White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

文字の大きさ
上 下
167 / 226
Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第16話

しおりを挟む
 森の中央に近付くにつれ、グスターヴァルはゆっくりと羽ばたく。
 先程ちらりと見えていた光る物が段々はっきりと見えてきた。
 フェイが説明してくれた白の魔女が住むという氷の城だ。
 寒い地域とはいえ、本当に氷でできているのだろうか。
 ぼんやりと城を眺めていると、森の中の開けた場所を目指してグスターヴァルがすーっと下りていく。
 ゆっくりと翼で調整しながら地上へと下り立った。
 薄暗い森の中、すぐ目の前には見上げる程のキラキラと輝く無色透明の城が建っている。
 ワンダーランドの城に建つ塔よりも高さはあるが、広さは4分の1くらいだろうか。
 それほど大きさはないようだった。
「うわぁ……」
 グスターヴァルの背中に乗ったまま、イアンはじっとその城を見上げた。
 聞いていた通り、『氷の城』は全てが氷でできているように透き通っている。
 どうやって作ったのだろうかと首を捻る。
「ねぇ、これって全部氷でできてるの?」
 肩に乗るフェイをちらりと見ながら尋ねてみた。
 フェイなら何か知っていそうだと思った。
「ううん、違うよ。見た目が氷みたいだから『氷の城』って言われているだけで、実際に氷でできてる訳じゃないんだよ」
「えっ? そうなのっ?」
 フェイの答えにぎょっとした顔で問い返す。
「ふふっ。氷ってこんなに透明じゃないんだよ、イアン」
 くすくすと笑いながらフェイが続けた。
「えっ? そうなのっ?」
 同じ言葉しか喋れなくなったかのように同じ質問をしていた。
 フェイは相変わらずくすくすと笑っている。
「これは、純度の高いガラスでできている。不純物がほとんど含まれていないから、より透明度が高いのだろう」
 すると今度はグスターヴァルが城を見上げながら説明してくれた。
 ここには来たことがないはずなのに、見ただけで分かったのだろうか。
 しかしグスターヴァルの話になるほど、と納得する。
 氷のように見えていたのはガラスだったのか。
「だったら、氷の城じゃなくて『ガラスの城』ってすれば良かったのにね」
 そういう名前なら勘違いもしなかっただろう。
「イアンって面白いね。確かにそれなら分かりやすいけど、やっぱり北の森にあるんだし、氷の城のが合うんじゃない?」
 ふふっと笑いながらフェイが返す。
「そっか……」
 フェイの言うことも納得できた。
 確かに『氷の城』という名前の方が魔女が住んでいるイメージにもぴったりだ。 
「でも、ガラスが割れちゃったりしないのかな?」
 素朴な疑問だった。全部が透明ということは全部がガラスでできているということだろう。
 もしかして、ちょっとどこかを壊したら全部割れてしまったりしないのだろうかと心配になった。
「そこは魔女が住む城だからね、イアン」
 にこりとフェイが笑う。
「あ……なるほど」
 恐らくこの美しさを保つのも何か魔法がかかっているのだろうと納得した。
 しかし、これほどの城に住む白の魔女とは一体どんな人物なのだろうか。
 以前、ワンダーランドを支配しようとしていた黒の魔女は、とても傲慢で恐ろしい魔女だった。
 一瞬だけ彼女の姿を見た時、綺麗な女性ではあったが派手な顔立ちで高らかに笑う姿がとても怖かったことを覚えている。
 1年前、突然現れた黒の魔女によって城の騎士たちは魔女の兵士として扱われていた。
 しかし魔法を使うことができる聖騎士は、イーサン以外全て動物に変えられ、更に城の地下牢に閉じ込められてしまった。
 もちろんイアンも例外ではなかった。
「…………」
 当時のことを思い出して思わず身震いする。
「大丈夫? イアン」
 今まで笑顔だったフェイが心配そうにイアンの顔を覗き込んだ。
「う、うん……大丈夫」
 そう答えたものの、不安が消えない。
 また動物に変えられたらどうしよう、魔法で殺されでもしたらどうしようと、悪いことばかりが頭に浮かんでしまう。
「イアン、心配するな。お前のことは私が必ず守る」
 ふたりの会話が聞こえていたのか、それとも自分の不安が伝わってしまったからなのか、グスターヴァルが振り返って落ち着いた声で話し掛けてきた。
「うん……ありがとう、グスターヴァル」
 そうだ。きっと大丈夫だ。あの時とは違う。
 自分にはグスターヴァルもフェイもついていてくれる。
 震えが止まり、イアンはぎゅっと拳を握り締めた。
「イアン、下りられるか?」
 ゆっくりと体を屈め、グスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫」
 そう言ってイアンはグスターヴァルの脚を伝って地面へと下りる。
 フェイは相変わらずイアンの肩に乗ったままであった。
「えっと……これからどうするの?」
 意気込んだのはいいものの、よく考えたらあの城にグスターヴァルが入ることは難しいだろう。
 いや、絶対に無理だ。
 こてんと首を傾げながらグスターヴァルを見上げる。
「うむ……そうだな」
 どうやらグスターヴァルも特には考えていないらしい。困った顔でじっと城を眺めている。
 辿り着いたのはいいが、白の魔女に出てきてもらうしかなさそうである。
 呼んで出てくるものなのだろうか。
 もちろん城に呼び鈴のようなものなどない。
「そのうち出てくるんじゃないかな? グスターヴァルがここに来たことは気付いているだろうし」
 するとフェイがさらりと答えた。
「え? そういうもん?」
 肩に乗るフェイをちらりと見る。
「きっとね」
 にこりとフェイが笑っている。なんだかフェイに言われたらそうじゃないかと思えてきた。

「なんだ、何か用か?」

 どこからか、女性の声が聞こえてきた。
 ハッとして周りを見回す。
 いつの間にいたのか、イアンのすぐ後ろに真っ白なドレスを着た女性が立っていた。
「えっ?」
 まさか、この人が白の魔女!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...