White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第17話

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 自分たちの休みを除いて4日間。イーサンとセバスチャンの様子をふたりでずっと監視するかのように見ていたのだが、結局何も分からなかった。
 ふたりとも多少気になることはあったものの、ほぼ普段通りだったのだ。
 初日に感じたこと以外は何も得られていない。
 グスターヴァルがセバスチャンに探りを入れようとしたのだが、聞こえないふりなのか忙しさからなのか、何も答えてはくれなかったらしい。
 毎日グスターヴァルに会えたのは嬉しかったのだが、何も収穫がないのはなんとももどかしい。
 そして、イアンにとって何より残念だったのは、昨日は仲直り後の初めての休日だというのに、いちゃつくどころかずっとあのふたりの話になってしまったのだ。
「もう、なんなんだよっ」
 なんだか無性に腹が立った。成果がないどころかグスターヴァルとの進展もない。
 イアンは訓練中にぼそりと独り言を呟いていた。
 今日はイーサンとセバスチャンは休みのため、ふたりを探ることができない。
 ふたりともポーカーフェイスで、普段からあまり感情を表に出さない性格のため余計に難しいのだろうが、普段通り過ぎてやっぱり何もないんじゃないかと思えてきてしまう。
 しかし、万が一何かあるのだとしたら、自分とグスターヴァルのことを助けてもらった恩がある。何かイーサンの役に立ちたい。
 かと言って、イアンにはイーサンを問い質すことはできない。
(隊長……今日もセバスチャンの所には行ってないのかな)
 ちらりと寄宿舎の方を眺めながら溜め息が漏れた。



 ☆☆☆



「ディラン、ちょっといいか?」
 目の前を歩いている副隊長であり、自分の従兄弟であるディランに声を掛けた。
「あ? なんだ、イーサンか。お前今日休みじゃないのか?」
 声を掛けられ立ち止まると、なんとも不機嫌そうな顔でディランが振り返る。
「あぁ。それなんだが、今日から3日程不在にするから、隊のことはお前に頼んだ。休みは昨日だったから大丈夫だろ?」
 ディランの不機嫌そうな顔はいつものことなので、気にすることなくイーサンは淡々と答える。
「は? 3日? なんで?」
 ぎょっとした顔でディランが目を見開く。
「ん、あぁ。ちょっとな……実家に帰る」
 なんとも言い難そうに目を逸らしながら答えた。
「は? 実家? なんで……って、おまっ、まさかっ!」
 眉間に深い皺を寄せた後、ディランはハッとした顔で更に目を見開く。
「別になんでもいいだろ。……でもまぁ、そろそろ潮時なのかもな。じゃあ頼んだぞ」
 ふぅっと溜め息を付くと、そう話してその場を後にしようと踵を返す。
「おいっ、イーサンっ! まさか辞めたりしないよなっ?」
 後ろから驚いたようなディランの大きな声が聞こえる。
 しかし、振り返ることなくイーサンは手を振りながらその場から歩いて行った。


 荷物を取りに自分の部屋に戻ろうとした時、訓練場から騎士隊の声が聞こえてきて足を止めた。
 聖騎士は自分の隊である。
 別に聖騎士を目標としたわけでも、イアンのようにこの国を守りたいといった気持ちがあったわけでもない。
 ただ、自分の実家を継ぐ気はなかったし、剣を振るのは好きだった。
 それだけだったのだが、今では少しだけこの環境に愛着も沸いていた気がする。
 居心地も良く、いや、大臣にくどくどと嫌味を言われるのは正直面倒臭い。
 あいつらは自分たちは大したことはしないくせに、口ばかりよく動く。
 誰があんた達を守ってやってると思っているんだと言ってやりたいところだが、それを言うとルイやディランの立場もあるからいつも我慢している。
 いや、正確にはいつもディランから『お前は喋るな』と言われていたのだ。
「はぁ……」
 思わず溜め息が零れる。
 そして自分がここを離れない最大の理由。
 それがセバスチャンだった。
 絶対に一生そばにいる。そう考えていた。
 離れることなんて微塵も考えたことはない。
 しかし、6年前から一度も言われたことがないのだ。セバスチャンから『好き』という言葉を。
 もちろん彼の性格上、絶対に言わないだろうということは分かっている。
 言わなくても分かっているとずっとそう思っていた。ただの恥ずかしがり屋なのだと。
 でももし、そうじゃないとしたら?
 迷惑に思っていても自分が強引だから断れなかっただけだとしたら?
 急にそんなことが頭に浮かぶようになった。
「……セバスチャン……」
 あれからずっと会いに行っていない。そして今日も……。
 何か思ってくれているのだろうか。
 心配くらいしてくれるだろうか。
「ふんっ、そんなわけないか……」
 自嘲気味に笑うと、イーサンは自分の部屋へ向かうため、再び歩き出した。



 ☆☆☆



 部屋を出て、城の外へと出る道を歩いていた時だった。
 意外な人物から声を掛けられて驚いた。

「イーサン、どこへ行く?」

 なぜこいつがここにいるのか不思議に思ったが、城の巡回中に迷いでもしたのか。
 声を掛けてきたのは驚いた顔をしているグスターヴァルだった。
「別にどこでもいいだろう」
 面倒臭そうに答え、再び歩き出そうとする。
「待てっ」
 しかし、ぐっと左腕をグスターヴァルに掴まれ止めさせられた。
「離せ」
 目線はほとんど変わらない。
 自分より背が高いのは恐らくグスターヴァルくらいだろう。
 ディランもほぼ同じくらいだが、自分の方が背が高い。
 少しだけ見上げるグスターヴァルの背の高さが余計に苛立つ。
「その荷物はなんだ。旅行、というわけではないのだろう?」
 じっと睨み付けるようにグスターヴァルが見つめる。
「お前には関係ないだろう。さっさと離せ」
 ぐっと腕を振り払おうと動かすが、意外にもグスターヴァルの力が強くて振り払えない。
「セバスチャンと何かあったのだろう? ちゃんと話はしたのか?」
「は? それこそお前には関係ないだろう」
 苛つきから段々と怒りに変わってくる。
「関係はある。お前はイアンの上司だし、セバスチャンは私の上司だ。仕事に支障が出ては困る。それに……お前にはイアンとの仲を戻す協力をしてもらったからな」
「はっ! バカなのかお前。本当に俺とイアンが何もなかったと言い切れるか?」
 あれを協力と思うなどと、どこまでお人好しなんだと鼻で笑った。
「なんだとっ?」
 掴まれている手に更に力が入り、腕に指が食い込む。
「とにかく、余計なお世話だ。イアンを取られたくなければあいつのことだけ考えていろ」
 そう言ってバシッとグスターヴァルの手を叩いて漸く逃れることができた。
「お前に言われなくとも私はイアンのことだけ考えている。イアンのことを考えて、お前たちのことを言っているんだ」
 ぎゅっと両手に拳を作りながらグスターヴァルが睨み付けている。
「仕事に支障は出さない。心配しなくてもセバスチャンも同じだ」
 そう言ってくるりと向きを変えて歩き出す。
「お前はセバスチャンのことをよく分かっているんだろう。だったら、あれが素直じゃないことも分かっているはずだ」
 後ろからグスターヴァルの声が聞こえたが、無視して歩いていく。
「お前からちゃんと言わないと本当に終わってしまうぞ。お前こそセバスチャンを離すなっ」
 追いかけてくる様子はないが、グスターヴァルの言葉が突き刺さる。
(あいつ……あの時の言葉、聞こえてたのか……)
 ぐっと左手に拳を作り、強く握り締める。
 分かっている。しかしもういいのだ、全て。
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