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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第16話
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森の中央に近付くにつれ、グスターヴァルはゆっくりと羽ばたく。
先程ちらりと見えていた光る物が段々はっきりと見えてきた。
フェイが説明してくれた白の魔女が住むという氷の城だ。
寒い地域とはいえ、本当に氷でできているのだろうか。
ぼんやりと城を眺めていると、森の中の開けた場所を目指してグスターヴァルがすーっと下りていく。
ゆっくりと翼で調整しながら地上へと下り立った。
薄暗い森の中、すぐ目の前には見上げる程のキラキラと輝く無色透明の城が建っている。
ワンダーランドの城に建つ塔よりも高さはあるが、広さは4分の1くらいだろうか。
それほど大きさはないようだった。
「うわぁ……」
グスターヴァルの背中に乗ったまま、イアンはじっとその城を見上げた。
聞いていた通り、『氷の城』は全てが氷でできているように透き通っている。
どうやって作ったのだろうかと首を捻る。
「ねぇ、これって全部氷でできてるの?」
肩に乗るフェイをちらりと見ながら尋ねてみた。
フェイなら何か知っていそうだと思った。
「ううん、違うよ。見た目が氷みたいだから『氷の城』って言われているだけで、実際に氷でできてる訳じゃないんだよ」
「えっ? そうなのっ?」
フェイの答えにぎょっとした顔で問い返す。
「ふふっ。氷ってこんなに透明じゃないんだよ、イアン」
くすくすと笑いながらフェイが続けた。
「えっ? そうなのっ?」
同じ言葉しか喋れなくなったかのように同じ質問をしていた。
フェイは相変わらずくすくすと笑っている。
「これは、純度の高いガラスでできている。不純物がほとんど含まれていないから、より透明度が高いのだろう」
すると今度はグスターヴァルが城を見上げながら説明してくれた。
ここには来たことがないはずなのに、見ただけで分かったのだろうか。
しかしグスターヴァルの話になるほど、と納得する。
氷のように見えていたのはガラスだったのか。
「だったら、氷の城じゃなくて『ガラスの城』ってすれば良かったのにね」
そういう名前なら勘違いもしなかっただろう。
「イアンって面白いね。確かにそれなら分かりやすいけど、やっぱり北の森にあるんだし、氷の城のが合うんじゃない?」
ふふっと笑いながらフェイが返す。
「そっか……」
フェイの言うことも納得できた。
確かに『氷の城』という名前の方が魔女が住んでいるイメージにもぴったりだ。
「でも、ガラスが割れちゃったりしないのかな?」
素朴な疑問だった。全部が透明ということは全部がガラスでできているということだろう。
もしかして、ちょっとどこかを壊したら全部割れてしまったりしないのだろうかと心配になった。
「そこは魔女が住む城だからね、イアン」
にこりとフェイが笑う。
「あ……なるほど」
恐らくこの美しさを保つのも何か魔法がかかっているのだろうと納得した。
しかし、これほどの城に住む白の魔女とは一体どんな人物なのだろうか。
以前、ワンダーランドを支配しようとしていた黒の魔女は、とても傲慢で恐ろしい魔女だった。
一瞬だけ彼女の姿を見た時、綺麗な女性ではあったが派手な顔立ちで高らかに笑う姿がとても怖かったことを覚えている。
1年前、突然現れた黒の魔女によって城の騎士たちは魔女の兵士として扱われていた。
しかし魔法を使うことができる聖騎士は、イーサン以外全て動物に変えられ、更に城の地下牢に閉じ込められてしまった。
もちろんイアンも例外ではなかった。
「…………」
当時のことを思い出して思わず身震いする。
「大丈夫? イアン」
今まで笑顔だったフェイが心配そうにイアンの顔を覗き込んだ。
「う、うん……大丈夫」
そう答えたものの、不安が消えない。
また動物に変えられたらどうしよう、魔法で殺されでもしたらどうしようと、悪いことばかりが頭に浮かんでしまう。
「イアン、心配するな。お前のことは私が必ず守る」
ふたりの会話が聞こえていたのか、それとも自分の不安が伝わってしまったからなのか、グスターヴァルが振り返って落ち着いた声で話し掛けてきた。
「うん……ありがとう、グスターヴァル」
そうだ。きっと大丈夫だ。あの時とは違う。
自分にはグスターヴァルもフェイもついていてくれる。
震えが止まり、イアンはぎゅっと拳を握り締めた。
「イアン、下りられるか?」
ゆっくりと体を屈め、グスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫」
そう言ってイアンはグスターヴァルの脚を伝って地面へと下りる。
フェイは相変わらずイアンの肩に乗ったままであった。
「えっと……これからどうするの?」
意気込んだのはいいものの、よく考えたらあの城にグスターヴァルが入ることは難しいだろう。
いや、絶対に無理だ。
こてんと首を傾げながらグスターヴァルを見上げる。
「うむ……そうだな」
どうやらグスターヴァルも特には考えていないらしい。困った顔でじっと城を眺めている。
辿り着いたのはいいが、白の魔女に出てきてもらうしかなさそうである。
呼んで出てくるものなのだろうか。
もちろん城に呼び鈴のようなものなどない。
「そのうち出てくるんじゃないかな? グスターヴァルがここに来たことは気付いているだろうし」
するとフェイがさらりと答えた。
「え? そういうもん?」
肩に乗るフェイをちらりと見る。
「きっとね」
にこりとフェイが笑っている。なんだかフェイに言われたらそうじゃないかと思えてきた。
「なんだ、何か用か?」
どこからか、女性の声が聞こえてきた。
ハッとして周りを見回す。
いつの間にいたのか、イアンのすぐ後ろに真っ白なドレスを着た女性が立っていた。
「えっ?」
まさか、この人が白の魔女!?
先程ちらりと見えていた光る物が段々はっきりと見えてきた。
フェイが説明してくれた白の魔女が住むという氷の城だ。
寒い地域とはいえ、本当に氷でできているのだろうか。
ぼんやりと城を眺めていると、森の中の開けた場所を目指してグスターヴァルがすーっと下りていく。
ゆっくりと翼で調整しながら地上へと下り立った。
薄暗い森の中、すぐ目の前には見上げる程のキラキラと輝く無色透明の城が建っている。
ワンダーランドの城に建つ塔よりも高さはあるが、広さは4分の1くらいだろうか。
それほど大きさはないようだった。
「うわぁ……」
グスターヴァルの背中に乗ったまま、イアンはじっとその城を見上げた。
聞いていた通り、『氷の城』は全てが氷でできているように透き通っている。
どうやって作ったのだろうかと首を捻る。
「ねぇ、これって全部氷でできてるの?」
肩に乗るフェイをちらりと見ながら尋ねてみた。
フェイなら何か知っていそうだと思った。
「ううん、違うよ。見た目が氷みたいだから『氷の城』って言われているだけで、実際に氷でできてる訳じゃないんだよ」
「えっ? そうなのっ?」
フェイの答えにぎょっとした顔で問い返す。
「ふふっ。氷ってこんなに透明じゃないんだよ、イアン」
くすくすと笑いながらフェイが続けた。
「えっ? そうなのっ?」
同じ言葉しか喋れなくなったかのように同じ質問をしていた。
フェイは相変わらずくすくすと笑っている。
「これは、純度の高いガラスでできている。不純物がほとんど含まれていないから、より透明度が高いのだろう」
すると今度はグスターヴァルが城を見上げながら説明してくれた。
ここには来たことがないはずなのに、見ただけで分かったのだろうか。
しかしグスターヴァルの話になるほど、と納得する。
氷のように見えていたのはガラスだったのか。
「だったら、氷の城じゃなくて『ガラスの城』ってすれば良かったのにね」
そういう名前なら勘違いもしなかっただろう。
「イアンって面白いね。確かにそれなら分かりやすいけど、やっぱり北の森にあるんだし、氷の城のが合うんじゃない?」
ふふっと笑いながらフェイが返す。
「そっか……」
フェイの言うことも納得できた。
確かに『氷の城』という名前の方が魔女が住んでいるイメージにもぴったりだ。
「でも、ガラスが割れちゃったりしないのかな?」
素朴な疑問だった。全部が透明ということは全部がガラスでできているということだろう。
もしかして、ちょっとどこかを壊したら全部割れてしまったりしないのだろうかと心配になった。
「そこは魔女が住む城だからね、イアン」
にこりとフェイが笑う。
「あ……なるほど」
恐らくこの美しさを保つのも何か魔法がかかっているのだろうと納得した。
しかし、これほどの城に住む白の魔女とは一体どんな人物なのだろうか。
以前、ワンダーランドを支配しようとしていた黒の魔女は、とても傲慢で恐ろしい魔女だった。
一瞬だけ彼女の姿を見た時、綺麗な女性ではあったが派手な顔立ちで高らかに笑う姿がとても怖かったことを覚えている。
1年前、突然現れた黒の魔女によって城の騎士たちは魔女の兵士として扱われていた。
しかし魔法を使うことができる聖騎士は、イーサン以外全て動物に変えられ、更に城の地下牢に閉じ込められてしまった。
もちろんイアンも例外ではなかった。
「…………」
当時のことを思い出して思わず身震いする。
「大丈夫? イアン」
今まで笑顔だったフェイが心配そうにイアンの顔を覗き込んだ。
「う、うん……大丈夫」
そう答えたものの、不安が消えない。
また動物に変えられたらどうしよう、魔法で殺されでもしたらどうしようと、悪いことばかりが頭に浮かんでしまう。
「イアン、心配するな。お前のことは私が必ず守る」
ふたりの会話が聞こえていたのか、それとも自分の不安が伝わってしまったからなのか、グスターヴァルが振り返って落ち着いた声で話し掛けてきた。
「うん……ありがとう、グスターヴァル」
そうだ。きっと大丈夫だ。あの時とは違う。
自分にはグスターヴァルもフェイもついていてくれる。
震えが止まり、イアンはぎゅっと拳を握り締めた。
「イアン、下りられるか?」
ゆっくりと体を屈め、グスターヴァルが問い掛けてきた。
「うん、大丈夫」
そう言ってイアンはグスターヴァルの脚を伝って地面へと下りる。
フェイは相変わらずイアンの肩に乗ったままであった。
「えっと……これからどうするの?」
意気込んだのはいいものの、よく考えたらあの城にグスターヴァルが入ることは難しいだろう。
いや、絶対に無理だ。
こてんと首を傾げながらグスターヴァルを見上げる。
「うむ……そうだな」
どうやらグスターヴァルも特には考えていないらしい。困った顔でじっと城を眺めている。
辿り着いたのはいいが、白の魔女に出てきてもらうしかなさそうである。
呼んで出てくるものなのだろうか。
もちろん城に呼び鈴のようなものなどない。
「そのうち出てくるんじゃないかな? グスターヴァルがここに来たことは気付いているだろうし」
するとフェイがさらりと答えた。
「え? そういうもん?」
肩に乗るフェイをちらりと見る。
「きっとね」
にこりとフェイが笑っている。なんだかフェイに言われたらそうじゃないかと思えてきた。
「なんだ、何か用か?」
どこからか、女性の声が聞こえてきた。
ハッとして周りを見回す。
いつの間にいたのか、イアンのすぐ後ろに真っ白なドレスを着た女性が立っていた。
「えっ?」
まさか、この人が白の魔女!?
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