White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第18話

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 翌日の朝、訓練前に突然ディランが騎士たちを集めた。
 一体何事かと騎士たちはざわついている。
(何かあったのかな?)
 イアンもまた、じっとディランを見つめながら不思議に思い首を傾げる。
 事件でもあったのだろうか。
 真剣な顔のディランを見て、イアンを含め騎士たちの間に緊張が走る。

「急なんだが、今日と明日の間、イーサンは休暇を取ることになった。何か相談事や申請がある場合は俺に言うように。全て一任されているから俺が判断する。以上だ」

 ディランは淡々といつものように大きな声で騎士たちに向かってそう話したのだが、どこか浮かない顔のように見える。
 イアンはディランの様子にも告げられた内容にも驚いた。
 他の騎士たちがディランの様子に気が付いたかどうかは分からないが、イーサンがいないということに驚いて先程よりもざわついている。
 確かに今日は一度も見かけていなかった。
(隊長、どうしたんだろ……)
 なんだか急に不安になってきた。
 先日からイーサンとセバスチャンの様子を見てきたが、大きな変化はなかったものの、いつもと少し違う点もあった。
 そしてこのタイミングでのイーサンの休暇。
 なぜ急に? もしかして実家で何かあったのだろうか。
 口元に手を当てながらイアンは考え込んだ。
「解散っ!」
 すると、ざわついている騎士たちを無視してディランは大きな声でそう言うと、そのまま訓練場の脇にあるベンチの方へと歩いていってしまった。
「あっ!」
 慌ててイアンはディランを追い掛ける。

「あ、あのっ……」
 すぐ後ろまで追いつくと、ディランを見上げながら声を掛けた。
「ん? なんだ、イアンか。どうした? 困り事か?」
 振り向いたディランは不思議そうに首を傾げている。
「あ、いえ、その……隊長は、なんで休みなんですか?」
 やはり気になって聞かずにはいられなかった。
 その質問にディランは一瞬言葉を詰まらせてからぼそりと話した。
「ん……うん、まぁ、ちょっとな……」
 そしてどこか言い難そうな顔で頭を掻いている。
 やはりイーサンに何かあったのだ。
「何か、あったんですか?」
「いや……」
 じっと不安そうな顔で見上げているイアンを見て、ディランは更に困った顔になる。
「副隊長?」
「…………はぁ。まぁ、お前ならいいか。誰にも言うなよ? はっきり聞いたわけじゃないんだが、恐らくイーサンは見合いをするために実家に帰っている」
 じっとイアンを見つめ返した後、仕方なさそうに腰に手を当て溜め息を付き、ディランは信じられないような言葉を口にしたのだった。
「見合いっ!?」
「シッ!」
 驚いて思わず声を上げたイアンを慌ててディランが止める。
「す、すみません……」
 イアンも慌てて両手で口を押さえる。
「あぁ。あいつは実家に帰るとしか言ってないが、ずっと実家からは見合いの話が来ていてな。それが嫌で一度も帰ってないんだ、この6年間。それが、急に実家に帰るというのだから、恐らくな……。家族に不幸でもない限りは帰らないと思っていたが、そういう話は聞いてないしな……」
 周りをきょろきょろと見回した後、特に誰かが反応していないことに安心した様子のディランは、なぜそう思ったのかをイアンに説明してくれた。
 ディランはイーサンの従兄弟なのでそういった内情にも詳しいのだ。
「で、でもっ、隊長にはセバスチャンが……」
 言われたことは分かるのだが、やはり納得はできない。
「そうだな……俺もそう思っていたんだが。あいつは、『潮時』と言っていたからもしかしたら諦めたのかもな」
 ふぅっともう一度ディランが深く溜め息を付く。
「諦めたってっ!」
 まさかセバスチャンのことを? と言葉が続かない。
 しかし、思わず声を荒げてしまったことに気が付き、慌てて両手で口を押さえる。
「さぁな。あいつの気持ちはさっぱり分からん。考えてることもな。昔からそういう奴なんだよ。何をするでもなく飄々としてるかと思ったら突然騎士になるって言い出したり、隊長になる時も最初は頑として嫌がっていたのに、急にやると言い出したり。ほんといつもよく分からんのだ、あいつは」
 そう言ってディランは再び大きく溜め息を付いた。
 しかし、今の話を聞いてイアンは酷く不安に襲われた。
 本当にセバスチャンのことを諦めるつもりなのかもしれない。
「あ、あのっ、ちょっと行ってきますっ!」
 今が訓練中なのは分かっているが、居ても立っても居られなかった。
 ディランに向かってそう言うと、止められるのも聞かずに走り出していた。



 ☆☆☆



(隊長が見合いっ!?)
 信じられないような話だが、ディランの言うことだ。恐らく間違いないのだろう。
 だとしたら、じっとしてなんていられない。
 すぐにでもセバスチャンにこのことを伝えなければ、と考えた。
 あまりの驚きで足が縺れそうになりながらも必死にセバスチャンの執務室へと急ぐ。
(どうしよう……)
 まさか、こんなことになるなんてと後悔する。
 グスターヴァルとふたりでずっと気にして見てきたはずなのに、なぜ自分はイーサンの変化に気が付かなかったのか。
 おかしいと思うことはあったはずなのに。
 走っているからなのか、焦りからなのか、額から汗が止まることなく流れている。


 執事の執務室は城の入り口からはそう遠くはない位置にある。
 訓練場からも遠くはない。
 しかし、なぜかとても長く感じてしまっていた。
「はぁ……はぁっ……ふぅ……」
 漸く目の前に執務室のドアが見えて、イアンは足を止めて息を整えた。
「ふぅ……」
 もう一度深く息を吐くと、意を決するように執務室の扉を強くノックする。
 中からセバスチャンの声が聞こえてきた。
 急に緊張してきて心臓が飛び出しそうなほどに激しく動いている。
 走ってきたからではないだろう。
「し、失礼しますっ」
 勢いよく扉を開けて中へと入る。

「イアン?」

 次に声を発したのは驚いたような声のグスターヴァルだった。
 ちらりとだけグスターヴァルを見た後、イアンはすぐにセバスチャンの下へと歩いていく。
「セバスチャンっ! 隊長を止めてくださいっ!」
 いの一番に出た言葉がこれだった。
 なぜだか分からないがそう口が動いていたのだ。
「は?」
 全く意味の分からないセバスチャンはきょとんとした顔で首を傾げている。
「早くしないとっ、隊長がお見合いしちゃいますっ!」
 どうしたらいいか分からなくなり、イアンは涙目になりながら叫んでいた。
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