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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】
第4話
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慌ただしかった結婚式が終わり、10日が過ぎた。
「はぁ……」
何度も溜め息が漏れてしまう。
あの日からずっと、イアンは仕事にほとんど身が入っていなかった。
「おい、イアン。ぼさっとしてんな」
副隊長のディランが怖い顔でイアンを睨み付けている。
「す、すみませんっ!」
ハッとすると慌てて頭を下げ、訓練に集中する。
(そうだ、今度の休みに西の森に会いに行けばいいんだ)
練習用の剣を振り下ろしながら、イアンはふと思いついた。
あの日以来、グスターヴァルは全く姿を現さない。
そもそも、あの日もなぜ城にいたのか分からない。
会いたくてずっともやもやとしていたが、会えないのであれば会いに行けばいいのだ。
しかしふと考える。
西の森まで一体どれくらいかかるのかと。
「1時間とか? でも、城から見える所にないってことはもっとかかるよな? 半日とか?」
「イアンっ!」
集中しようとしたところで再び考え事をしたかと思うと、いつの間にか声に出していたらしい。
鋭い怒号と共に頭に激痛が走った。
涙目になりながらちらりと見上げると、鬼のような形相をしたディランが仁王立ちしている。
「まったくお前はっ! 今日の掃除当番はイアンひとりでやれっ! いいなっ?」
ディランはイーサンと同じくらい背も高いが体格はがっしりとしている為、イーサンよりも迫力がある。
恐らく腕力だけであれば騎士の中で1番なのだろう。ディランの拳骨は何よりも痛い。
そして魔法はあまり使えないが、剣の腕もイーサンと互角である。
怖すぎて、騎士隊の誰もディランには逆らえない。
黙っていればイケメンの部類に入るはずなのに、イーサンとはまた違った意味で残念な男性である。
大きな体のディランに頭上から怒鳴られ、イアンは小さい体を更に小さくしながら、「はい……」と返事をしていた。
☆☆☆
「はぁ……」
ひとりで後片付けをしながら再び溜め息が出てしまった。
何も解決できていない。
そもそも西の森がどこにあり、どれだけかかるのかも分からないのに、1日の休みの中でグスターヴァルに会いに行って帰ってこられるのだろうかと。
いい案だとは思ったが、全くの無計画であった。
「一瞬でグスターヴァルに会いに行ける魔法でもあればいいのに」
ぼそりとひとりごちると、箒を持つ手がぴたりと止まってしまった。
ふとあの日のことを思い出す。
ドラゴンになったグスターヴァルに会った時、触ろうとした自分を拒絶した。しかもその後、逃げるようにして帰ってしまった。
何か、自分は嫌われるようなことでもしたのだろうか。
機嫌を損ねるようなことでもしてしまったのかもしれない。
日に日に気持ちが落ち込んでいる。
もしかしたら、こちらの気持ちに気が付いて避けられているのではないかとも考える。
でも、あの時のキスは? なぜ優しくしてくれたのか?
いくら考えても分からない。
頭の中で色んな思いがぐるぐると回っていた。
「イアンくん?」
ふとどこからか、声を掛けられた。
この声は聞き覚えがある。
「えっ?」
驚いて周りをきょろきょろとすると、城へと続く小道に立っているルイの姿を見つけた。
「ええっ! ルイ様っ?」
まさかこんな所に王子がいるとは思わず、箒を持ったまま慌ててびしっと直立する。
「ふふっ、そんな畏まらないでいいですよ。皆さんはもう宿舎に戻られたのですか?」
にこりといつものように優しく笑うと、ルイは周りをくるりと一周見回した。
「あっ、はい。俺は掃除当番なんで」
箒を両手に持ち、ルイに見えるように差し出すと、イアンは緊張した面持ちで答える。
先日の結婚式で会話したとはいえ、ルイはワンダーランドの王家の人間である。
気安く話せる相手ではない。
「おや。おひとりだけですか?」
ふむ、と顎に手を当てながらルイは首を傾げている。
「あ、はい……訓練に集中できてなくて、副隊長に罰として、ひとりで掃除をやるように言われたんです」
なんとも情けない話である。こんな話を王子にする羽目になるとは。
「おやおや。何か考え事でもしていたんですか?」
目をぱちぱちと瞬きさせると、ルイはふふっと笑う。
「あ、いや……その……」
グスターヴァルに会いに行くことを考えていたなんて、とても言い出せない。
顔を赤らめながら、イアンはどうしたものかと自分の頬を掻いた。
「もしかして……グスターヴァルのことですか?」
「えっ!?」
じっとイアンの顔を見つめながら問い掛けたルイの言葉に、思わず声を上げてしまった。
驚きすぎて心臓がバクバクといっているのが分かる。
なぜ分かったのだろうかと冷や汗まで出てきた。
「実は、私もグスターヴァルのことで、イアンくんに会いに来たんです」
再びにっこりと笑みを浮かべ、ルイはここへ来た理由を話す。
「ええっ!」
まさか自分に会いに来たとは思いもよらなかった為、目を大きく見開いたまま体が硬直する。
しかも、『グスターヴァルのこと』とは一体なんなのか。
更に心拍数が上昇していく。
「以前お会いした時も思いましたが、イアンくんは、グスターヴァルに特別な思いを寄せてはいませんか?」
優しく微笑みながらルイはイアンにそう尋ねた。
まさかの質問に、顔が真っ赤になってしまった。
「えっ、あのっ、俺は……」
確かにその通りではあるものの、なんて答えたらいいのか分からない。
「私の勘違いでしょうか? 彼を見る、あなたの目を見てそう思ったのですが」
今度は少し悲しげな表情でルイが見つめてきた。
「えっ? あ、あの……」
自分がグスターヴァルを思っていてもいいのだろうか。好きでいていいのだろうか。
まるで悪いことでもしたかのように考えていた為、ルイの態度に戸惑ってしまった。
「グスターヴァルは、ワンダーランドを救ってくれた大切な友人だと、私は思っています。しかし彼は今、辛い思いをしています」
するとルイはじっとイアンを見つめながら話し始めた。
「え?」
ルイの言葉にぎゅっと胸が締め付けられる。
「はぁ……」
何度も溜め息が漏れてしまう。
あの日からずっと、イアンは仕事にほとんど身が入っていなかった。
「おい、イアン。ぼさっとしてんな」
副隊長のディランが怖い顔でイアンを睨み付けている。
「す、すみませんっ!」
ハッとすると慌てて頭を下げ、訓練に集中する。
(そうだ、今度の休みに西の森に会いに行けばいいんだ)
練習用の剣を振り下ろしながら、イアンはふと思いついた。
あの日以来、グスターヴァルは全く姿を現さない。
そもそも、あの日もなぜ城にいたのか分からない。
会いたくてずっともやもやとしていたが、会えないのであれば会いに行けばいいのだ。
しかしふと考える。
西の森まで一体どれくらいかかるのかと。
「1時間とか? でも、城から見える所にないってことはもっとかかるよな? 半日とか?」
「イアンっ!」
集中しようとしたところで再び考え事をしたかと思うと、いつの間にか声に出していたらしい。
鋭い怒号と共に頭に激痛が走った。
涙目になりながらちらりと見上げると、鬼のような形相をしたディランが仁王立ちしている。
「まったくお前はっ! 今日の掃除当番はイアンひとりでやれっ! いいなっ?」
ディランはイーサンと同じくらい背も高いが体格はがっしりとしている為、イーサンよりも迫力がある。
恐らく腕力だけであれば騎士の中で1番なのだろう。ディランの拳骨は何よりも痛い。
そして魔法はあまり使えないが、剣の腕もイーサンと互角である。
怖すぎて、騎士隊の誰もディランには逆らえない。
黙っていればイケメンの部類に入るはずなのに、イーサンとはまた違った意味で残念な男性である。
大きな体のディランに頭上から怒鳴られ、イアンは小さい体を更に小さくしながら、「はい……」と返事をしていた。
☆☆☆
「はぁ……」
ひとりで後片付けをしながら再び溜め息が出てしまった。
何も解決できていない。
そもそも西の森がどこにあり、どれだけかかるのかも分からないのに、1日の休みの中でグスターヴァルに会いに行って帰ってこられるのだろうかと。
いい案だとは思ったが、全くの無計画であった。
「一瞬でグスターヴァルに会いに行ける魔法でもあればいいのに」
ぼそりとひとりごちると、箒を持つ手がぴたりと止まってしまった。
ふとあの日のことを思い出す。
ドラゴンになったグスターヴァルに会った時、触ろうとした自分を拒絶した。しかもその後、逃げるようにして帰ってしまった。
何か、自分は嫌われるようなことでもしたのだろうか。
機嫌を損ねるようなことでもしてしまったのかもしれない。
日に日に気持ちが落ち込んでいる。
もしかしたら、こちらの気持ちに気が付いて避けられているのではないかとも考える。
でも、あの時のキスは? なぜ優しくしてくれたのか?
いくら考えても分からない。
頭の中で色んな思いがぐるぐると回っていた。
「イアンくん?」
ふとどこからか、声を掛けられた。
この声は聞き覚えがある。
「えっ?」
驚いて周りをきょろきょろとすると、城へと続く小道に立っているルイの姿を見つけた。
「ええっ! ルイ様っ?」
まさかこんな所に王子がいるとは思わず、箒を持ったまま慌ててびしっと直立する。
「ふふっ、そんな畏まらないでいいですよ。皆さんはもう宿舎に戻られたのですか?」
にこりといつものように優しく笑うと、ルイは周りをくるりと一周見回した。
「あっ、はい。俺は掃除当番なんで」
箒を両手に持ち、ルイに見えるように差し出すと、イアンは緊張した面持ちで答える。
先日の結婚式で会話したとはいえ、ルイはワンダーランドの王家の人間である。
気安く話せる相手ではない。
「おや。おひとりだけですか?」
ふむ、と顎に手を当てながらルイは首を傾げている。
「あ、はい……訓練に集中できてなくて、副隊長に罰として、ひとりで掃除をやるように言われたんです」
なんとも情けない話である。こんな話を王子にする羽目になるとは。
「おやおや。何か考え事でもしていたんですか?」
目をぱちぱちと瞬きさせると、ルイはふふっと笑う。
「あ、いや……その……」
グスターヴァルに会いに行くことを考えていたなんて、とても言い出せない。
顔を赤らめながら、イアンはどうしたものかと自分の頬を掻いた。
「もしかして……グスターヴァルのことですか?」
「えっ!?」
じっとイアンの顔を見つめながら問い掛けたルイの言葉に、思わず声を上げてしまった。
驚きすぎて心臓がバクバクといっているのが分かる。
なぜ分かったのだろうかと冷や汗まで出てきた。
「実は、私もグスターヴァルのことで、イアンくんに会いに来たんです」
再びにっこりと笑みを浮かべ、ルイはここへ来た理由を話す。
「ええっ!」
まさか自分に会いに来たとは思いもよらなかった為、目を大きく見開いたまま体が硬直する。
しかも、『グスターヴァルのこと』とは一体なんなのか。
更に心拍数が上昇していく。
「以前お会いした時も思いましたが、イアンくんは、グスターヴァルに特別な思いを寄せてはいませんか?」
優しく微笑みながらルイはイアンにそう尋ねた。
まさかの質問に、顔が真っ赤になってしまった。
「えっ、あのっ、俺は……」
確かにその通りではあるものの、なんて答えたらいいのか分からない。
「私の勘違いでしょうか? 彼を見る、あなたの目を見てそう思ったのですが」
今度は少し悲しげな表情でルイが見つめてきた。
「えっ? あ、あの……」
自分がグスターヴァルを思っていてもいいのだろうか。好きでいていいのだろうか。
まるで悪いことでもしたかのように考えていた為、ルイの態度に戸惑ってしまった。
「グスターヴァルは、ワンダーランドを救ってくれた大切な友人だと、私は思っています。しかし彼は今、辛い思いをしています」
するとルイはじっとイアンを見つめながら話し始めた。
「え?」
ルイの言葉にぎゅっと胸が締め付けられる。
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