White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Destiny~君は私の運命の人~【スピンオフ】

第3話

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 人が言う、『好き』とはどういう意味なのか。
 理解しているつもりだったが、この気持ちは一体どういうことなのか。



 ☆☆☆



 ひとり、城の通用口で佇んでいたグスターヴァルは深く溜め息を付いた。
 ありえない、この気持ちは違うとゆっくり首を横に振る。
 もしそうだとしても、『彼ら』が言っていたようにダメなのだ。
 自分では、無理なのだ……。
「フェイ」
 近くにいるであろう妖精を呼んだ。
「なぁに、グスターヴァル」
 やはり近くにいたのだろう。すぐにふわふわと飛んできた。
「そろそろ戻してはもらえないだろうか」
 妖精を見ることなくグスターヴァルが話し掛ける。
「いいの?」
 きょとんとした顔で妖精は首を傾げている。
「どういう意味だ? お前は分かっているというのか?」
 むっとした顔で自分の肩に座った妖精をちらりと見る。
 なぜだかイライラしてしまう。
「あの子のこと、好きなんでしょ?」
 じっとグスターヴァルの顔を見上げながら妖精が問い掛ける。
「……分からない。……好きとはどういうことだ? 前にアリスが言っていた。『好き』という言葉には色々な意味があると」
 すっと妖精から顔を逸らす。
 分からない。『好き』とはどういうことなのか。
 この気持ちがなんなのか、今まで経験したこともない。
「そうだね。でも、他の人たちとは違うんでしょ? あんなキスもしたんだし」
「見てたのかっ!?」
 さらりと話した妖精の言葉に、ぎょっとして声を上げる。
 まさか見られていたとは。いや、それくらい想定できたはずだ。
 なぜそんなことにも気が付かなかったのか……。
 冷静さを欠いていた自分にショックを受ける。
「うん、見てたよ。なかなか熱烈だったね」
 ふふっと笑いながら妖精が答えたが、グスターヴァルは大きく溜め息を付き再び顔を逸らした。
「本当にいいの? ずっとじゃなくても、今の姿のまま、今ならまだ一緒にいられるのに」
「……構わん」
 心配そうに問い掛ける妖精を見ることなく、俯き加減にまるで諦めたかのように答えた。
 いや、もう諦めるしかないのだ。
「そう……。分かった。じゃあ、ここじゃ戻るには狭いから、城の表側に移動してくれる?」
 ふぅっと溜め息を付くと、妖精はじっとグスターヴァルを見上げる。
「分かった」
 こくりと頷くと、グスターヴァルは通用口から城の中へと入った。



 ☆☆☆



「おや? グスターヴァル?」
 たまたま会場から席を外していたルイが、城の入り口の方へと歩いて行くグスターヴァルの姿を見つけて首を傾げた。
 会場にいたはずなのに一体どこへ行くというのか。
 肩にはあの妖精も乗っているようだった。
「まさか……」
 なんとなく気にかかり、ルイは会場には戻らずグスターヴァルの後をついて行った。


「フェイ、ここでいいか?」
 城の入り口を出て、少し広い場所へと辿り着いた。
 ここは前に黒の魔女を倒し、最後にユウキたちと話した場所だ。
 少しだけ懐かしく感じてしまう。
 そんなに前ではないはずなのに、随分と昔に感じてしまう。
「うん、じゃあ戻すよ」
 ふわりと妖精はグスターヴァルの肩から飛び上がると、両手を大きく広げる。
 ぱぁっと真っ白な光にグスターヴァルの体が包まれる。
 人の姿に変えられた時と同じような眩しい光に、思わず目を閉じた。
 これで、元の姿に戻る……。
 そう考えた次の瞬間、いつもと変わらない空気を感じた。そして体が重い。
「…………」
 そっと目を開けると光は消えており、ドラゴンの姿に戻ったことも確認できた。
(私は、ドラゴンなのだ……)
 元に戻った自分の体を見て、グスターヴァルは初めて悲しい気持ちになっていた。
 この気持ちが一体なんなのかは全く分からない。
 なぜ元に戻れたのに悲しいと感じるのか。

「グスターヴァル」

 すると、すぐ近くで自分を呼ぶ声が聞こえた。
 声のした方を見ると、そこには驚いた顔をしたルイの姿があった。
「ルイ。今日は色々あったが、キティの花嫁姿が見れて良かった。それからおめでとう。まだ言っていなかったな」
 顔をルイのそばに寄せると、心を落ち着かせながら話し掛ける。
「ありがとうございます。……グスターヴァル、もう行ってしまうのですか? まだ式は終わっていませんよ。もう少しゆっくりしていっても良いのに」
 微笑し、礼を言いながらもルイは寂しげな表情でグスターヴァルを見上げた。
「あぁ……もう、戻らねば」
 悲しい表情でグスターヴァルが答える。
 急いで帰る用事がある訳ではない。
 ただ、これ以上ここにいれば、きっと戻りたくなくなってしまう気がする。
 期待してはダメだ。望んではダメだ。
 飛び立とうと翼を広げ掛けたその時、再びグスターヴァルを呼ぶ声が聞こえてきた。

「グスターヴァルっ!」

 会場に行ったはずのイアンであった。
 実はルイと同じく、廊下を歩くグスターヴァルを見かけて後をついて来ていたのだった。
 初めて見るグスターヴァルのドラゴンの姿に驚いて、すぐに声を掛けられずにいたのだ。

 まさかイアンがここに現れるとは思っておらず、グスターヴァルは驚きと困惑で目を見開いた。
「イアン……」
 自分の元の姿をイアンにだけは見られたくなかった。
 イアンの名前を呼びながらも、すっと顔を逸らす。
 恐ろしくて自分のことを嫌いになってしまうかもしれない、そう思ったからだ。
「凄いっ! 本当にドラゴンだったんだっ!」
 しかし、イアンは目を輝かせながらグスターヴァルを見上げ、嬉しそうに声を上げた。
「イアン?」
 思いもよらない反応に、驚いて思わずイアンをじっと見つめる。
「グスターヴァルがあの伝説のドラゴンだって聞いて、見てみたかったんだ、俺。凄いよグスターヴァルっ! めちゃくちゃカッコイイっ! 思った通り、とっても綺麗なドラゴンだね!」
 目を大きくさせながら、イアンは嬉しそうにグスターヴァルを見つめている。
 お世辞や建前ではなく、本当にそう思っているようだ。綺麗な紫色の瞳をキラキラとさせている。
 怖がられると思っていたグスターヴァルは、驚きのあまりそのまま目を大きく見開き固まっていた。
「ふふっ、グスターヴァル、良かったね」
 顔の近くを飛んでいた妖精がこそっとグスターヴァルに囁いた。
「…………」
 確かに怖がられなかったのは良かったのかもしれない。
 だが、今の自分は寧ろ怖がってもらった方が良かったのかもしれない、と考えた。
「ね、グスターヴァル、触ってもいい?」
 緊張した面持ちでイアンが首を傾げながら尋ねてきた。
 しかし、そんなイアンを見て苦しくなった。
「ダメだ……私はもう行かねば」
 そう言って広げ掛けた翼を完全に開く。
「え……もう行っちゃうの?」
 触ることを拒否されたことにか、もう行ってしまうというグスターヴァルの言葉にかは分からないが、イアンはショックを受けた顔をしている。
「あぁ……イアン、さらばだ」
 そう言って、ちらりとだけイアンを見ると、グスターヴァルはばさりと飛び立つ。

「グスターヴァルっ!」
 こんな急に帰ってしまうとは思わず、イアンは驚いてグスターヴァルの名前を叫んだ。
 しかし、グスターヴァルは振り返ることなくそのまま飛んでいく。
「グスターヴァル……」
 もっと話したかったイアンは泣きそうになりながらも、じっと飛んでいくグスターヴァルを見送る。
「…………」
 飛んでいくグスターヴァルの姿と落ち込んでいるイアンを見ながら、ルイもまた悲しげな表情をしていた。
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