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Lovers~晴れのち曇り、時々雨~【スピンオフ】
第1話
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あの時もしも声を掛けていたら、気が付いていたら、何か変わっていたのだろうか。
人間の気持ちは難しい。
そして、自分の気持ちはもっと難しい……。
☆☆☆
ドラゴンだったグスターヴァルが人間に戻り、ワンダーランドの城で働くようになった6日目の朝。
珍しい客がセバスチャンの執務室を訪れていた。
「少しは慣れましたか? グスターヴァル」
にこりと優しげな表情で笑って問い掛けているのは、この城の王子であるルイであった。
ある資料を見つけたと言ってセバスチャンとグスターヴァルの下を訪れていたのだが、一体何を見つけたというのか随分と嬉しそうな様子だ。
「そうだな」
そう答えながらもグスターヴァルはルイと目を合わそうとはしない。
どうにもこの男が少し苦手であった。
嫌いなわけではないのだが、すぐに人を揶揄うようなことを言ったり、どうにもあの笑顔が信用できない。
「ふふ。お疲れのようですね。実は、今日はグスターヴァルについて分かったことがあったのでお知らせに来たのですよ」
その言葉にちらりとルイの顔を見てみると、先程よりも更に嬉しそうに微笑んでいる。
どうも嫌な予感がする。
「グスターヴァルについて分かったこと?」
すると、ルイが来るなり鬱陶しそうな顔をして全く相手にしていなかったセバスチャンが、不思議とルイの話に食いついた。
作成途中の書類から視線を上げ、持っていたペンを机に置いてじっとルイを見つめている。
普段からあまり興味のなさそうな感じではあったが、何か気になることでもあるのかとグスターヴァルは少しだけ不安になる。
「えぇ。もしかしたらセバスチャンも気になっていたことかもしれません。実は……グスターヴァルの年齢が分かったかもしれないのですよ」
ふふっと嬉しそうに微笑んだ後、満面の笑みでルイが返した。
「私の年齢?」
眉間に皺を寄せながら、何か面倒なことに巻き込まれるのでは? と疑っていたグスターヴァルだったが、ルイの言葉に首を傾げる。
「はい。私もあなたの正体の話を聞いて驚きましたが、少し興味を持ったので調べてみたんですよ。『アーサー』の名前で調べたら意外とすぐに分かりました。イーサンの血縁者ということもあって、彼の家の資料の中にあったそうです。イーサンの弟が彼の実家にいるのですが、こっそり城へ持ってきてもらいました」
そう言った後、ルイが人差し指をくるりと回すと、古そうな書物が1冊ふわりと現れた。
書物をぱらりと開き、ルイが説明を続ける。
「これによると、『アーサー』は当時、ソフィア王女と婚姻した後でワンダーランドを出て、遠く東へ行った国へと移住したと。その時アーサーが25歳、ソフィア王女が19歳とあります」
「25歳っ!?」
突然セバスチャンが立ち上がって大声を上げた。
その声にグスターヴァルはびくっと体を震わせる。
そんなに驚くようなことだろうかと、ちらりとセバスチャンを見る。
「はい、そう書いてありました。ですから、この史実通りだとすると、当時グスターヴァルはドラゴンの卵に魂を移されてそのまま300年経ったとはいえ、今の姿が当時の姿なのだとしたら25歳、ということになりますね」
にこりと笑ってセバスチャンを見ながらルイは楽しそうに答えた。
「その顔で25歳はありえないだろ……」
物凄く嫌そうな顔でセバスチャンがグスターヴァルをじっと見ている。
「どういう意味だ」
顔の基準はよく分からないが、なんとなく腹が立った。
「セバスチャンだって、人のこと言えないでしょ」
再び楽しそうに笑いながらルイが突っ込む。
「どういう意味だっ!」
今度はセバスチャンが不機嫌になる番だった。
「ふむ……」
じっとセバスチャンの顔を見つめながら、『確かに、27歳にしてはルイたちとあまり変わらないように見える』と納得する。
「ふふっ。まぁそれくらい誤差でしょう。それにしてもグスターヴァルが25歳ということは、イアンくんとは7歳差ということになりますね」
面白そうに笑いながらセバスチャンに話した後、ルイは再びグスターヴァルの顔を見ながらにこりと笑った。
「そうか……何か問題か?」
だからなんだと思いながらも表情を変えずに尋ねる。
「いえ。ちょうど良い年齢差だな、と思いまして」
表情を崩すことなく相変わらず作られたような完璧な笑みでルイが返した。
「良い年齢差?」
言われた意味が分からずこてんと首を傾げる。
「そうですね。同じくらいの年齢でも、もちろん合うこともありますが、少し歳が離れていた方が喧嘩も少ないでしょうし、上手くいくと思いますよ。ね? セバスチャン」
首を傾げながらにこりと笑って答えると、ルイはちらりとセバスチャンを見た。
「は? なんで俺に聞く」
むっとしたような顔でじろりとセバスチャンはルイを睨み付ける。
「おや。セバスチャンもイーサンと同じくらい離れているでしょう? だから同意を得られると思ったのですが。違うのですか?」
意外そうな顔できょとんとすると、ルイは再び首を傾げる。
「何がだ」
相変わらずセバスチャンは不機嫌そうなままである。
さすがにグスターヴァルもルイが何を言いたいのかは理解できた。
それをなぜ分からないかのような素振りをするのか、セバスチャンの行動が理解できない。
まさか、分かっていないのか?
いや、そんなはずはない。
セバスチャンという人間が理解できていないはずはない。
なぜそのような態度を取るのか分からず、じっとセバスチャンを見つめる。
「もちろんイーサンのことですよ。本気で喧嘩するようなことはないでしょう?」
目をぱちぱちとさせた後、再びにこりと微笑むとルイははっきりと尋ねる。
「は? 別にイーサンと歳がどれだけ離れてようが関係ないだろ」
ふんっと鼻を鳴らすと、セバスチャンは書類に視線を戻してしまった。
「おやおや。別に私たちにまで隠す必要はないでしょう? どうせ皆も知っていますよ?」
「だから何がだっ!」
きょとんとした顔で問い返したルイにセバスチャンが怒ったように声を上げた。
「おふたりが恋人同士だってことをですよ」
「っ! 違うっ! 別に、俺たちは恋人なんかじゃないっ!」
言われた言葉にカッと顔を赤らめると、セバスチャンは声を上げて反論した後、怒ったようにふいっと横を向いてしまった。
やはりなぜそのような態度を取るのか分からない。
グスターヴァルは顎に手を当てながらこてんと首を傾げる。
「?」
するとその瞬間、執務室の外から気配を感じた気がした。
(あれは……)
知っている人物の気配のような気がした。
しかし、『彼』ならすぐに部屋に入ってきそうな気もするが、その人はそのまま遠ざかって行ってしまった。
「…………」
首を傾げたまま、グスターヴァルはじっと扉の方を見つめた。
人間の気持ちは難しい。
そして、自分の気持ちはもっと難しい……。
☆☆☆
ドラゴンだったグスターヴァルが人間に戻り、ワンダーランドの城で働くようになった6日目の朝。
珍しい客がセバスチャンの執務室を訪れていた。
「少しは慣れましたか? グスターヴァル」
にこりと優しげな表情で笑って問い掛けているのは、この城の王子であるルイであった。
ある資料を見つけたと言ってセバスチャンとグスターヴァルの下を訪れていたのだが、一体何を見つけたというのか随分と嬉しそうな様子だ。
「そうだな」
そう答えながらもグスターヴァルはルイと目を合わそうとはしない。
どうにもこの男が少し苦手であった。
嫌いなわけではないのだが、すぐに人を揶揄うようなことを言ったり、どうにもあの笑顔が信用できない。
「ふふ。お疲れのようですね。実は、今日はグスターヴァルについて分かったことがあったのでお知らせに来たのですよ」
その言葉にちらりとルイの顔を見てみると、先程よりも更に嬉しそうに微笑んでいる。
どうも嫌な予感がする。
「グスターヴァルについて分かったこと?」
すると、ルイが来るなり鬱陶しそうな顔をして全く相手にしていなかったセバスチャンが、不思議とルイの話に食いついた。
作成途中の書類から視線を上げ、持っていたペンを机に置いてじっとルイを見つめている。
普段からあまり興味のなさそうな感じではあったが、何か気になることでもあるのかとグスターヴァルは少しだけ不安になる。
「えぇ。もしかしたらセバスチャンも気になっていたことかもしれません。実は……グスターヴァルの年齢が分かったかもしれないのですよ」
ふふっと嬉しそうに微笑んだ後、満面の笑みでルイが返した。
「私の年齢?」
眉間に皺を寄せながら、何か面倒なことに巻き込まれるのでは? と疑っていたグスターヴァルだったが、ルイの言葉に首を傾げる。
「はい。私もあなたの正体の話を聞いて驚きましたが、少し興味を持ったので調べてみたんですよ。『アーサー』の名前で調べたら意外とすぐに分かりました。イーサンの血縁者ということもあって、彼の家の資料の中にあったそうです。イーサンの弟が彼の実家にいるのですが、こっそり城へ持ってきてもらいました」
そう言った後、ルイが人差し指をくるりと回すと、古そうな書物が1冊ふわりと現れた。
書物をぱらりと開き、ルイが説明を続ける。
「これによると、『アーサー』は当時、ソフィア王女と婚姻した後でワンダーランドを出て、遠く東へ行った国へと移住したと。その時アーサーが25歳、ソフィア王女が19歳とあります」
「25歳っ!?」
突然セバスチャンが立ち上がって大声を上げた。
その声にグスターヴァルはびくっと体を震わせる。
そんなに驚くようなことだろうかと、ちらりとセバスチャンを見る。
「はい、そう書いてありました。ですから、この史実通りだとすると、当時グスターヴァルはドラゴンの卵に魂を移されてそのまま300年経ったとはいえ、今の姿が当時の姿なのだとしたら25歳、ということになりますね」
にこりと笑ってセバスチャンを見ながらルイは楽しそうに答えた。
「その顔で25歳はありえないだろ……」
物凄く嫌そうな顔でセバスチャンがグスターヴァルをじっと見ている。
「どういう意味だ」
顔の基準はよく分からないが、なんとなく腹が立った。
「セバスチャンだって、人のこと言えないでしょ」
再び楽しそうに笑いながらルイが突っ込む。
「どういう意味だっ!」
今度はセバスチャンが不機嫌になる番だった。
「ふむ……」
じっとセバスチャンの顔を見つめながら、『確かに、27歳にしてはルイたちとあまり変わらないように見える』と納得する。
「ふふっ。まぁそれくらい誤差でしょう。それにしてもグスターヴァルが25歳ということは、イアンくんとは7歳差ということになりますね」
面白そうに笑いながらセバスチャンに話した後、ルイは再びグスターヴァルの顔を見ながらにこりと笑った。
「そうか……何か問題か?」
だからなんだと思いながらも表情を変えずに尋ねる。
「いえ。ちょうど良い年齢差だな、と思いまして」
表情を崩すことなく相変わらず作られたような完璧な笑みでルイが返した。
「良い年齢差?」
言われた意味が分からずこてんと首を傾げる。
「そうですね。同じくらいの年齢でも、もちろん合うこともありますが、少し歳が離れていた方が喧嘩も少ないでしょうし、上手くいくと思いますよ。ね? セバスチャン」
首を傾げながらにこりと笑って答えると、ルイはちらりとセバスチャンを見た。
「は? なんで俺に聞く」
むっとしたような顔でじろりとセバスチャンはルイを睨み付ける。
「おや。セバスチャンもイーサンと同じくらい離れているでしょう? だから同意を得られると思ったのですが。違うのですか?」
意外そうな顔できょとんとすると、ルイは再び首を傾げる。
「何がだ」
相変わらずセバスチャンは不機嫌そうなままである。
さすがにグスターヴァルもルイが何を言いたいのかは理解できた。
それをなぜ分からないかのような素振りをするのか、セバスチャンの行動が理解できない。
まさか、分かっていないのか?
いや、そんなはずはない。
セバスチャンという人間が理解できていないはずはない。
なぜそのような態度を取るのか分からず、じっとセバスチャンを見つめる。
「もちろんイーサンのことですよ。本気で喧嘩するようなことはないでしょう?」
目をぱちぱちとさせた後、再びにこりと微笑むとルイははっきりと尋ねる。
「は? 別にイーサンと歳がどれだけ離れてようが関係ないだろ」
ふんっと鼻を鳴らすと、セバスチャンは書類に視線を戻してしまった。
「おやおや。別に私たちにまで隠す必要はないでしょう? どうせ皆も知っていますよ?」
「だから何がだっ!」
きょとんとした顔で問い返したルイにセバスチャンが怒ったように声を上げた。
「おふたりが恋人同士だってことをですよ」
「っ! 違うっ! 別に、俺たちは恋人なんかじゃないっ!」
言われた言葉にカッと顔を赤らめると、セバスチャンは声を上げて反論した後、怒ったようにふいっと横を向いてしまった。
やはりなぜそのような態度を取るのか分からない。
グスターヴァルは顎に手を当てながらこてんと首を傾げる。
「?」
するとその瞬間、執務室の外から気配を感じた気がした。
(あれは……)
知っている人物の気配のような気がした。
しかし、『彼』ならすぐに部屋に入ってきそうな気もするが、その人はそのまま遠ざかって行ってしまった。
「…………」
首を傾げたまま、グスターヴァルはじっと扉の方を見つめた。
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