White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第22話

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 何を言っているんだ、この男は――。

 言われた言葉に、セバスチャンはイーサンの胸倉を掴んだまま呆然としてしまった。
(抱き心地?)
 しかし、ふと気になった言葉に頭の中の温度が沸々と上昇していく。

「だから、嘘はついていないって言ってるだろ? 俺はセバスチャンを裏切っていないし、セバスチャン以外なんてありえないんだよ」

 呆然としたまま反応がないセバスチャンに、イーサンはじっと真剣な顔で見下ろしてきた。
 セバスチャンが何かを感じていることには気が付いていない様子だった。
「…………」 
 先程の言葉がセバスチャンの頭の中をぐるぐると回っているからか、イーサンに何を言われても全く響いてこない。
 セバスチャンもふたりに何かあったなどとは初めから思ってはいなかった。だから、『嘘をついた』と思ったのだ。
 しかし、なぜだろうか。
 嘘をつかれたわけではないのに、なぜかもやもやとして嫌な気持ちになっている。
 今度は胸のあたりがチクチクと小さな痛みを感じ始めていた。
「セバスチャン?」
 何も言わずに固まったままのセバスチャンを、不思議そうな顔でイーサンが見つめている。
「……でも、抱き締めて、寝たんだろ?」
 セバスチャンは掴んでいた手を下ろすと、先程から感じている気持ちを隠すように、すっとイーサンから顔を逸らしてぼそりと呟くように問い掛けた。
「は? セバスチャン?…………はっ? おい、まさか俺とイアンを疑ってるのか?」
 一瞬きょとんとしたイーサンだったが、ハッとした顔をして目を見開く。
「疑ってる、わけじゃない……って、別に、お前が誰と何をしようが――っ!」
 ぼそりと呟いた後、自分の言葉にぎょっとして慌てたように振り返った瞬間、突然イーサンに抱き締められてセバスチャンは言葉に詰まってしまった。
「ははっ、まさかそんな風に思ってくれるなんてな」
 セバスチャンをぎゅっと強く抱き締めたまま、イーサンは今まで聞いたことのないような嬉しそうな声で話している。
「な、何がだっ! おいっ、離せっ!」
 かぁっと顔が熱くなりセバスチャンの顔が真っ赤になる。
 離れようとイーサンの肩を必死に押すが、びくともしない。
「ふっ……セバスチャンがそんなこと気にするなんて、奇跡だな」
「おいっ、離せって言ってるだろうっ。痛いんだよっ」
「嫌だ。離さない」
 背中に回された腕に力が籠められる。
 痛いと言っているのに更に力を入れるなんてと、イーサンに腹が立つ。
 柔な体ではないが、騎士であるイーサンは体が大きいだけでなく筋肉も多い。強く抱き締められたら痛いし苦しい。
 なぜそういうことが分からないのだと思わず溜め息が出た。
「ははっ、セバスチャン。イアンに嫉妬したんだな」
 耳元で嬉しそうなイーサンの声がした。
 その言い方にも内容にも気持ちが悪いほどに腹が立った。
「誰がだっ!」
 イーサンの肩をぐっと掴んで離そうとするがやはりびくともしない。
 怒鳴り付けてもなんとも思っていないようだ。
「だって、そうだろ? 気にしてたってことはそういうことなんじゃないのか?」
 セバスチャンの髪の毛を撫でながら相変わらず嬉しそうな声で話すイーサン。
「気にしてないっ!」
「嘘だね。まったく、嘘つきはセバスチャンの方だろ? なんで素直に言わないかな」
 今度は楽しそうに、セバスチャンの髪の毛をくるくると指に巻き付けながら話している。
「触るなっ! 俺は嘘なんてついていないし、いつでも素直だっ」
 離してもらえず、イーサンの背中をバシバシと叩きながら抵抗してみる。
「いてぇな。まったく分かってないなぁ、セバスチャンは。確かに、セバスチャンは素直だけど、口だけが素直じゃないんだよ。言ってることが」
 耳元で溜め息が聞こえ、呆れたような声でイーサンが答える。
「なんだと?」
 思わずムッとして眉間に皺が寄る。
「……なぁ、言ってくれよ。一度だけでいいんだ。セバスチャンの口から……聞きたい」
 先程までの口調から一転、イーサンは耳元でぼそりと呟くように話してきた。
 どこか寂しげにも聞こえる、弱々しい声だった。
「は?」
 何を言っているんだと鬱陶しそうに聞き返す。
「だから、さっきから言ってるだろ? セバスチャンに言ってほしいんだよ、俺は」
 どうやら振り出しに戻ったようだ。
 なぜそこまでその言葉に拘るのか……いや、自分がなぜ言うのが嫌なのか、なのか。
「…………」
 言葉が出てこずセバスチャンは黙り込んでしまった。
「セバスチャン?」
 不思議そうな顔でイーサンは自分の腕の中のセバスチャンを覗き込むようにして見ている。
 分かっている。この男は、『好きだ』と言われればそれで満足なのだろう。
 しかし、分かってはいるのだが、自分にはその言葉がなんの意味も持たないことも知っている。
 たとえ、それが嘘じゃないと言われても……。
「何をそんなに拘ってるんだよ。そんなに言うのが嫌なのか?」
 考え込んでいると、聞こえてきたのは少し怒ったような口調のイーサンの声だった。
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