White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第24話

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「イーサンが帰っただとぉっ!!」

 屋敷中にイーサンの父、アルバートの怒号が響き渡っていた。
 居間でアメリアの両親と共に和やかにティータイムを行っていたところに、庭園から戻ってきたアメリアが見合いを白紙にする旨と、イーサンが帰ったことを伝えたのだ。
 周りを構うことなくアルバートは怒り狂っていた。
 騎士になって以来、一度も帰省したことのないイーサンがやっと観念して見合いをすると思っていたのだろう。
 どういうことだと鬼の形相で席を立ち、勢いよく扉を開ける。
 そして、廊下に出ると玄関の方へと大股で歩いて行った。

「父上っ!」

 そこへ慌てて追いかけてきたのは、イーサンの6歳離れた弟のセオであった。
 アルバートとイーサンは黒髪に黒の切れ長の目で背が高い美形であるが、セオは癖のある柔らかい黒髪に、大きく綺麗な濃い藍色の瞳をした可愛らしい小柄な少年であった。
 とはいえ、その姿はイーサンの子供の頃にもよく似ていたのだった。
 大きな目を更に大きくしながら必死に父アルバートを呼び止める。
「なんだ、セオ。私は今忙しいんだ」
 じろりとイーサンに似た黒く強い瞳で睨み付ける。
「あの、無駄だと思います」
 上目遣いにセオはアルバートをじっと見上げた。
「なんだと?」
 アルバートの眉間に深く皺が寄る。
 40代後半になり少しずつ白髪も増え、皺もうっすらと出てきていたアルバートだが、まだまだ現役であり、まるでイーサンの将来を思い描くような、そんな姿だった。
「えっと……兄上が言っていたんです。実は……」
「っ!? あいつから何か聞いていたのかっ?」
 言い掛けたセオの言葉に被せるようにアルバートが再び怒号を上げる。
「えっと、はい。すみません……兄上から黙っているように言われていて……」
 アルバートに怒られ、思わずセオはしゅんとうな垂れる。
 その表情を見て、漸く落ち着いたアルバートは深い溜め息を付いた。
「なんだ。何を聞いていたんだ」
 そして両手を腰に当て、じっとセオを見下ろした。
「……はい。昨夜、急に兄上が帰ってきたので、部屋に行って理由を聞いたんです。今まで一度も帰ってきたことなかったから、何かあったのかと思って……」
 びくっと体を震わせたセオであったが、すぐに真っすぐに立つとじっとアルバートを見上げて話し始める。
「そしたら、兄上は笑いながら言ったんです。『これはわざとだ』って。意味が分からなくて聞いたら、その、兄上は恋人と喧嘩をしたらしくて――」
「何っ! 恋人だとっ!? そんな話は聞いたことがないぞっ!
 黙って聞いていたアルバートが突然、『恋人』という言葉に反応して再び声を上げた。
「えっと、あの、すみません……ちゃんとしたら紹介するつもりだから、それまで黙ってろって言われていたんです」
 怒鳴られ思わず体をびくつかせたセオだったが、再び申し訳なさそうな顔で続ける。
「ふむ……まったくあいつは何をやっているんだ。で、まさかその恋人に嫉妬させるために見合いを受けたとでもいうのか?」
 大きく溜め息を付き、呆れたような顔でアルバートはセオを見下ろした。
「えっと、そうだと思います……焦って困った顔で来るだろうって言っていました。どうすれば喜ぶのか、とか、良い言葉を引き出すにはどうすればいいか、とか、僕に聞いてきて……えっと、その……」
 大きな目を少し潤ませながらセオが上目遣いにアルバートを見つめる。
「はあぁぁぁぁ……まったく……」
 今までになくアルバートは大きく溜め息を付いていた。
「あいつはうちをなんだと思っているんだっ。恋人との喧嘩の修復に見合いを使うなど、ふざけるにも程がある!」
 腕を組み、遠くを見つめるようにしてアルバートが声を上げる。
 昔から長男らしからぬイーサンには散々苦労してきたのだ。
 21歳を迎えて、漸く落ち着くのかと安心していた自分にも呆れ果てていた。

 そんな父を見上げながらセオは心配そうな顔をしていた。
 イーサンに似て賢いセオは恐らく分かっていたのだろう。これもすべてイーサンの計画なのだと。



 ☆☆☆



 実家に帰る時とは違い、足取りがとても軽い。
 もちろん隣にセバスチャンがいるからだ。しかも、聞きたかった言葉を言わせることにも成功した。
 自分の計画が全て上手くいったと、イーサンは意気揚々と城への帰路を嬉しそうに歩いていた。
「ふっ、今頃怒ってるだろうなぁ」
 思わず声に出ていた。顔もすっかり緩んでいる。
「……おい。まさか、お前の父親のことか?」
 隣でむすっとした顔で歩いていたセバスチャンは、イーサンの言葉にぎょっとした顔で見上げた。
「ん? あぁ。セオに説明するように言ってあるからな。追いかけてくることはないだろうが、相当怒ってるだろうな」
 再びふっと面白そうに笑う。
「……お前、たまには親孝行しろよ。まぁ俺もひとのことは言えないが、やりすぎだろう」
 嬉しそうなイーサンを呆れた顔で見た後、セバスチャンは溜め息を付いて再び前を向く。
「久しぶりに顔を見せてやったんだ。十分孝行してるだろ」
「そう言うなら、年に一度くらいは実家に顔くらい出してやれ」
 相変わらずなイーサンをちらっと見ると、溜め息交じりにセバスチャンが突っ込む。
「んー……そうだな。考えておく」
「っ!?」
 珍しく素直に聞いたイーサンを、セバスチャンは再び驚いた顔で見上げた。
「ん? なんだよ、その顔」
 驚いた顔で見上げているセバスチャンに気が付いたイーサンは、こてんと首を傾げる。
「いや……別に」
 しかし、セバスチャンはすぐにふいっと顔を逸らしてしまった。
「なんだよ……まぁ、いいか」
 少しだけ気になったが、そんなことは些細なことだった。
 今はセバスチャンとちゃんと『両想い』だということが確認できただけで十分である。
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