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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第9話
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本当にグスターヴァルが人間になるのだろうか。
あれからイアンはまるで夢でも見たような気持ちで過ごしていた。
グスターヴァルに会えなくて悩んでいた時とは違い、ふわふわと体が浮いているような、そんな日々だった。
そしてあの約束の日から5日目の午後。ルイから突然の呼び出しがきたのだった。
「イアン、ルイが部屋まで来いって言ってたぞ」
突然イーサンがルイからの伝言を伝えてきた。
姿が見えないと思ったら、いつものようにふらっと城に行っていたのだろう。
その割にはあまり機嫌が良くないように感じるのは気のせいだろうか。
いつもセバスチャンに会いに行った後は上機嫌のはずなのだが。
「え? 今からですか?」
きょとんとした顔で首を傾げる。
他の騎士たちも、ちらちらとこちらを見ている。
今は訓練の真っ只中である。
「ルイから話は聞いた。なんかお前も面倒なことに巻き込まれてんな。後のことはいいから、さっさと行ってこい」
どうやらルイが事情を説明してくれたようだ。
面倒臭そうな顔をしながらも、イーサンはイアンの頭を無造作に触りながらそう話した。
どうもイーサンからは年の離れた弟のような扱いを受けている気がする。
よくこうやって頭を触るのだ。
くせ毛なのであまり髪の毛には触って欲しくないのだが、隊長に文句など言えるはずもない。
触られてくしゃっとなった髪を直すと、訓練の途中で行ってしまって本当に良いのか、思わず周りをきょろきょろと見回した。
先程までちらちら見ていた同僚たちは、何かを察したのか一切こちらを見ていない。
「えっと、あの、でも……」
しかしディランに見つかったら、また掃除当番を押し付けられるかもしれないと再び周りを見回した。
「どうした? ディランだったらいないぞ? 大臣に呼ばれて謁見中だ。それに、お前ひとりいなくても困ることはないから心配するな」
「ええっ!」
ディランがいないことには安心したものの、イーサンにしれっとした顔で言われてなんだかショックを受けた。
しかし、ディランが大臣に呼ばれているということは、イーサンもセバスチャンに会いに行ったわけではなさそうだ。
それこそ何かあったのではないだろうか。
本当に自分が今いなくなっても大丈夫なのか心配になった。
「ったく、めんどくさい奴だな……。別にクビにしたりはしない。心配してないでさっさと行ってこいって言ってんだよ」
心配そうに見上げていることに気が付いたのか、今度は頭をぽんぽんと軽く叩き、イーサンは大きく溜め息を付いた。
「あ、はい」
イーサンがここまで言っているのだから、きっと大丈夫なのだろう。
少しだけほっとした顔をすると、持っていた練習用の剣を片付けに行く。
「あ……」
ふと思い出し、手が止まった。
そういえば、ルイの部屋に行くように言われたものの、広い城の中を迷わず辿り着けるのだろうか。
過去に2回行ったことがあるとはいえ、道順はほとんど覚えていない。
1回目はエリスの後を、2回目もルイの後をついて行っただけである。
イアン自身地理が苦手なこともあり、場所を覚えるのは困難だったのだ。
どうすれば良いかとうーんと唸る。
「何してんだ?」
なかなか行こうとしないイアンに気が付いたのか、再びイーサンが面倒臭そうに声を掛けてきた。
「あ、あの、ルイ様の部屋って、どう行けば……」
「はぁ?」
おずおずと尋ねると、イーサンに思いっ切り呆れた顔をされてしまった。
「す、すみませんっ。その、俺、覚えてなくて……」
叱られた子犬のようにしゅんとしながらイーサンを上目遣いで見つめる。
「ったく……しょうがないな。ほら、こいつについて行けば辿り着けるだろ」
大きく溜め息を付くと、イーサンはふわりと何か光る物を魔法で出した。
「へ?」
イーサンの手の平の上でふわりと光っている小さな球体のようなものに、思わずぽかんと口が開いてしまった。
「ちゃんとルイの部屋まで案内してくれるはずだ。さっさと行ってこい」
それだけ言うとイーサンは踵を返し、訓練している騎士たちの元へと歩いて行ってしまった。
「…………」
ひとり残されたイアンは、ふわふわと浮いている光の球体をじっと見つめる。
イーサンは魔法使いではないが、歴代の聖騎士の中でも上位に入るくらいの魔力の持ち主であった。
簡単に使ったように見えるこの光の球体も、一般の聖騎士では扱うことができない術のひとつだ。
「やっぱ隊長って凄いなぁ……」
そしてどれだけ力を持っていても、それを鼻にかけないイーサンはイアンの憧れの人だった。彼に憧れてこの道に進んだ。
ふと昔のことを思い出した。
ちらりとイーサンの後ろ姿を見た後、イアンは「よしっ!」と気合を入れると、光の球体に向かって頭を下げた。
「えっと、お願いします」
浮遊していた光はイーサンが言った通り、ふわりと城の方へと進み始めた。
☆☆☆
「これって、確か光の精霊なんだよな?」
少し前にいる光の球体を見つめながらぼそりと呟く。
前に聞いたことがあった。
イーサンは魔法だけでなく、精霊を扱うこともできると。
この光の球体も、以前に一度だけ見たことがあった。
「道案内なんかもしてくれるんだね」
精霊に言葉が通じるのかもよく分からないが、なんとなく話し掛けてみた。
すると、まるで返事をするように光の球体がふわりと大きく光った。
「わっ! ちゃんと分かるんだっ。凄いねっ。ありがとう、精霊さん」
返事をしてもらったと感じ、嬉しくて思わずお礼を言った。
イアンの言葉に喜んでいるかのように、光の球体は上下にふわふわと揺れている。
「ふふっ。なんか可愛い」
ただの光の塊ではあるが、小動物を見ているようでなんだか癒された。
「そういえば……グスターヴァル不機嫌だったなぁ」
この前会った時のことをふと思い出す。
初めてグスターヴァルに会った時は、冷静で優しい大人の男性といった印象だったが、先日見た姿はまるで拗ねた猫のようだった。
とは言ってもドラゴンなのだが。
そして昔、近所にいた野良猫を思い出す。
機嫌がいい時は触らせてくれていたが、不機嫌な時は毛を逆立てて、尻尾を大きく振っていた。
きっとあの時グスターヴァルが丸まって寝ていたのは具合が悪かったのではなく、機嫌が悪かったのだろう。
もしかしたら、前に触ることを拒否したのも機嫌が悪かっただけなのかも?
「グスターヴァル、可愛かったな」
山の頂上の岩の陰で待っていた時に、大きな音がして地面が揺れたので驚きはしたが、不機嫌そうに尻尾を振っていたグスターヴァルの姿は、あの時の猫の姿と重なって可愛く思えたのだ。
思わずふふっと笑ってしまった。
しかし、可愛いなんて言ったらまた機嫌が悪くなるかもしれない。
「早く会いたいな、グスターヴァル……」
思い出したのと同時に再び切なくなった。
なんでこんなにも彼のことを思うのだろう。
初めての恋に、イアンは自分の気持ちが追いつかずに混乱していたのだった。
あれからイアンはまるで夢でも見たような気持ちで過ごしていた。
グスターヴァルに会えなくて悩んでいた時とは違い、ふわふわと体が浮いているような、そんな日々だった。
そしてあの約束の日から5日目の午後。ルイから突然の呼び出しがきたのだった。
「イアン、ルイが部屋まで来いって言ってたぞ」
突然イーサンがルイからの伝言を伝えてきた。
姿が見えないと思ったら、いつものようにふらっと城に行っていたのだろう。
その割にはあまり機嫌が良くないように感じるのは気のせいだろうか。
いつもセバスチャンに会いに行った後は上機嫌のはずなのだが。
「え? 今からですか?」
きょとんとした顔で首を傾げる。
他の騎士たちも、ちらちらとこちらを見ている。
今は訓練の真っ只中である。
「ルイから話は聞いた。なんかお前も面倒なことに巻き込まれてんな。後のことはいいから、さっさと行ってこい」
どうやらルイが事情を説明してくれたようだ。
面倒臭そうな顔をしながらも、イーサンはイアンの頭を無造作に触りながらそう話した。
どうもイーサンからは年の離れた弟のような扱いを受けている気がする。
よくこうやって頭を触るのだ。
くせ毛なのであまり髪の毛には触って欲しくないのだが、隊長に文句など言えるはずもない。
触られてくしゃっとなった髪を直すと、訓練の途中で行ってしまって本当に良いのか、思わず周りをきょろきょろと見回した。
先程までちらちら見ていた同僚たちは、何かを察したのか一切こちらを見ていない。
「えっと、あの、でも……」
しかしディランに見つかったら、また掃除当番を押し付けられるかもしれないと再び周りを見回した。
「どうした? ディランだったらいないぞ? 大臣に呼ばれて謁見中だ。それに、お前ひとりいなくても困ることはないから心配するな」
「ええっ!」
ディランがいないことには安心したものの、イーサンにしれっとした顔で言われてなんだかショックを受けた。
しかし、ディランが大臣に呼ばれているということは、イーサンもセバスチャンに会いに行ったわけではなさそうだ。
それこそ何かあったのではないだろうか。
本当に自分が今いなくなっても大丈夫なのか心配になった。
「ったく、めんどくさい奴だな……。別にクビにしたりはしない。心配してないでさっさと行ってこいって言ってんだよ」
心配そうに見上げていることに気が付いたのか、今度は頭をぽんぽんと軽く叩き、イーサンは大きく溜め息を付いた。
「あ、はい」
イーサンがここまで言っているのだから、きっと大丈夫なのだろう。
少しだけほっとした顔をすると、持っていた練習用の剣を片付けに行く。
「あ……」
ふと思い出し、手が止まった。
そういえば、ルイの部屋に行くように言われたものの、広い城の中を迷わず辿り着けるのだろうか。
過去に2回行ったことがあるとはいえ、道順はほとんど覚えていない。
1回目はエリスの後を、2回目もルイの後をついて行っただけである。
イアン自身地理が苦手なこともあり、場所を覚えるのは困難だったのだ。
どうすれば良いかとうーんと唸る。
「何してんだ?」
なかなか行こうとしないイアンに気が付いたのか、再びイーサンが面倒臭そうに声を掛けてきた。
「あ、あの、ルイ様の部屋って、どう行けば……」
「はぁ?」
おずおずと尋ねると、イーサンに思いっ切り呆れた顔をされてしまった。
「す、すみませんっ。その、俺、覚えてなくて……」
叱られた子犬のようにしゅんとしながらイーサンを上目遣いで見つめる。
「ったく……しょうがないな。ほら、こいつについて行けば辿り着けるだろ」
大きく溜め息を付くと、イーサンはふわりと何か光る物を魔法で出した。
「へ?」
イーサンの手の平の上でふわりと光っている小さな球体のようなものに、思わずぽかんと口が開いてしまった。
「ちゃんとルイの部屋まで案内してくれるはずだ。さっさと行ってこい」
それだけ言うとイーサンは踵を返し、訓練している騎士たちの元へと歩いて行ってしまった。
「…………」
ひとり残されたイアンは、ふわふわと浮いている光の球体をじっと見つめる。
イーサンは魔法使いではないが、歴代の聖騎士の中でも上位に入るくらいの魔力の持ち主であった。
簡単に使ったように見えるこの光の球体も、一般の聖騎士では扱うことができない術のひとつだ。
「やっぱ隊長って凄いなぁ……」
そしてどれだけ力を持っていても、それを鼻にかけないイーサンはイアンの憧れの人だった。彼に憧れてこの道に進んだ。
ふと昔のことを思い出した。
ちらりとイーサンの後ろ姿を見た後、イアンは「よしっ!」と気合を入れると、光の球体に向かって頭を下げた。
「えっと、お願いします」
浮遊していた光はイーサンが言った通り、ふわりと城の方へと進み始めた。
☆☆☆
「これって、確か光の精霊なんだよな?」
少し前にいる光の球体を見つめながらぼそりと呟く。
前に聞いたことがあった。
イーサンは魔法だけでなく、精霊を扱うこともできると。
この光の球体も、以前に一度だけ見たことがあった。
「道案内なんかもしてくれるんだね」
精霊に言葉が通じるのかもよく分からないが、なんとなく話し掛けてみた。
すると、まるで返事をするように光の球体がふわりと大きく光った。
「わっ! ちゃんと分かるんだっ。凄いねっ。ありがとう、精霊さん」
返事をしてもらったと感じ、嬉しくて思わずお礼を言った。
イアンの言葉に喜んでいるかのように、光の球体は上下にふわふわと揺れている。
「ふふっ。なんか可愛い」
ただの光の塊ではあるが、小動物を見ているようでなんだか癒された。
「そういえば……グスターヴァル不機嫌だったなぁ」
この前会った時のことをふと思い出す。
初めてグスターヴァルに会った時は、冷静で優しい大人の男性といった印象だったが、先日見た姿はまるで拗ねた猫のようだった。
とは言ってもドラゴンなのだが。
そして昔、近所にいた野良猫を思い出す。
機嫌がいい時は触らせてくれていたが、不機嫌な時は毛を逆立てて、尻尾を大きく振っていた。
きっとあの時グスターヴァルが丸まって寝ていたのは具合が悪かったのではなく、機嫌が悪かったのだろう。
もしかしたら、前に触ることを拒否したのも機嫌が悪かっただけなのかも?
「グスターヴァル、可愛かったな」
山の頂上の岩の陰で待っていた時に、大きな音がして地面が揺れたので驚きはしたが、不機嫌そうに尻尾を振っていたグスターヴァルの姿は、あの時の猫の姿と重なって可愛く思えたのだ。
思わずふふっと笑ってしまった。
しかし、可愛いなんて言ったらまた機嫌が悪くなるかもしれない。
「早く会いたいな、グスターヴァル……」
思い出したのと同時に再び切なくなった。
なんでこんなにも彼のことを思うのだろう。
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