなこと言ってんだよ」
イズミもムッとしてもう一度タクヤから手を離す。
「やだやだっ。ぜってぇ諦めないっ!」
タクヤは泣きそうになりながらぎゅっと目を閉じ、今度は両手でイズミの手を強く握り締めた。
「ふぉっふぉっふぉっ。若いねぇ。嘘だよ。心配しないでいい。2人の相性は最高にいいから。お互いに悪い所を補い合える、最高のパートナーだよ。一緒にいれば、必ずいい方向に向かえるよ」
アンナの祖母は楽しそうに2人を眺めた。
「だってっ! イズミ」
2人共唖然としていたのだが、タクヤは我に返ると嬉しそうにイズミを見つめる。
「……ちっ」
イズミは面白くなさそうに舌打ちをした。
しかし、手はまだタクヤに握られたままであった。
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