White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
219 / 226
Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第23話

しおりを挟む
「それは……」
 言い掛けて言葉に詰まってしまった。
 俯くセバスチャンの頭をイーサンがそっと撫でる。
 そして、すぐ耳元で聞こえてきたのは、なんとも悲しい声色のイーサンの声だった。
「……だったら、言わなくていい……」
 思わずその言葉にハッとする。
「違うっ!」
 慌てて顔を上げると、すぐ目の前のイーサンと目が合った。
「っ!」
 思わずカッと顔が熱くなる。
 じわじわと目元にも熱が伝わり目が潤んでくる。
「だ、だから……その……あぁっ、もうっ……分かったよ! 言えばいいんだろっ、言えばっ! 一度だけだからなっ!」
 なぜか目が合った瞬間、顔が熱くなったのは自分だけではなかったことに気が付き、気持ちが揺らいだ。
 信じられないのは自分だけなのだ。こいつは、この言葉をずっと待っていたのだ。
「……す……す、す、……ううっ」
 言うと決めたものの、言葉が続かない。
 たった一言がなぜこんなにも難しいのか。
 先程よりも顔が熱い。いや、全身が熱くなっている。体中が燃えるように熱く感じる。
「うっ……あ、えっと……だから……あぁぁぁっ、もうっ、好きだっ! これでいいだろっ!」
 もうどうにもなれとでも言うように、勢いで言葉に出した。文句は言わせない。
 しかし、恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
「はっ、ははっ! セバスチャンっ! 俺も好きだっ! 大好きだ!」
 口を大きく開けて笑い出したかと思うと、イーサンは再び思い切りセバスチャンを抱き締めた。
「痛いっ! って言ってるだろっ! こ、の、バカ力っ!」
 バシバシと何度も背中を叩く。恥ずかしさと体の痛みでどうにかなりそうだ。
 湯気でも出そうな程にセバスチャンの顔が真っ赤に火照る。
「セバスチャン……好きだ。……なぁ、もう一回言って」
「はっ? 一度だけって言っただろうっ!」
 首元に顔を埋めるようにして呟くイーサンに怒鳴り付ける。
「いいだろ、もう一度」
「絶対、言わないっ!」

「あ、あのぉ……」

 怒ってセバスチャンが怒鳴った瞬間、どこからか女性の声が聞こえた気がした。
「え?」
 ふと顔を上げると、目の前に先程紹介されたイーサンの見合い相手の女性が、申し訳なさそうな顔でこちらを見つめていた。
「っ!」
 すっかり忘れていた。ここはイーサンの実家の前で、見合い相手もずっと目の前にいたままだったのだ。
「あ……忘れてた」
 すっと後ろを振り返ったイーサンがぼそりと呟く。
 まったくこの男は、最低最悪だ。
「あ、あのっ、私、おふたりを応援しますわっ!」
 文句の一つでも言われるのかと思いきや、見合い相手の女性は目を輝かせながらそんなことを言い出した。
「は?」
 思わずその反応にセバスチャンはぽかんとしてしまう。
「とてもお似合いだと思いますし、おふたりが想い合っているのもよく分かりました。イーサン様のことは諦めます。とっても尊……じゃなくて、ほんとに素敵だと思いますので、どうぞおふたりで幸せになってください」
 その女性はにこりと笑って嬉しそうに話していた。
 一体なんなんだと、セバスチャンが更に呆れていると、すぐ近くで溜め息が聞こえてきた。
 イーサンだ。
「そうか。じゃあ、この見合いもなかったことに。それでいいか?」
 すっとセバスチャンを離し、イーサンは女性の方を向いて問い掛けた。
「はい。私はそれで構いません」
「お、おいっ、イーサンっ」
 ふたりの会話にセバスチャンが思わず口を挟んだ。
 確かにイーサンの見合いを止めに来たのは自分だが、急に大変なことをしてしまったのだと自覚する。
「なんだよ、セバスチャン。本人がいいって言ってんだからいいだろ。どちらかが断ったってするより、初めからなかったことにした方がお互いの家のためだろう?」
 セバスチャンの方を振り返ると、イーサンはしれっとした顔で答えた。
「…………」
 確かにそうかもしれないのだが。
 何も返す言葉がなく、そのまま黙り込んだ。
「では、私は両親に話して失礼いたしますね。ごきげんよう」
 そう言って再びにこりと微笑むと、女性はそのままくるりと向きを変えて建物の方へと歩いていった。
「じゃ、俺たちも帰るか」
 ぐいっとイーサンに肩を抱かれる。
 まったくこの男は何を考えているのかと、じろりと睨み付ける。
 しかし、セバスチャンの渾身の睨みも全く効いておらず、再びご機嫌な顔で歩き出す。
 そんなイーサンを見上げながらセバスチャンは大きく溜め息を付いた。

「あ、そうだ……」

 数歩歩いたところで、突然イーサンが何かを思い出したように声を出した。
「なんだよ」
 面倒臭そうにちらりと見上げる。
「荷物、忘れてた」
 掴んでいたセバスチャンの肩から手を離すと、手をぽんと打つ。
 そしてイーサンは何やら手を上に翳してひらひらと振っている。
 何をしているのだろうと首を傾げていると、突然ふわりと何かが光った。
「は?」
 思わず口を開けたままぽかんとしてしまった。
 驚いている間もなく、その光はふわりと飛んでいき、数秒後には何か大きな黒い物が、建物の方からゆらゆらとこちらに向かってきたのが見えた。
「はぁっ?」
 近付いてきたその黒い物を見て、思わず声を上げた。
 それは恐らくだが、イーサンの鞄なのだろう。見えている形からそう想像ができた。
 まさか、先程の光が荷物を運んできたというのか?
「よっと」
 近くまで飛んできたその黒い鞄を掴むと、イーサンは再びセバスチャンの肩を引き寄せた。
「じゃあ、帰るか」
「いやいやいや! なんだ! 今のはっ!」
 しれっとした顔をしたイーサンに思わず突っ込む。
(魔法か? あんな魔法なんて見たことがないぞ?)
 驚愕の顔でじっとイーサンを見上げるが、言葉にならない。
「あぁ。セバスチャンは見たことなかったか。今のは光の精霊と風の精霊たちだ。俺の荷物を持ってきてもらった」
 相変わらず無表情に話すイーサンに、セバスチャンは開いた口が塞がらなくなっていた。
(精霊? 精霊っ!?)
 初めて聞いた内容に頭が混乱して、もう何がなんだか分からなくなっている。
「ははっ。セバスチャン、なんて顔してんだよ。俺は精霊と会話ができるんだ。あいつらは俺を信用しているし、困ったことがあれば聞いてくれる。いつもセバスチャンの場所もあいつらに聞いてるんだよ」
 楽しそうに笑うと、にやりと口の端を上げながらセバスチャンが疑問に思っていることをイーサンが答えた。
「はっ? 精霊と会話っ? そんな奴、いるのかっ?」
 ありえない、とセバスチャンの大きな目が更に大きくなる。
「ここにいるだろ」
 ふっと笑った後、ふわりとイーサンがセバスチャンの頭を優しく撫でた。
「……理解できん」
 ぼそりと呟きながら、出会った時から常人じゃないとは思っていたが、もしや人間ですらないのでは? と、セバスチャンの頭の中はぐるぐると回っていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...