White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
180 / 226
Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第27話

しおりを挟む
 光はグスターヴァルと周りにいるイアンたちをも包み始める。
 それは辺り一帯に広がっていき、どんよりとした曇り空のような北の森が一気に快晴の青空のように明るくなっていく。
 しかし大きく膨らんだ光は、まるで風船が破裂したかのようにバチンッと音をさせた後、散らばるようにして消滅していった。
 数秒後、光が消えしんと静まり返った中、イアンは触れていたはずのグスターヴァルの感触がないことにふと気が付いた。
「え……?」
 グスターヴァルを探すように手を伸ばし、目を開こうとした瞬間、突然ぎゅっと誰かに強く抱き締められた。
「っ!」
 更に次の瞬間、唇に温かく柔らかい感触を感じて驚きのあまり体が固まる。
「う……んっ」
 一体何が起こっているのかと、緊張しながらそっと目を開けると、目に映ったのは大きなドラゴンの顔ではなく、誰かの瞼だった。
 長い睫毛と少し長めのさらさらとした黒い前髪。
 イアンの顔にさらりとその前髪がかかり、くすぐったくて目をぱちぱちとさせる。
「ん……」
 頭の中では『誰かにキスをされている』と分かってはいるものの、体が動かない。
 目の前の相手はイアンの頬に触れ、重なっていただけの唇を舐めた後、噛み付くように咥えてきた。
「う……んん……っ!」
 頬に触れる手の感触と覚えのあるこのキスにハッとする。
 思わず自分を抱き締めるその人をぐっと押して体を離した。
「…………」
 驚いたような顔でじっと自分を見下ろしているその顔は――。
「グスターヴァルっ!」
 あの日見た、誰よりもカッコ良くて優しくて素敵な男性が目の前にいる。
 夢じゃない。
「グスターヴァルっ!」
 もう一度名前を叫んでイアンは人の姿になったグスターヴァルにぎゅっと抱きついた。
「……イアン……」
 耳元であの低いグスターヴァルの声が聞こえた。
 ぎゅっと再び強く抱き締められる。
 あんなに会いたかったグスターヴァルが目の前にいる。
 嬉しくて切なくて、色んな思いがぐちゃぐちゃになったまま、イアンはグスターヴァルの腕の中で涙を流していた。
「グスターヴァル……」
 本当に人間だったんだ。
 ただ、もう一度会えただけで嬉しかった。
 顔が見たくてイアンはパッと再びグスターヴァルから離れる。
「イアン?」
 困ったようにグスターヴァルは首を傾げている。
「ううっ……本当に、グスターヴァルだぁ」
 涙を流しながらイアンは笑っていた。
「……イアン。私は、ちゃんと人間になっているだろうか」
 不安そうな顔でグスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと人間に戻ってるよ」
 まだ目の端に涙を溜めながら答える。
「……そうか。どこかおかしい所もないだろうか……」
 じっと自分の体を見ながら心配そうにグスターヴァルが続ける。
「ふふっ、大丈夫だよ。心配ないってば」
 ぐいっとグスターヴァルの腕を掴んでイアンは満面の笑みで見上げる。
「……そうか」
 ふっとグスターヴァルも笑みを浮かべるとじっとイアンを見下ろす。
 本当に夢みたいだった。
 ドラゴンの彼もカッコ良かったが、やはりこの姿が1番好きだと改めて感じる。
 嬉しくて顔がにやけてしまう。
「へへっ」
 イアンは笑いながらグスターヴァルの腕にしがみつく。
「…………」
 グスターヴァルは黙って頭を優しく撫でてくれた。
 大きな手もあの時と何も変わっていない。
 やはり、この姿がグスターヴァルの本当の姿だったのだろう。
 大きな目を潤ませながらイアンはじっと見上げた。

「良かったねっ。グスターヴァル、イアン」

 すると、ふわふわとフェイがふたりの前に飛んできて声を掛けてきた。
「あっ!」
 すっかりフェイとグレースのことを忘れてしまっていてイアンは思わず顔を赤らめる。
 ふたりきりではなかったのだ。
 慌ててグスターヴァルから離れる。

「まったく……私たちのおかげということを忘れるなよ」

 グレースも呆れたように声を掛けてきた。
「わっ、グレース……ごめんなさい……」
「ありがとう、ふたりとも」
 イアンは慌ててグレースに謝り、グスターヴァルは真面目な顔でお礼を言った。
「ふんっ。別に馬鹿な妹の尻拭いをしてやっただけだ」
 腕を組み、面白くなさそうな顔でグレースが答える。
 もしかしたら彼女は恥ずかしがり屋なのかもしれない。素直になれないだけなのだろう。
「ふふっ」
 グレースを見ながら思わずイアンは笑ってしまった。
「ふんっ」
 再びグレースは鼻を鳴らしながら横を向いてしまった。
 グスターヴァルを人間にするために白の魔女の所へ行くと聞いた時は、驚きと恐ろしさと不安でいっぱいであったが、彼女がこんなにも美人で実は可愛らしい人だとは思いもしなかった。
 来て良かったとイアンは嬉しくなっていた。

「もうすぐ日が暮れちゃうね」

 すると近くを飛んでいたフェイが突然そんなことを言い出した。
「えっ?」
 周りを見回すと、確かに来た時より少し暗くなってきているようだ。
 元々あまり明るくない場所であった為、日が暮れていることに気が付いていなかった。
「ほんとだっ! どうしよ……」
 ふと大事なことに気が付き、イアンは慌て始める。
「どうした?」
 不思議そうにグスターヴァルが首を傾げる。
「グスターヴァルが人間になったから、どうやって帰ればいいんだろ?」
 そうなのだ。
 行きはドラゴンの姿であったグスターヴァルに乗って来たのですぐに北の森まで来れたが、帰りはそういうわけにはいかない。
 歩いて帰るとしたら、一体どれだけの時間がかかるのだろうかとイアンは思わずぞっとした。
 しかも、もうすぐ日が暮れるというのに。
「なるほど。確かにそうだな……」
 焦ることなくグスターヴァルは手を顎に当てて考え込んでいる。

「大丈夫だよ、イアン」

 するとフェイが目の前に飛んできて人差し指を立てながらそう話した。
「え? 大丈夫って?」
 きょとんとした顔でフェイを見つめる。
「忘れちゃったの? ルイから『魔法のアイテム』を渡されてたでしょ?」
 にこりと笑いながらフェイが答える。
「あっ!」
 あの黒いリュックを思い出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...