White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第20話

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「なるほどな……。お前は、私に復讐したいのか?」
 じっと黙って聞いていたグスターヴァルは、グレースを見つめながら問い掛ける。
 その言葉にどきんとイアンの心臓が大きく鳴った。
 人間に変わる為に白の魔女の所に来たはずが、まさかグスターヴァルの命の危険が迫っているのか?
 安全だと思っていたグレースを見つめながら思わず身構える。
 とても自分が敵う相手ではないが、グスターヴァルのことは絶対に守ってみせる、そう考えた。
「はははっ、まさか。そんなくだらんことを思うわけがないだろう。お前に殺されたのはあいつの自業自得だ。寧ろ、お前には謝らなければならないのだろうな」
 大きく笑うと、グレースはグスターヴァルを見上げながら答える。
 そして、先程までとは違う表情をしている。
 なんとなくではあったが、グレースの言葉に嘘はないような気がした。
 上げた手をそっと膝の上に置くと、イアンはほっとして胸を撫で下ろした。
「……そうか」
 そう言ってグスターヴァルはそのまま黙り込んでしまった。
 何を考えているのか分からず、イアンは再び不安になっていた。
「グスターヴァル……」
 黙ったままのグスターヴァルをじっと見上げる。
 すると、漸くこちらを見つめ返してきた。
 目が合い、思わずどきんと鼓動が高鳴った。
「妹は……イライザは最後、どんな顔をしていた?」
 ふとグレースがそんなことを尋ねた。
「……私には、何かを掴もうと必死になっているような、そんな風に見えた」
 再びグレースを見ると、グスターヴァルは真剣な表情で答える。
「そうか。イライザは、お前だと分かっていたはずだ。自分で呪いをかけたのだからな。……何かを掴もうとしていた、か。お前を抱き締めようとしていたのか。……もしかしたら、お前に殺されることを望んでいたのか。いや、ただの推測でしかないが」
「えっ?」
 ふぅっと溜め息を付いた後に語られたグレースの言葉に思わず声を上げてしまった。
 黒の魔女がグスターヴァルに殺されることを望んでいた?
 その場に自分はいなかったから何も分からない。
 伝説のドラゴンが黒の魔女を倒した、といった話しか聞いていなかった。
 しかし彼女がもしも、最愛の相手に殺されることを望んでいたのだとしたらと考えると、なんだか切ない気持ちになった。
「私は、何も覚えていない……。あの魔女のことも、自分のことも……」
 見上げると、グスターヴァルは苦しそうな表情をしている。
「グスターヴァルっ!」
 思わず立ち上がってグスターヴァルを呼んでいた。
「……イアン」
 じっと悲しげな瞳で見下ろすグスターヴァルを見て、居ても立っても居られなくなった。
 気が付くと、グスターヴァルの元へと走り出していた。
 そして、ぎゅっとその口の先を抱き締めるようにしてしがみついた。
「っ!」
 突然のことにグスターヴァルは驚いて固まっている。
「グスターヴァル……」
 ぎゅっとしがみついたまま、もう一度グスターヴァルの名前を呼んだ。
 彼を抱き締めたかった。
 あんな辛そうな顔をして、きっと色んなことを思っているだろうと苦しくなった。
 すると、ぐいっと顔を動かし、イアンから離れてしまった。
 泣きそうな顔で見上げると、グスターヴァルはすっと顔をグレースの方へと向けて問い掛ける。
「私は、人になれるのだろうか?」
「どうだろうな。お前の体はもうない。魂がドラゴンに移された後、動かなくなったお前のことを、家族は死んだと思っていたようだからな。お前の人間の体は今、墓の中だ」
 ふむ、と顎に手を当て考えながらグレースが答える。
「そんなっ!」
 人間に変われると聞いてここまで来たというのに、悔しくて涙が出そうになった。
「何か、方法があるのだろう?」
 しかし、グスターヴァルは表情を変えることなく再びグレースに尋ねる。
「えっ?」
 その言葉に思わずグレースをじっと見つめる。
「……試してみることはできる。ただし、もし失敗すれば、お前はドラゴンの体も失うことになる。……それでもやるか?」
 希望ができたと思いきや、グレースの言葉は信じられないような内容だった。
「そんな……」
 一か八かみたいな……。
「構わん」
 じっとグレースを見つめたまま、グスターヴァルが答える。
「グスターヴァルっ!」
 まるで迷いが全くないように見えるグスターヴァルに驚く。
 もし失敗したら、消えてしまうかもしれないというのに。
「いいのか? 今のままであれば、このままドラゴンとして生き続けることができるんだぞ?」
 グレースもまた、真剣な表情でグスターヴァルを見上げる。
「あぁ、もう決めたことだ。……私は、イアンと生きたいと願った。ドラゴンではダメなのだ。……叶わないのなら、消えても構わん」
 真剣な表情のまま、グスターヴァルはそっとイアンに顔を近付けた。
「グスターヴァル……」
 苦しさと嬉しさとが同時に込み上げる。
 じわりと目頭が熱くなっていた。
 それでも、やはり消えてほしくない。
「ふむ。……成功する可能性はお前たち次第だろう。しかし、その可能性があると思ったから連れて来たんだろう?」
 グスターヴァルとイアンを見つめた後、グレースはいつの間にかテーブルの上にちょこんと座っているフェイに向かって問い掛けた。
「うん、そうだね。ふたりだったら大丈夫だよ」
 にこりとフェイが笑う。
 その顔を見て、きょとんとして目をぱちぱちと瞬きさせる。
 グスターヴァルに消えてほしくはない。
 グレースの話を聞いて、いっそドラゴンのままでも……と一瞬考えたものの、もし本当に人間になれるのであれば一緒に生きていきたい、そう強く願った。
 しかし、どうすればいいのか全く分からない。
 ふたりだったらと言ったフェイの言葉の意味を必死に考える。
 自分に何かできるのだろうか。

「どうすればいい?」
 グレースをじっと真剣な顔で見つめながらグスターヴァルが問い掛ける。
「呪いを解くには、『真実の愛』が必要だ」
 にやりと口の端を上げてグレースが答えた。
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