White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第29話

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「イアンっ!?」
 振り返ったグスターヴァルがぎょっとした顔で声を上げる。
 ぽろぽろと涙を零しているイアンを見て慌てて駆け寄ってきた。
「イアンっ! どうしたんだ、一体……」
 どうすればいいのかと、グスターヴァルはおろおろとイアンを心配そうに覗き込む。
 しかし、イアンは涙が止まらず自分でもどうすればいいのか分からなくなっていた。
「うっ……グ、グスターヴァル……」
 止めようにも涙が止まらない。手で目を擦りながら俯く。
「イアン、擦ったらダメだ。こっちを向いて」
 そう言ってグスターヴァルはそっとイアンの顔を両手で包み込むと、そのまま目元に自分の唇を当てる。
 温かく柔らかいグスターヴァルの唇が瞼に当たり、じわっと目の周りが熱くなる。
 すると、止まらなかった涙がすーっと引いていくのを感じた。
「うっ……」
 ぎゅっと目を閉じると、そのままグスターヴァルはイアンの瞼に右、左とそれぞれにキスをする。
「もう大丈夫だ……」
 そう言って再び優しく頭を撫でる。
「一体どうしたんだ? 何があった?」
 そしてグスターヴァルは少し屈むようにしてイアンの顔を覗き込んだ。
「…………」
 目を開けると、イアンはじっとグスターヴァルの顔を見つめ返す。
「……グスターヴァルが、どっかへ行っちゃうかと思った……」
 ゆっくりと、まるで小さな子供のように答える。
「そうか……心配するな。私はどこにも行かない。ずっとそばにいる」
 じっとイアンの顔を見つめたままグスターヴァルは優しく答える。
 屈めていた体を戻すと、ぎゅっとイアンを抱き締めた。
「……グスターヴァル」
 どうすればいいのか分からなくて、イアンもぎゅっとグスターヴァルの背中に手を回して抱きついた。
「大丈夫だ」
 イアンを抱き締めたまま、グスターヴァルが低い声で話す。

「どうかしたの?」

 すると、明るい声がすぐそばで聞こえてきた。
 心配そうに飛んできたフェイだった。
 顔のすぐそばでイアンを覗き込んでいる。
「フェイ……」
 潤んだ瞳でじっとフェイを見つめる。
「イアンは心配性なんだね。大丈夫だよ。グスターヴァルはイアンのことが大好きなんだから。だって、グスターヴァルが人間に戻れたのはイアンのおかげなんだよ?」
 にこりと笑ってフェイがそう話した。
「俺の?」
 心と頭の中をぐるぐるとしていた黒いものが消えていくような感じがした。
「そうだよっ」
「あぁ、イアンのおかげだ」
 明るく答えるフェイと優しく話すグスターヴァルの言葉に、漸くイアンはほっとできた気がした。

「いつまでイチャついてるんだ。私は疲れたから城に戻るぞ。フェイ、仕方ないからお前は招待してやる。お前らはその魔法のアイテムとやらでなんとかしろ」

 じっと見ているだけであったグレースが呆れたように話し、フェイを呼んだ。
 そしてじっとイアンとグスターヴァルを見つめた後、くるりと踵を返して氷の城の方へと歩いて行く。
「あ、グレースっ。ありがとっ!」
 気持ちが落ち着いたイアンは、慌ててグスターヴァルから離れるとグレースに向かって大きな声でお礼を言う。
 その声に反応するように、グレースは振り返りはしなかったが軽く右手を振っていた。



 ☆☆☆



 城の前に残されたふたりは一旦出した箱をリュックに戻し、家になると書かれていた白い箱を持って移動していた。

「この辺でいいかな?」

 城から少し離れた場所でイアンはじっとグスターヴァルを見上げる。
「そうだな。家のサイズが分からないが、小さな家と書かれていたからそこまで大きくはならないだろう」
 先程ドラゴンの姿だったグスターヴァルがいた場所の辺りだが、ある程度の広さもあり、ここが一番だろうということでイアンはそっと白い箱を置いた。
 グレースが出したテーブルと椅子の辺りまでもう一度戻ると、説明書に書かれていた通りに実施する。
 ぱんっと大きく手を1回叩くと、声を張って言葉にする。
「ちいさなおうち、おおきくなぁれっ!」
 こんなもので本当に家になるのだろうかと首を傾げたが、イアンが言葉を発して数秒後、置いてきた白い箱がぴかっと光った。
「わっ!」
 周りがぶわっと煙に包まれたかと思うと、次の瞬間には本当にそこに家が建っていた。
 焦げ茶色の三角の屋根に白い壁の小さな家だ。
「うわぁ……本当に家になった……」
 思わず口がぽかんと開いたままになってしまった。
「これは凄いな」
 初めて驚いたかのようにグスターヴァルも大きく目を見開いている。
「イアン、入ろう」
 しかしすぐにイアンの手を取ると、グスターヴァルは現れたその家に向かってすたすたと歩き出した。
「あっ、グスターヴァルっ」
 手を引かれて慌ててついて行く。


 家の前に立ち、グスターヴァルが扉の取っ手を掴む。
 白い扉を開けると、まず目に入ってきたのはキッチンとリビングが一緒になった部屋であった。
 そこまで広くはないが、キッチンには冷蔵庫と流し台、コンロもある。
 料理でもできそうだが、一緒に入っていたあの食べ物をなんでも出してくれるというアイテムがあったので恐らく使わないだろう。
「わぁ……」
 部屋の中に入ると、イアンは感動しながら周りをきょろきょろと見回した。
 リビングの方は長いテーブルとソファーがある。
「イアン、こっちも見てみよう」
 そう言ってグスターヴァルがぐいっとイアンの手を引いて隣の部屋へと移動する。
 隣はベッドルームになっていた。
 外から見てもそこまで大きくはなかったが、どうやら部屋はこのふたつだけらしい。
 ベッドルームはイアンが暮らす宿舎の4人部屋の半分くらいの広さで、大きなベッドと奥にクローゼットがある。
「あ……」
 ふと、ベッドがひとつだけなことに気が付いた。
「どうかしたか?」
 不思議そうにグスターヴァルが首を傾げているが、イアンは慌てて首を横に振った。
「ううん、なんでもないよっ」
 そう答えながらも、頭の中は大混乱であった。
(まさか、一緒に寝るのっ?)
 目が回りそうな程、もう一度頭を大きく振る。
 グスターヴァルは首を傾げたままじっと不思議そうに見つめていたが、そのままイアンの手を引きベッドルームの奥にあるクローゼットへと移動する。
「ふっ……なんだか懐かしいな」
 クローゼットを見つめながらグスターヴァルが呟いた。
 その言葉にイアンもハッとする。
 初めてグスターヴァルと会ったあの日、王女の結婚式ということでグスターヴァルにスーツを選んであげたのだ。
 あの時、グスターヴァルが好きなのだと自覚した瞬間だった。
 すっと掴んでいたイアンの手を離すと、グスターヴァルはクローゼットの扉を開けた。
 中には色々な服が掛けられている。
「ふむ……きっとこれもあのクローゼットのように魔法がかかっているのだろうな」
 じっと中を見ながらグスターヴァルが話す。
 そして振り返ってイアンを見つめながら問い掛ける。
「イアン、また私に服を選んでくれるか?」
 柔らかい笑顔でじっとイアンを見つめている。
「っ! うんっ、もちろんっ!」
 どきんと心臓が大きく跳ねて、そのまま心臓が止まってしまうかと思うほどに驚いたが、すぐにイアンはにこりと笑って答えた。
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