NEVER☆AGAIN~それは運命の出会いから始まった~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
3 / 198
第2章『旅の始まり』

1話

しおりを挟む
 あれから3日――。
 2つの村を訪れ、『イズミ』を探したが一向に見つからない。
 それだけでなく、この3日間、全く魔物に遭遇しない。
 何かがおかしい。
 魔物を見かけないどころか、全く魔物の気さえ感じられない。

(一体どうなっているんだ……)

 こう平和な日が続くと気持ちが悪い。
 タクヤは不謹慎にもそう感じていた。
 魔物が一切いないということは、今の世の中有り得ないことなのである。
 例え世界中がそう願っていたとしても、それを叶えることは不可能であった。

 ――世の中には、魔物と戦う者として2種類の人間がいる。
 タクヤのように剣や武器を使って戦う『勇者』と呼ばれる者。
 そして、幾多の術を操ることのできる『術者』と呼ばれる者。
 この『術者』によって結界というものが張られ、人々は守られている。
 結界とはバリアみたいなもので、通常は建物1つ1つに張られている。
 だが、この結界にも限度があり、村や町全体に結界を張るなどというのは至難の業、いや皆無といっても過言ではないだろう。

 しかしこの3日間の間に訪れた2つの村には魔物の気はなく、人々も他の村や町と違い平和に暮らしていた。
 まるでもう魔物が現われることがないかのように……。
 今、タクヤが訪れた町にも魔物の気はなく、もう夕暮れ時だというのに、町の人々は平気で出歩いている。
 全く事情が分からない。
 こんな事は初めてである。
 タクヤはこのよく分からない現状の理由を確かめる為、1軒の酒場に入った。
 酒場にはいろいろな人が訪れる。何か分かるかもしれない。



 ☆☆☆



 店内は大勢の人で賑わっていた。
 酒の入ったジョッキを片手に大騒ぎしている者。
 あちらこちらからカチャカチャと人々が食事をする音が談笑と共に聞こえる。
 中には歌を歌っている者までいる。
 こんな光景が見られるとは。

 今までに訪れた所は、昼間だけの飲食店がほとんどで、酒場はあったものの、昼間しか営業できない為か、宿屋の中で経営しているものがほとんどであった。
 酒場といえども、こんな風に騒いでいる所はほとんどなかった。

 タクヤは店内をきょろきょろとすると、奥にあるカウンターの端に腰掛けた。
 店内の人達の会話がごちゃまぜになって聞こえてくる。

「でもよぉ、あのガキ、マジすげぇかもな」

 すぐ後ろから男の声で気になる会話が聞こえてきた。
 タクヤはハッとすると、その会話に耳を傾けた。
「まぁな。半信半疑だったけどよ、実際この有様じゃん?」
「ほんっと有り難いこったってか?」
 男達は酒を片手に大笑いしている。

(子供? イズミのことか?)

「あのっ、その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
 タクヤは勢いよく振り返り、男達に声をかけた。
 男達は驚いたような顔をしたが、にやりとタクヤを見た。
「何だあんちゃん、よそもんか?」
「旅をしている最中です。さっきの話、この辺りに魔物がいないことと関係あるんじゃないかと思って」
 ひとりの男がタクヤをじっと見て話し掛けてきた。
「ほぉ、旅をねぇ。にーちゃん、ほっそいのに勇者か何かか?」
「え? いや、まぁ」
 タクヤは男の言葉に曖昧に答える。
「ふ~ん。まぁいいや。で、聞きたいか?」
 男はタクヤを揶揄うようにニヤニヤしながら尋ねる。
「……はい」
 タクヤも少しイライラとしたのだが、少しでも情報が欲しい。
 じっと請うように男を見る。
「じゃあ話してやるか」
「お前、話したいんだろ?」
 ニヤついている男の横で呆れたように別の男が口を挟む。
「ちょっと酔っ払ってるだけだぁ。ハハハッ。んじゃ、話すか。そうそう、さっき話してたガキのことだろ?」
 男は大きく口を開け、大笑いする。
 そして再び顔をニヤつかせ、タクヤを見る。
「はい」
 大丈夫か? と不安な気持ちをおぼえつつも、タクヤはじっと男を真剣な目で見る。
 そんなタクヤをにやりと一瞥すると、男は腕を組み、何かを思い出すかのように少し上を見ると、ゆっくりと話し始めた。
「もう3ヵ月くらい前になるかぁ。この町も他んとこと同様、魔物が現れてた。こんな風に夜も出歩くなんて考えられんかった」
 タクヤは男の話に身を乗り出すようにして聞き入った。
「それがよ、なんか子供みてぇな女の子が皆の前で『この町はもう魔物が現れることはなくなります』なんてぬかしやがってよ。最初は誰も信じちゃいなかったさ。だけどよ、その次の日から魔物がぴたーっと現れなくなってよ。皆びっくりってわけよ」
 男は身振り手振りしながら、自慢話でもするかのように得意げに話した。

(魔物が現れなくなった? 消えたってことか?)

 ふとイズミのことが頭をよぎった。
「あのっ、その子どんな子でした? 髪は? 目は?」
 タクヤが突然必死になって聞いてきたので、男は目を丸くした。
「なんだよ、びっくりすんなぁ。髪は短かったぞ。目はでかかったなぁ」
「え? 短い? ……じゃあ、目の色は?」
「は? 目の色? なんだ、にーちゃん、彼女とはぐれでもしたのか?」
 男は不思議そうに目を細めたが、またすぐにニヤニヤとタクヤを見る。
「違いますっ!」
 タクヤは顔を赤らめながら、慌てて顔の前で手を何度も振る。
「若いねぇ。……目の色かぁ。おい、覚えてるか?」
 男はニヤリとした後、隣の男に尋ねる。
 聞かれた男は考え込むように顎の髭を手で擦った。
「んー、どうだったかなぁ。普通だったんじゃねぇ? ……おっ! そうだそうだ、思い出した!」
 男は目を大きく開いて、ポンッと手を打つ。
 タクヤも真剣な顔で男を見つめた。
「でっけぇ目だなぁーって思ったんだよ! あの感情の無いガラス玉みてぇな緑の目がなんとも言えなくてなぁ」
 男はその時のことを思い出しているかのように遠い目をする。
「緑……」
 タクヤは男の言葉を聞いて今までの期待が一気に崩れていった。
「お? なんだ? 人違いか。残念だったな、にーちゃん」
 先程の男がタクヤの様子を見て、またニヤつきながら話し掛けた。
「どうも有り難うございました」
 タクヤは半ば放心状態で男達にぺこりと頭を下げると、再び前を向いた。
「おう。まぁ、頑張って探せよ」
 揶揄うのも飽きたのか男はそう言うと、また酒を飲み、何事もなかったように騒ぎ始めた。



 ☆☆☆



(イズミだと思ったのに……)

 タクヤはがっくりと肩を落とす。
 確かにイズミと出会ったのは4日前。
 時間が合わない。
 しかし、イズミじゃないのなら一体誰がそんなこと――。

「人探しなら俺が手伝ってやろうか?」

 突然すぐ横から少年のような声がした。
 しかし、この聞き覚えのある声……。

(まさか!?)

 ハッとして声の主を見る。

「イズミ……」

 驚きのあまり呆然として呟くようにその名前を言った。
 声の主、イズミはじっとこちらを見ている。
「なっ、なんだよお前っ! すっげぇ探したのにっ。ていうか、なんだよこの感動のかけらもない再会シーンはっ! てかいつからそこにいたんだよっ?」
 タクヤは興奮して身振り手振りしながら一気にしゃべる。
「何言ってんだ、お前。……うざい」
 イズミは心底呆れた顔で答える。
「うざいってっ!? あれ? イズミ、目が……」
 イズミの言葉に顔を歪めたが、ふと見たイズミの目の色が髪と同じ茶色になっていることに気付いた。
 タクヤの問いには答えずイズミは黙って前を向いた。
「ていうかさぁ、自分で関わるなって言ったくせに、これはないんじゃない?」
 言葉とは裏腹にタクヤは嬉しそうな表情をする。
「やり忘れたことがあったからな」
「え?」
 イズミは前を向いたまま無表情に答える。
 やっと答えてもらえたのだが、タクヤは一瞬嫌なことが頭をよぎり、表情が曇る。

「ここは人が多すぎるな。場所を変える。ついてこい」

 イズミは淡々と話し席を立つと、さっさと店を出てしまった。
 タクヤはイズミの後ろ姿を見つめ困惑していたが、頭を振り、すぐにイズミの後を追った。

(やっと会えたんだ……)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...