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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第27話
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光はグスターヴァルと周りにいるイアンたちをも包み始める。
それは辺り一帯に広がっていき、どんよりとした曇り空のような北の森が一気に快晴の青空のように明るくなっていく。
しかし大きく膨らんだ光は、まるで風船が破裂したかのようにバチンッと音をさせた後、散らばるようにして消滅していった。
数秒後、光が消えしんと静まり返った中、イアンは触れていたはずのグスターヴァルの感触がないことにふと気が付いた。
「え……?」
グスターヴァルを探すように手を伸ばし、目を開こうとした瞬間、突然ぎゅっと誰かに強く抱き締められた。
「っ!」
更に次の瞬間、唇に温かく柔らかい感触を感じて驚きのあまり体が固まる。
「う……んっ」
一体何が起こっているのかと、緊張しながらそっと目を開けると、目に映ったのは大きなドラゴンの顔ではなく、誰かの瞼だった。
長い睫毛と少し長めのさらさらとした黒い前髪。
イアンの顔にさらりとその前髪がかかり、くすぐったくて目をぱちぱちとさせる。
「ん……」
頭の中では『誰かにキスをされている』と分かってはいるものの、体が動かない。
目の前の相手はイアンの頬に触れ、重なっていただけの唇を舐めた後、噛み付くように咥えてきた。
「う……んん……っ!」
頬に触れる手の感触と覚えのあるこのキスにハッとする。
思わず自分を抱き締めるその人をぐっと押して体を離した。
「…………」
驚いたような顔でじっと自分を見下ろしているその顔は――。
「グスターヴァルっ!」
あの日見た、誰よりもカッコ良くて優しくて素敵な男性が目の前にいる。
夢じゃない。
「グスターヴァルっ!」
もう一度名前を叫んでイアンは人の姿になったグスターヴァルにぎゅっと抱きついた。
「……イアン……」
耳元であの低いグスターヴァルの声が聞こえた。
ぎゅっと再び強く抱き締められる。
あんなに会いたかったグスターヴァルが目の前にいる。
嬉しくて切なくて、色んな思いがぐちゃぐちゃになったまま、イアンはグスターヴァルの腕の中で涙を流していた。
「グスターヴァル……」
本当に人間だったんだ。
ただ、もう一度会えただけで嬉しかった。
顔が見たくてイアンはパッと再びグスターヴァルから離れる。
「イアン?」
困ったようにグスターヴァルは首を傾げている。
「ううっ……本当に、グスターヴァルだぁ」
涙を流しながらイアンは笑っていた。
「……イアン。私は、ちゃんと人間になっているだろうか」
不安そうな顔でグスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと人間に戻ってるよ」
まだ目の端に涙を溜めながら答える。
「……そうか。どこかおかしい所もないだろうか……」
じっと自分の体を見ながら心配そうにグスターヴァルが続ける。
「ふふっ、大丈夫だよ。心配ないってば」
ぐいっとグスターヴァルの腕を掴んでイアンは満面の笑みで見上げる。
「……そうか」
ふっとグスターヴァルも笑みを浮かべるとじっとイアンを見下ろす。
本当に夢みたいだった。
ドラゴンの彼もカッコ良かったが、やはりこの姿が1番好きだと改めて感じる。
嬉しくて顔がにやけてしまう。
「へへっ」
イアンは笑いながらグスターヴァルの腕にしがみつく。
「…………」
グスターヴァルは黙って頭を優しく撫でてくれた。
大きな手もあの時と何も変わっていない。
やはり、この姿がグスターヴァルの本当の姿だったのだろう。
大きな目を潤ませながらイアンはじっと見上げた。
「良かったねっ。グスターヴァル、イアン」
すると、ふわふわとフェイがふたりの前に飛んできて声を掛けてきた。
「あっ!」
すっかりフェイとグレースのことを忘れてしまっていてイアンは思わず顔を赤らめる。
ふたりきりではなかったのだ。
慌ててグスターヴァルから離れる。
「まったく……私たちのおかげということを忘れるなよ」
グレースも呆れたように声を掛けてきた。
「わっ、グレース……ごめんなさい……」
「ありがとう、ふたりとも」
イアンは慌ててグレースに謝り、グスターヴァルは真面目な顔でお礼を言った。
「ふんっ。別に馬鹿な妹の尻拭いをしてやっただけだ」
腕を組み、面白くなさそうな顔でグレースが答える。
もしかしたら彼女は恥ずかしがり屋なのかもしれない。素直になれないだけなのだろう。
「ふふっ」
グレースを見ながら思わずイアンは笑ってしまった。
「ふんっ」
再びグレースは鼻を鳴らしながら横を向いてしまった。
グスターヴァルを人間にするために白の魔女の所へ行くと聞いた時は、驚きと恐ろしさと不安でいっぱいであったが、彼女がこんなにも美人で実は可愛らしい人だとは思いもしなかった。
来て良かったとイアンは嬉しくなっていた。
「もうすぐ日が暮れちゃうね」
すると近くを飛んでいたフェイが突然そんなことを言い出した。
「えっ?」
周りを見回すと、確かに来た時より少し暗くなってきているようだ。
元々あまり明るくない場所であった為、日が暮れていることに気が付いていなかった。
「ほんとだっ! どうしよ……」
ふと大事なことに気が付き、イアンは慌て始める。
「どうした?」
不思議そうにグスターヴァルが首を傾げる。
「グスターヴァルが人間になったから、どうやって帰ればいいんだろ?」
そうなのだ。
行きはドラゴンの姿であったグスターヴァルに乗って来たのですぐに北の森まで来れたが、帰りはそういうわけにはいかない。
歩いて帰るとしたら、一体どれだけの時間がかかるのだろうかとイアンは思わずぞっとした。
しかも、もうすぐ日が暮れるというのに。
「なるほど。確かにそうだな……」
焦ることなくグスターヴァルは手を顎に当てて考え込んでいる。
「大丈夫だよ、イアン」
するとフェイが目の前に飛んできて人差し指を立てながらそう話した。
「え? 大丈夫って?」
きょとんとした顔でフェイを見つめる。
「忘れちゃったの? ルイから『魔法のアイテム』を渡されてたでしょ?」
にこりと笑いながらフェイが答える。
「あっ!」
あの黒いリュックを思い出した。
それは辺り一帯に広がっていき、どんよりとした曇り空のような北の森が一気に快晴の青空のように明るくなっていく。
しかし大きく膨らんだ光は、まるで風船が破裂したかのようにバチンッと音をさせた後、散らばるようにして消滅していった。
数秒後、光が消えしんと静まり返った中、イアンは触れていたはずのグスターヴァルの感触がないことにふと気が付いた。
「え……?」
グスターヴァルを探すように手を伸ばし、目を開こうとした瞬間、突然ぎゅっと誰かに強く抱き締められた。
「っ!」
更に次の瞬間、唇に温かく柔らかい感触を感じて驚きのあまり体が固まる。
「う……んっ」
一体何が起こっているのかと、緊張しながらそっと目を開けると、目に映ったのは大きなドラゴンの顔ではなく、誰かの瞼だった。
長い睫毛と少し長めのさらさらとした黒い前髪。
イアンの顔にさらりとその前髪がかかり、くすぐったくて目をぱちぱちとさせる。
「ん……」
頭の中では『誰かにキスをされている』と分かってはいるものの、体が動かない。
目の前の相手はイアンの頬に触れ、重なっていただけの唇を舐めた後、噛み付くように咥えてきた。
「う……んん……っ!」
頬に触れる手の感触と覚えのあるこのキスにハッとする。
思わず自分を抱き締めるその人をぐっと押して体を離した。
「…………」
驚いたような顔でじっと自分を見下ろしているその顔は――。
「グスターヴァルっ!」
あの日見た、誰よりもカッコ良くて優しくて素敵な男性が目の前にいる。
夢じゃない。
「グスターヴァルっ!」
もう一度名前を叫んでイアンは人の姿になったグスターヴァルにぎゅっと抱きついた。
「……イアン……」
耳元であの低いグスターヴァルの声が聞こえた。
ぎゅっと再び強く抱き締められる。
あんなに会いたかったグスターヴァルが目の前にいる。
嬉しくて切なくて、色んな思いがぐちゃぐちゃになったまま、イアンはグスターヴァルの腕の中で涙を流していた。
「グスターヴァル……」
本当に人間だったんだ。
ただ、もう一度会えただけで嬉しかった。
顔が見たくてイアンはパッと再びグスターヴァルから離れる。
「イアン?」
困ったようにグスターヴァルは首を傾げている。
「ううっ……本当に、グスターヴァルだぁ」
涙を流しながらイアンは笑っていた。
「……イアン。私は、ちゃんと人間になっているだろうか」
不安そうな顔でグスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと人間に戻ってるよ」
まだ目の端に涙を溜めながら答える。
「……そうか。どこかおかしい所もないだろうか……」
じっと自分の体を見ながら心配そうにグスターヴァルが続ける。
「ふふっ、大丈夫だよ。心配ないってば」
ぐいっとグスターヴァルの腕を掴んでイアンは満面の笑みで見上げる。
「……そうか」
ふっとグスターヴァルも笑みを浮かべるとじっとイアンを見下ろす。
本当に夢みたいだった。
ドラゴンの彼もカッコ良かったが、やはりこの姿が1番好きだと改めて感じる。
嬉しくて顔がにやけてしまう。
「へへっ」
イアンは笑いながらグスターヴァルの腕にしがみつく。
「…………」
グスターヴァルは黙って頭を優しく撫でてくれた。
大きな手もあの時と何も変わっていない。
やはり、この姿がグスターヴァルの本当の姿だったのだろう。
大きな目を潤ませながらイアンはじっと見上げた。
「良かったねっ。グスターヴァル、イアン」
すると、ふわふわとフェイがふたりの前に飛んできて声を掛けてきた。
「あっ!」
すっかりフェイとグレースのことを忘れてしまっていてイアンは思わず顔を赤らめる。
ふたりきりではなかったのだ。
慌ててグスターヴァルから離れる。
「まったく……私たちのおかげということを忘れるなよ」
グレースも呆れたように声を掛けてきた。
「わっ、グレース……ごめんなさい……」
「ありがとう、ふたりとも」
イアンは慌ててグレースに謝り、グスターヴァルは真面目な顔でお礼を言った。
「ふんっ。別に馬鹿な妹の尻拭いをしてやっただけだ」
腕を組み、面白くなさそうな顔でグレースが答える。
もしかしたら彼女は恥ずかしがり屋なのかもしれない。素直になれないだけなのだろう。
「ふふっ」
グレースを見ながら思わずイアンは笑ってしまった。
「ふんっ」
再びグレースは鼻を鳴らしながら横を向いてしまった。
グスターヴァルを人間にするために白の魔女の所へ行くと聞いた時は、驚きと恐ろしさと不安でいっぱいであったが、彼女がこんなにも美人で実は可愛らしい人だとは思いもしなかった。
来て良かったとイアンは嬉しくなっていた。
「もうすぐ日が暮れちゃうね」
すると近くを飛んでいたフェイが突然そんなことを言い出した。
「えっ?」
周りを見回すと、確かに来た時より少し暗くなってきているようだ。
元々あまり明るくない場所であった為、日が暮れていることに気が付いていなかった。
「ほんとだっ! どうしよ……」
ふと大事なことに気が付き、イアンは慌て始める。
「どうした?」
不思議そうにグスターヴァルが首を傾げる。
「グスターヴァルが人間になったから、どうやって帰ればいいんだろ?」
そうなのだ。
行きはドラゴンの姿であったグスターヴァルに乗って来たのですぐに北の森まで来れたが、帰りはそういうわけにはいかない。
歩いて帰るとしたら、一体どれだけの時間がかかるのだろうかとイアンは思わずぞっとした。
しかも、もうすぐ日が暮れるというのに。
「なるほど。確かにそうだな……」
焦ることなくグスターヴァルは手を顎に当てて考え込んでいる。
「大丈夫だよ、イアン」
するとフェイが目の前に飛んできて人差し指を立てながらそう話した。
「え? 大丈夫って?」
きょとんとした顔でフェイを見つめる。
「忘れちゃったの? ルイから『魔法のアイテム』を渡されてたでしょ?」
にこりと笑いながらフェイが答える。
「あっ!」
あの黒いリュックを思い出した。
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