White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】

第13話

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「はあぁぁぁぁ……」
 懐かしいとはとても言い難い、イーサンと出会った頃のことを思い出し、思わず大きな溜め息が出た。
 なぜそんなことを思い出したのだろうかと、セバスチャンはふと本から目を離して窓の外を眺めた。
 窓の外には森の木々が見えている。
 セバスチャンの部屋は城の入口からそう遠くはない場所にあるが、城を囲うようにして大きな森があるのだ。 
 しかし、人の声も鳥の声さえ何も聞こえない、とても静かな日だった。
 今日は週に一度の休日。
 その休日に、初めてイーサンがこの部屋を訪れていない。
 普段であれば読書などできないほどに、イーサンがベッタリとまとわりつくようにそばにいる。
「…………」
 別に会いたいわけでも寂しいわけでもない。
 ただ、6年前のあの日から来なかった日は一度もなかった。
 そしてイーサンが言ったあの言葉。

『俺はずっとあんたに片想いのままなだけだ』

 まさかあの男がそんな風に思っていたとは考えもしなかった。
 いつも自信満々で、自分が好かれて当たり前といった顔をしていた。
 長男で騎士隊長だというのにいつまで経っても我が儘で、自分のことを振り回してくるイーサン。
 それが、『片想い』だと?
 今までのことを考えると、とても片想いの相手にするような態度でも行動でもないだろう。
 しかし、彼の性格を考えれば不思議ではないのかもしれない。
「……なんで来ないんだよ」
 ぼそりと呟く。
 なぜあんなことを言ったのか聞こうと考えていたが、肝心のイーサンが来ないのでは話ができない。
 かと言って、自分から会いに行きたくはない。
 もしかしたら何かあったのか? とも考えるが、その場合は恐らく何かしら連絡が入るだろう。
 それもない、ということはイーサン自身が考えて来ていないということになる。
(まさか、拗ねたのか?)
 どれだけ子供なんだ、と思わず呆れてしまった。
 なんだか妙に腹落ちした気がしてセバスチャンはホッとする。
 今日イーサンが来ないのは、きっと拗ねているだけなのだろうと。
 しかし、その考えが後に後悔することになるとはこの時は思いもしなかった。



 ☆☆☆



 時は、イアンとグスターヴァルがイーサンの部屋にふたりでいた時まで遡る。
 漸くお互いの誤解も解け、ふたりで抱き合った後、突然グスターヴァルがとんでもないことを言い出したのだった。

「イアン、まさかとは思うのだが……その、イーサンとは……」

 体を離された後、なんとも言い難そうな顔でグスターヴァルが問い掛けてきた。
「なっ、ちょっとっ! まさかグスターヴァル、俺のこと疑ってるのっ?」
 カッと顔が熱くなり、頭に血が上っていくのを感じて思わずイアンは大声を上げてしまった。
「いや……疑ってるわけではないのだが、その、イーサンからイアンの匂いがしたから……」
 じっと上目遣いでグスターヴァルがイアンを見つめる。
 言われた内容にもその表情にも驚いて唖然とした。
「匂いっ!?」
 自分で言葉にした途端に恥ずかしくなり、更に顔が熱くなる。
 そういえば先程もそんなことを言っていた。
「あぁ、私はドラゴンの時の名残なのか、鼻が良く利くのだ。イアンの匂いもイーサンの匂いも区別がつく。だから、イーサンからイアンの匂いがしたことがどうしても気になってな。……その、なんで……」
 眉間に皺を寄せながらも、グスターヴァルは相変わらず上目遣いで見つめている。
 なんだか甘えられているようにも感じてドキッとする。
 こんなグスターヴァルの表情は初めてだった。
「な、なんでって……分かんないけど、一緒に寝たからかな?」
「何っ!?」
 頬を少し赤く染めながらイアンが答えた次の瞬間、今度は顔を赤くしながらグスターヴァルが怒鳴る。
「えっ、だから、えっと……昨日、隊長にグスターヴァルとのこと話して、それから部屋には戻らずにここに泊まったから……って、ちょっと、別に何もないからねっ。一緒に寝ただけだから……って、眠っただけっ。分かった?」
 じっと疑うような目付きで見つめているグスターヴァルに必死に話す。
 確かに昨日、戻ろうとする自分をイーサンが引き留めて、ここで一緒に寝ようと誘われたことは事実だが、本当に何もない。
 ただ、なぜかずっと抱き締められたまま寝ていたのだが……。
 さすがにそこまでは言えなかった。
 もしかして、イーサンはわざとそうしたのだろうかとふと考える。
 グスターヴァルをけしかけるために自分を部屋に泊めて、匂いが付くように抱き締めたのか?
 しかし、イーサンはグスターヴァルが匂いに敏感なことを知っていたのだろうか。
「本当に一緒に眠っただけなんだな?」
 考え事をしていると、突然グスターヴァルが顔を覗き込んできた。
「わっ! あ、当たり前じゃんっ!」
 驚いて思わず顔を逸らす。
 別に後ろめたいことは何もないはずなのだが、グスターヴァルの顔を直視できなかった。
「ふむ……一緒に寝るだけであれだけ匂いが付くのか……」
 少し離れると、グスターヴァルは何やら考え込むようにして顎に手を当てている。
「お、お風呂に入ってなかったから、とか……」
 なんとなく思い付いたことを話してみた。
「……そうか」
 じっとイアンを見つめると、納得したのかよく分からないが、グスターヴァルはこくりと頷いた。
 しかし、自分で話しておきながらイアンはハッとする。
(お風呂に入ってないのに、グスターヴァルと抱き合っちゃった!)
 さぁっと顔が青ざめていく。
 思わず自分の体をくんくんと匂って確かめる。
 汗臭い感じはないがグスターヴァルは鼻がいいと言っていた。
(どうしよっ……)
 急に不安になった。
 もしも嫌な臭いでも発していてグスターヴァルに嫌われでもしたら。
「どうした? イアン」
 慌て始めたイアンを見つめ、グスターヴァルは不思議そうに問い掛ける。
「あ、えっと、俺、お風呂入ってないからっ、そのっ……」
「あぁ。そんなことか。気にするな。イアンはいい匂いだ」
 慌てて答えたイアンにグスターヴァルはふっと笑みを浮かべる。
「ちょっ! いい匂いってっ! そんなわけないじゃんっ!」
 再び顔が熱くなりグスターヴァルに怒鳴り付ける。
「なぜだ? イアンはいい香りがするから心配しなくていい。2、3日風呂に入らなくても平気だろう」
 不思議そうに首をこてんと傾け、グスターヴァルはそんなことを言い出した。
「そんなわけないじゃんっ! もうっ」
 同じ言葉を繰り返し、イアンはぷいっと横を向く。
 きっとグスターヴァルは気を遣ってこんなことを言っているのだと。
「そう怒るな。本当に大丈夫だから。私はイアンの匂いが好きなんだ」
 そう言ってグスターヴァルはぎゅっとイアンを抱き締める。
「ま、待ってってっ! だから、俺っ……んっ」
 慌てて離れようとして声を上げた瞬間、グスターヴァルに口を塞がれる。
 そのまま舌を入れて絡ませてきた。
「う……っんぅっ……」
 ぐいぐいとグスターヴァルの胸を押すのだが全く動かない。
「ん……っはっ、はぁぁ……」
 しかし、グスターヴァルとのキスは長くは続かず、口を離されイアンは息を大きく吐き出した。
「イアン」
 俯いていると、グスターヴァルに髪を撫でられ頬にキスをされた。
 そしてそのままどさっとベッドの上に押し倒される。
「えっ! ちょっと、グスターヴァル?」
 まさかここで? とぎょっとしてイアンが声を上げる。
「イアン」
 覆いかぶさるようにしてグスターヴァルもイアンの上に体を倒し、そのまま頬にキスをしてきた。
「待ってっ! グスターヴァルっ!」
 必死にグスターヴァルを離そうと胸元を押す。
「触りたい……」
 ぼそりと呟きながらグスターヴァルは唇をイアンの首筋へと移動させる。
「ダメだってばっ」
「なぜだ?」
「だって、ここ隊長の部屋っ!」
 体を離し、不思議そうな顔で覗き込むグスターヴァルに言い返す。
 そうなのだ。仲直りしたとはいえ、ここはイーサンの部屋だ。
 いちゃつくわけにはいかない。
「ふむ……そうだな」
 何か考えるようにグスターヴァルは再び顎に手を当てている。
「イアン。ここで一緒に寝よう」
 そしてそんなことを言い出した。
「ええっ! な、何言ってるのっ? だから、ここはっ――」
「だからだ。あいつは私を騙したからな。仕返しをしてやる」
 ふんっと鼻を鳴らすと、グスターヴァルは布団を捲って中に入ってきたのだった。
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