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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第25話
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風で飛ばされないようにグスターヴァルが後ろで支えてくれている。
「う、わぁっ……」
それでも倒れそうになり思わず手を伸ばすとグレースがぐいっとイアンの腕を掴んだ。
「まだだ。耐えろ」
いつの間にか目を開けていたグレースがじっとイアンを見つめながら話す。
「っ…………」
口を閉じ、ぐっと歯を食いしばりながらイアンは倒れそうになるのを必死に堪える。
何か大きな力で押し上げられるような感覚があるが、前からグレースが、そして後ろからグスターヴァルが支えてくれている。
耐えなきゃダメだと足をぐっと踏ん張る。
更に強い光と風に体が包まれる。
「わぁっ!」
眩しさで目を閉じると、ふわっと体が浮く感覚がありぎょっとする。
「……た、助け……」
目を開き、腕を掴んでいるグレースの腕を自分も必死に掴むが、体が更に浮いてしまい慌てていると、すぐに上からグスターヴァルが口で押えてくれたのが分かった。
しかし次の瞬間、光と風が突然おさまり足がすっと地面に着いた。
ほっとして手を離すと、グレースも掴んでいたイアンの腕を離した。
振り返るとグスターヴァルもほっとした顔をして見つめている。
「ふむ……まぁ10倍くらいにはなったか」
顎に手を当てながらグレースがぼそりと呟く。
「えっ? 魔力が?」
驚き、再びグレースを見つめる。
「あぁ、そうだ。ほんとはもっと上げられると良かったんだが、あまり無理はしない方がいいだろう。体がもたない可能性があるからな。それに、ドラゴンの魔力が強いからなんとかなるだろう」
ふぅっと溜め息を付くように息を吐くと、グレースは自分の手をぱんぱんっと叩いている。
「……これで、グスターヴァルを人間に戻せる?」
じっとグレースを見つめながら尋ねる。
「そうだな。まぁ、足りない分は私とフェイとで補ってやろう」
ちらりとイアンを見た後、グレースはそのまま魔法で出したテーブルの方へと歩き出す。
その様子を見て「あれ?」と首を傾げる。
今からやるのかと思いきや、グレースはそのまま椅子に座って紅茶を飲み始めてしまった。
「休憩だ。少し力を使ったからな……お前も少し休め」
そう言ってグレースはイアンを手招きした。
「あ……えっと、はい」
どうしたものかと考えたが、確かにちょっと疲れている。
失敗するわけにはいかないため、言われた通り少し休むことにした。
ゆっくりと先程座っていた椅子の方へと歩いていく。
「っ!」
ぎょっとしたグスターヴァルだったが、すぐに苛ついた顔でびたんと大きく尻尾を動かした。
「わっ!」
椅子に座った途端、地面が大きく揺れて驚いたが、それと同時にグスターヴァルの口のことを思い出した。
まだ魔法をかけられたままで怒っているのだろう。
「フェイ、グスターヴァルの口を戻してあげて」
慌ててフェイに声を掛ける。
「はーい」
近くを飛んでいたフェイはふわふわとグスターヴァルの方へと移動していく。
「えいっ」
そしてまるで遊ぶようにして人差し指でちょんとグスターヴァルの口に触れた。
「……っはぁぁ……フェイっ!」
漸く魔法の解けた口を開き息を大きく吐くと、相当怒っているようでグスターヴァルは大きな声でフェイに怒鳴る。
「もう、怒らないでよぉ。しょうがないじゃん。グスターヴァルが邪魔しようとするから」
ちょんちょんとグスターヴァルの口元を人差し指で触りながらフェイが口を尖らせている。
なんだか小さい子供みたいで可愛い。
「……まったく。そんなことを言って、楽しんでいるだろう? お前は」
大きく息を吐き、仕方なさそうな顔でグスターヴァルはじっとフェイを見つめている。
その様子を見ると、ふたりは仲がいいんだなと少しだけ羨ましくなった。
喧嘩や言い合いをしたいわけではないが、グスターヴァルとそういったことをしたことがない。
グスターヴァルは心配してくれたり優しくしてくれるばかりで、自分に対してあまり怒ったりはしない。
なんだかイアンはそのことが少し寂しく思えた。
本心を見せてもらえていない気がしたのだ。
「どうした?」
落ち込んでいるイアンにすぐに気が付いたようで、グスターヴァルがぐいっと顔を寄せてきた。
「ううん。ちょっと疲れたのかも」
へへっと笑顔を見せながら誤魔化した。
いつもであれば心配してもらえて嬉しいはずなのだが、なんだか気持ちが晴れない。
「そうか……無理をさせて悪かった……」
するとグスターヴァルがしょんぼりと落ち込んでしまったような顔をした。
「わっ! グスターヴァルのせいじゃないってっ!」
初めて見る顔にイアンは驚くと、慌てて立ち上がってグスターヴァルの口元に触れる。
「まったく。こいつのことになるとお前は鬱陶しいな。ほら、少しこれでも飲んで休んでいろ」
呆れたような顔で口を挟んだグレースは、そう言って人差し指をすいっと動かす。
すると、グスターヴァルの目の前に巨大なカップが現れ、その中にはイアンたちが飲んでいる紅茶が入っている。
「わぁっ、凄いっ!」
直径で2mはありそうな大きなカップにはなみなみと紅茶が入っており、とてもいい香りがしている。
そういえば、ドラゴンは熱いものは平気なのだろうか。
思わず猫のようなグスターヴァルのことを心配してしまった。
「…………」
むっとした顔をしていたグスターヴァルであったが、出されたものをそのままとするわけにもいかないのか、大きなカップにそっと口を近付ける。
しかし何を気にしているのか、顔を近付けたままじっと中の紅茶を見つめている。
「毒など入れていないからさっさと飲め」
ちっと舌打ちをしながらグレースがグスターヴァルに言い聞かせた。
「…………」
ちらりとグレースを見た後、グスターヴァルはゆっくりと大きな舌を出す。
「わ……」
ドラゴンが何かを飲むところが見られるとは、とイアンは思わず体を乗り出してじっと見つめた。
ゆっくりと舌を伸ばし、グスターヴァルはそっとカップの中の紅茶を舐める。
「…………」
しかし、べろんと1回舐めただけでそのまま顔を上げてしまった。
好みじゃなかったのだろうか。
「なんだ。もういらんのか」
頬杖をつきながらグレースがグスターヴァルに声を掛ける。
「…………」
一体どうしたのか、グスターヴァルは一言も話さない。
「……なんだ、猫舌か?」
「違うっ!」
呆れた顔で問い掛けたグレースの言葉に漸くグスターヴァルは声を出した。
そして猫舌ではなかったようだ。
ぷいっと横を向いてしまったグスターヴァルが可愛くて、イアンは嬉しそうに笑っていた。
「う、わぁっ……」
それでも倒れそうになり思わず手を伸ばすとグレースがぐいっとイアンの腕を掴んだ。
「まだだ。耐えろ」
いつの間にか目を開けていたグレースがじっとイアンを見つめながら話す。
「っ…………」
口を閉じ、ぐっと歯を食いしばりながらイアンは倒れそうになるのを必死に堪える。
何か大きな力で押し上げられるような感覚があるが、前からグレースが、そして後ろからグスターヴァルが支えてくれている。
耐えなきゃダメだと足をぐっと踏ん張る。
更に強い光と風に体が包まれる。
「わぁっ!」
眩しさで目を閉じると、ふわっと体が浮く感覚がありぎょっとする。
「……た、助け……」
目を開き、腕を掴んでいるグレースの腕を自分も必死に掴むが、体が更に浮いてしまい慌てていると、すぐに上からグスターヴァルが口で押えてくれたのが分かった。
しかし次の瞬間、光と風が突然おさまり足がすっと地面に着いた。
ほっとして手を離すと、グレースも掴んでいたイアンの腕を離した。
振り返るとグスターヴァルもほっとした顔をして見つめている。
「ふむ……まぁ10倍くらいにはなったか」
顎に手を当てながらグレースがぼそりと呟く。
「えっ? 魔力が?」
驚き、再びグレースを見つめる。
「あぁ、そうだ。ほんとはもっと上げられると良かったんだが、あまり無理はしない方がいいだろう。体がもたない可能性があるからな。それに、ドラゴンの魔力が強いからなんとかなるだろう」
ふぅっと溜め息を付くように息を吐くと、グレースは自分の手をぱんぱんっと叩いている。
「……これで、グスターヴァルを人間に戻せる?」
じっとグレースを見つめながら尋ねる。
「そうだな。まぁ、足りない分は私とフェイとで補ってやろう」
ちらりとイアンを見た後、グレースはそのまま魔法で出したテーブルの方へと歩き出す。
その様子を見て「あれ?」と首を傾げる。
今からやるのかと思いきや、グレースはそのまま椅子に座って紅茶を飲み始めてしまった。
「休憩だ。少し力を使ったからな……お前も少し休め」
そう言ってグレースはイアンを手招きした。
「あ……えっと、はい」
どうしたものかと考えたが、確かにちょっと疲れている。
失敗するわけにはいかないため、言われた通り少し休むことにした。
ゆっくりと先程座っていた椅子の方へと歩いていく。
「っ!」
ぎょっとしたグスターヴァルだったが、すぐに苛ついた顔でびたんと大きく尻尾を動かした。
「わっ!」
椅子に座った途端、地面が大きく揺れて驚いたが、それと同時にグスターヴァルの口のことを思い出した。
まだ魔法をかけられたままで怒っているのだろう。
「フェイ、グスターヴァルの口を戻してあげて」
慌ててフェイに声を掛ける。
「はーい」
近くを飛んでいたフェイはふわふわとグスターヴァルの方へと移動していく。
「えいっ」
そしてまるで遊ぶようにして人差し指でちょんとグスターヴァルの口に触れた。
「……っはぁぁ……フェイっ!」
漸く魔法の解けた口を開き息を大きく吐くと、相当怒っているようでグスターヴァルは大きな声でフェイに怒鳴る。
「もう、怒らないでよぉ。しょうがないじゃん。グスターヴァルが邪魔しようとするから」
ちょんちょんとグスターヴァルの口元を人差し指で触りながらフェイが口を尖らせている。
なんだか小さい子供みたいで可愛い。
「……まったく。そんなことを言って、楽しんでいるだろう? お前は」
大きく息を吐き、仕方なさそうな顔でグスターヴァルはじっとフェイを見つめている。
その様子を見ると、ふたりは仲がいいんだなと少しだけ羨ましくなった。
喧嘩や言い合いをしたいわけではないが、グスターヴァルとそういったことをしたことがない。
グスターヴァルは心配してくれたり優しくしてくれるばかりで、自分に対してあまり怒ったりはしない。
なんだかイアンはそのことが少し寂しく思えた。
本心を見せてもらえていない気がしたのだ。
「どうした?」
落ち込んでいるイアンにすぐに気が付いたようで、グスターヴァルがぐいっと顔を寄せてきた。
「ううん。ちょっと疲れたのかも」
へへっと笑顔を見せながら誤魔化した。
いつもであれば心配してもらえて嬉しいはずなのだが、なんだか気持ちが晴れない。
「そうか……無理をさせて悪かった……」
するとグスターヴァルがしょんぼりと落ち込んでしまったような顔をした。
「わっ! グスターヴァルのせいじゃないってっ!」
初めて見る顔にイアンは驚くと、慌てて立ち上がってグスターヴァルの口元に触れる。
「まったく。こいつのことになるとお前は鬱陶しいな。ほら、少しこれでも飲んで休んでいろ」
呆れたような顔で口を挟んだグレースは、そう言って人差し指をすいっと動かす。
すると、グスターヴァルの目の前に巨大なカップが現れ、その中にはイアンたちが飲んでいる紅茶が入っている。
「わぁっ、凄いっ!」
直径で2mはありそうな大きなカップにはなみなみと紅茶が入っており、とてもいい香りがしている。
そういえば、ドラゴンは熱いものは平気なのだろうか。
思わず猫のようなグスターヴァルのことを心配してしまった。
「…………」
むっとした顔をしていたグスターヴァルであったが、出されたものをそのままとするわけにもいかないのか、大きなカップにそっと口を近付ける。
しかし何を気にしているのか、顔を近付けたままじっと中の紅茶を見つめている。
「毒など入れていないからさっさと飲め」
ちっと舌打ちをしながらグレースがグスターヴァルに言い聞かせた。
「…………」
ちらりとグレースを見た後、グスターヴァルはゆっくりと大きな舌を出す。
「わ……」
ドラゴンが何かを飲むところが見られるとは、とイアンは思わず体を乗り出してじっと見つめた。
ゆっくりと舌を伸ばし、グスターヴァルはそっとカップの中の紅茶を舐める。
「…………」
しかし、べろんと1回舐めただけでそのまま顔を上げてしまった。
好みじゃなかったのだろうか。
「なんだ。もういらんのか」
頬杖をつきながらグレースがグスターヴァルに声を掛ける。
「…………」
一体どうしたのか、グスターヴァルは一言も話さない。
「……なんだ、猫舌か?」
「違うっ!」
呆れた顔で問い掛けたグレースの言葉に漸くグスターヴァルは声を出した。
そして猫舌ではなかったようだ。
ぷいっと横を向いてしまったグスターヴァルが可愛くて、イアンは嬉しそうに笑っていた。
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