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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第38話
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家から出ると昨日テーブルと椅子があった場所にグレースの姿があった。
昨日よりも少し大きいテーブルと、椅子が3脚ある。
恐らくグスターヴァルが人の姿に変わったことでグレースが準備してくれたのだろう。
家の扉を閉めて歩き出そうとした次の瞬間、シュッと何か空気が抜けるような音と共に、後ろの方が光った気がしてイアンは思わず振り返った。
「えっ!?」
先程まであった魔法の家がいつの間にか跡形もなくなっている。
そして今まで家があった場所には白い箱がぽつんと転がっていた。
「あ……」
どういう仕掛けなのか、勝手に箱に戻ってしまっている。
「出た後で良かった……」
もしかして時間制限でもあったのだろうかと、白い箱を見つめながらぼそりと呟いた。
「いや、恐らく中の人が出たタイミングで戻るようになっているのだろう。扉を閉めた後で戻ったようだからな」
じっとその場で白い箱を見つめたままグスターヴァルが答える。
「あ、なるほど……」
こくりと頷くと歩いて戻り、イアンはしゃがんで白い箱を手に取った。
本当にルイは色んなことができるのだなと、改めて魔法の凄さとルイの偉大さを感じていた。
「おい、さっさと来ないか」
椅子に座っていたグレースがなんとも不機嫌そうに声を掛けてきた。
「あっ!」
ハッとして慌てて立ち上がる。
ただでさえ呼ばれてから随分と時間が経ってしまっている。
「ごめん、グレース……」
急いでテーブルのそばまで駆け寄ると、イアンは申し訳なさそうに上目遣いでじっとグレースを見つめながら謝った。
「ふんっ、まぁいい。彼氏がやっと人間になれたんだからな。はしゃぐ気持ちは分からんでもない」
鼻で笑いながらグレースが揶揄うように答えた。
「かっ!……っ」
思わず『彼氏』という言葉に反応して顔が真っ赤になってしまった。
「どうかしたのか? イアン」
すると、後ろから歩いてきていたグスターヴァルが不思議そうな顔でイアンの顔を覗き込んできた。
「っ! べ、別にっ!」
真っ赤な顔のまま慌てて顔を逸らすと、そそくさと椅子のひとつを手前に引いて座る。
本当に自分はグスターヴァルの恋人なのだろうかとドキドキと心拍数が上がっていた。
「?」
不思議そうな顔のままグスターヴァルもイアンの隣の椅子に座る。
「お前たちがいつまで経っても来ないから、冷めてしまったじゃないか。まったく……」
ふたりが席についたことを確認すると、そう言ってグレースはくるっと人差し指を回した。
先程の言葉で頭がいっぱいになっていたが、ふと見ると目の前には豪華な朝食が並んでいる。
そしてグレースが指を回した次の瞬間、ふわっと料理が光ったかと思うとそれらがまるで出来立てのように湯気といい香りをさせ始めた。
「わっ! 凄っ……」
ぽかんと口が開いたまま、テーブルの上の料理をじっと見つめる。
「私は先に済ませたから、あとはお前たちで食べるといい」
ふんっと鼻を鳴らすと、グレースは頬杖を付きながらふたりに話した。
「え? あ、そうだったんだ……え? じゃあ、これ全部俺たちの分っ?」
待たせてしまったことを思い出して申し訳ない気持ちになったが、目の前の料理の量に驚いて思わず声を上げてしまう。
美味しそうではあるが優に3、4人前はあるように見える。
「これくらい食べられるだろう。大人の男なんだから」
呆れたような顔でグレースが返す。
「えぇ……さすがにちょっと多いような……。グスターヴァルは食べられそう?」
困った顔でぼそりと呟くと、隣に座るグスターヴァルをじっと見上げる。
「ふむ。どうだろうな……昨日も言ったが、私は食事をしたことがないからよく分からないな」
顎に手を当てながらグスターヴァルもじっと料理を眺めている。
「え? 本当に何も食べたことないの?」
あれは自分を怖がらせないための嘘だと思っていた。
「あぁ。ドラゴンでいた時は何も取らなくても生きていられた。腹が減るということ自体なかったからな」
「そうなんだ……でも、その、エーテルの剣を守ってた時に人を殺したって……」
グスターヴァルの答えに頷きながらもまだ疑問が残る。
じっと窺うようにグスターヴァルを見つめる。
「別に食べたわけではない。殺しはしたが、死体は森の獣が私が眠っている間に持って行っていた。と言っても、実際に眠っていたわけではないのだが……。寝ている振りをしていただけだ。私は、食事をすることも眠ることもない。だから、昨日のあの『紅茶』というものを初めて口にしたんだ」
ふむ、と頷くとグスターヴァルは特に気にする様子もなく淡々と答えた。
「えっ? 食事も睡眠も取ってなかったのっ? しかもそれを300年っ? どうやってエネルギー摂取してたんだろうね。……そっか、昨日初めて食事も睡眠も取ったんだ。あ、じゃあ、紅茶はあんまりだったってこと?」
グスターヴァルの話に驚き、思わず矢継ぎ早に話してしまった。
そして不思議に思いながらも昨日のことを思い出して尋ねる。
「……そうだな。なぜ食事も睡眠も取らずに生きていられたのかは分からない……。昨日のは、だめだったわけではなく、今まで何も口にしなかったからな。ここで何かあっては困ると思ってやめたんだ」
グスターヴァルはじっとイアンを見つめながら答える。
「あ、そっか……確かに今まで何も口にしてなかったんだったら怖いよね。なるほど……」
うんうんと頷きながら漸く腹落ちしたような感覚だった。
「なるほどな。私はてっきり猫舌を誤魔化しただけかと思ったよ」
にやりと笑いながらグレースが口を挟む。
「だから違うと言っているだろう」
すぐにむっとした顔でグスターヴァルが否定する。
仲がいいのか悪いのか。
「まぁいい。猫舌ではないのなら、冷めないうちにさっさと食べるといい」
ひらひらと手を振ると、グレースは面倒臭そうな顔でそう言った。
「あっ、ありがとっ。いただきますっ」
せっかくグレースが温め直してくれたのだからと、イアンはぱんと手を叩くと早速目の前の美味しそうなパンを手に取った。
「ん……おいひ……」
もぐもぐと口を動かしながら呟く。
バターがしっかりと効いている。
まるで焼き立てのパンのように周りはカリッと中はふわっとしている。
「美味そうに食べるな……」
頬杖を付きながらグレースはじっとイアンの様子を眺めている。
「うむ?」
口の中がいっぱいで、口を閉じたままきょとんとした顔で首を傾げる。
「ふっ……イアン。口に付いているぞ」
横からグスターヴァルが、イアンの口元に付いているパンから溢れ出たバターをそっと拭いてくれた。
「っ!」
恥ずかしくて再び顔が真っ赤になる。
「はぁ……まったく。他人の恋愛は鬱陶しいな」
溜め息を付きながらグレースが呟いていた。
寒いはずの北の森の中が、まるで春のようにぽかぽかと暖かく長閑な時間が過ぎていった。
昨日よりも少し大きいテーブルと、椅子が3脚ある。
恐らくグスターヴァルが人の姿に変わったことでグレースが準備してくれたのだろう。
家の扉を閉めて歩き出そうとした次の瞬間、シュッと何か空気が抜けるような音と共に、後ろの方が光った気がしてイアンは思わず振り返った。
「えっ!?」
先程まであった魔法の家がいつの間にか跡形もなくなっている。
そして今まで家があった場所には白い箱がぽつんと転がっていた。
「あ……」
どういう仕掛けなのか、勝手に箱に戻ってしまっている。
「出た後で良かった……」
もしかして時間制限でもあったのだろうかと、白い箱を見つめながらぼそりと呟いた。
「いや、恐らく中の人が出たタイミングで戻るようになっているのだろう。扉を閉めた後で戻ったようだからな」
じっとその場で白い箱を見つめたままグスターヴァルが答える。
「あ、なるほど……」
こくりと頷くと歩いて戻り、イアンはしゃがんで白い箱を手に取った。
本当にルイは色んなことができるのだなと、改めて魔法の凄さとルイの偉大さを感じていた。
「おい、さっさと来ないか」
椅子に座っていたグレースがなんとも不機嫌そうに声を掛けてきた。
「あっ!」
ハッとして慌てて立ち上がる。
ただでさえ呼ばれてから随分と時間が経ってしまっている。
「ごめん、グレース……」
急いでテーブルのそばまで駆け寄ると、イアンは申し訳なさそうに上目遣いでじっとグレースを見つめながら謝った。
「ふんっ、まぁいい。彼氏がやっと人間になれたんだからな。はしゃぐ気持ちは分からんでもない」
鼻で笑いながらグレースが揶揄うように答えた。
「かっ!……っ」
思わず『彼氏』という言葉に反応して顔が真っ赤になってしまった。
「どうかしたのか? イアン」
すると、後ろから歩いてきていたグスターヴァルが不思議そうな顔でイアンの顔を覗き込んできた。
「っ! べ、別にっ!」
真っ赤な顔のまま慌てて顔を逸らすと、そそくさと椅子のひとつを手前に引いて座る。
本当に自分はグスターヴァルの恋人なのだろうかとドキドキと心拍数が上がっていた。
「?」
不思議そうな顔のままグスターヴァルもイアンの隣の椅子に座る。
「お前たちがいつまで経っても来ないから、冷めてしまったじゃないか。まったく……」
ふたりが席についたことを確認すると、そう言ってグレースはくるっと人差し指を回した。
先程の言葉で頭がいっぱいになっていたが、ふと見ると目の前には豪華な朝食が並んでいる。
そしてグレースが指を回した次の瞬間、ふわっと料理が光ったかと思うとそれらがまるで出来立てのように湯気といい香りをさせ始めた。
「わっ! 凄っ……」
ぽかんと口が開いたまま、テーブルの上の料理をじっと見つめる。
「私は先に済ませたから、あとはお前たちで食べるといい」
ふんっと鼻を鳴らすと、グレースは頬杖を付きながらふたりに話した。
「え? あ、そうだったんだ……え? じゃあ、これ全部俺たちの分っ?」
待たせてしまったことを思い出して申し訳ない気持ちになったが、目の前の料理の量に驚いて思わず声を上げてしまう。
美味しそうではあるが優に3、4人前はあるように見える。
「これくらい食べられるだろう。大人の男なんだから」
呆れたような顔でグレースが返す。
「えぇ……さすがにちょっと多いような……。グスターヴァルは食べられそう?」
困った顔でぼそりと呟くと、隣に座るグスターヴァルをじっと見上げる。
「ふむ。どうだろうな……昨日も言ったが、私は食事をしたことがないからよく分からないな」
顎に手を当てながらグスターヴァルもじっと料理を眺めている。
「え? 本当に何も食べたことないの?」
あれは自分を怖がらせないための嘘だと思っていた。
「あぁ。ドラゴンでいた時は何も取らなくても生きていられた。腹が減るということ自体なかったからな」
「そうなんだ……でも、その、エーテルの剣を守ってた時に人を殺したって……」
グスターヴァルの答えに頷きながらもまだ疑問が残る。
じっと窺うようにグスターヴァルを見つめる。
「別に食べたわけではない。殺しはしたが、死体は森の獣が私が眠っている間に持って行っていた。と言っても、実際に眠っていたわけではないのだが……。寝ている振りをしていただけだ。私は、食事をすることも眠ることもない。だから、昨日のあの『紅茶』というものを初めて口にしたんだ」
ふむ、と頷くとグスターヴァルは特に気にする様子もなく淡々と答えた。
「えっ? 食事も睡眠も取ってなかったのっ? しかもそれを300年っ? どうやってエネルギー摂取してたんだろうね。……そっか、昨日初めて食事も睡眠も取ったんだ。あ、じゃあ、紅茶はあんまりだったってこと?」
グスターヴァルの話に驚き、思わず矢継ぎ早に話してしまった。
そして不思議に思いながらも昨日のことを思い出して尋ねる。
「……そうだな。なぜ食事も睡眠も取らずに生きていられたのかは分からない……。昨日のは、だめだったわけではなく、今まで何も口にしなかったからな。ここで何かあっては困ると思ってやめたんだ」
グスターヴァルはじっとイアンを見つめながら答える。
「あ、そっか……確かに今まで何も口にしてなかったんだったら怖いよね。なるほど……」
うんうんと頷きながら漸く腹落ちしたような感覚だった。
「なるほどな。私はてっきり猫舌を誤魔化しただけかと思ったよ」
にやりと笑いながらグレースが口を挟む。
「だから違うと言っているだろう」
すぐにむっとした顔でグスターヴァルが否定する。
仲がいいのか悪いのか。
「まぁいい。猫舌ではないのなら、冷めないうちにさっさと食べるといい」
ひらひらと手を振ると、グレースは面倒臭そうな顔でそう言った。
「あっ、ありがとっ。いただきますっ」
せっかくグレースが温め直してくれたのだからと、イアンはぱんと手を叩くと早速目の前の美味しそうなパンを手に取った。
「ん……おいひ……」
もぐもぐと口を動かしながら呟く。
バターがしっかりと効いている。
まるで焼き立てのパンのように周りはカリッと中はふわっとしている。
「美味そうに食べるな……」
頬杖を付きながらグレースはじっとイアンの様子を眺めている。
「うむ?」
口の中がいっぱいで、口を閉じたままきょとんとした顔で首を傾げる。
「ふっ……イアン。口に付いているぞ」
横からグスターヴァルが、イアンの口元に付いているパンから溢れ出たバターをそっと拭いてくれた。
「っ!」
恥ずかしくて再び顔が真っ赤になる。
「はぁ……まったく。他人の恋愛は鬱陶しいな」
溜め息を付きながらグレースが呟いていた。
寒いはずの北の森の中が、まるで春のようにぽかぽかと暖かく長閑な時間が過ぎていった。
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