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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第24話
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まさか自分の先祖に魔女がいたとは思いもしなかった。
信じられないような話だが、そういえばと思い出したことがあった。
騎士を目指すきっかけとなったあの日、イーサンにも同じようなことを言われたのだ。
あの時はなんのことを言っているのかよく分からなくて聞き流してしまっていたが、確か『魔女の血』がなんとか言っていた気がする。
もしかして、本当に自分は魔女と何か関係しているのだろうか。
ドキドキと鼓動が速くなっていく。
初めて聞く話への驚きと、グスターヴァルを人に戻すことができるかもしれないといった期待の気持ちでいっぱいになっていた。
「どうすればいい?」
再びグスターヴァルがグレースに尋ねる声が聞こえ、ハッとしてイアンは我に返った。
「うむ。先程言った通りだが、ただ、お前たちが口付けをするだけでは難しいだろう。……まずは、お前の魔力をもっと上げる必要があるな」
そう言ってグレースは再びイアンをじっと見つめた。
「え? そんなことできるの?」
きょとんとしながらも、じっとグレースを見つめ返す。
魔力を上げるなんて相当修行をしないとできないはずだ。
何年もかかるとも聞いたことがある。
「まぁ、私であればできるな」
ふっと口の端を上げると、グレースはなんとも自慢げにそう答えた。
凄い、という気持ちよりも、『やっぱり魔女なんだな』といったことが頭に浮かぶ。
なんとなく魔女と言えば高慢で残忍なイメージだった。
「はぁ……」
なんと答えたらいいのか分からず、とりあえず返事を返す。
「その顔は信じていないな?」
「っ! そ、そんなことはっ!」
じろりとグレースに顔を覗き込まれ、イアンは慌てて首を横に振る。
彼女も黒の魔女と同じ魔女なのだ。
先程『グレースも魔女なんだな』と感じたばかりだというのに、彼女と話している間に怖さがなくなりすっかり油断していた。
魔女を怒らせてはいけないと、姿勢を正してグレースをじっと見つめ返す。
「ふっ、お前は本当に面白い。なかなか気に入ったぞ」
しかしグレースは、怒るどころか笑みを浮かべながらイアンの頬に手でそっと触れてきた。
「っ!」
驚きと恥ずかしさでイアンの顔がぶわっと赤くなる。
「グレースっ!」
すると凄い勢いでグスターヴァルが顔を近付け、今にもグレースを食べてしまいそうな程に口を大きく開けた。
「グスターヴァルっ!?」
あまりの迫力に驚いたイアンは、顔を真っ青にしながら後ろに仰け反ってしまう。
「わぁっ!」
そしてそのまま体がぐらりと後ろに傾いた。
「イアンっ!」
慌てたようにグスターヴァルが声を上げる。
そのまま勢いよく尻餅をついた、と思われたがどこにも痛みを感じない。
「……あれ……?」
ダメだと思って思わず目を瞑ってしまっていたイアンだったが、不思議に思いそっと目を開ける。
「え?」
なんと斜めの状態で体が止まっている。
「イアン……」
心配そうな顔でグスターヴァルがじっと見つめているのが見えた。
「わわっ」
体が動かなくてどうすればいいかと慌てていると、ふわりと再び元の位置へと戻った。
「まったく騒がしいな、お前たちは」
ふぅっと大きく溜め息を付きながらグレースが呟いた。
どうやらグレースが魔法でイアンが倒れないように止めてくれたようだ。
「あ、グレース……ありがとう……」
倒れずに済んだのがグレースのおかげと分かると、イアンはぺこりと頭を下げた。
「ふんっ。まったく、お前の恋人は嫉妬深くて面倒だな」
鼻を鳴らしながらグレースにじろりと睨まれた。
なぜ怒られるのか。そして『お前の恋人』とは?
きょとんとして首を傾げると、すぐ近くでグスターヴァルの声が聞こえてそちらを見る。
「グレース。イアンを揶揄うな」
今度はグスターヴァルがグレースを睨み付けていた。
「うるさい奴だな。別に取って食ったりはしない」
再びふんっと鼻を鳴らしながらグレースは腕を組み、グスターヴァルから顔を逸らした。
いつも自分には優しいグスターヴァルだが、最近はなんだか色んな人と喧嘩をしているように思えるのはなぜだろうとイアンは考えていた。
「お前が余計なことをするからだろう。イアンに触るな」
機嫌が悪そうにグスターヴァルはじっとグレースを睨み付けている。
怒っていても自分のことを心配してくれていると思うと、イアンはなんだか嬉しくなっていた。
喧嘩をしているのだから喜んではダメだと思うのだが。
「それは承諾しかねる。こいつの魔力を上げなければならないからな。少しくらい我慢しろ。まったく、心の狭い男だな」
じろりとグレースが睨み付けながら言い返すと、再びグスターヴァルが怒鳴る。
「なんだとっ?」
「うるさいな……。フェイ、こいつを少し黙らせておいてくれないか? こいつが邪魔で集中できないよ、まったく」
大きく溜め息を付くと、グレースは今度は振り返ってフェイを呼んだ。
「分かったー」
にこりと笑って返事をすると、フェイはふわっと高く飛び上がり、グスターヴァルの顔の近くまで一気に飛んでいく。
何をするのだろうと見上げていると、「グスターヴァル、ちょっとごめんねー」と言いながらフェイが指をくるっと回した。
「っ!」
すると、グスターヴァルの口がまるでくっついてしまったかのように固く閉じてしまった。
しかもそのまま開けられないのか、ぐいぐいと前足を動かして口を開けようと必死になっている。
恐らく魔法で口を開けられないようにされたのだろう。
そんなグスターヴァルを見上げながら、驚きと可哀想だなと思いながらも、仕草がなんだか可愛くてイアンは思わず悶えそうになっていた。
肩を震わせ、両手で口を押さえながら「可愛すぎ……」とぼそりと呟く。
「ははっ、まるで犬のようだな」
グレースが笑いながら楽しそうにグスターヴァルを眺めている。
確かに、前足を動かしている姿は大きな犬のようにも見える。
しかし可愛いなと思いながらも、やはりちょっと可哀想だと心配そうにグスターヴァルを見上げる。
「グスターヴァルはちょっとそのまま待っててねー。心配しなくてもイアンは大丈夫だよ」
にこっと笑顔でグスターヴァルに向かって話すと、フェイは再びこちらの方へと下りてきた。
動かしていた手を下ろすと、グスターヴァルはなんとも恨めしそうな顔でフェイを睨み付けている。
「さて。うるさいのが黙っている間に始めようか」
ふぅっと深く息を吐くとグレースは再びイアンを見つめた。
そうだ。魔力を上げると言っていた。
グレースの方に向き直ると、緊張して思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「両手を出して」
そう言ってグレースは、両方の手の平を上にした状態でこちらに差し出してきた。
「えっと……」
どうすればいいのか分からず、グレースの手の上に自分の手を乗せてみた。
「犬ではないのだから。手の平を上に向けて」
お手をするように、両手をグレースの手の上に乗せてしまったが裏返すように怒られてしまった。
慌てて裏返して、グレースの手の平に自分も手の平を上に向けた状態で置く。
「こう?」
「あぁ、そうだ……そのまま」
そう言ってグレースは目を閉じた。
何をするのだろうとイアンはじっとグレースを見つめる。
緊張で手に汗がじわりと滲んできた。
体もなんだかぶるぶると震え出している。
すると突然、口を閉じたままのグスターヴァルがそっとイアンの腰の辺りに自分の口を当ててきた。
「っ!」
驚いて振り返ると、心配そうな顔でじっと見ているのが分かった。
いつでもグスターヴァルは自分のことを心配してくれている。
きっと緊張して体が震えていることに気が付いたのだろう。
そう考えると再び嬉しくなり、イアンは少しだけグスターヴァルに体を預けるように凭れ掛かった。
次の瞬間、グレースの手が光り始め、イアンの体がその光に包まれた。
「わっ!」
驚いて声を上げると、今度はまるで小さなつむじ風のように下から突き上げるような風が吹いた。
信じられないような話だが、そういえばと思い出したことがあった。
騎士を目指すきっかけとなったあの日、イーサンにも同じようなことを言われたのだ。
あの時はなんのことを言っているのかよく分からなくて聞き流してしまっていたが、確か『魔女の血』がなんとか言っていた気がする。
もしかして、本当に自分は魔女と何か関係しているのだろうか。
ドキドキと鼓動が速くなっていく。
初めて聞く話への驚きと、グスターヴァルを人に戻すことができるかもしれないといった期待の気持ちでいっぱいになっていた。
「どうすればいい?」
再びグスターヴァルがグレースに尋ねる声が聞こえ、ハッとしてイアンは我に返った。
「うむ。先程言った通りだが、ただ、お前たちが口付けをするだけでは難しいだろう。……まずは、お前の魔力をもっと上げる必要があるな」
そう言ってグレースは再びイアンをじっと見つめた。
「え? そんなことできるの?」
きょとんとしながらも、じっとグレースを見つめ返す。
魔力を上げるなんて相当修行をしないとできないはずだ。
何年もかかるとも聞いたことがある。
「まぁ、私であればできるな」
ふっと口の端を上げると、グレースはなんとも自慢げにそう答えた。
凄い、という気持ちよりも、『やっぱり魔女なんだな』といったことが頭に浮かぶ。
なんとなく魔女と言えば高慢で残忍なイメージだった。
「はぁ……」
なんと答えたらいいのか分からず、とりあえず返事を返す。
「その顔は信じていないな?」
「っ! そ、そんなことはっ!」
じろりとグレースに顔を覗き込まれ、イアンは慌てて首を横に振る。
彼女も黒の魔女と同じ魔女なのだ。
先程『グレースも魔女なんだな』と感じたばかりだというのに、彼女と話している間に怖さがなくなりすっかり油断していた。
魔女を怒らせてはいけないと、姿勢を正してグレースをじっと見つめ返す。
「ふっ、お前は本当に面白い。なかなか気に入ったぞ」
しかしグレースは、怒るどころか笑みを浮かべながらイアンの頬に手でそっと触れてきた。
「っ!」
驚きと恥ずかしさでイアンの顔がぶわっと赤くなる。
「グレースっ!」
すると凄い勢いでグスターヴァルが顔を近付け、今にもグレースを食べてしまいそうな程に口を大きく開けた。
「グスターヴァルっ!?」
あまりの迫力に驚いたイアンは、顔を真っ青にしながら後ろに仰け反ってしまう。
「わぁっ!」
そしてそのまま体がぐらりと後ろに傾いた。
「イアンっ!」
慌てたようにグスターヴァルが声を上げる。
そのまま勢いよく尻餅をついた、と思われたがどこにも痛みを感じない。
「……あれ……?」
ダメだと思って思わず目を瞑ってしまっていたイアンだったが、不思議に思いそっと目を開ける。
「え?」
なんと斜めの状態で体が止まっている。
「イアン……」
心配そうな顔でグスターヴァルがじっと見つめているのが見えた。
「わわっ」
体が動かなくてどうすればいいかと慌てていると、ふわりと再び元の位置へと戻った。
「まったく騒がしいな、お前たちは」
ふぅっと大きく溜め息を付きながらグレースが呟いた。
どうやらグレースが魔法でイアンが倒れないように止めてくれたようだ。
「あ、グレース……ありがとう……」
倒れずに済んだのがグレースのおかげと分かると、イアンはぺこりと頭を下げた。
「ふんっ。まったく、お前の恋人は嫉妬深くて面倒だな」
鼻を鳴らしながらグレースにじろりと睨まれた。
なぜ怒られるのか。そして『お前の恋人』とは?
きょとんとして首を傾げると、すぐ近くでグスターヴァルの声が聞こえてそちらを見る。
「グレース。イアンを揶揄うな」
今度はグスターヴァルがグレースを睨み付けていた。
「うるさい奴だな。別に取って食ったりはしない」
再びふんっと鼻を鳴らしながらグレースは腕を組み、グスターヴァルから顔を逸らした。
いつも自分には優しいグスターヴァルだが、最近はなんだか色んな人と喧嘩をしているように思えるのはなぜだろうとイアンは考えていた。
「お前が余計なことをするからだろう。イアンに触るな」
機嫌が悪そうにグスターヴァルはじっとグレースを睨み付けている。
怒っていても自分のことを心配してくれていると思うと、イアンはなんだか嬉しくなっていた。
喧嘩をしているのだから喜んではダメだと思うのだが。
「それは承諾しかねる。こいつの魔力を上げなければならないからな。少しくらい我慢しろ。まったく、心の狭い男だな」
じろりとグレースが睨み付けながら言い返すと、再びグスターヴァルが怒鳴る。
「なんだとっ?」
「うるさいな……。フェイ、こいつを少し黙らせておいてくれないか? こいつが邪魔で集中できないよ、まったく」
大きく溜め息を付くと、グレースは今度は振り返ってフェイを呼んだ。
「分かったー」
にこりと笑って返事をすると、フェイはふわっと高く飛び上がり、グスターヴァルの顔の近くまで一気に飛んでいく。
何をするのだろうと見上げていると、「グスターヴァル、ちょっとごめんねー」と言いながらフェイが指をくるっと回した。
「っ!」
すると、グスターヴァルの口がまるでくっついてしまったかのように固く閉じてしまった。
しかもそのまま開けられないのか、ぐいぐいと前足を動かして口を開けようと必死になっている。
恐らく魔法で口を開けられないようにされたのだろう。
そんなグスターヴァルを見上げながら、驚きと可哀想だなと思いながらも、仕草がなんだか可愛くてイアンは思わず悶えそうになっていた。
肩を震わせ、両手で口を押さえながら「可愛すぎ……」とぼそりと呟く。
「ははっ、まるで犬のようだな」
グレースが笑いながら楽しそうにグスターヴァルを眺めている。
確かに、前足を動かしている姿は大きな犬のようにも見える。
しかし可愛いなと思いながらも、やはりちょっと可哀想だと心配そうにグスターヴァルを見上げる。
「グスターヴァルはちょっとそのまま待っててねー。心配しなくてもイアンは大丈夫だよ」
にこっと笑顔でグスターヴァルに向かって話すと、フェイは再びこちらの方へと下りてきた。
動かしていた手を下ろすと、グスターヴァルはなんとも恨めしそうな顔でフェイを睨み付けている。
「さて。うるさいのが黙っている間に始めようか」
ふぅっと深く息を吐くとグレースは再びイアンを見つめた。
そうだ。魔力を上げると言っていた。
グレースの方に向き直ると、緊張して思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「両手を出して」
そう言ってグレースは、両方の手の平を上にした状態でこちらに差し出してきた。
「えっと……」
どうすればいいのか分からず、グレースの手の上に自分の手を乗せてみた。
「犬ではないのだから。手の平を上に向けて」
お手をするように、両手をグレースの手の上に乗せてしまったが裏返すように怒られてしまった。
慌てて裏返して、グレースの手の平に自分も手の平を上に向けた状態で置く。
「こう?」
「あぁ、そうだ……そのまま」
そう言ってグレースは目を閉じた。
何をするのだろうとイアンはじっとグレースを見つめる。
緊張で手に汗がじわりと滲んできた。
体もなんだかぶるぶると震え出している。
すると突然、口を閉じたままのグスターヴァルがそっとイアンの腰の辺りに自分の口を当ててきた。
「っ!」
驚いて振り返ると、心配そうな顔でじっと見ているのが分かった。
いつでもグスターヴァルは自分のことを心配してくれている。
きっと緊張して体が震えていることに気が付いたのだろう。
そう考えると再び嬉しくなり、イアンは少しだけグスターヴァルに体を預けるように凭れ掛かった。
次の瞬間、グレースの手が光り始め、イアンの体がその光に包まれた。
「わっ!」
驚いて声を上げると、今度はまるで小さなつむじ風のように下から突き上げるような風が吹いた。
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