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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第21話
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「真実の、愛っ!?」
グレースの言葉に思わずぎょっとして声を上げてしまった。
「そうだ。……あぁ、その前に、もうひとつ教えてやろう。お前のきょうだいのことだ」
驚くイアンを面白そうに眺めた後、グレースは再びグスターヴァルを見上げながらにやりと笑う。
「きょうだい?」
難しい顔をしながらグスターヴァルが首を傾げる。
「あぁそうだ。覚えていないか?」
「……いや」
じっと見つめるグレースの言葉に、グスターヴァルはゆっくりと首を横に振り目を閉じた。
ちらりとグスターヴァルを見上げ気にしながらも、イアンはすぐにグレースの方を見ながら次の言葉を待っていた。
グスターヴァルの兄弟と聞いて興味津々になっていたのだ。
面倒見のいいグスターヴァルのことだからきっと可愛い弟なのだろうな、などと勝手な想像をする。
そしてグレースが淡々と話し始めた。
「お前には妹がいたんだ。名前はアリア。人間の姿のお前によく似た美人だったよ。お前と違って明るく人付き合いも良かったらしい。その妹が、お前が死んだとされた後、家の当主となるべく婿を迎え、そして子孫を残したんだ」
兄弟じゃなくて兄妹だった。妹だったのか。しかも美人……。
なんとなくショックを受けたイアンだったが、ふとグスターヴァルのことが気になりじっと見上げる。
「…………」
グスターヴァルは黙って目を開けると、なんとも辛そうな顔をしている。
本来であれば、王女を妻として迎えてグスターヴァルがその家の当主になるはずだった。
しかし、自身はドラゴンに変えられ、王女は別の世界へと追放されてしまった。
真面目なグスターヴァルのことである。責任を感じて辛くなっているのかもしれないと、イアンもまた苦しくなった。
「それから、この話は噂で聞いたんだがな? どうも、王女ソフィアはお前ではなく妹のアリアを慕っていたようだ、と」
「えぇっ!」
自分は関係ないというのに、グレースの話に思わず声を上げてしまった。
王女がグスターヴァルの妹を好きだったってこと?
驚いて目をぱちぱちと瞬きさせる。
「…………」
しかし、グスターヴァルは何も言わずにじっとグレースを見下ろしている。
「お前は驚かないのだな? 本当に覚えていないのか?」
ふんっと鼻を鳴らすと、グレースはグスターヴァルを疑うような目付きで見上げる。
「覚えていないが別に驚きはしない。私よりも妹が魅力的であっただけだろう。不思議でもなんでもないことだ」
すっと顔をグレースの方に向けると、グスターヴァルは冷静な口調でそう答えた。
そんなことは決してないとイアンは思ったのだが、口を挟める雰囲気ではなかった為、じっと黙ってグスターヴァルを見上げる。
グスターヴァルの答えを聞いた後、グレースはゆっくりと紅茶を飲んだ。
そして驚く話を再びし始めた。
「……アリアには、やはり伝えた方がいいと思ってな。イライザがしたことを全て話したんだ」
「っ!」
ぎょっとしたようにグスターヴァルが目を見開いた。
「お前の親には伝えていないが、アリアだけは真実を知る必要があると思ったんだ。さっき話した噂について、アリアから真相を聞いたんだが、驚いたことにふたりは付き合っていたようだ。覚えてはいないだろうが、お前も知っていたようだ。あの当時は、男女の恋愛や婚姻が当たり前とされていた時代だ。同性同士の恋愛などありえなかったからな。『アリアと一緒になれないならば』と、ソフィアもお前との婚約を受け入れたのだとアリアは言っていた。……彼女は、お前が呪いでドラゴンの卵に魂を移されたことも、ソフィアが追放されたことも、そのことでイライザが封印されたことも、全て自分のせいだと泣きながら私に謝っていた」
「そんなっ、どうしてっ……」
淡々と話すグレースの話に驚きながらも黙って聞いていたが、グスターヴァルの妹がなぜ自分のせいだと言ったのかが分からず、イアンは思わず口を挟んでしまった。
「さっきも話したが、当時は同性同士の恋愛はありえない話だった。ましてやグスターヴァルの家は、ワンダーランドで知らぬ者がいないほどの名家だった。しかも相手は王女だ。ふたりが愛し合っているなど、誰にも言えなかったのだろう。しかし、もしも自分が勇気を出してふたりで生きる道を選んだのなら、イライザの怒りを買うことはなかったのかもしれない、とアリアは話していた。自分を酷く責めていたよ」
そう言ってグレースはふぅっと深い溜め息を付きながら紅茶を一口だけ口に含む。
「そうか……。妹には申し訳ないが、勇気を出さないでくれて良かったと思ってしまった私は、醜い生き物だな」
突然グスターヴァルがぼそりと呟いた。
「えっ?」
なぜそんなことを言うのか分からず、イアンは驚いてグスターヴァルを見上げる。
「ふんっ、なるほどな。当時のお前がどう思っていたかは分からんが、ドラゴンになったことを恨んではいない、ということか。むしろ今の状況をよしと考えたということか?」
カップをソーサーに置くと、グレースは鼻で笑うようにグスターヴァルに問い掛ける。
「そうだな。もし、あのまま人間として生きていたら、きっとつまらない人生を送っていたのだろう。誰かを好きになることもなく、楽しいと感じることもなく……。覚えてはいないが、今のような気持ちには決してなっていなかっただろう」
じっとグレースを見下ろしながらグスターヴァルは少し穏やかな表情で答えている。
今が幸せということだろうか?
ふわっと体が温かくなった。
「グスターヴァル」
そして思わず名前を呼ぶ。
「……あの時代には、イアンがいないからな」
呼ばれてふとイアンの顔を見つめると、グスターヴァルは優しい顔でそう話した。
「っ!」
その言葉で顔が熱くなり、イアンは顔を真っ赤にしながら驚いた。
「ははっ。随分と入れ込んでいるようだな。やはり今のお前の方が面白い。あぁそうだ。妹の話でもうひとつ。聖騎士の中に『イーサン』という男がいるだろう。その男はお前の妹アリアの子孫だ」
「ええっ!!」
グレースの言葉に今までになく驚いて声を上げる。
似てるとは思っていたが、まさか本当にグスターヴァルとイーサンは関係があったとは。
「……だから私とイーサンは顔が似ていたのか」
しかし、グスターヴァルは驚くことなくなぜか納得して頷いている。
なぜそんなに冷静なのか。
「それからお前たちに関係する人物でもうひとり。グスターヴァルの主であるホワイトキャットだが、あの子は追放されたソフィアの子孫だよ」
「えええええっ!」
喉が枯れそうな程に大声で叫んでしまった。
グレースの言葉に思わずぎょっとして声を上げてしまった。
「そうだ。……あぁ、その前に、もうひとつ教えてやろう。お前のきょうだいのことだ」
驚くイアンを面白そうに眺めた後、グレースは再びグスターヴァルを見上げながらにやりと笑う。
「きょうだい?」
難しい顔をしながらグスターヴァルが首を傾げる。
「あぁそうだ。覚えていないか?」
「……いや」
じっと見つめるグレースの言葉に、グスターヴァルはゆっくりと首を横に振り目を閉じた。
ちらりとグスターヴァルを見上げ気にしながらも、イアンはすぐにグレースの方を見ながら次の言葉を待っていた。
グスターヴァルの兄弟と聞いて興味津々になっていたのだ。
面倒見のいいグスターヴァルのことだからきっと可愛い弟なのだろうな、などと勝手な想像をする。
そしてグレースが淡々と話し始めた。
「お前には妹がいたんだ。名前はアリア。人間の姿のお前によく似た美人だったよ。お前と違って明るく人付き合いも良かったらしい。その妹が、お前が死んだとされた後、家の当主となるべく婿を迎え、そして子孫を残したんだ」
兄弟じゃなくて兄妹だった。妹だったのか。しかも美人……。
なんとなくショックを受けたイアンだったが、ふとグスターヴァルのことが気になりじっと見上げる。
「…………」
グスターヴァルは黙って目を開けると、なんとも辛そうな顔をしている。
本来であれば、王女を妻として迎えてグスターヴァルがその家の当主になるはずだった。
しかし、自身はドラゴンに変えられ、王女は別の世界へと追放されてしまった。
真面目なグスターヴァルのことである。責任を感じて辛くなっているのかもしれないと、イアンもまた苦しくなった。
「それから、この話は噂で聞いたんだがな? どうも、王女ソフィアはお前ではなく妹のアリアを慕っていたようだ、と」
「えぇっ!」
自分は関係ないというのに、グレースの話に思わず声を上げてしまった。
王女がグスターヴァルの妹を好きだったってこと?
驚いて目をぱちぱちと瞬きさせる。
「…………」
しかし、グスターヴァルは何も言わずにじっとグレースを見下ろしている。
「お前は驚かないのだな? 本当に覚えていないのか?」
ふんっと鼻を鳴らすと、グレースはグスターヴァルを疑うような目付きで見上げる。
「覚えていないが別に驚きはしない。私よりも妹が魅力的であっただけだろう。不思議でもなんでもないことだ」
すっと顔をグレースの方に向けると、グスターヴァルは冷静な口調でそう答えた。
そんなことは決してないとイアンは思ったのだが、口を挟める雰囲気ではなかった為、じっと黙ってグスターヴァルを見上げる。
グスターヴァルの答えを聞いた後、グレースはゆっくりと紅茶を飲んだ。
そして驚く話を再びし始めた。
「……アリアには、やはり伝えた方がいいと思ってな。イライザがしたことを全て話したんだ」
「っ!」
ぎょっとしたようにグスターヴァルが目を見開いた。
「お前の親には伝えていないが、アリアだけは真実を知る必要があると思ったんだ。さっき話した噂について、アリアから真相を聞いたんだが、驚いたことにふたりは付き合っていたようだ。覚えてはいないだろうが、お前も知っていたようだ。あの当時は、男女の恋愛や婚姻が当たり前とされていた時代だ。同性同士の恋愛などありえなかったからな。『アリアと一緒になれないならば』と、ソフィアもお前との婚約を受け入れたのだとアリアは言っていた。……彼女は、お前が呪いでドラゴンの卵に魂を移されたことも、ソフィアが追放されたことも、そのことでイライザが封印されたことも、全て自分のせいだと泣きながら私に謝っていた」
「そんなっ、どうしてっ……」
淡々と話すグレースの話に驚きながらも黙って聞いていたが、グスターヴァルの妹がなぜ自分のせいだと言ったのかが分からず、イアンは思わず口を挟んでしまった。
「さっきも話したが、当時は同性同士の恋愛はありえない話だった。ましてやグスターヴァルの家は、ワンダーランドで知らぬ者がいないほどの名家だった。しかも相手は王女だ。ふたりが愛し合っているなど、誰にも言えなかったのだろう。しかし、もしも自分が勇気を出してふたりで生きる道を選んだのなら、イライザの怒りを買うことはなかったのかもしれない、とアリアは話していた。自分を酷く責めていたよ」
そう言ってグレースはふぅっと深い溜め息を付きながら紅茶を一口だけ口に含む。
「そうか……。妹には申し訳ないが、勇気を出さないでくれて良かったと思ってしまった私は、醜い生き物だな」
突然グスターヴァルがぼそりと呟いた。
「えっ?」
なぜそんなことを言うのか分からず、イアンは驚いてグスターヴァルを見上げる。
「ふんっ、なるほどな。当時のお前がどう思っていたかは分からんが、ドラゴンになったことを恨んではいない、ということか。むしろ今の状況をよしと考えたということか?」
カップをソーサーに置くと、グレースは鼻で笑うようにグスターヴァルに問い掛ける。
「そうだな。もし、あのまま人間として生きていたら、きっとつまらない人生を送っていたのだろう。誰かを好きになることもなく、楽しいと感じることもなく……。覚えてはいないが、今のような気持ちには決してなっていなかっただろう」
じっとグレースを見下ろしながらグスターヴァルは少し穏やかな表情で答えている。
今が幸せということだろうか?
ふわっと体が温かくなった。
「グスターヴァル」
そして思わず名前を呼ぶ。
「……あの時代には、イアンがいないからな」
呼ばれてふとイアンの顔を見つめると、グスターヴァルは優しい顔でそう話した。
「っ!」
その言葉で顔が熱くなり、イアンは顔を真っ赤にしながら驚いた。
「ははっ。随分と入れ込んでいるようだな。やはり今のお前の方が面白い。あぁそうだ。妹の話でもうひとつ。聖騎士の中に『イーサン』という男がいるだろう。その男はお前の妹アリアの子孫だ」
「ええっ!!」
グレースの言葉に今までになく驚いて声を上げる。
似てるとは思っていたが、まさか本当にグスターヴァルとイーサンは関係があったとは。
「……だから私とイーサンは顔が似ていたのか」
しかし、グスターヴァルは驚くことなくなぜか納得して頷いている。
なぜそんなに冷静なのか。
「それからお前たちに関係する人物でもうひとり。グスターヴァルの主であるホワイトキャットだが、あの子は追放されたソフィアの子孫だよ」
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