White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第36話

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 なんだか体がだるくて重い。
 そんなに訓練したかな、と目を瞑ったまま考える。
「ん……」
 目を擦りながらゆっくり目を開けると、目の前に誰かがいるような気がした。
 ぱちぱちっとイアンは何度も瞬きをさせる。
「っ!」
 すぐ目の前には見覚えのある男性の寝顔があった。
 見惚れるほどのイケメンだ。
(そうだ。昨日グスターヴァルは人間の姿に戻ったんだ)
 昨日のことを思い出しながら、目の前で眠るグスターヴァルをじっと見つめる。
「寝ててもイケメンって凄いな……ほんとかっこいい……」
 長い睫毛に高い鼻と綺麗な唇。
 こんなに整った顔がこの世にいるんだなとまじまじと見つめてしまった。
「……あまり見つめられると困るのだが」
 すると、突然低く良い声が聞こえてびくっとする。
「え? グスターヴァル?」
 目の前の、目を閉じたままのグスターヴァルに声を掛ける。
「イアン」
 ぱちっと目を開けたグスターヴァルが名前を呼んだ。
「えっ? ちょっと待って。いつから起きてたのっ?」
 先程の呟きを聞かれてしまったのかとぎょっとして確認する。
「……イアンが呟いたあたりだな」
 ふっと笑うとグスターヴァルはそっとイアンの髪を撫でる。
「ええっ!」
 やはり聞かれてしまっていた。
 恥ずかしくてぶわっと顔が熱くなる。
「ちゃんと眠れたか?」
 じっと顔を覗き込むようにしてグスターヴァルが聞いてきた。
「う、うん……グスターヴァルは?」
 恥ずかしくて上目遣いになりながら答え、そして問い返す。
「そうか……私は、あまり眠れていないかもな」
 するとグスターヴァルは困ったような顔で答えた。
「え? そうなの? どうして?」
 恥ずかしさが消え、じっと見つめると不思議に思いながら問い返す。
 どこか具合でも悪いのだろうか。
 人に変わったことで何か体に不調でもあるのかと心配になった。
「……それは……いや……」
 困った顔のままグスターヴァルは仰向けになると、大きく溜め息を付いた。
 体調が悪いようには見えないがどうしたのだろうと首を傾げた後、ふと昨夜のことを思い出す。
「あ……」
 もしかして、と思い当たることがあった。
 昨夜、覚悟をしたはずなのに、いざその時になってイアンはグスターヴァルを拒絶してしまったのだ。
 やはり恐怖には勝てなかった。
 その後のグスターヴァルの落胆振りには本当に申し訳ないことをしたとは思ったが、『大丈夫だ』と言っていたので安心してしまっていた。
 まさか、眠れないほどに落ち込んでいたとは。
「あ、あの……グスターヴァル?」
 そっとグスターヴァルの腕を触りながら声を掛ける。
「イアン」
 名前を呼ばれたと思った瞬間、突然強く抱き締められた。
「えっ?」
 驚いて声を上げたが、昨夜のことを考えると嫌がることはできない。
 まさかこのまま……ということはないはずだが、少しだけ不安になる。
「イアン……」
 もう一度名前を呼ぶと、グスターヴァルはイアンの頬にキスをする。
「っ!」
 びくっと体が反応する。緊張で硬くなる。
「イアン、怯えないでくれ。何も、しないから……」
 ぎゅっと抱き締めたままグスターヴァルが低い声で耳元で話す。
 目を瞑ってイアンはこくりと頷く。
 嫌なわけではない。
 ただ、緊張しているだけなのだが怯えているように思われてしまったようだ。
「グスターヴァルっ」
 誤解をされたくなくて、自分もぎゅっと抱き締め返した。

「グスターヴァルー、イアンー、おはよー!」

 すると、すぐ近くから元気な少年の声が聞こえてきた。
 ハッとして振り返ると、すぐ近くをフェイがにこにこと笑いながら飛んでいる。
「フェイっ!」
 驚いて声を上げる。
 慌ててグスターヴァルから離れるとガバッと体を起こした。
 昨夜あの後、グスターヴァルに体を拭かれて下着もパジャマも着ている。
 思わず、『服着てて良かった……』と心の中で胸を撫で下ろしていた。
「朝ご飯できてるから、ふたりとも早く来てねー」
 しかし、フェイはそれだけ言うとふわふわと飛んでいってしまった。
 そういえば、どうやって家の中に入ったのだろうとイアンは首を傾げる。
「イアン、昨日体は拭いたが、念の為シャワーに入ってくるといい」
 後ろからグスターヴァルの声が聞こえて振り返る。
 言われた言葉に顔が赤くなってしまった。
「どうした? 一緒に入るか?」
 くすっと笑いながら問い掛けられた。
「っ!? 行ってくるっ!」
 更に顔が熱くなりぶわっと赤く染めると、イアンは慌ててベッドから下りて洗面所に駆け込んだ。



 ☆☆☆



「もうっ、グスターヴァルってば、なんで意地悪言うんだろっ」
 シャワーを浴びながら文句を言う。
 確かに心配や優しくされるばかりは嫌だとは思っていたが、真面目なグスターヴァルがあんなことを言うなんてと真っ赤な顔でイアンは怒っていた。
 なんだか人の姿になってから別人みたいだった。
 もちろん、別人ではないことは分かっているのだが、初めて会った時もドラゴンの姿だった時も、揶揄ったり意地悪を言うようなタイプではなかったはずだ。
「なんで変わっちゃったのかな……もしかして、これがグスターヴァルの素だったりして?」
 体にシャワーの湯を当てながらぶつぶつと呟く。

「イアン? 大丈夫か?」

 すると、洗面所の方からグスターヴァルの声が聞こえてきた。
 そうだと思い出す。
 先程フェイが朝ご飯に呼びに来たのだった。ゆっくりしている暇はないのだろう。
 それにグスターヴァルもシャワーを浴びたいのかもしれないと、イアンは慌ててシャワーを止め、そのままがらりと引き戸を開ける。
「っ!」
 開けた瞬間、目の前にグスターヴァルの姿があり驚く。
 まさかまだ洗面所にいるとは思っておらず、一気に体温が上昇した。
「大丈夫か? のぼせたか?」
 グスターヴァルは真っ赤になっているイアンを心配そうに見つめ、そっと頬に触れる。
 そして、固まったまま何も返事をしないイアンの体をふわりとバスタオルで包み込んだ。
「ちゃんと乾かすんだぞ。何か冷たい飲み物でも用意しておこう」
 それだけ言うと、何事もなかったかのように洗面所から出て行ってしまった。
 残されたイアンはただ全身を真っ赤にさせたまま立ち尽くしていた。
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