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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】
第19話
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突然イアンが来たので何事かと思っていたら、とんでもないことを言い出した。
(イーサンが見合い?)
言われた意味が理解できず、セバスチャンはそのままぽかんとしてしまった。
(見合い? 見合いって、あの見合いか?)
言葉の意味は分かる。しかし、事態が全く飲み込めない。
「セバスチャンっ!」
再びイアンが叫んでいる。その声でハッとする。
目をぱちぱちっと瞬きさせると、セバスチャンはイアンにどういうことなのかと問い質そうとした。しかし――。
「イアンっ、それは本当なのか?」
セバスチャンが声を発するよりも先に、グスターヴァルが席を立って慌てたようにこちらへと足早に歩いてきた。
「グスターヴァル……どうしよっ」
泣きそうな顔でイアンがグスターヴァルを見上げている。
なぜイアンがそんな顔をするのかとそのまま話すタイミングを失い、セバスチャンはじっとふたりを見つめることしかできなくなった。
「私も、昨日荷物を持ったイーサンを見たのだが……まさか、見合いだったとは……」
今までになくグスターヴァルは驚愕した顔をしている。
そのまま呆然とした顔で見つめていると、突然グスターヴァルがじろりと睨み付けるようにこちらを見てきた。
「セバスチャン、いつまでも意地を張っている場合ではないぞ」
そして強い口調で話し掛けてきたのだった。
「っ……何をだ」
一瞬びくりと体が震えたが、それを隠すように強い口調で言い返す。
「なぜ、意地を張る必要があるんだ。イーサンが見合いをしてもいいのか? 見合いを受けるということは、それで終わりではないのだぞ?」
先程よりも更に強い口調でグスターヴァルが問い返す。
金色の瞳にじっと見つめられる。
「だったらなんだ。俺には関係ない」
ふいっと顔を背ける。
グスターヴァルの瞳は、いつも全てを見透かしているようで苦手であった。
「何を言ってるんだっ。誰が見ても分かることを。お前はイーサンが好きなんだろう? だから一緒にいるんだろうがっ」
バンッと突然机を叩いてグスターヴァルが怒鳴った。
びくっとセバスチャンとイアンの体が震える。
こんなにも怒っているグスターヴァルは先日以来だ。
イアンのことだけじゃなく、自分のことでもこんなに怒るのか、とセバスチャンは急に不思議な気持ちになった。
「別に……好きじゃない……」
顔を背けたままぼそりと答える。
そうだ。イーサンのことを好きなわけではない。一緒にいるのも、別に付き合っているからでも好きだからでもない。あいつがただ付きまとっているだけだ。ずっとそうだった……。
考え込んでいると、グスターヴァルの横から身を乗り出すようにしてイアンが声を上げた。
「あ、あのっ! セバスチャン、本当にいいんですか? 俺、セバスチャンと隊長ってお似合いだと思いますし、ふたりにはずっと一緒にいてもらいたいです。隊長にはグスターヴァルのことで助けてもらったし、悲しんでほしくないんです……」
そう話した後、ぐすっと鼻をすすると、イアンはじわりと目元が潤んでいるようだった。
なぜ、他人のことで泣けるのか。
このふたりはなぜこんなにも必死なのだろうかと、思わずじっと見上げる。
「セバスチャン。自分の気持ちは自分が一番分かっているはずだ。セバスチャンにはイーサンが必要なはずだ。そうだろう? イーサンを止めることができるのも、セバスチャンだけのはずだ」
じっと真剣な顔でグスターヴァルが見つめている。
(俺が行って止められるのか? あいつが決めたことだろう?)
手を組みじっと考え込む。
イーサンが見合いをするというのであれば、喜ばしいことではないか。
町の権力者であるイーサンの父を安心させられるのではないか? 長男の義務を果たすべきなのではないか?
女性と結婚をして子供を作り、子孫を残して幸せになる。
(子供……)
そうだ、自分にはできないことだ。分かっていたことじゃないか。
「いや……俺は行かない」
「なぜだっ!」
ふるふると首を横に振って答えた瞬間、先程よりも大きな声でグスターヴァルが怒鳴った。
「なぜ? あいつが決めたことだろう? 結婚して子供を作るのであれば、それ以上のことはないじゃないか。俺と一緒にいたって何もない」
「違うっ! イーサンはそんなこと望んでないだろっ。なぜ分からない。あいつはセバスチャンを待っているんだ。『恋人じゃない』と言われて自棄になっているだけだろうっ! なぜ分からんっ!」
再びグスターヴァルが机をバンッと強く叩く。
「そんなこと――」
「あぁ、そんなことだっ。あいつは本当にいい歳をして、子供みたいなことをしている。私と同じだ。拗ねているだけなんだ。あいつのことを一番よく分かっているのはお前だろう?」
じっと強い金色の瞳でグスターヴァルが睨み付けている。
「…………」
確かに、イーサンはいつまで経っても子供のようなところがある。クールに見えて、セバスチャンには時折甘えるようなこともある。
「セバスチャン……」
目を潤ませながらイアンも見つめている。
「っ…………はあぁぁぁぁ」
これ以上ないくらいの深く大きな溜め息を付いた。
何かよく分からない心の奥のモノも、外へと流れ出たような気がした。
「分かった……」
このお節介共を納得させるには、自分が行くしかないと観念する。
決して自分が止めたいからじゃない。こいつらのために行くのだ。
そう自分に言い聞かせ、重い腰を上げた。
☆☆☆
まさか、仕事を早退してここまで来ることになるとは。
「はぁ……」
久しぶりに訪れたワンダーランドの町の中を歩きながら、セバスチャンは思わず溜め息を零す。
しかし、ふたりに言われたからというのもあるが、実際あのまま仕事ができたとも思えない。
勝手にすればいいと思いながらも、気になって集中できなかっただろう。
とはいえ、自分がこんなことをするとも思ってはいなかった。
(あいつが決めたことなら放っておけばいいのに)
何度もそう思いながら引き返そうとしたのだが、気が付いたら町に辿り着いてしまっていた。
こうなったら見合い相手くらい拝んで帰るか、とも考える。
(しかし――)
町まで来たものの、よく考えるとイーサンの家の場所を知らないことに気が付いた。
(あいつの家になんて行ったことないからな……)
ふむ、と口元に手を当て立ち止まる。
そして周りをぐるりと見回す。
白一色のワンダーランドの城とは違い、町は色とりどりの建物や装飾があり、とても華やかだ。
しばらく見ないうちに建物も増えている気がする。
皆楽しそうで、店の中や通りからたくさんの人の声が聞こえてくる。
城の中も騒がしいが、また違った賑やかさがある。
あちこちから笑い声も聞こえ、ワンダーランドの平和を感じた。
「誰かに聞いてみるか……」
ぼそりと呟きゆっくりと歩き出す。
そう、イーサンは聖騎士の隊長ということだけでなく、町でも有名な家の長男なのだ。
恐らく誰かしら知っている人間がいるだろう。
(なんだかな……)
再び、『自分は何をやっているのだろう』とセバスチャンは大きく溜め息を付きながら、仕方なさそうに一軒の雑貨を扱っている店の中へと入った。
(イーサンが見合い?)
言われた意味が理解できず、セバスチャンはそのままぽかんとしてしまった。
(見合い? 見合いって、あの見合いか?)
言葉の意味は分かる。しかし、事態が全く飲み込めない。
「セバスチャンっ!」
再びイアンが叫んでいる。その声でハッとする。
目をぱちぱちっと瞬きさせると、セバスチャンはイアンにどういうことなのかと問い質そうとした。しかし――。
「イアンっ、それは本当なのか?」
セバスチャンが声を発するよりも先に、グスターヴァルが席を立って慌てたようにこちらへと足早に歩いてきた。
「グスターヴァル……どうしよっ」
泣きそうな顔でイアンがグスターヴァルを見上げている。
なぜイアンがそんな顔をするのかとそのまま話すタイミングを失い、セバスチャンはじっとふたりを見つめることしかできなくなった。
「私も、昨日荷物を持ったイーサンを見たのだが……まさか、見合いだったとは……」
今までになくグスターヴァルは驚愕した顔をしている。
そのまま呆然とした顔で見つめていると、突然グスターヴァルがじろりと睨み付けるようにこちらを見てきた。
「セバスチャン、いつまでも意地を張っている場合ではないぞ」
そして強い口調で話し掛けてきたのだった。
「っ……何をだ」
一瞬びくりと体が震えたが、それを隠すように強い口調で言い返す。
「なぜ、意地を張る必要があるんだ。イーサンが見合いをしてもいいのか? 見合いを受けるということは、それで終わりではないのだぞ?」
先程よりも更に強い口調でグスターヴァルが問い返す。
金色の瞳にじっと見つめられる。
「だったらなんだ。俺には関係ない」
ふいっと顔を背ける。
グスターヴァルの瞳は、いつも全てを見透かしているようで苦手であった。
「何を言ってるんだっ。誰が見ても分かることを。お前はイーサンが好きなんだろう? だから一緒にいるんだろうがっ」
バンッと突然机を叩いてグスターヴァルが怒鳴った。
びくっとセバスチャンとイアンの体が震える。
こんなにも怒っているグスターヴァルは先日以来だ。
イアンのことだけじゃなく、自分のことでもこんなに怒るのか、とセバスチャンは急に不思議な気持ちになった。
「別に……好きじゃない……」
顔を背けたままぼそりと答える。
そうだ。イーサンのことを好きなわけではない。一緒にいるのも、別に付き合っているからでも好きだからでもない。あいつがただ付きまとっているだけだ。ずっとそうだった……。
考え込んでいると、グスターヴァルの横から身を乗り出すようにしてイアンが声を上げた。
「あ、あのっ! セバスチャン、本当にいいんですか? 俺、セバスチャンと隊長ってお似合いだと思いますし、ふたりにはずっと一緒にいてもらいたいです。隊長にはグスターヴァルのことで助けてもらったし、悲しんでほしくないんです……」
そう話した後、ぐすっと鼻をすすると、イアンはじわりと目元が潤んでいるようだった。
なぜ、他人のことで泣けるのか。
このふたりはなぜこんなにも必死なのだろうかと、思わずじっと見上げる。
「セバスチャン。自分の気持ちは自分が一番分かっているはずだ。セバスチャンにはイーサンが必要なはずだ。そうだろう? イーサンを止めることができるのも、セバスチャンだけのはずだ」
じっと真剣な顔でグスターヴァルが見つめている。
(俺が行って止められるのか? あいつが決めたことだろう?)
手を組みじっと考え込む。
イーサンが見合いをするというのであれば、喜ばしいことではないか。
町の権力者であるイーサンの父を安心させられるのではないか? 長男の義務を果たすべきなのではないか?
女性と結婚をして子供を作り、子孫を残して幸せになる。
(子供……)
そうだ、自分にはできないことだ。分かっていたことじゃないか。
「いや……俺は行かない」
「なぜだっ!」
ふるふると首を横に振って答えた瞬間、先程よりも大きな声でグスターヴァルが怒鳴った。
「なぜ? あいつが決めたことだろう? 結婚して子供を作るのであれば、それ以上のことはないじゃないか。俺と一緒にいたって何もない」
「違うっ! イーサンはそんなこと望んでないだろっ。なぜ分からない。あいつはセバスチャンを待っているんだ。『恋人じゃない』と言われて自棄になっているだけだろうっ! なぜ分からんっ!」
再びグスターヴァルが机をバンッと強く叩く。
「そんなこと――」
「あぁ、そんなことだっ。あいつは本当にいい歳をして、子供みたいなことをしている。私と同じだ。拗ねているだけなんだ。あいつのことを一番よく分かっているのはお前だろう?」
じっと強い金色の瞳でグスターヴァルが睨み付けている。
「…………」
確かに、イーサンはいつまで経っても子供のようなところがある。クールに見えて、セバスチャンには時折甘えるようなこともある。
「セバスチャン……」
目を潤ませながらイアンも見つめている。
「っ…………はあぁぁぁぁ」
これ以上ないくらいの深く大きな溜め息を付いた。
何かよく分からない心の奥のモノも、外へと流れ出たような気がした。
「分かった……」
このお節介共を納得させるには、自分が行くしかないと観念する。
決して自分が止めたいからじゃない。こいつらのために行くのだ。
そう自分に言い聞かせ、重い腰を上げた。
☆☆☆
まさか、仕事を早退してここまで来ることになるとは。
「はぁ……」
久しぶりに訪れたワンダーランドの町の中を歩きながら、セバスチャンは思わず溜め息を零す。
しかし、ふたりに言われたからというのもあるが、実際あのまま仕事ができたとも思えない。
勝手にすればいいと思いながらも、気になって集中できなかっただろう。
とはいえ、自分がこんなことをするとも思ってはいなかった。
(あいつが決めたことなら放っておけばいいのに)
何度もそう思いながら引き返そうとしたのだが、気が付いたら町に辿り着いてしまっていた。
こうなったら見合い相手くらい拝んで帰るか、とも考える。
(しかし――)
町まで来たものの、よく考えるとイーサンの家の場所を知らないことに気が付いた。
(あいつの家になんて行ったことないからな……)
ふむ、と口元に手を当て立ち止まる。
そして周りをぐるりと見回す。
白一色のワンダーランドの城とは違い、町は色とりどりの建物や装飾があり、とても華やかだ。
しばらく見ないうちに建物も増えている気がする。
皆楽しそうで、店の中や通りからたくさんの人の声が聞こえてくる。
城の中も騒がしいが、また違った賑やかさがある。
あちこちから笑い声も聞こえ、ワンダーランドの平和を感じた。
「誰かに聞いてみるか……」
ぼそりと呟きゆっくりと歩き出す。
そう、イーサンは聖騎士の隊長ということだけでなく、町でも有名な家の長男なのだ。
恐らく誰かしら知っている人間がいるだろう。
(なんだかな……)
再び、『自分は何をやっているのだろう』とセバスチャンは大きく溜め息を付きながら、仕方なさそうに一軒の雑貨を扱っている店の中へと入った。
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