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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】
第4話
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翌日の朝、外から聞こえる小鳥の鳴き声で目が覚めた。
なんとも気持ちが良い朝……ではない。
目覚めは最悪だ。
せっかくの休日だというのに、1週間振りに会えた大好きな人とあんな喧嘩をしてしまうなんて。
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまった。
「ふ……う、んっ」
布団の中に入ったまま、イアンはぐっと腕を上に伸ばす。
大きなベッドの上には自分ひとりしかいないようだった。
手で探ってみたものの、グスターヴァルの姿は触れられる場所にはいなかった。
「……グスターヴァル?」
首だけ上げて、見える範囲をきょろきょろとする。
しかし、返事はない。
思わずガバッと体を起こした。
「っ! グスターヴァルっ?」
ハッとした顔をしながらもう一度大きく名前を呼んでみる。
「…………」
広い部屋ではあるが、死角になったり隠れたりできるような場所はないはずだ。
部屋全体を見回してみても、やはりグスターヴァルの姿はない。
(まさか、どこか行っちゃった?)
目覚めた時に、自分の横にいなかったグスターヴァル。
てっきり先に起きてソファーで本でも読んでいるのかと思ったが、部屋にすらいないなんて。
まさか昨日のことで嫌われてしまったのではないかと、イアンは急に不安になり顔が青ざめていく。
こんなことでダメになってしまうなんて、嫌だ。
「グスターヴァル……」
名前を呼びながら涙が込み上げる。
すると、部屋のドアがガチャっと音をさせながら開いた。
ハッとしてドアの方を見ると、グスターヴァルが何かお盆のような物を持って入ってきたのが見えた。
「グスターヴァルっ!」
思わず声を上げる。
どこかに行ってしまったわけではなかった。
しかし、ほっとした次の瞬間、信じられないような言葉が返ってきた。
「イアン、朝食を貰ってきたから食べなさい。私は済ませてきたから」
そう言ってグスターヴァルは持っていたお盆をテーブルに置くと、イアンを見ることなくそのままソファーへと腰を下ろした。
(ひとりで、食べてきた?)
休日はイアンたち騎士も城の中の食堂で、他の城の住人たちと一緒に食事をすることが可能だった。
グスターヴァルと一緒に朝食を食べることを楽しみにしていたイアンは、置いていかれたことにショックを受けていた。
しかも、グスターヴァルは戻ってから一度もイアンを見ようとしていない。
まだ怒っているのだろうか?
しかし、ずっと無表情のままのグスターヴァルからは、何を考えているのか全く分からなかった。
「……ありがと」
言いたいことは山のようにあるが、口に出すことはできず、ぼそりとお礼を言うとイアンはベッドから下りてソファーへと移動した。
部屋の中央には大きなソファーと、その前に丸いテーブルが置いてある。
グスターヴァルはソファーの一番端に腰掛けている。
(あんな端に座らなくても……)
すとんとソファーの真ん中に座ると、目の前に置かれた朝食をじっと見つめる。
先日グレースが出してくれたような朝食ほどではないが、美味しそうなパンとサラダ、そしてハムとスクランブルエッグが綺麗な皿に盛り付けられている。
瑞々しい果物と温かいコーヒーも用意されていた。
「いただきます……」
手を合わせてぼそりと呟く。
相変わらずグスターヴァルからの反応はない。
いつも優しくて、過保護なほどの心配性なグスターヴァルとは思えないような態度だ。
ゆっくりとパンを口に運びながら、ちらりと横を見る。
気が付いているだろうに、やはり全くこちらを見ない。
なぜ無視されているのか。
美味しいはずの朝食の味が何も感じられなかった。
イアンの大きな目に涙が溜まる。
鼻をすすりながら食事を進めている間も、グスターヴァルは心配するような素振りもない。
まるで、何も関心がないかのように。
「ごちそうさま……」
手を合わせ、小さな声で呟くと、イアンは頬に伝っていた涙を袖で拭う。
そして立ち上がってお盆を持とうとした瞬間、漸くグスターヴァルが口を開いた。
「置いておけばいい。後で私が持って行く」
イアンの顔を見ることなくそれだけ話しただけだった。
「っ……」
グスターヴァルの言葉に再び涙が込み上げる。
突き放されたような気がしたのだ。
「俺、帰るね……」
もう耐えられないと思い、イアンはそう言ってそのままドアの方へと歩いて行く。
ドアの取っ手に手を掛けた後、ちらりと後ろを振り返るがグスターヴァルは相変わらず黙って本を読んでいる。
ぶわっと涙が溢れてきた。
イアンは慌てたようにドアを開け、そのまま勢いよく閉めて走り出していた。
なぜあんな態度をされるのか。
行為を断ったことがそんなに悪いことなのか。
(グスターヴァルだって、俺の気持ち、全然分かってないじゃん!)
悲しみなのか悔しさなのか、涙が次から次に溢れてくる。
拭うことなくイアンは宿舎に向かって走り続けていた。
☆☆☆
勢いよくドアを開けて部屋に入ると、そのままの勢いでドアを閉める。
そして自分のベッドにダイブするようにしてうつ伏せになった。
今は訓練中の時間のため、部屋には誰もいない。
「うっ……ぐっ……うぅっ……」
涙が止まらない。
もう嫌だ、と思いながらも、どうすれば良かったのかと後悔もする。
いつも優しいグスターヴァルがまるで別人のようだった。
人間になって変わってしまったのだろうか?
それともこの1週間で何かがあったのだろうか。
何も分からない。
ただ、悲しい。
やっと会える、話せると昨日の夕方まで浮かれていた自分が嘘のようだ。
「……グスターヴァル……」
優しく抱き締めて名前を呼んでもらえる、そんな風に考えていた自分が間違っていたのだろうか。
もう何も分からなくなっていた。
なんとも気持ちが良い朝……ではない。
目覚めは最悪だ。
せっかくの休日だというのに、1週間振りに会えた大好きな人とあんな喧嘩をしてしまうなんて。
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまった。
「ふ……う、んっ」
布団の中に入ったまま、イアンはぐっと腕を上に伸ばす。
大きなベッドの上には自分ひとりしかいないようだった。
手で探ってみたものの、グスターヴァルの姿は触れられる場所にはいなかった。
「……グスターヴァル?」
首だけ上げて、見える範囲をきょろきょろとする。
しかし、返事はない。
思わずガバッと体を起こした。
「っ! グスターヴァルっ?」
ハッとした顔をしながらもう一度大きく名前を呼んでみる。
「…………」
広い部屋ではあるが、死角になったり隠れたりできるような場所はないはずだ。
部屋全体を見回してみても、やはりグスターヴァルの姿はない。
(まさか、どこか行っちゃった?)
目覚めた時に、自分の横にいなかったグスターヴァル。
てっきり先に起きてソファーで本でも読んでいるのかと思ったが、部屋にすらいないなんて。
まさか昨日のことで嫌われてしまったのではないかと、イアンは急に不安になり顔が青ざめていく。
こんなことでダメになってしまうなんて、嫌だ。
「グスターヴァル……」
名前を呼びながら涙が込み上げる。
すると、部屋のドアがガチャっと音をさせながら開いた。
ハッとしてドアの方を見ると、グスターヴァルが何かお盆のような物を持って入ってきたのが見えた。
「グスターヴァルっ!」
思わず声を上げる。
どこかに行ってしまったわけではなかった。
しかし、ほっとした次の瞬間、信じられないような言葉が返ってきた。
「イアン、朝食を貰ってきたから食べなさい。私は済ませてきたから」
そう言ってグスターヴァルは持っていたお盆をテーブルに置くと、イアンを見ることなくそのままソファーへと腰を下ろした。
(ひとりで、食べてきた?)
休日はイアンたち騎士も城の中の食堂で、他の城の住人たちと一緒に食事をすることが可能だった。
グスターヴァルと一緒に朝食を食べることを楽しみにしていたイアンは、置いていかれたことにショックを受けていた。
しかも、グスターヴァルは戻ってから一度もイアンを見ようとしていない。
まだ怒っているのだろうか?
しかし、ずっと無表情のままのグスターヴァルからは、何を考えているのか全く分からなかった。
「……ありがと」
言いたいことは山のようにあるが、口に出すことはできず、ぼそりとお礼を言うとイアンはベッドから下りてソファーへと移動した。
部屋の中央には大きなソファーと、その前に丸いテーブルが置いてある。
グスターヴァルはソファーの一番端に腰掛けている。
(あんな端に座らなくても……)
すとんとソファーの真ん中に座ると、目の前に置かれた朝食をじっと見つめる。
先日グレースが出してくれたような朝食ほどではないが、美味しそうなパンとサラダ、そしてハムとスクランブルエッグが綺麗な皿に盛り付けられている。
瑞々しい果物と温かいコーヒーも用意されていた。
「いただきます……」
手を合わせてぼそりと呟く。
相変わらずグスターヴァルからの反応はない。
いつも優しくて、過保護なほどの心配性なグスターヴァルとは思えないような態度だ。
ゆっくりとパンを口に運びながら、ちらりと横を見る。
気が付いているだろうに、やはり全くこちらを見ない。
なぜ無視されているのか。
美味しいはずの朝食の味が何も感じられなかった。
イアンの大きな目に涙が溜まる。
鼻をすすりながら食事を進めている間も、グスターヴァルは心配するような素振りもない。
まるで、何も関心がないかのように。
「ごちそうさま……」
手を合わせ、小さな声で呟くと、イアンは頬に伝っていた涙を袖で拭う。
そして立ち上がってお盆を持とうとした瞬間、漸くグスターヴァルが口を開いた。
「置いておけばいい。後で私が持って行く」
イアンの顔を見ることなくそれだけ話しただけだった。
「っ……」
グスターヴァルの言葉に再び涙が込み上げる。
突き放されたような気がしたのだ。
「俺、帰るね……」
もう耐えられないと思い、イアンはそう言ってそのままドアの方へと歩いて行く。
ドアの取っ手に手を掛けた後、ちらりと後ろを振り返るがグスターヴァルは相変わらず黙って本を読んでいる。
ぶわっと涙が溢れてきた。
イアンは慌てたようにドアを開け、そのまま勢いよく閉めて走り出していた。
なぜあんな態度をされるのか。
行為を断ったことがそんなに悪いことなのか。
(グスターヴァルだって、俺の気持ち、全然分かってないじゃん!)
悲しみなのか悔しさなのか、涙が次から次に溢れてくる。
拭うことなくイアンは宿舎に向かって走り続けていた。
☆☆☆
勢いよくドアを開けて部屋に入ると、そのままの勢いでドアを閉める。
そして自分のベッドにダイブするようにしてうつ伏せになった。
今は訓練中の時間のため、部屋には誰もいない。
「うっ……ぐっ……うぅっ……」
涙が止まらない。
もう嫌だ、と思いながらも、どうすれば良かったのかと後悔もする。
いつも優しいグスターヴァルがまるで別人のようだった。
人間になって変わってしまったのだろうか?
それともこの1週間で何かがあったのだろうか。
何も分からない。
ただ、悲しい。
やっと会える、話せると昨日の夕方まで浮かれていた自分が嘘のようだ。
「……グスターヴァル……」
優しく抱き締めて名前を呼んでもらえる、そんな風に考えていた自分が間違っていたのだろうか。
もう何も分からなくなっていた。
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